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2011年6月14日 (火)

表立っては見えない子供の虐待も決して少なくないのです

昨今は日本でも幼児虐待ということが盛んに報道されるようになってきているのは悲しむべきことですが、そんな中で大阪からこういうニュースが出ていました。
しかしまあ、ひと頃は「妊婦たらい回しだ!無責任だ!」と散々医療バッシングを行ってきたようなマスコミがこういう記事を出すようになるのですから、時代は変わるということなんでしょうかね。

【大阪】 「飛び込み出産」防ごう 大阪府調査、昨年148人(2011年6月10日朝日新聞)

 大阪府内で昨年1年間、妊娠後に診察や定期健診を受けないまま出産時に病院に駆け込んだ「未受診妊婦」が148人にのぼることが、府などの調べで分かった。妊婦から原因や家庭事情を聞き取った初の本格調査で、胎児の死亡や乳幼児の健康被害につながったケースも判明した。府は乳幼児の虐待との関連もあるとみて、対策を検討する。

 出産時のリスクが高い未受診妊婦は「飛び込み出産」とも呼ばれ、近年増加が指摘されているものの、実態解明は進んでいなかった。府と大阪産婦人科医会は、府内に約160カ所ある全産婦人科医療機関を対象に「健診受診が3回以下」「最後の受診日から3カ月以上で出産」のいずれかにあてはまる妊婦を「未受診」として調べた。

 未受診の出産は15~44歳の148人で、うち22人が未成年だった。22%が、胎児にも影響を与えかねない妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)などにかかっていた。早産と低体重の新生児もそれぞれ26%に達した。死産も4例あり、妊娠中や出産時の胎児死亡率は全国平均の約6倍にのぼった。

「妊婦健診の未受診は虐待リスクが高い」 大阪産婦人科医会が報告書(2011年6月10日産経ニュース)

 妊婦健診をほとんど受けずに出産するケースについて、平成22年の大阪府内の状況を調査した大阪産婦人科医会が「乳幼児虐待につながるリスクが高い」とする報告書をまとめ、9日発表した。未受診を胎児に対する虐待ととらえる一方、未受診の女性自身が虐待や家庭内暴力の被害者だったケースも多いといい、同医会は児童相談所の迅速な介入を求めている。

 調査は、大阪府内で分娩を取り扱う約160施設を対象に実施。妊婦健診の受診回数が3回以下か、最終受診から3カ月以上受診していなかった22年中の未受診妊婦148人のケースを調べた。妊婦の年齢は15歳~44歳で、平均28・6歳、未成年は22人で、40%が初産、69%が未婚だった。

 調査の結果、子供の26%は低体重で生まれ、27%は何らかの合併症で新生児集中治療室に入院。死産も4例あった。適切な健診や医療で防げたケースもあり、報告書は未受診を「胎児虐待」と捉えるべきと指摘している。

 また、児童虐待を受けて育った妊婦が7人、家庭内暴力の被害者という妊婦が8人いた。妊婦の96%、パートナーの82%は無職か非正規雇用で、生活保護受給率は38%に達した。11人に精神疾患があり、7人が薬物依存症だった。こうした未受診妊婦の家庭・成育環境は、児童虐待が起こる家庭と類似しているという。

 妊婦健診は、出産までに14回程度受けることが望ましいとされる。

ちなみに児童虐待に関する各種の調査に寄れば、児童虐待を行っている親の特徴として「中卒の割合が非常に高い」「生活が困窮している家庭での発生が過半数」「虐待者が被虐待経験を持つ割合が高い」といった特徴が挙げられていますが、今回の調査によって妊婦の未受診問題においても同様に被虐待歴や生活困窮といった徴候が見られるということが明らかになったわけですし、実際問題として未受診とはすなわち胎児虐待に他なりませんよね。
このうち大半が無職か非正規雇用だと言いますからお金がなくて物理的に受診できないという場合はもちろんあるにしても、自治体側から少なくとも何回かは無料での健診を受けられるサービスが提供されているはずで、例えば大阪市では14回全てに助成を受けられると言いますから単純に貧困のためというだけではなく、受診自体の必要性をあまり切実に感じていなかったということなのかも知れません。
このあたりは精神疾患や薬物依存症といった基礎疾患がかなり高率に含まれていることも理解度に関係あるのでしょうが、未成年や初産、未婚妊婦が多いということからしても妊婦教育が行き届いていなかった可能性が高いとすれば、とりわけ出産の瞬間に至るまで一切の医療に関わりがないという妊婦となると「おしべとめしべ」レベルの認識しか持っていない可能性も高いわけで、いつどうやって受診の必要性を教育すべきなのか頭が痛いところではありますよね。

そうした点で特に今回注目したいのが未受診妊婦と児童虐待とを関連づけるという視点が報告書で示されたということなのですが、例えば胎児虐待だと捉えて何らかのペナルティーをと考えても、現実的には妊娠初期において周囲が妊娠に気付くということはなかなか難しいでしょうし、その後の時期であっても結局本人が「単に太っただけかと思っていた」なんて認識であっては、介入の時期も計りがたいところはありそうですよね。
また未受診妊婦は胎児死亡など高いリスクがあるなどと言ってみたところで、虐待にも共通するようにそもそも子供に障害を与えることに対する忌避感自体が弱いからこそこうした行為に至るわけで、実際に未受診妊婦にはリピーターが非常に多いなんて話もあるわけですから、理を持って受診を説得するというのも難しいんじゃないかという気がします。
一方ですでに各種報道で盛んに取り上げられているように近年児童虐待を防ぐということは非常に大きな社会的課題になっていて、つい先日は虐待親の親権停止を認める民法改正が成立し、今後の虐待に対する抑制効果が期待されているわけです。

親権停止:改正民法など参院で可決、成立 虐待防止に期待(2011年5月27日毎日新聞)

 親による児童虐待から子供を守るため、親権を最長2年間停止できるよう定める改正民法などが27日の参院本会議で全会一致で可決、成立した。期間の定めのない従来の親権喪失制度は親権の回復が難しく「親子関係の修復が不可能になり活用しにくい」と福祉の現場から指摘されていた。より柔軟に運用できる停止制度を創設することで、虐待防止につながることが期待される。1年以内に施行する。

 厚生労働省によると、全国の児童相談所(児相)が処理した児童虐待相談は、09年度は4万4211件で、10年前の4倍に増えた。児相はこのうち1万682件を一時保護。だが、児相所長が家裁に親権喪失を申し立てるのはまれで、最高裁が把握したケースは08~09年の2年間で計12件にとどまる。

 改正法は親権規定に「子の利益」を明記し、親権喪失の要件を「虐待または悪意の遺棄」「子の利益を著しく害する」場合に限定。親権停止は「子の利益を害する」場合と、適用を柔軟にした。申し立ては従来の親族、検察官、児相所長に加え、虐待された本人も可能とした。

 改正法の活用で、虐待された子を養護施設などが保護した場合、親権を停止させ親子をいったん引き離した上で、施設などが仲介して親子関係の修復を支援することができる。必要な治療を受けさせない「医療ネグレクト」の場合でも、親権停止中に治療を施すことが可能になる。

 また、親権者のいない子供の法定代理人となる未成年後見人も、必要な場合には複数選任できるようになる。

 改正児童福祉法も成立し、児相所長や児童福祉施設長は、保護している子供の生命や身体安全にかかわる緊急時には、実の父母の意に反しても必要な措置がとれることとした。【石川淳一】

 ◇親権

 民法は、未成年の子は父母に親権があると定めており、権利と義務の双方の意味合いがある。子の保護・監督や教育、財産管理などに範囲が及ぶ。離婚の際はどちらか一方が親権者となる。

医療ネグレクトだの、親の意思に反してだのという話になると、これは例の特定宗教信奉者による輸血拒否問題などを念頭においたことなんだろうなと思われるのですが、捉えようによっては非常に広範な応用が利きそうな話なのかなという気がします。
大原則として子供の利益というものが強調されるようになっていていて、しかも親権停止の理由として積極的な加害行為のみならず、必要な医療行為を受けさせないといったネグレクトも対象になっているというのは、近年のこの方面での議論の流れからすると当然ではないかなと思いますし、そうした行為が行われている場合には積極的に社会が介入してでも是正すべきという考えが公のものとして示されたということですよね。
法的に考えると子供が子供として保護対象となるのは出生してから後ということになるのでしょうが、人口妊娠中絶を巡る諸外国の議論などを見ても胎児もまた人として権利を擁護されるべきだという考え方は根強くあるわけですから、子(胎児)に対する不利益行為という観点からも医療崩壊の原動力ともなり得るという観点からも、今後は妊婦検診未受診に対しても社会的な視線は厳しいものにならざるを得ないでしょうし、なるべきだろうと思います。

未受診妊婦に外部からの物理的な干渉が難しいということになれば、結局本人の自覚待ちという側面があるのは否めませんが、その際に単に無料受診の権利を放棄したなどということではなく、より積極的に彼らは胎児虐待を行っている、非難されるべきインモラルな行為をしているのだという社会的コンセンサスを高めていくことが、遠回りなようでも一番確実なやり方なのかも知れません。
また未受診妊婦がいきなり飛び込んでくる医療機関レベルだけで騒いでいてもどうしようもないわけですから、今後はどういう社会的対策が取れるのかを考えなければならないはずですが、児童虐待においても近隣住民からの通報が発見の短所となるように、ここでも地域ぐるみでの見守り体制がどうしても必要になってくるんじゃないかと思います。
もちろんリピーターが多いという事からも判るように、未受診妊婦は単に医学的安全性のみならず児童虐待という観点においても極めて認識が乏しいと考えられるわけですから、出産後も徹底した教育を行い胎児虐待の世代的連鎖を絶っていくということが必要になるでしょうね。
子供の虐待と言えば誰しもそんな悲惨な事件は二度と起こらないように何とかしなければ!と奮い立つものですし、国や自治体にしても虐待防止対策と言えば予算なども通しやすいのかも知れませんが、目に見えにくい子供の虐待防止のためにも同じくらいの情熱を注いでやって欲しいものです。

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