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2011年5月17日 (火)

被災地の医療に関わる思いがけず面倒な問題

以前にも少しばかり書きました被災者の医療費自己負担分免除ということに関して、こういう制度が出来るとまた悪用する人も出るということなのでしょう、今度はこんな通知が出てきています。

医療費免除は証明書必要に(2011年5月13日産経ニュース)

 厚生労働省は、東日本大震災の被災者が医療保険の窓口負担の猶予や免除といった特例の適用を受ける際、加入する健康保険組合などが交付した免除証明書の提出を義務付けることを決めた。5月末までとしていた特例は、来年2月末まで延長する。
 これまでは緊急的な措置として免除証明書の提出は求めてこなかったが、不正請求を防ぐために7月から導入する。免除証明書は、住宅が全半壊したりした場合に受ける罹災(りさい)証明書などを基に、被災者が加入する健保組合などに交付申請する。

医療費の自己負担猶予、7月から証明書提示-厚労省が事務連絡(2011年5月6日CBニュース)

厚生労働省はこのほど、東日本大震災の被災者などに対する医療費の自己負担の猶予について、7月以降は各保険者が発行する免除証明書を提示した場合のみ対象とするよう地方厚生局などに事務連絡した。

医療費自己負担の猶予の対象は、▽東日本大震災で住居が全半壊▽主な生計維持者が死亡か行方不明▽福島第1原子力発電所に伴う避難指示の対象者―など。対象者は原則、申請すれば免除証明書を入手できる

事務連絡では各医療機関に対して、自己負担を猶予している患者の免除証明書の申請を促すよう求めている。ただ、福島第1原発の事故に伴い、避難指示を受けた地域の住民らについては、住所を確認すれば対象者かどうか分かるため免除証明書を必要としない。

■7月以降は通常通り保険証の確認を
また同省はこのほど、7月以降は各医療機関で通常通り保険証を確認するよう求める事務連絡を地方厚生局などに出した。

産経の記事を読んでいますとどうも気のせいでしょうか?一般的に不正請求と言えば「医療機関が」保険診療のルールに反した支払いを保険者側に求めることを意味しますし、実際にこの場合も被災者は請求業務自体には関わらないわけですから、まるで病院がずるいことをやっているかのように聞こえてしまいますよね(苦笑)。
もちろん実際に不正をやるのは被災者を自称する誰かということになりますが、すでにネット上では被災者を語り診療費を踏み倒そうとする人々の噂が少なからずささやかれていて、全国的に見れば相当の数で不正な行為が行われているんじゃないかと予想されます。
すでに被災者の所在も明らかになっている時期ですから、今後はきちんと行政側で資格確認等の対応をしていただいて、ただでさえ混乱している被災地の医療現場にますます余計な負担を強いるようなことを避けて頂きたいものだと思います。
被災地の医療機関にとって頭が痛い問題がもう一つ指摘されていますけれども、正直医療に限らずこの状況でそこまでを要求するのは酷なのではないかと言う気がしますがどうでしょうか。

「究極の個人情報」野ざらし カルテ流失 回収手詰まり(2011年5月8日河北新報)

 東日本大震災の津波に見舞われた沿岸部の医療機関では、患者のカルテが流失するケースが相次いだ。病歴が記された「究極の個人情報」が、がれきや土砂の中で風に舞う。膨大な医療記録を完全に回収することは不可能で、人海戦術を続けた医療機関は途方に暮れている。(若林雅人)

◎仙台・長町病院/倉庫に保管の4万2000点散逸/人海戦術もう限界

<職員が拾い集め>
 仙台市太白区の長町病院は、海岸線から約1キロ内陸に入った宮城野区岡田地区のプレハブ倉庫に過去の医療記録を保管していた。
 記録は1980~94年のカルテやエックス線フィルムなど計約4万2000点。倉庫は津波で全壊し、医療記録は一つ残らず散逸した。
 4月下旬、長町病院と系列の塩釜市の病院職員11人が倉庫周辺で記録の回収作業に当たった。
 暴風警報が発令される中、ビニール袋を手にした職員は、がれきや土砂に埋もれた無数の紙くずの中から「外来」「内科」などの文字を手掛かりに、散り散りになったカルテを拾い集めた
 倉庫跡から約100メートル離れた墓地にはエックス線フィルムが散乱していた。画像が薄くなり、一見してフィルムと判別できない。「見落としがちになってしまう」と職員の一人がつぶやいた。
 作業は3時間近く。回収物を詰め込んだビニール袋は45個に上った。作業はこの日で8回目。付近ではカルテの切れ端がまだ多数落ちている

<永久保存「あだ」>
 医師法が定めるカルテの保存期間は5年。法定期限を過ぎたカルテを廃棄処分にしている医療機関もあるが、長町病院は永久保存を原則としてきた
 「高齢者を中心に長年受診している患者が多い。古い既往症を確認する機会もあり、昔のカルテとはいえ、処分しづらかった」
 回収作業に毎回参加している大山泰人事務長が説明する。病院の「良心」が、結果的に「あだ」となった。回収に当たる職員は割り切れない表情を見せる。
 周辺住民からも「カルテを見つけた」「拾った」という連絡が寄せられる。津波で流されたのか、倉庫から5~6キロ離れた若林区荒浜で見つかった記録もあった
 倉庫跡周辺では近く、がれきの大規模撤去が行われる予定で、人海戦術で回収するのも限界を迎えつつある。
 大山事務長は「カルテに記されているのは最も知られたくない個人情報。放っておくことはできない。発見した人は病院に連絡してほしい」と呼び掛けている。連絡先は長町病院022(746)5161。

◎石巻市立病院/山形の病院とシステム構築/データ共有、診療再開早く

<ほとんどを復元>
 被災した医療機関では流失したカルテの復元や回収のスピードが診療再開の鍵を握る。
 石巻市立病院は旧北上川河口近くにあり、1階にあった外来患者のカルテが泥をかぶり、敷地内の倉庫に保管していた古いカルテが流失した。
 職員が周辺を探したが、「広範囲に流失し、どの患者のカルテか判別できる状態でなかった」として回収を断念した。
 1階の電子カルテのサーバー室も津波にのまれ、システムダウンした。
 市立病院は2月に山形市の総合病院と電子カルテの共有化を始めていて、記録を回復することができた。ほとんどのデータを山形側で復元し、4月7日からの仮診療が可能になった。

<稼働直後に被災>
 電子カルテは系列の病院でも情報流出やウイルス侵入を防ぐため、互換性を持たせないケースが大半だ。市立病院のように、系列の異なる医療機関とデータを共有するのは全国的にも珍しい。
 市立病院は「宮城県沖地震が予想され、病院も海沿いにあったので万一に備え、山形市の病院と相互にバックアップする態勢を取った。それにしてもシステム稼働の直後に大震災があるとは」と驚く。
 旧北上川沿いにある石巻港湾病院も1階が浸水し、カルテが流された。泥まみれのカルテを職員が拾い集めて水で洗い流し、部屋干しする作業を続け、震災から1カ月後の4月11日に一部の診療科で外来患者の診察を再開した。
 港湾病院は「どの患者のカルテか分からない物もあるが、外来患者分は8割程度を回収できた。大半が敷地内にとどまり、院外への流失が少なかったのが幸いした」と述べている。

◎保存義務違反に当たらず…でも/悪用された場合、医療機関に民事責任/厚労省

 厚生労働省は震災を受け、医療機関に一定期間の保存義務を課しているカルテなどの文書が建物の倒壊や津波で流失した場合の対応について、都道府県と各地の厚生局に通知した。
 医療機関が適切な管理で保存したカルテや電子データが震災で失われた場合は「医師法など関係法令に基づく保存義務違反に当たらない」としている。
 厚労省医政局は「カルテの回収は困難だろうし、回収できたとしても判読できないだろう。医療機関に『歩き回って探してくれ』とは求められない」と話す。
 その上で医療機関には(1)保存した場所や消失の理由を記した文書を作成する(2)消失の事実を患者に説明し、患者との信頼関係を構築する―ことなどの対応を求めている
 厚労省は津波被害に見舞われた医療機関の実情を考慮し、「これらの対応を直ちに実施するよう求めているわけではない」としている。
 医療機関がカルテを適切に管理していれば震災で流失しても医師法上は責任を問われない。万一、流失カルテが悪用された場合はどうなるのか。医政局は「民事上の責任は別の問題で医療機関の管理責任が生じる」と説明している。

こんな災害においても「こんなこともあろうかと」な対策を取っていた病院があったというのは率直に驚きですけれども、この果てしない回収作業を病院職員の手で続けていくことにどれほどの意味があるのかと考える一方で、何かあれば病院側に責任が及ぶかも知れないと考えれば放置するわけにもいかないのでしょうね。
特に記事末尾の医政局のコメントが非常に重要だと思いますが、聞くところによると被災地では外部からの窃盗団が侵入して好き放題をやっているとのことで、下手にそのあたりの民家を荒らすよりも落ちているカルテでも拾っておいた方が後々の実入りが大きい、などとケシカランことを考える輩がいずれ出て来ないとも限りません。
またそうでなくともたまたま拾い上げたカルテが町の有力者のものであった、何気なくパラパラとめくってみるとあまり世間に知られたくない類の病歴が記載されていたなんてことになりますと、下手をすると噂が流れただけで町内の勢力図が大きく塗り変わってしまうなんてこともあり得るかも知れませんよね。
それこそ中島みゆきの歌ではないですが、そうなると怒り心頭「おまえの身内も住めんようにしちゃる」なんて修羅場が展開されることもあるのかどうかですが、いずれにしても今回の被災地には昔ながらの小さなムラ社会が数多いだけに、ちょっとしたことが後々まで大きな余波を産むということも無いとは言い切れないでしょう。

ご存知のように医療機関においては5年間のカルテ等の保存が義務づけられていて、実際には10年程度は保存しているという施設がほとんどではないかと思いますが、近年増えてきている電子カルテで運用している施設においては紙でもカルテを保存しなければならないのかということが問題になります。
今のところかなり多くの施設がプリントアウト等で紙媒体にも出力するようにしているんじゃないかと思いますが、公式には一応1999年の厚労省通達によって、下記三条件を満たすものであれば紙媒体なしでも電子媒体のみでカルテ保存の義務を満たすものとして取り扱われるようですね。

 

(1) 保存義務のある情報の真正性が確保されていること。
  ○ 故意または過失による虚偽入力、書換え、消去及び混同を防止すること。
  ○ 作成の責任の所在を明確にすること。

(2) 保存義務のある情報の見読性が確保されていること。
  ○ 情報の内容を必要に応じて肉眼で見読可能な状態に容易にできること。
  ○ 情報の内容を必要に応じて直ちに書面に表示できること。

 (3) 保存義務のある情報の保存性が確保されていること。
  ○ 法令に定める保存期間内、復元可能な状態で保存すること。

電子カルテの場合はサーバー上の記録に関しては消えることはあっても散乱することはないですし、データ消失に対しても石巻市立病院のように遠隔地でのバックアップを取っておけばかなり強いようだということが証明された形ですから、今回のこうした後始末作業を通じて「うちも電子カルテ一本でやってみるか」と考える施設も出てくるかも知れません。
ただ近頃では診療情報提供などにもよく使われるCDやDVDといったメディアは保管性に疑問符がつく部分もあり、診療録のバックアップ的な使い方をしていた場合には紙カルテ同様散乱の危険性もあるわけですから、適宜暗号化等の対策は必要になってくるかも知れませんね。
また施設によって収載されている情報のフォーマットが統一されていなかったり、リーダー込みで書き込まれている場合もOS側の更新によっていつまでも可読性が保証されるものでもないでしょうから、このあたりの統一書式を用意していくことも今後の課題になるのでしょうが、そうなってくると日本全国診療機関のオンライン化という話にもつながり、先日のソニー事件のような新たな危険も出てくるのでしょうか。
更地になった被災地で泥にまみれて散乱するカルテを拾い集めた経験が、何十年か後には「あれが日本における医療IT化の原風景であった」なんて言われることもあるのかどうかは判りませんが、今回いざというとき紙媒体の扱いが案外面倒であるということが判ったのは一つの収穫だったと言えるかも知れません。

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コメント

患者さんのためにと倉庫を借りたりして、決して少なくない費用を負担してカルテやらレントゲンフィルムやらを
医師法の定める5年を越えて保管してきた医療機関も、これからは5年を越えたらさっさとカルテを処分するところが
増えてくるのではないでしょうか。

投稿: 浪速の勤務医 | 2011年5月17日 (火) 14時41分

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