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2011年4月12日 (火)

被災地を医療特区に!

今回の地震に関連してあちらこちらで言われることに、被災現場の中心が東北、関東という地域であったことによる各方面への影響というものがあります。
例えば電力問題で言えば北海道や中部以西からの送電が能力・容量的に極めて限定的とならざるを得ない以上、東北と関東はもともと周波数の関係で電力面で他地域から孤立していると言ってもいい状態だったのですが、その両地方が被災したことに加えて、最も電力需要の大きい東電傘下の福島原発が事故に見舞われたわけですよね。
この結果あっという間に電力不足が発生したことは周知の通りですが、他にも三陸方面は日本の誇る好漁場であるだけに水産資源の面でも今後多大な影響が見込まれるなど、被災地域内にとどまらない問題はこれからも続々と表面化してくるものと思われます。
こうした地域性濃厚な問題の一つに被災地での医療と言うものがありますが、ご存知の通り被災地界隈と言えばかねて日本でも最も医師数の少ない地域として知られていることに加え、東北特有の地理的隔絶が今回の地震による道路網寸断で更に悪化したと言われ、さらに被災地からの医師流出と、今後ますます「医療過疎」が進んでしまいそうなのですね。

東日本大震災:医師不足さらに悪化 3県沿岸部不明18人(2011年4月9日毎日新聞)

医療過疎が深刻な東北地方で、東日本大震災が追い打ちをかけている--。岩手、宮城、福島県の沿岸で、医師の死者・行方不明者が少なくとも計18人に上っていることが3県の医師会などの調べで分かった。医師不足の中、地域医療を支えてきた開業医が多い。建物被害で休診に追い込まれた医療機関も多く、被災地から転出する医師が相次ぐ懸念もある。医師の確保が今後の復興に向けた課題になりそうだ。

 3県の医師会によると9日現在、福島で3人、宮城で9人、岩手で6人の医師が死亡か行方不明になっている。いずれも沿岸地域で医院や診療所を開くか病院に勤務していた。

 特に岩手県は全員が開業医で、陸前高田市で2人が死亡し、大船渡市と釜石市、山田町で計4人が行方不明になった。

 厚生労働省が10年6月に初めて行った「必要医師数実態調査」では、実際に働く医師数と、医療機関側が必要と考えている医師数のギャップが全国で最も大きかったのが岩手県で、必要とする医師数は現状の1.4倍にもなった。福島県では1.23倍、宮城県では1.15倍といずれも全国平均(1.14倍)を上回っている

 また同じ岩手県内でも医師の数は地域間で格差があり、人口当たりの医師数でみると、岩手県沿岸地域の宮古市周辺などでは、内陸部にある盛岡市の4割と少なく、震災前から問題化。交通の便の悪さ、過疎などで医師不足はさらに悪化する状況が続いていた。

 岩手県医師会は「地域住民に身近な医療が崩壊の危機にさらされている。医療機関の被災をきっかけに、地域を離れる医師が増える恐れもあり、開業の資金援助など必要な対策を考えたい」と話している。【鳴海崇】

今回の地震の良い面に関して言えば、医療関係者の多くが口を揃えるのが阪神大震災の経験が生きたと言っているのは幸いで、例えば地震発生後ただちに即応体制がとれたとか、あらかじめこうした事態を予想してスムーズな支援体制を組めたとか、現地からは心強い話も少なからず伝わってきています。
ただ災害直後の急性期医療に関してはそうした対策が功を奏したとしても、次第に急性期医療から慢性期医療、そして日常の診療へと移り変わっていく中でいつまでも外部の支援も続けられないとすれば、自前の医療資源をいかに再構築していくかということが今現在の最も大きな課題と言えそうですよね。
被災各地では応急的な診療所の開設が相次いでいて、それはそれで地域住民に大きな安心を与えることになっているのは疑いないのですが、こうした場所できちんとした医療が行えるかと言えば設備的にも大きな制約がある、となればマスコミが従来から主張してきた「医療格差」「命の価値の不平等」が極めて大きな状態が被災地で発生していることになります。

今現在行われているやり方として、例えば手厚い医療が必要な重症患者に関してはどんどん他地域に送り出し、被災地では応急的処置で事足りる軽症だけを扱っていくということをやっていますが、外部からの多数の応援に支えられたあくまでも被災直後の一時的なものではダメで、これからは地域で再び生活するということに視点を置いた永続的体制が必要となってきます。
もちろん先日も紹介しましたような「頑張って被災者診療を行うほど病院が赤字になっていく」という診療報酬上の問題もあって、政府としてもこの点からも様々な対策を講じるつもりであるようなんですが、制度上の問題も多数山積していることに加えて、前述のようにマンパワーも被災前よりも悪化こそすれ、良くなる見込みは全く無いわけですよね。
となれば、単に昔と同じものをそっくり再現して「これで再建できました」では通用しないのは誰にでも判る道理ですが、その中で先日日経新聞の被災地医療の記事を見ているとなかなか興味深いことが書いてありました。

崩壊した医療提供体制と再建への模索(2011年4月8日日本経済新聞)より抜粋

(略)
 超急性期を担うDMATなどの役割が一段落した地震発生5日目の3月15日には、日本医師会が各都道府県の医師会の協力を得て、日本医師会災害医療チーム(JMAT)を派遣。現地では慢性疾患や感染症など日常診療に準じる活動が中心となりつつあり、その支援に名乗りを挙げた。常時100チーム(約400人)が活動する状態を保つとしている。

コメディカルの活動も活発化している。被災地の要請を受けて厚労省が派遣した保健師などのチームは日を追うごとに増加。3月23日時点で89チーム(317人)が被災者のケアに当たっている(図2右)。

 透析患者や重症の入院患者など、現地の避難所や災害拠点病院で対応しきれない患者も多数発生した。こうした患者に対応すべく、動き始めた医療機関もある。全国に66カ所の病院を持つ医療法人徳洲会もその一つ。同会は徳洲会医療救援隊(TMAT)を派遣して現地で診療を行っているほか、被災地の透析患者など100人近くを、千葉徳洲会病院(千葉県船橋市)などグループ内の複数の病院で受け入れた。

 同会の災害対策本部は、「被災地では十分な医療を受けることが困難な状況。当会では全国で計4000人の患者の受け入れが可能であり、できる限り協力したい」としている。

■特例認める通知を多数発出

こうした現場の動きに呼応するように、厚労省はこれまで多数の通知を出した。多くが被災者への医療提供に関わるものだ。

 被災地だけでなく全国の医療機関に関連する通知としては、被保険者証のない被災者の受診に関する取り扱いがある。被災者が氏名、生年月日、保険者の事業所名(国保などは住所)を申し出れば、保険証がなくても診療するよう通知。また、住宅が全半壊したり、主たる生計者が死亡・行方不明になった被災者については、医療機関は医療費の自己負担分を請求せず、審査支払機関に10割請求する形の措置が取られた。

 もっとも、被災者の本人確認ができないまま診療した場合などは、医療費が支払われないのではないかといった心配もある。これについて厚労省保険局は、「医療機関の持ち出しにならないような措置を考えていく」としている。

 このほか、全国的な医薬品の供給不足に備え、長期処方の自粛を医療機関に要請するとともに、医薬品や医療機器を医療機関同士で融通しても薬事法違反とならない旨を通知。被災地への派遣などのため一時的に職員数が減り、施設基準などが満たせなくなった場合でも変更の届け出や診療報酬の減額などが当面免除されるといった旨も通知した。

 また、日本の医師免許を持たない外国人医師が被災者を診療しても違法ではないとする事務連絡も岩手、宮城、福島の3県に出された。
(略)
■被災地での診療体制が徐々に

 震災発生から約1カ月がたち、被災地は徐々にだが落ち着きを取り戻しつつある。ライフラインの一部断絶や医療材料の不足、医療機器の浸水などにより依然として手術の実施を見合わせている病院は多いが、外来診療の再開や入院機能の正常化などにめどをつける病院が増えてきている。交通の遮断やガソリン不足のため被災地には物資がなかなか届けられなかったが、状況はだいぶ好転してきているようだ。

 気仙沼市立病院では、被災地の急患をきめ細かくフォローする体制ができつつある。同病院呼吸器科の椎原淳氏によれば、市立病院がセンターとなり、主な避難所に設けた診療所がサテライト機能を担うようになってきたという。診療所に来院できない人たちを医師が巡回する体制も整備されてきている。

 その一方で、混乱も生じている。日本医師会(日医)は3月27日、JMATの派遣を一時休止すると発表。日医以外にも多方面からの支援が入っている中で、県医師会が医療面の支援を統制しきれず、被災地で医療班がバッティングするなどの問題が起き始めていたからだ。

 また、避難生活における過労や環境悪化を原因とする震災関連死が高齢者を中心に増加しつつある。被災地の医療ニーズは新たな局面を迎えている。

■立ちはだかる多くの障壁

 被災地の医療提供体制は急ピッチで再構築されつつあるが、地元の病院が単独で通常診療を再開するにはほど遠い。懸命に医療に従事してきたスタッフの健康面やメンタル面のケアも今後必要になりそうだ。これは被災地の多くの医療機関、介護施設が抱える問題である。

 さらに、津波で流され完全に機能を失った医療機関の復興はどうするのか。国は、被災した公立病院の復旧事業に関して費用の8割前後を補助金で賄う検討を進めているが、それ以外にもマンパワーの確保といった多くの問題が山積している。
(略)

幾つかポイントがあるのですが、一つには医療供給体制の問題として、従来この地方では岩手の県立病院無床化などに象徴されるような医療供給能力の制限に由来する体制再編が急務とされていたものが、どうやらこの震災を契機に事実上の医療再編が進んでしまっているらしいという状況があるようです。
特に東北地方は地勢上も地域間の横の連絡が非常に難しく、医療に限らず各地域が半ば独立的に運営をしていかなければならない状況にあったということは聞いていましたが、逆にいえばこれが各地域毎に公立病院を置くという極めて非効率的な医療体制を温存してきた要因でもあって、何とか集約化しなければこれ以上保たないとは言われ続けてきたわけですよね。
今回の大規模被災でひとたびこうした旧来の体制がリセットされ、かわって運用されているのが極端な人手不足、物不足を受けて必然的に効率最優先で行わざるを得なくなった新体制となっているようなのですが、これを旧体制復旧までの一時的なものに留めておくのは非常に勿体ない話ではないかと言う気がします。
重症患者はどんどん後方施設に送り出し、前線ではなるべく軽装で広く薄く診療に当たるというのはまさに厚労省が画策してきた医療の集約化そのものですが、今まで以上に医師不足、医療資源不足が深刻化せざるを得ないだろうこの地域の医療を再編する上で、こうした効率性追求という考え方は決して無視出来ないファクターとなりそうですよね。

もう一点注目されるのは、例えば外国人医師の診療許可やコメディカル活躍の話題であるとか、診療報酬上の特例措置といった話題にも見られるように、実際の診療現場においても効率性追求ということが制度上の制約を超越して行われてきているらしいということでしょう。
医療に関わる人員構成を考えれば、医師、看護師そしてケアスタッフと、専門性が下がっていくほど人数はピラミッド状に増えていくわけですが、被災地で「いやこれは医者の指示がなければ行えない処置なので」などと杓子定規に解釈していたのでは、せっかく数多いスタッフが指示待ちで遊んでしまうということにもなりかねませんよね。
ごく一例ですけれども、慢性期疾患患者に関する定期処方であるとか、ちょっとした外科的応急的処置に関しては薬剤師や看護師が医師の指示を待たずとも行えるようにするといったことだけでも、医者は医者にしか出来ない処置に専念出来るようになる上に、今までグループ単位でしか活動できなかった医療スタッフが個人単位で活動出来るようになるものと思われます。
こうした話をすると以前から話題になっている(そして、様々な批判を受けている)ナースプラクティショナー(NP)制度導入に結びつくではないか!という声もあがりそうですが、むしろ前述の医療システム再編の話ともあわせて、これを被災地にとっても国全体にとっても貴重なお試しチャンスと考えて見るべきじゃないかと言う気がしています。

かねて株式会社の医療参入や混合診療導入などとも絡めて「特定地域内限定で特殊な医療を容認する」医療特区導入ということが繰り返し言われていて、その都度日医(笑)などから激しい攻撃にさらされてきた歴史がありますけれども、例えば今回の被災地をまとめて医療特区にしてしまう、その上で効率最優先の医療と言うものをやってみると言うのは検討に値すると思うのです。
そもそも特区に限らず医療において大きな改革が為しがたかった理由として、国民皆保険制度の下で全国どこでも同じ料金で同じ内容の医療を受けられるという「タテマエ」を保ってきた、この結果少しでも以前より改悪したと思われ次第「おかしいじゃないか!医療の平等に反している!」なんて強固な反対論が出るという事情があったわけです。
ところが被災地では今この医療に対する要求水準というものがかつて無いほど低下していて、言ってみれば聴診器を当てるだけでも感謝されるという状況になっているわけですから、ここからどんな方向に動かそうが少なくとも今までよりは良くなることだけは保証されている上に、被災地復興という名目で特例も幾らでも通るのですから、今まで出来なかったことを何でもやってみる絶好のチャンスであることだけは確かでしょう。
末端の公立小病院は全部診療所化して集約化を促進するのがいいのか、NP制度を始めスタッフの権限を大幅に強化して医者の業務を減らしてみるのがいいのか、いずれにしても地震で崩れ津波で流された町の病院を再建し、昔通りの医療をそっくりそのまま再現するだけでは医者も減っている分、以前よりも更に悲惨な「医療過疎の拡大再生産」にしかならないでしょうから、ここは思い切った挑戦が必要なのではないでしょうか。

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コメント

これってホントですか???

http://med2008.blog40.fc2.com/blog-entry-1813.html#comment13075

投稿: (lll゚Д゚) | 2011年4月16日 (土) 08時29分

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