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2011年5月31日 (火)

医者もいつまでも世間知らずではいられない時代です

何か個人の力でものすごいことをやってしまった先生がいらっしゃるということで、本日まずは先日出ていましたこちらの記事を紹介してみましょう。

医療過疎地:開業医“里帰り” /山梨(2011年5月30日毎日新聞)

 ◇「古里のため頑張る」 来月3日、診療開始

「医療過疎」状態になっている大月市初狩地区に、地元出身で甲府市の開業医、小林章一医師(63)が「初狩クリニック」を開設。内科、小児科、整形外科、泌尿器科の4科を備え、6月3日から診療を始める。小林医師は「古里の方々の健康を守り増進させるため頑張りたい」と話している。

 大月市西部の笹子、初狩両地区では、笹子に医師がおらず、初狩には2医院があるものの、1カ所は医師が80代、もう1カ所は医師が週3日通って診察している状態だ。

 小林医師は甲府一高から信州大医学部を卒業。県内の病院に勤務後、81年11月、甲府市小瀬町に小林医院を開業した。3年前から、「医師不足の時代、医療過疎地域の医療は1人の力では限界があり、交代制で力を出し合って過疎地域の医療を充実させたい」として、古里でのクリニック開設の準備を進めていた。

 「初狩クリニック」は、小林医師を含め医師5人。診療時間は午前(9時~正午)と午後(3~6時)。月曜と金曜は午後のみ。日曜は午前のみ。土曜は午前のみだが、第1、第3土曜のみ午後も診療する。診療時間以外でも、事務員や看護師が健康相談に応じる。

 小林医師は「大月市立中央病院など中核病院とも連携を強化していきたい」と話している。問い合わせは同クリニック(電話0554・25・3211)。【小田切敏雄】

勤務医が田舎の公立施設に入るといった話は時折聞きますし、それだけでも十分に立派なことだと思いますけれども、個人で医療過疎地に複数医師を引き連れて診療所を開設したなんて話は滅多に聞けるものではありませんし、すでに開業までしている身でここまでやってしまうのが郷土愛というものなのでしょうか。
とかく医師の専門分化が進んでしまった時代だからこそ、「医療過疎地域の医療は1人の力では限界があり、交代制で力を出し合って過疎地域の医療を充実させたい」というのは正論というしかないのですが、今の医療の状況を知れば知るほどこれがどれほどの偉業であるか思い知るしかない話です。
こうして立派な医院が開かれたからには、間違っても今後「ここは先生が大勢いるのに入院も取らないの?」なんて小林先生を悩ませるようなことはしないでもらいたいものだと思いますが、もちろん全国各地を見回してみてもこんなことが起こるというのは奇跡的な低確率でしかありません。
特に山間地や離島といった物理的な僻地では過疎化と足並みを揃えるように医療過疎化も進行していますが、そんな中で状況に抗うかのように先日広島からこんな記事が出ていました。

医師派遣調整 広島に新機構(2011年5月12日中国新聞)

 医療機関への医師派遣の調整業務を担う財団法人の広島県地域保健医療推進機構が7月、発足する。県と市町、広島大、県医師会が共同運営し、中山間地域などでの慢性的な医師不足の解消を目指す。厚生労働省によると、官民で構成する組織による医師の派遣調整は、全国でも先進的な取り組みという。

 医師派遣は、市町や医療機関の要望を受け、推進機構内に設ける会議が派遣先や人数を決定する。

 派遣するのは、県奨学金を受けた医師や広島大、岡山大両医学部の地元優先枠の卒業生、自治医科大の卒業生県内勤務の義務が課せられる期間は推進機構が人事権を持つ。県によると、派遣可能な医師数は2024年度にピークの約170人となる見通しだ。

 医師確保の業務も強化する。県は10年度、職員3人で担当していたが、推進機構では7人を充てる。県内の勤務に関心を持つ県外の医師の問い合わせに迅速に対応する。さらに、結婚などで仕事を離れた女性医師や定年退職した医師が勤務できる環境整備を進めたり、キャリアアップを支援したりする。

放っておくと医師が行くこともない田舎の医療機関に医師を回す、職を離れた医師の再就職を斡旋するといった仕事はまさしく長年大学医局がやってきた仕事だと思うのですが、国を挙げてその大学医局を潰した挙げ句こうして新たに同じようなシステムを作り上げるというのは壮大な無駄なのではないかと思うのですが、少なくともこういう新機構を作った方が役人のポストは増えるでしょうからね…
医局時代と違うのは所属する医師が紐付き奨学金によって県内勤務を義務づけられた人々であるということで、かつてのような「嫌なら辞める」という自由すらない完全な奴隷状態で医療の医の時も知らない公務員に人生を左右されるわけですから、医師の労働環境というのはずいぶんと悪化する一方なのかと思える話です。
ひと頃は準看などというものがこうした御礼奉公システムを持っていて、それは良心的な報道機関(笑)を始めとする世間の集中砲火を浴びて潰されてしまったという歴史的経緯がありますけれども、相手が医者であれば21世紀になっても人買い奴隷労働何でもありということなんでしょうか(苦笑)。
ただ自治体側から逆に見れば、せっかく好き放題に奴隷使い出来る連中が現場に出てくるというのにあちらからもこちらからも「うちに回せ!」と餓鬼のような手が伸びるばかりでは使い道に迷うところでしょうから、一応はこうして公的な調整機関を設け公平にやっていますよというポーズは必要なのでしょうが、まあ本当に公平に行われるのかどうかは神のみぞ知るでしょうか。

大学医局の医師派遣能力が破綻したと言うことと、医者が大学医局を見放したと言うこととはどちらが先というより同時進行的に進んだ印象もあって、例えばひと頃は内科の一講座だけで毎年20人も30人も新入局があったものが10人になり、5人になりと、圧倒的に入ってくる人間が減ったために送ろうにも人を送れなくなったのは事実です。
その理由として医学部定員を切り詰めたとか、医療の専門化で講座数自体が増えた上にマイナー科志向が強くなったとか、大学間でも医者の集まる勝ち組負け組の格差が開き始めたとか、さらには医局が関連病院を整理した結果派遣先に魅力がなくなったとか様々なものがあるのでしょうが、少なくとも新臨床研修制度が始まって大学医局がとたんに崩壊したなんて単純な話ではありませんよね。
ただある程度人手不足が進んでくると一気に買い手市場から売り手市場になったことを実感する人は多いはずで、早い話が近頃ではちょっとでも気に入らない人事をすれば「それなら医局辞めます」で逃げてしまう、ひと頃のように「後で必ずいい目も見せてやるから」となだめすかして田舎病院に送り込むなんてことはとても出来なくなったとはよく聞く話です。
そして新臨床研修制度が始まると全ての医者が少なくとも一度は自分で情報を集め、比較検討して就職先を決めるということが当たり前になり「自分で選ぶ」ということが当たり前になった、その結果望ましい環境に入り込むことが出来た者ほど「やはり他人任せではこうはいかない」と思うでしょうし、マッチングで外れた人間は「次こそは自分の望む就職先を」と血眼になりと、改めて医局に所属する意義自体が問われる時代になってしまったわけです。

初期研修後も大学には戻らなかった…(2011年5月23日日経メディカル)より抜粋

(略)
 専門分化する医療の中で、医師が一人でも最低限の診療をできるよう、2004年度から始まった新医師臨床研修制度。市中病院で研修する医師が増え、大学が人手不足に悩まされる原因ともなった

 では、初期研修後、彼らはどこに行ったのか。初年度にこの制度で研修を修了した医師も今や7年目。中堅医師にとなりつつある。今回、日経メディカルCadettoでは、2004年に医学部を卒業した医師を対象にアンケートを実施。彼らが今どこで何をしているのかを調査した。
(略)
大学所属は約5割のまま

 そんな今回のアンケート結果を見ると、現在、大学およびその関連病院で働く医師は53.7%。全国医学部病院長会議が今年2月に公表した調査によると、新制度が始まる2年前、2002年3月の医師国家試験合格者に対する同年4月の帰学率(大学医局入局者数/卒業者数。入局者には当該大学卒業生以外も含む)は71.4%。以前と比較して、初期研修後も大学で働かない医師はやはり増えている

 また、「新制度がなければ現在の勤務先で働いていない」と回答したのは26.2%。「分からない」という回答も23.8%あり、新制度によって、医師のキャリアの選択が大きく変わったのは間違いなさそうだ。
(略)

節目ごとに次の働き先を探す、市中病院での初期研修修了者(2011年5月24日日経メディカル)

 初期研修を行った場所によって、その後の進路に違いはあるか。ここでは、それぞれ初期研修を行った場所ごとに、どのようなキャリアを歩んでいるかを見てみたい。

 研修を出身大学で行い、そのまま現在も出身大学の医局に所属している、いわば「旧来のキャリアパス」を歩んでいる医師は、初期研修を出身大学で行った医師のうち59.7%。これは全体の23.8%に相当し、約4分の1程度にとどまっていることが分かる。

 また、出身大学か否かは関係なく、大学で初期研修を行う場合、現在の所属が「初期研修先と別の大学」という医師は少ない。将来の入局を視野に入れて研修先を選んだ医師が多いと考えられる。

 一方、市中病院で初期研修を行った場合は、約半数が現在も市中病院で働いている。ただし、初期研修先で変わらず働いている医師は、市中病院で研修を行った中の24.0%に過ぎない。全体のわずか11.0%という計算になる。

 大学からは「医師不足に悩む市中病院が、雇用した医師を手放さないため、大学に医師が戻らない」という恨み節も聞こえてくるが、調査結果を見る限り、それはごくまれなケースといえそうだ。

 有力病院では、医師の定数枠の関係などから、研修医がそのままスタッフ医師として残りたいと希望しても残れない例があるという。むしろ、そのような事情も反映した数字なのかもしれない。

 市中病院では61.3%の医師が後期研修を行っている。こちらも初期から同じ市中病院に残った医師は47.4%。初期研修を市中病院で行った人は、大学入局も含めて、自分のキャリアを節目ごとに選択している姿が伺える。

世間では自分で会社を選んで就職活動を行うなんてことは当たり前で、むしろ医局の先輩に飲み会に連れて行って貰って「ボク○○科に入局しま~す!」と宣言してしまえばそれで終わりという医者の世界の慣行の方がよほど常識に外れていたのは事実ですが、その結果世間もそれなりに医者に対する対応を変えなければならないという時代になったのは確かだと思います。
今や全国的に絶滅の危機に瀕しているという地方公立病院などは、おおむねどこも「医者など毎年幾らでも大学から送られてくるもの」と特権的地位にあぐらをかき、「嫌なら辞めろ。かわりは幾らでもいる」とばかりに医師を好き放題に酷使し使い潰してきたという歴史的経緯があるわけですから、いざ医者が自分で働く環境を選ぶ時代ともなればそんな病院など誰からも相手にされないのは当然ですよね。
そんな当たり前の現象に困窮した彼らの側では、モノを知らない子供のうちに奨学金などと餌で釣り上げて医者の将来を縛り付けろ、国が医者を強制的に配置せよなどとトンデモナイ人権侵害を平気で口にしているわけですが、幸いなことに(笑)全国的に見ても大学の地域枠なるものは学生集めに苦戦しているようで、どんと足切りラインを切り下げても到底定員にも達しないという状況であるようです。
今の時代はネットもありますからそうそう甘い言葉に騙されることもないでしょうし、仮に騙されても情弱とむしろ批判されるようなことになっていますが、自らの将来がかかっているだけにきちんとした情報収集に基づいて人生の岐路を選択していってもらたいものですよね。

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