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2011年4月18日 (月)

被災地医療 回っていない現場にこれ以上余計な仕事を増やしてどうする?

漫画などでは時折あるような話ですけれども、実際にやってるんだなと思ったのがこちらの記事です。

ALS患者の呼吸器停止 5秒に1回 押し続けた22時間/茨城(2011年4月16日東京新聞)

 薄暗い病室。いつもは気にも留めなかった壁の写真が気になった。五秒に一回、二十二時間。ひたすら人工呼吸器を押し続けた-

 三月十一日午後、茨城県日立市の日立港病院。入院患者は約四十人、医師は三年目の岸龍一さん(27)だけだった。地震発生。停電。間もなく非常用電源も使えなくなった。患者の安全を確認して、ひと息ついた時だった。五十代の男性患者の人工呼吸器のバッテリーが切れた

 男性は筋萎縮性側索硬化症(ALS)で数年前に入院。症状が進み、全身の筋肉が動かず、目に見える運動表現ができない状態だった。

 すぐに手動の人工呼吸器と、のどに開けた穴とをチューブでつないだ。ゆっくり押し、ぱっと離す。五秒に一回、規則的に繰り返す。握り込む普段のやり方だと続かないと思い、手のひらと腰の間に挟んだ

 点滴用のフックに掛けたペンライトが、やせた男性の顔をぼんやりと照らす。がっちりした体格の教師だったという。壁に教え子たちと撮った写真が何枚も張られていた。

 「この手は離せない。今、誰よりもこの患者さんと一緒にいるんだ」。写真の笑顔が気になって仕方なかった。

 何度も襲う余震。駐車場で冠水した車のクラクションがけたたましく鳴る。シュークリームやポテトチップスを分け合って食べた。呼吸器をほかの人に任せたのは計約二時間だけ。星がきれいな夜だったと覚えている。

 この間、看護師らは転院先を探していた。しかし、電話がつながらなかったり、ベッド不足だと断られたりした。看護師長が院長の知人の医師に直接頼み、市内の別の病院が受け入れてくれることになった。

 救急車に同乗し、人工呼吸器につなぐまで見届けた。腕の重みに気付いた。時計は十二日の午後三時五十分を指していた

   ×   ×

 男性は今月五日未明、肺炎を併発して亡くなった。「停電の影響はゼロではないでしょう。悔しいですね」。訃報を聞いた岸さんは、そう話しうつむいた。

震災に伴ってあちらでもこちらでもライフラインの断絶が問題になっている中、先日も被災地では実に7割の病院が診療に支障が出ているという記事が出ていましたけれども、医療が社会保障の一環である以上は病院内で全てが終わるという性質のものではありませんよね。
そんな中で、先日以来お伝えしている「被災者を診療すれば診療するほど赤字になりかねない」という問題に関して、政府としても患者自己負担分を本人には請求しないといった通知を出したことで一応の対策を講じたつもりのようですが、もちろん保険証もなくしているような方々もいらっしゃる以上は保険の有無自体が確認出来ないという局面もあるはずですよね。
理論上は色々な系路を辿っていけば何とか確認出来るのかも知れませんが、今の時代個人情報保護法などの絡みもあってこういう確認行為自体が難しくなる一方ですし、そもそも確認すべき先が連絡不能ということもあり得るわけです。
この結果国は通達一つを出せば全てが済んだつもりかも知れませんが、現場では思わぬ大混乱ということになってしまっているようなのですね。

「全額負担させられた」保険証紛失で被災者(2011年4月15日毎日新聞)

 東日本大震災の被災地では保険医療にも混乱が及んでいる。被災者は保険証を失って窓口負担なしで受診できる措置が取られているが「全額負担させられた」との苦情が続出。一方、医療現場からは「事務処理能力を超えている」との反発が出ている。

 「ただでさえ現金が大事な時期に、つらいですよ」。福島県いわき市の自営業、折笠修さん(52)は表情を曇らせた。保険証は津波で自宅ごと流された。被災後、頭痛が続き、市内の病院で診療を受けると、保険証がないとして全額の支払いを求められ7000円を払った。「これでは病院に行くのもためらってしまう」

 厚生労働省は今回の震災で、地震や津波で自宅が全半壊した人、福島第1原子力発電所の事故で避難を余儀なくされた人などを対象に、窓口負担の猶予を認めるよう都道府県などに通知した。最終的には保険者(健康保険組合など)に全額負担を求め、被災者の支払いは免除する方針だ。

 しかし、福島県国民健康保険課によると「全額負担させられた」との苦情や問い合わせが1日10~20件寄せられている。同じ被災地の宮城、岩手両県でも苦情が多いという。同課は「免除の措置があることを知らない医療機関が多いのではないか」とみる。

 これに対し、医療機関からは反論の声が上がる。いわき市にある公立病院の事務担当者は「免除の措置は知っているが、震災の混乱で事務処理能力を完全にオーバーしている」と語気を強める。

 保険証をなくした被災者が窓口負担の猶予を求める時は、自身の入っている保険の種類などを自己申告する。医療機関側は、それに基づいて保険者に問い合わせ、裏付けを取る必要がある。

 だが、この担当者によると、窓口には避難生活で体調を崩した人などで常に長い行列ができており、確認作業に時間を割く余裕はないという。「払える人にはいったん払ってもらうしかない」のが現状だと説明する。

 厚労省医療課は「医療機関の手間にはならないという前提で通知を出した。被災者の復興支援が趣旨なので、きちんと処理してほしい。被災者自身は免除される立場にあることをしっかり主張してほしい」と話している。【渡辺暢】

国の通知からすれば保険者に確認できない以上は後払いしてもらえるかどうか判らないんですから、窓口が大混乱することは誰でも判る理屈なんですが、こういう事態を避けるためには被災地居住者は保険の有無に関わらず国が全額払うとか、そうした対応をとらなければならなかったんじゃないかと思います。
先日も東電が避難世帯に仮払い金を支払うにあたって、「市町村の窓口で受け付ける」と一方的に発表したことで自治体側から「とても無理」と一斉に反発の声があがっていますけれども、これなども通常時で考えれば世帯情報を管理しているはずの自治体が窓口となることが手間の上では一番効率が良いという計算になるのは理解できます。
しかし実際には自治体の窓口は現在それどころではない状況なのは言うまでもないことで、そこにいわば東電が尻ぬぐいを押しつけるようなことを言い出せば時間的効率性が低下するしない以前に、感情的な反発が少なからずあるのも当然でしょう。
前述の記事にあるような問題も手順だけからすれば病院受診者にその都度窓口で確認をするのが一番手間は少なくなる理屈ですが、実際に破綻しかけている病院にそうした確認作業を更に押しつければどういうことになるかは誰にでも判る話で、結局のところここでも時間的効率性に対する検討の不足と共に、相手に対する心情的配慮が少しばかり不足していたんじゃないかなという気がします。

今や震災に関わる諸団体はどこもかしこも大忙しというのは判りますが、やはり被災者に近い側の業務を遠い側が少しでも分担していくというのが筋ですし、逆に後方が前線の仕事を余計に増やすようなことをやっていてはいけないはずです。
日本全国で少しでも被災地のために助力をしたいという人も大勢いる中で、国に求められているのはそうした意志をいかに効率的に統合し前線のバックアップのために活用するかという司令塔役であって、被災地に視察しに行くかどうかなど本来どうでもいい細事であるはずです。
被災地の復興支援が趣旨というのであれば、それが少しでも円滑に行われるようにもう少し知恵を絞る必要がありそうですよね。

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コメント

意外に田舎の小さな役場が頑張ってるんだよね
現代日本人って目先の問題にはまだ十分対処できるけど、人を使って仕事をさばいていくのが下手だと感じる
平等主義が行き過ぎた教育の弊害かね

投稿: aaa | 2011年4月19日 (火) 21時22分

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