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2011年4月26日 (火)

死因究明モデル事業 短絡的にやめてしまうのはもったいない

世の中何をするにも先立つものが重要であることは言うまでもありませんが、先の震災による大被害を受けて復興財源はどうするのかといった議論が非常に難しいことになっています。
折からの不景気の中でそれでも財政改革をし、国の借金を何とか減らしていかなければならないと言う矢先に巨額の出費がどうしても必要だと言うのですから、これは税金を引き上げるべきだ、いや削れるところをもっと削れと様々な意見が入り乱れるのも当然ですよね。
そんな中で思いがけない影響が出ているらしいというのがこちらの一件なんですが、まずは記事から紹介してみましょう。

死因究明モデル事業中止論に異論噴出(2011年04月22日CBニュース)

 日本医療安全調査機構(高久史麿代表理事)は4月22日、運営委員会を開き、今年度の「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」をめぐり、11日に緊急招集された理事会での取りまとめについて報告を受けた。それによると、東日本大震災からの復興のために国が急きょ、補正予算を編成するため、厚生労働省の補助事業であるモデル事業に対し、従来通りの予算執行が不透明になったとして、これまでのやり方を中止することなどが挙がった。これに対し、委員からは「プロセスを無視している」などと異論が噴出。理事会で既に決定された報告事項だったが、反対意見が大勢を占めたため、いったん差し戻し、理事会での再検討を促す異例の展開となった。

 2005年度から実施されているモデル事業には、北海道、宮城、茨城、東京、新潟、愛知、大阪、兵庫、岡山、福岡の10地域が参加し、診療関連死の死因究明について中立的な第三者の立場から医学的妥当性の検討を進めている。しかし、先の理事会で決定された運営方針では、10年度に受け付けた事例は今年11月末をめどに終了し、これまでのモデルでの新たな事例受け付けを中止するとしている。ただ、新たな調査分析協働モデル(仮称)を東京と北海道に地域を絞って、年度内に10例程度、試験的に実施することにしている。
 また、実施地域の規模の縮小に伴い、運営委員会のメンバーを現行の33人から19人に減らすことも盛り込まれている。

 これらの方針に対し委員からは、「皆の意思を無視している。モデル事業は医療安全に寄与している。この灯を消すべきでない」(高本眞一・三井記念病院院長)、「モデル事業は、診療関連死の真相をきちんと究明して安全な医療をつくるという営みをつくってきた。歴史の流れを戻すようなことを理事会が簡単に考えているとすれば、相当感覚がずれている」(加藤良夫・南山大大学院法務研究科教授)などの異論が続出。さらに、事業の中止が財政問題に端を発していることから、国からの補助金に頼る事業の在り方を問題視する声が上がり、事業に参加している各学会から資金を出し合うことで、自主独立の道を模索すべきという意見も出た。

 こうした意見を受け樋口範雄委員長(東大法学部教授)は、厳しい財政事情に一定の理解を示しつつも、「この方針では医学界が第三者機関設立をあきらめたと取られかねない」との見解を述べ、理事会に対し再検討を促した。

予算が不透明になったからとりあえずやめますでは関係者も収まりがつかないのは当然ですし、診療関連死に関わる詳細解明に期待してきた人々の思いを裏切ることにもなりかねませんから、仮に中止や縮小が必須だとしてももう少しきちんとした根回しは必要なんじゃないかなという気がします。
ちなみにこの「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」なるもの、平成17年から厚労省の新規事業として行われているもので、厚労省によればその趣旨としてこんなことが記載されています。

医療の質と安全を高めていくためには、診療行為に関連した死亡について解剖所見に基づいた正確な死因の究明と、診療内容に関する専門的な調査分析とに基づき、診療上の問題点と死亡との因果関係とともに、同様の事例の再発を防止するための方策が専門的・学際的に検討され、広く改善が図られていることが肝要である。
 そこで、医療機関から診療行為に関連した死亡の調査依頼を受け付け、臨床医、法医学者及び病理学者を動員した解剖を実施し、更に専門医による事案調査も実施し、専門的、学際的なメンバーで因果関係及び再発防止策を総合的に検討するモデル事業を行うものである。

具体的には死因究明を希望する医療機関からの依頼を受けて、各モデル地域内で臨床医、法医、病理医の三者による解剖と報告書作成、および臨床医による診療録や聞き取りによる調査を経て、死因の原因究明と診療行為との関連に関して評価結果報告書を作成し依頼者側に返却するとともに、中央に集められたこれら報告書から予防と再発防止策を検討していくという流れになっています。
いわゆる事故調議論が責任追及に使用するかしないかといったところで事実上議論が膠着してしまっている中で、とりあえず何があったのかを知りたいという患者側の要望にも応える形でこうした先行するモデル事業を展開してきたわけですが、興味深いのは以前にも紹介した通り、年間200件程度の依頼を想定していたところが目標のわずか10分の1ほどの利用しかなかったということなんですね。
依頼はあったものの事業の対象外とされたのが実際の利用件数の倍ほどもあって、その理由の最多となったのが「解剖の同意が得られなかった」ということであったと言いますから、制度自体の周知徹底ももちろんですが、いわゆる医療事故調というものに何を求めているかという点で、どうも患者サイドと医療サイドでいささか認識が異なっているのではないかという気もするところです。

「医療過誤じゃないのか?!」なんてトラブルになる事例では多くの場合、患者なり家族なりから「あのとき○○したのが原因じゃないか!」といったクレームがまずつくものですけれども、逆に言えば患者サイドの考えとして素人目にも明らかにおかしなことをやったことが望まない結果となった原因であるという認識が主流なのかも知れませんね。
ところが医療サイドからすればそれらは別におかしなことをやっているわけでもなんでもない、単に患者サイドが素人考えで誤解しているに過ぎないと思っているのなら、「なぜそうなったのかは詳しく調べて見ないと判りません」と答えるしかないでしょうし、それが患者サイドからすれば「明らかなミスを隠蔽しようとしている!なんてとんでもない病院だ!」とますます憤りを感じることにもなるわけです。
患者サイドの求めているだろう「専門家がカルテを一目見てここが間違っている!と指摘する」なんて推理小説じみたことが実際どの程度起こりえるのか、医療と言うものは医者の裁量が非常に幅広く認められていて(そうでなければ困りますが)何が明らかに間違っているということが言い難いだけに、単純に「これは適応外使用」「これは投与禁忌」などと添付文書を斜め読みしただけの突っ込みでは白黒付けがたいのは確かでしょう。
となると、解剖にしろなんにしろ多くの症例においては相当に詳しい検証を行わなければ正しい評価も出来ないでしょうし、そのためにはそれなりのマンパワーと何より相応のコストが必要とされるのは当たり前でしょうね。

今回特に焦点になっているのが運用資金のことで、前述の記事においても「国からの補助金に頼る事業の在り方を問題視する声が上がり」云々という話が出ていますが、それでは今後こうした事業がますます広範に行われるようになってきた場合に誰がそのコストを負担するべきなのか、特に調査報告書を民事訴訟の証拠に使えるなんてことになれば、賠償金目当ての一部の人間が国のお金を濫用して一山当てようとしているなんて心ない批判もいずれ起こり得るように思います。
正直その資金負担を関係諸学会が分担して行っていくというのが正しいのかどうか、もちろん情報を集約化して最終的には再発防止に結びつけるという考え方とすれば医療の側にも相応に見返りがある話ですけれども、将来第三者機関による事故調につなげていくというのであればはるかに大きな額の運用資金が必要となるはずで、自然医療の質と安全を高めるという目的の受益者である患者の側にも応分の負担をお願いするのが筋ではないかなという気がします。
もちろん現状では想定した利用者数にはるかに及ばないわけですから、制度を普及させるという点から見ると金銭的負担で患者や家族が二の足を踏むことは避けたいという考えもあるのでしょうし、利用者個人が負担するべきなのか、あるいは医療全体に結果をフィードバックするという観点からより多くの国民に幅広い負担をお願いするべきなのか、そのやり方には議論が必要だとは思いますけれどもね。
今までこの種の制度であまり利用者負担に言及するような局面が少なかったわけですが、国がお金を出さないからもうやめましょうとなってしまうくらいであれば、制度を求めている当事者各位が少しずつお金も手間も負担しながらでも続けていった方が後々のためにはなるんじゃないでしょうか。

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