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2011年6月28日 (火)

草深い伊賀の山中に忽然と癌診療拠点現る!

以前から医療崩壊が言われている三重県伊賀地方では、二次救急輪番制が破綻しただの、病院間機能分担がさっぱり進まないだのと良い噂を聞きませんでしたけれども、それでも細々と診療は継続されていたようです。
その中で上野総合市民病院も内科医が前院長一人になるなど破綻の危機が叫ばれていたところなんですが、ここに来て妙に前向きな姿勢を見せているというのですから驚きますよね。

紹介状ない患者の受け入れ再開 上野総合市民の院長が説明 /三重(2011年6月25日伊賀タウン情報ユー)

 伊賀の地域医療を考えるシンポジウムが6月25日、伊賀市西明寺のヒルホテル・サンピア伊賀で開かれ、市民ら75人が参加した。講演した同市立上野総合市民病院の三木誓雄院長は、医師不足などを理由に断っていた紹介状が無い患者の受け入れについて、就任以降は「もっと市民の人に使ってもらえるようにしたい。それが医師や看護師の士気向上につながる」とし、再開したことを明らかにした

 同シンポジウムの主催は「伊賀の地域医療を守る会」(高木裕美子会長)。三木院長が「伊賀の地域医療を守るために、今できること」と題し、基調講演した。

 三木院長は講演のなかで、来月から常勤医がいなくなる内科について、滋賀医科大学(大津市)から週2、3回、心臓カテーテル治療で豊富な経験がある医師らが派遣されると説明した。また、消化器内科の医師も年内中に確保するという目標や、来年中には常勤医師の人数を現在の15人から20人以上にしたい考えを示した

 また、2次救急の輪番制について、開業医からの紹介患者は地域の2次救急担当施設として、輪番に関係なく対応すると話す一方、枠組みについては「3病院いずれも十分な人員が確保できていないため、見直していく必要がある」との見方を示した。

 参加者との意見交換では、医師と同様に不足する看護師の確保についての質問に対し、三木院長は「リタイアした看護師を対象にしたセミナーを開いたところ、3人の応募があった。また今夏には、医療の仕事を紹介する中高生向けの企画を進めている。将来の人材として時間は掛かるが、こうした取り組みを続けたい」と答えた。

この演者である三木誓雄院長、この1月まで三重大の准教授を務められていた消化管腫瘍の専門家で、同大癌センターで手術療法部門長を務めていたというくらいですからその道のプロフェッショナルですし、そうした立場から考えると非常にアグレッシブな目標を掲げるのは全く理解出来るのですが、問題はこの講演を行っている時点で三木先生がすでに場末の市民病院で院長職についているということです。
しかも内科はいよいよ近日に唯一の常勤がいなくなるという切羽詰まった状況であるにもかかわらず、はるか大津から(何時間の現地滞在なのでしょう?)週2、3回の非常勤循環器内科医の派遣でお茶を濁すというのですから心カテなんてとんでもない、せいぜい術前エコーで心機能評価をするくらいしか出来ないでしょうし、消化器内科医やら常勤医師やらの増員話にしてもあくまで単なる「目標」にしか過ぎないということですよね。
同病院のスタッフを見ても外科医ばかりは6人を集めているものの他のスタッフはお寒い限りという状況に全く変わりはないわけですが、そこで紹介状なしの患者も受け入れるようにする、輪番と関係なく開業医からの紹介は受け入れるとなれば外科医ばかりが酷使されるのは目に見えていて、そんな無謀な方針がどう「医師や看護師の士気向上につながる」のかが全く理解できないのは自分だけでしょうか?(それとも、そういう属性の医師ばかりを集めたのでしょうか…)
普通に考えればこの状況で仕事ばかりをどんどん引き受けていくのであれば、内科の仕事も押しつけられた外科医がいずれ「やってらんない!」と逃散にかかるというのが予想されるシナリオだと思うのですが、どうもこの三木先生は世界中どこに行っても自分のスタンスは決して崩さないというタイプのお方であるのか、就任直後の今年初めに開いた講演においてもこんな雄大な構想を語っておられます。

市民公開講座に170人参加 上野総合市民病院の三木院長「応援して」/三重(2011年2月21日伊賀タウン情報ユー)

 伊賀市立上野総合市民病院は2月20日、同市西明寺のヒルホテルサンピア伊賀で市民公開講座を開いた。三木誓雄院長は「やっとスタートラインにつけた段階。皆さんの応援があれば前進できる」と協力を呼び掛けた。【病院の展望について話す三木院長=伊賀市西明寺で】

 公開講座には地域住民ら約170人が参加。上野総合市民の現状や三重大学との連携、同大学医学部が果たす役割を知ってもらおうと、同病院が今回初めて開いた。三木院長は講演のなかで、同病院の医療レベルを国内標準に引き上げるという目標を示し、「伊賀地域からがん難民がいなくなるよう、またがんばっている職員が報われる病院を目指す」と説明。今、自信を持って提供できることは「外科系救急」と「がんと消化器病の診断・治療」の点を挙げた。

 また、3月には麻酔科を開設し、麻酔科の常勤医が5月以降2人となることを報告。さらに4月から市検診センター4階に「がんサポート・免疫栄養療法センター」を開設する方針を説明した。

 三木院長は免疫栄養療法を長年研究。体力が低下しているがん患者に栄養成分EPA(エイコサペンタエン酸)を投与して体力を回復させ、化学療法や放射線治療など積極的に行えるようにするというものだ。治療には、患者一人に対し院内すべての職種を集めたチーム医療であたるという。

 一方、常勤医のうち、内科が1人に対し、外科が6人など偏在している状況について、「一般病院では内科医の数の方が多い。私たちの病院ではバランスで見ると、普通ではない」とし、内科医の確保は「つてを頼って、毎日いろんな大学にお願いしている」と説明した。

 三重大学の登勉医学部長も「地域医療の現状と将来展望」の題目で講演。市と上野総合市民病院に対し、「新しい病院を一から始める覚悟で改革に努めるべき」と促し、参加者には「温かい目と厳しい目の二つで、病院職員のサポーターになってほしい」と話した。

いや、まあ…「同病院の医療レベルを国内標準に引き上げる」だとか、「伊賀地域からがん難民がいなくなるよう」だとか、「患者一人に対し院内すべての職種を集めたチーム医療であたる」だとか、三木先生のキャリアを考えればそういう方面にはずいぶんとお詳しいのだろうなとは思うのですが、失礼ながらこんな僻地で半ば潰れかかっているような自治体病院で掲げるべき目標でしょうか?
確かに昨今では「全国どこでも同じレベルの癌診療を身近な病院で受けられるべきだ!」という声が一定の勢力を持っていて、いわばそのモデルケースともなり得るような興味深いチャレンジであると言えなくもないのですが、実際にそれをやろうとすると幾らでも問題がありそうに思えてきます。
例えばこの三木先生、院長挨拶においても「消化器疾患、がん診療を中心とする地域の中核病院に生まれ変わろうとしています。」とアグレッシブにやる気満々で、そのために必要なポイントとしてこんなことをおっしゃっていますが、あくまでこれが上野総合市民病院というド田舎の自治体病院が掲げている目標だというのですからね。

1.全国に先駆け、がんサポート免疫栄養療法センターを開設します。PET検診センターでがんを発見し、消化器内視鏡・腹腔鏡を中心とする低侵襲先進技術を駆使して診断・治療し、がん免疫栄養療法センターでがん集中的治療、緩和医療を担当し、自己完結型の全人的がん医療を展開していきます

 特に、がん免疫栄養療法センターは医師、看護師、管理栄養士、薬剤師で構成される、新しいコンセプトの産学連携施設であり、全国の地域がん拠点病院と横の連携も有します。また外科治療に関しては、癌研有明病院にて外科スタッフが最新の鏡視下手術を修練していますので、最新の手術技術を学ぶことができます。

 さらに、今後は最新の放射線治療施設も整備し、総合的がん診療センターとしていく方針です。

2.消化器・がん診療のみならず、県西部の外科二次救急施設として中心的役割を果たし、三重大学病院、地域開業医、岡波総合病院、名張市立病院とのITリンクを名古屋大学医学部医療システム講座のサポートで作りあげていき、今後、総合的地域中核病院としての役割を果たすべく、不足している内科医の充実も図っていきます。

何しろこの病院、「伊賀市、名張市のほか奈良県山添村、京都府南山城村等の近隣市町村(診療人口 約180,000人)」と言えば聞こえは良いですが単に田舎の自治体病院に過ぎず、それも280床に対して外科医が6人、内科医常勤はいないと言えばどうしたってまともな癌診療が出来る体制ではなさそうに思えるのですが、それ以前の問題としてそんな医療の需要が本当に採算が取れるほど同地域にあるのかです。
伊賀地域にホットスポットなりが存在していて並外れて癌患者が多いなんてことがあるとも思えず、遠方の患者ならこんな田舎病院よりも最初から三重大なりに行くでしょうし、そして仮に今後同病院に癌患者が山ほど押しかけてくるという状況が発生したとしても、悪性腫瘍の治療はその経過のほとんどにおいて内科的な地道な仕事が中心であるというのに、このスタッフ構成でまともな対応が出来るのかと疑問に感じざるを得ません。
そもそも地域でもっと喫緊の課題として求められている医療と言うものは他にあるはずで、そうした需要に対応するには失礼ながら現状はお粗末極まりない体制と言うしかないのですけれども、今後癌患者をかき集めた上でさらにそうした地域医療も支えなければならないスタッフのことを思えば、「私たちの病院ではバランスで見ると、普通ではない」などと他人事のように言っていられるような立場ではないように思えます。
もうすでに病院改築も順次済ませ、PET-CTまで導入してしまった、さらには放射線治療もするというのですからどうしたって元は取らなければならないのは理解出来ますが、地域医療における同病院の立ち位置のみならず母胎である自治体財政に今後どんな影響があるのかも考えてみると、地域住民も「さすが大学の偉い先生は素晴らしい!これでいつ癌になっても安心だ!」と喜んでばかりもいられないように思うのですがね。

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コメント

新潟あたりでも僻地に重粒子線治療施設を作るの作らないので騒ぎになってませんでしたっけ?
亀田総合くらいの一大医療拠点にまでなっているのならともかく、こんなメジャー診療科数人の田舎病院で患者が来ますかね?
あのあたりの自治体って意外にお金持ちなんですか?

投稿: kan | 2011年6月28日 (火) 12時13分

常勤の内科医不在に 伊賀市上野総合市民病院
(2011年6月13日 20:27)
 伊賀市四十九町の同市立上野総合市民病院(三木誓雄院長)で唯一の内科常勤医、村山卓医師(63)が6月末で退職し、7月1日付で同市内の岡波総合病院に移ることが10日、分かった。
 同病院事務局によると、村上医師は三重大医学部から派遣されており、今回の移動は人事異動の一環。今後、外来と2次救急輪番は外部の非常勤医が担当し、入院が必要な患者は救急措置を施した上で転院させるという。
 市は非常勤医の増員とともに、今後、常勤医師の確保に全力を尽くすという。

投稿: | 2011年7月20日 (水) 12時43分

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