« 北見市 またも医療問題で全国にその名を轟かせる | トップページ | 司法の世界に広がりつつある歪み(一部変更) »

2011年6月23日 (木)

いつまでも「医療の常識は世間の非常識」は通用しません

長い間関係省庁の阿吽の呼吸によって放置されてきた医療現場における労働問題も、最近になってようやくお上のチェックが入るようになったことは繰り返しお伝えしてきているところです。
その理由の一つに医療を管轄する厚生省と労働問題を管轄する労働省が合併した影響があるなどとも言うのですけれども、いずれにしても昨今盛んに新聞沙汰になるような「○○病院に労基署から是正勧告!」なんて報道の対象になっているのが、ことごとく各地の公立病院であるということは非常に示唆的な話だと思います。
先日出ましたこちら岐阜県からのニュースもそうした系列に属する話題の一つですけれども、まずは記事から紹介してみましょう。

未払い時間外手当計8千万円支給 羽島市民病院123人に/岐阜(2011年6月22日岐阜新聞)

 羽島市は21日、市民病院(同市新生町)が医師らの時間外勤務手当の支給に関して今年2月に岐阜労働基準監督署から是正勧告を受け、計約8162万円を追加支給した、と発表した。

 同病院によると、追加支給されたのは、医師や看護師、薬剤師ら計123人。対象となったのは2010年2月~11年2月分で、支給済み手当との差額8162万6128円。

 同病院はこれまで、休日や夜間に救急業務として医療行為を行う職員に宿日直手当(医師は1回2万円、看護師・技師は1回1万200円)を支給。加えて、診察時間に応じて時間外勤務手当を支給していた。

 だが、労基署は休日や夜間の業務についても医療業務を含むため、労働基準法に定める宿日直業務ではないとし、すべての勤務時間を時間外勤務として給与を支払うよう是正勧告した。

 勧告を受け、同病院と市当局は新たな夜間勤務体制を検討している。

<羽島市民病院>宿直料、追加支給/岐阜(2011年6月22日朝日新聞)

 羽島市民病院は21日、医師や看護師など職員123人に、2010年2月~11年2月分の時間外手当約8千万円を追加支給したと発表した。岐阜労働基準監督署に不備を指摘されたためだが、すでに今年度は指摘前の給与体系で予算を計上。足りない分はどうするのか――。

 病院によると、当直1回につき、医師に2万円、看護師と技師らに1万200円を支給。救急業務に携われば、外来と入院対応に分けて手当もある。
 だが、2月の労基署の立ち入り検査で、法に基づいた割増賃金を1年前にさかのぼって支払うよう是正勧告を受けた。電話番などの単純な宿日直ではなく、安すぎるという。病院は6月15日までに退職者を含む123人に差額を支給した。

 病院は今後も勧告に基づいた宿直料を払う方針だが、今年度予算にはその分は盛り込まれていない。このため休みを増やそうと考えたが、そうすれば人手が足りなくなる。どうしてもやりくりできなければ「補正予算で対応する」という。(青瀬健)

ちなみに当直が時間外勤務に認定される今の流れが続くということになりますと、今度は時間外勤務の上限突破ということでまた問題が出てきそうな気もするのですが、このあたりは労使協定もきちんと結んでいない施設が未だ少なからずあるという現実と併せて今後に残された課題ではないかと思います。
ただ今回の記事からも判る通り、公立病院で給与などを動かすということになるといちいち予算をつけるだの議会の了承を得るだのと面倒な話になりますから、非常に好意的に見ればそうした小回りの効かなさが公立病院の労働問題が顕在化する一因になっているとも言えそうですね。
さて、一方では公立病院に見られるようなそうした小回りの効かなさがある、そして一方では非常に迅速な対応も行えている病院があるという話題が新聞に出ていましたので紹介してみましょう。

「入院ダメ」緩和を 避難準備区域の南相馬/福島(2011年6月20日 読売新聞)より抜粋

医師「助かる命も助からない」 給与激減の病院も

 東京電力福島第一原子力発電所の事故で、緊急時避難準備区域の医療が危機にさらされている。

 いざという時に迅速に避難できるよう、入院患者の数などが制限されているが、現場では入院が必要な患者は受け入れざるを得ない場合もある。病院収入にも影響し、福島県南相馬市では医師の給与7割カットに踏み切った病院も。病院側は「このままでは地域医療が崩壊する」として県に入院制限の緩和を求め、県もその方向で検討を始めた。

 緊急時避難準備区域にある南相馬市内の4総合病院(計792床)のうち唯一、夜間・休日診療を行う同市原町区の市立総合病院(230床)には5月、44人の救急患者が運ばれた。しかし、国は同区域での入院を原則認めず、具体的運用は県に委ねており、病院が県に申し入れて入院は脳疾患に限り最大5人までで折り合った経緯がある。このため、脳疾患以外で入院が必要だった10人は他の病院に転送。夜、腸閉塞で運び込まれた男性を治療し、翌朝、区域外の病院に送ったこともある。

 相馬地方広域消防本部によると、同市の区域内の救急搬送は4月の85人から5月は110人に増えた。金沢幸夫院長(57)は「市民生活が通常に近い状態に戻れば一定数の急患が出るのに、『原則入院はダメ』というのは矛盾している」と憤る。

 同市の人口は約7万人。事故で「屋内退避区域」が設定された後、一時は市人口が約1万人に減り、4総合病院は全入院患者を避難させた。しかし、緊急入院が必要な患者は多く、「大町病院」(188床)は4月初旬、県に入院診療の必要性を訴え、5床、72時間までの条件で認められた。その後、緊急時避難準備区域になり、事故前は約4万人いた市内の同区域内の人口も約2万5000人まで回復。同病院には最多時には20人超、現在も16人が入院している。猪又義光院長(66)は「リハビリが必要な患者も早々に退院してもらっているが、それでも5人以下は無理。条件を守っていたら助かる命も助からない。患者の生命が優先だ」と語気を強める。

 同病院では震災前、医師12人を含む職員約200人がいたが、入院制限後は医師9人を含む約70人態勢に縮小。入院にかかわる収入が7割を占めるため、多くが退職や休職に追い込まれ、残ったスタッフも医師の給与7割カットを始め、5月から70~30%減給にした。制限が続けば、減給も続けざるを得ないという。

 看護部長の藤原珠世さん(52)は「みんな『地域医療を守る』という志だけで働いているが、職員の生活も崩壊寸前」と語る。休職中の看護師からは「生活のために別の医療機関で働くことにした」との連絡も相次ぎ、猪又院長は「一度流出した人材を再び集めるのは難しい。一刻も早く制限を撤廃してほしい」と焦りの色を隠せない。
(略)

一見すると「こんな震災の後のことだし、仕方ないか…」で流してしまいそうな話なんですが、せっかく抱え込んだスタッフを手放した挙げ句に給与を実に7割もカットするというのは、何とも大胆と言うしかない話で、今回給与カットに踏み切った大町病院は今年で7年目という新しい施設のようですけれども、逆にいえばまだまだ発展途上にある施設であるからこそ出来た英断とも言えるかも知れません。
同病院のHPでは理事長挨拶として「医療・福祉をめぐりましては、構造改革の名のもとに進められた医療福祉予算の削減により、医師・看護師等の不足や勤務医の過酷な勤務条件等様々なひずみが顕在化するところとなり(中略)護師等の確保と安定して勤務条件の改善にも努めているところです。」などと言っているのは笑い話か?とも思えてしまいますが、極論すればこれが民間経営というものですよね。
今の時代どこの病院でもやる気のあるスタッフを一人でも多くかき集めることこそ勝ち組への必要条件であると理解しているからこそ、良い病院ほど優秀なスタッフを手厚く遇し結果として顧客からの評判も良くなっていくわけですが、その点で公立病院というものは極めて動きが鈍重として批判されているものの、一方では民営であればひとたび業績が悪化すればたちまちそれがスタッフの待遇にも跳ね返ってくるというわけです。

医者の世界では各地の「心が僻地」な公立病院が「雇ってやるぞ。ありがたく思え」の殿様商売だという批判は数多くありましたが、一方で幾ら赤字を垂れ流そうが動じないという親方日の丸体質という言い方も出来るわけですから、先日も取り上げましたように寄らば大樹の陰であくまで公務員としての地位に固執する人間が出てくることも別に不思議ではないと言えそうですよね。
一方で弱年時から転勤を繰り返す医師の立場として考えますと、どうしてもこの施設で働かなければ!というほどの思い入れがある場合はそう多くはないはずですから、条件が悪くなればさっさと退職して更なる好条件の施設を探せばいいというだけのことだと考えている人も多いのではないでしょうか。
ただいわゆるドロップアウト市場も昨今好条件の施設はかなり飽和してきていると言われ、しかも今後ますます流入人口が増えてくればそろそろ淘汰の圧力も働いてくるようになるはずですから、超売り手市場と言われる医師の職場探しもいずれは部分的にせよ買い手市場化してくるということになってくる、その前提に立ってどう動くべきかです。
どうせ動くなら早く動いた方が好物件が見つかるとか、いやその前にもう少しスキルを磨いて市場価値を引き上げるべきとか、今後は色々な思惑が錯綜してますます決断が難しいということになってきそうですけれども、まさにそれこそが医療業界もようやく世間並みになってきたということの一側面だとも言えるんじゃないでしょうか。

|

« 北見市 またも医療問題で全国にその名を轟かせる | トップページ | 司法の世界に広がりつつある歪み(一部変更) »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/52014770

この記事へのトラックバック一覧です: いつまでも「医療の常識は世間の非常識」は通用しません:

« 北見市 またも医療問題で全国にその名を轟かせる | トップページ | 司法の世界に広がりつつある歪み(一部変更) »