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2011年6月16日 (木)

予防接種はあらゆる治療と同様100%安全ではありませんが、それでも有益です

小児予防接種ということに関連して、今春頃にこうした記事が全国的に報道されていたことはご存知の方も多いと思います。

三種混合ワクチンなどの接種翌日に女児死亡 兵庫県西宮市で(2011年3月3日産経ニュース)

兵庫県西宮市は3日、細菌性髄膜炎などを予防する小児用肺炎球菌ワクチンと、破傷風などを予防する三種混合ワクチンの接種を受けた市内の1歳の女児が死亡したと発表した。女児に基礎疾患はなく、接種との因果関係は不明。厚生労働省が調査している。

 西宮市によると、女児は1日午後、市内の診療所で両ワクチンの接種を受けた後、高熱を出し、翌日午後に死亡が確認された。

 小児用肺炎球菌ワクチンの接種は任意で、三種混合ワクチンは定期予防接種。厚労省によると、小児用肺炎球菌ワクチンを受けた翌日に死亡したのは、兵庫県宝塚市で1日に死亡した2歳児に続き2例目。両ワクチンを一緒に受けた直後の死亡例は初めてという。

2幼児死亡、ワクチン製造番号が同一 兵庫・宝塚と西宮(2011年3月4日産経ニュース)

 小児用肺炎球菌ワクチンなどの予防接種を受けた兵庫県の幼児2人が死亡した問題で、2児が接種した同ワクチンの製造番号がいずれも同じだったことが4日、分かった。厚生労働省は死亡と接種の因果関係について調査を始めた。

 同県宝塚市では、市内の男児(2)が2月28日に細菌性髄膜炎などの予防目的で小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンを接種し、翌日死亡。西宮市では、市内の女児(1)が今月1日、小児用肺炎球菌ワクチンと破傷風などを予防する三種混合ワクチンを接種、翌日死亡した。

 厚生労働省によると、小児用肺炎球菌ワクチンは東京の大手製薬会社から昨年2月に発売され、今年1月末までに約215万人が接種。死亡した2児が接種したワクチンは昨年10月に製造されたという。

ヒブ・肺炎球菌ワクチンを一時中止 接種後に4児死亡(2011年3月5日朝日新聞)

 厚生労働省は4日、小児用肺炎球菌ワクチンとインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンの予防接種後に乳幼児4人が相次いで亡くなったことを明らかにした。いずれのワクチンも接種を一時見合わせることを決め、自治体や販売業者に通知した。週明けにもワクチンとの因果関係を調べる専門家による検討会を開き、接種の再開を判断する。

 同省によると、2日以降死亡が報告されたのは、兵庫県宝塚市、同県西宮市、川崎市、京都市で生後3カ月~2歳代の4人。このうち2人は心臓に持病があった。接種の翌日~3日後に死亡していた。接種した医師らの報告では、接種と死亡との因果関係は「評価不能」や「不明」という。小児用肺炎球菌とヒブは、乳幼児の細菌性髄膜炎を防ぐワクチンで今年度の補正予算で公費助成が始まった。

 4人が小児用肺炎球菌ワクチンのプレベナー(販売名)を打っていた。このうち3人がヒブワクチンのアクトヒブ(同)との同時接種。もう1人はジフテリア・百日ぜき・破傷風混合ワクチン(DPT)との同時接種だった。プレベナーを製造・販売するファイザーのスペシャリティ・ケア事業広報部は「詳細情報の収集を進めている」と話している。

 宝塚市は4日、当面、複数のワクチンの同時接種を中止することを決めた。同市内と西宮市で亡くなった2人が打ったプレベナーと同じロット(製造群)番号の製品の使用中止も決めた。

 野々山恵章・防衛医大教授(小児科)は「米国ではヒブワクチンは約20年前、肺炎球菌ワクチンも約10年前から打っており、同時接種もしていて問題は起きていない。今回、死亡した子どもの死因について検証は必要だが、不用意にワクチンを怖がって、やっと日本に導入されたワクチンが打たれなくならないようにして欲しい」という。

     ◇

 〈小児用肺炎球菌ワクチン〉 5歳未満の乳幼児の細菌性髄膜炎や中耳炎を予防するためのワクチン。厚生労働省によると、乳幼児の髄膜炎の発症者は年間400人以上(推計値550人)とされ、死亡する確率は2~5%。後遺症の残るケースも10~25%とされる。厚労省の承認を受け、昨年2月に発売された。接種は任意だが、同様に細菌性髄膜炎などを予防するヒブワクチンとともに、国の昨年11月からの助成事業を受けて、各自治体で接種費用を無料化する動きが広がっている。

小児科領域ではかなり大きな騒ぎになった事件で、基本的には長年の使用によって高度の安全性(無論、100%ではありません)がほぼ証明されているワクチンだと思いますけれども、少なくとも同じロットで稀な死亡例が相次いでいることからそのロットに問題があった可能性は否定出来ない以上、一時的に接種中止となるのもやむを得ないことかと思います。
ただし、小児髄膜炎の死亡者数(年間数十人規模)や後遺症の問題なども考えると小児科領域でのワクチンの有用性は理解できるもので、死亡と接種との因果関係も判らないのに過剰な反応をするべきではない、利益の大きさを考えれば今後も迷わず接種は推進すべきいう声が当時から根強くあったものです。
また、この件に関係して非常に興味深かったのが、かつてはワクチンの副作用!?すわ人災だ!責任を取れ!と感情的に大騒ぎすることにかけては定評のあったマスコミ諸社が奇妙なほど冷静な筆致で記事を書いていたところにもあったのですが、実際に小児科の先生方も「マスコミを見直した」なんて評価されていらっしゃったようなんですね(それだけ深刻なトラウマだったのでしょう)。
そんなこんなで結局意外なほど社会的には大きな問題にもならないまま(ちょうど震災に重なる時期であったということも多大な影響があったのでしょうが)、その後安全性にはやはり問題なかったという判断で四月から接種は再開されたわけですけれども、先日再びこういう記事が出てきました。

ワクチン同時接種後に乳児死亡 熊本市で2例目(2011年6月13日くまにちコム)

熊本市は13日、市内の医療機関でインフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの同時接種を受けた同市在住の2カ月の男児が、接種後に死亡していたと発表した。

 同市内でワクチンの同時接種後に乳幼児が死亡した事例の報告は今年3月に続き2例目で、国内8例目。市は4月1日に、国の通知を受け見合わせていた接種を再開しており、接種再開後の死亡例は国内で初めて

 市は接種と死亡との因果関係について「現時点では不明」としており、国が調査を始めている。男児に持病はなく、医師の所見によると乳幼児突然死症候群(SIDS)の疑いがあるという。

 市によると、男児は今月3日に医療機関で両ワクチンを接種し、4日未明に死亡。同日、医療機関が市に報告した。市は接種後の容体変化などについて「保護者の意向」として明らかにしていない。

 熊本市は今年2月から、生後2カ月~4歳児を対象に、両ワクチンの無料接種事業を開始。しかし、3月に入り全国で死亡例の報告が相次ぎ、国の通知を受けて接種を一時見合わせた。同10日には、2月半ばにヒブと3種混合ワクチンを同時接種した7カ月の男児が7日後に死亡していたと発表した。

 厚労省結核感染症課は「接種時の状況などについて情報収集し、因果関係の有無について専門家に意見を聞いている段階」と話している。(森紀子)

これまた比較的抑制の利いた報道と言え、今のところマスコミも無闇に煽り立てているわけでもないようですが、そろそろ週刊誌あたりが特集記事を予定しているかも知れませんね。
しかしワクチンの安定性など全く無視して発生状況だけから言うのですが、全国的に見てわずか数例という非常にレアなケースであるにもかかわらず、特定ロットや兵庫、熊本といった特定地域に被害が集中しているように思えるというのは、例えば出荷後の流通の過程で製剤自体に問題が生じていたと言うことはあるのでしょうかね?
国としても当然に製造元での製剤チェックは行っているはずですがそちらに問題はなかったとすれば、被害が出たケースに使用された製剤が流通過程で何か共通点でもあって、例えば同じ卸業者から仕入れていたということであれば同じロットを使う確率も高くなるでしょうが、一般論として流通段階でワクチンがそこまで変質するというのも考えにくい気がしますが…
あるいは別な考え方をすればこうした予防接種は地域の開業医が中心になって行われるものですが、例えば地区医師会がこうした副作用情報について注意を喚起していたとすれば、当然その地域内での拾い上げは多くなる理屈ですが、こうして全国報道された後も症例報告が急増したといった状況でもないだけに、そうしたバイアスもさほど大きなものではなかったのかなという気もします。

ともあれ、もちろん現段階では接種と死亡との因果関係自体も判らないわけで、例えばSIDSであれば年間150人ほどは亡くなっている疾患ですから偶然にも接種直後に発症した可能性もあるのかも知れませんが、何しろこのタイミングでの接種禍疑惑再燃はまたぞろマスコミの注目を集めそうで、そちら方面の今後の成り行きも気になるところですよね。
無論、どのような薬剤であれ副作用のリスクをゼロにすることは出来ないわけですから(それが出来ると主張するのはトンデモさんだけです)、一定の不利益があり得ることは理解して用いなければならないし、何かの際には公的な補償制度なども積極的に活用していくべきですが、小さなリスクばかりを不当に強調し明白なメリットは無視すると言うのであれば、これは公平な態度とは言えないということです。

ちょうど先日は途上国でのワクチン普及にビル・ゲイツが800億円を出したなんてニュースが出たところですが、日本においてもインフルエンザ集団接種によって実は学級閉鎖が減っていたという慶応大の報告が出るなど、あらためて予防接種というものの重要性が言われているところです。
そもそも日本ではひと頃のマスコミバッシングに端を発する世論の総反発を受けて、学童期の接種率が非常に下がってしまったという歴史的経緯がありますけれども、その結果先進国にあるまじき「はしか(麻疹)輸出大国」などと世界中から白眼視されたり、実際に海外に出かけた日本人が麻疹感染だと判明して大騒ぎになるという事件もたびたび起こっているわけですね。
今の時代にはどの予防接種がどの程度のリスクでどの程度の効果があるといったデータは蓄積されているわけで、明らかにデメリットよりもメリットの方が非常に大きいからこそ推奨されているものがほとんどなのですから、徒に危機感ばかりを煽りますます接種率を低下させるのはむしろ社会的不利益であって、マスコミ諸社も自分達の社会的責任を十分認識した上で冷静な報道を行って貰いたいものだと思います。
無論、そうした事実を全て理解した上でそれでも個人の意志として接種を受けないという自由は当然あるはずですが、小児予防接種の場合は利益を受けるのは小児本人である一方その権利行使を判断するのは保護者であり、自分の子供だからと好き勝手に権利を抑制するようではこれはホメオパスに染まった親などと同様のネグレクトと見なされかねません。
先日も書きましたように児童虐待に対する社会の視線はますます厳しくなっている中で、保護者も冷静になってもう一度子供のために自分は何をすべきなのかを見直していくことが大切であるだろうし、何より根拠もない盲信に従って知らず知らずのうちに守るべき子供に対する加害者になってしまっては哀しいことですよね。

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コメント

小児の予防接種で恩恵を受けるのは本人だけではありません。社会全体です。
感受性者を減らすことで、疾患の流行自体を抑制するのが目的である以上、本来なら接種は義務化されるべきものであり、過去日本でも接種義務が定められていました。それが、マスコミの副反応叩き、健康被害裁判における医学的根拠のない「蓋然性」判断により、義務化ができなくなりました。
アメリカのように、未接種者の就学を制限する罰則まで規定すればいいのに、と常々感じています。

投稿: Seisan | 2011年6月16日 (木) 10時03分

自分自身他人事では全く無いと思うのは、身内がいわゆるワクチン禍被害者ということで、自分も全く集団接種を受けずに育ったという事情があるからです。
幸か不幸か(生き残った今では幸だと思ってますが…)おかげさまで小児期には毎年のようにさんざん色々な病気を経験しましたが、何とか頭のねじが何本か飛んだ程度で生き残り成長できました。
世間で投資のリスクがどうとか言うちまちました損得勘定の話をしているのを見ると、リスクに比べてはるかに巨大なメリットがあると立証されているのに敢えてスルーするのはもったいなさ過ぎる話だなと思ってしまいます。

投稿: 管理人nobu | 2011年6月16日 (木) 11時51分

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