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2011年4月14日 (木)

国内初 小児脳死移植始まる

ちょうど昨日、改正臓器移植法に従い国内で始めて小児脳死者からの臓器移植手術が全国各地で行われ、各方面で注目を集めていることは周知の通りです。
レシピエント側の状況はリアルタイムで情報が多数出ていますから参照いただくとして、ここでは今回のドナー側の状況について記事から取り上げてみましょう。

初の小児脳死移植へ 15歳未満、家族承諾 (2011年4月12日日本経済新聞)

 日本臓器移植ネットワークは12日、関東甲信越地方の病院に入院していた10歳以上15歳未満の男児が改正臓器移植法に基づき脳死と診断されたと発表した。家族の承諾があり、臓器提供が実施される見通し。昨年7月に施行した改正臓器移植法を適用、15歳未満の小児からの法的な脳死判定と脳死移植は初となる。

 同ネットワークによると、男児は交通事故で重症な頭部外傷となり、4月8日に主治医が回復が困難な状態と判断した。その後家族に臓器提供の選択肢を提示し、同ネットワークの説明を受けて家族が11日午前11時33分に脳死判定と臓器提供に承諾した。同法の手続きに従った2回目の脳死判定が終了したのは12日午前7時37分だった。

 家族が提供に承諾した臓器は心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)、小腸。心臓は大阪大病院で10代男児、両肺は東北大病院で50代女性、肝臓は北海道大病院で20代男性に移植される見通し。小腸は医学的理由により移植を断念した。

 同法は1997年に成立、99年に同法を適用した初の脳死移植が実施された。今回の脳死移植が実施されれば128例目となる。

小児移植「新しい一歩」=虐待確認、詳細明かさず-移植ネット(2011年4月12日時事ドットコム)

 改正臓器移植法に基づき、初めて15歳未満からの脳死移植が実施される見通しとなったことを受け、日本臓器移植ネットワークの芦刈淳太郎医療本部部長は12日午前11時すぎから厚生労働省で記者会見。「小児からの臓器提供は新しい一歩だと思う」と評価した一方、虐待がなかったとどのように確認したのかなど、詳細は明かさなかった
 芦刈部長は「移植コーディネーターが何回も説明し、時間をかけて家族と話し合った」とし、家族への対応を慎重に進めたと強調。家族に移植医療の透明性確保について理解を求めたところ、「できるだけ公表したい」との返事を得たという。
 小児の臓器移植に当たっては、虐待を受けた子供が脳死判定につながるのを避けることが課題とされ、記者会見では虐待の有無の確認方法に関する質問が相次いだ。
 しかし、芦刈部長は「病院がマニュアルに基づいて判断した」とだけ説明。脳死の原因となった交通事故に関しても、「個人の特定につながる」と繰り返し、事故発生の日時や状況は伏せた
 一方、小児の臓器移植が可能となってから9カ月が経過した背景について、芦刈部長は脳死判定を実施する病院が態勢を整えるのに時間を要したと指摘。その上で、「やはり、子供を亡くした中で臓器提供を決断するのには勇気が要る」と述べ、家族の複雑な心境ものぞかせた。

初の子供脳死移植 死亡の状況、虐待の有無…透明性に課題も(2011年4月12日産経ニュース)

 昨年7月に改正臓器移植法が施行されてから、約9カ月の12日。交通事故で脳死に至った15歳未満の男子から、初の臓器移植が行われる見通しとなった。「新しい一歩だと考えている」。同日午前に行われた記者会見で、日本臓器移植ネットワーク医療本部の芦刈淳太郎部長はそう意義を述べた。会見では、男子が亡くなった状況や、虐待の有無の確認方法について質問が集中したが、プライバシーへの配慮から具体的な説明は行われなわれず、情報公開の透明性の観点から課題を残した。

 「ドナーは関東甲信越の男児です。年齢は10歳以上15歳未満。原疾患は交通事故による重傷頭部外傷」

 午前11時、厚生労働省の記者会見室で会見に臨んだ芦刈部長は、ドナーについて概要を説明すると、記者からは一斉に、男子についての質問が集中した。

 「交通事故は車にはねられたということか?」「男児は小学生か?」

 記者から矢継ぎ早に出される質問。しかし、芦刈部長は「個人の特定につながりかねない」「家族は公表を拒否している」と繰り返し、男子についての追加説明はほとんど行われず、どのような医療が行われたかは分からなかった

 臓器移植の選択肢について、医師から家族への情報提供が行われたのは、脳死状態と判断された8日。その後、県の移植コーディネーターが約2時間かけて両親など家族3人に説明。実際に脳死判定承諾書に署名する直前の11日にも1時間半の説明を行い、意思確認を行ったという。

 子供からの臓器移植では、虐待を受けた子供から移植が行われる懸念もある。そのため、虐待がなかった事実を確認することが必要で、虐待の有無の確認方法についても質問が相次いだ。

 しかし、これについて芦刈部長は「虐待がなかったことは病院が虐待防止委員会を設置して検討、確認している」と説明するにとどまり、具体的な確認方法は明らかにされなかった

 児童相談所など外部機関への問い合わせの有無なども「しかるべき連携をとって判断したと理解している」と述べるにとどまった。

 脳死の子供から、初の臓器移植が行われる見通しとなったことについて、芦刈部長は「選択肢が増えたことは家族にとって良いこと考えている。新しい一歩だ」と意義を強調した。しかし、今回の日本臓器移植ネットワークの説明では、虐待を含め、今回の移植医療の詳細には不明な点が多く残った。

「肯定も否定もしない」 病院関係者と押し黙る(2011年4月12日産経ニュース)

 少年の脳死判定がされたとみられる関東甲信越地方にある病院や関係機関なども臓器移植について、一様に口は堅かった

 対応にあたった病院関係者は「ここで臓器提供があるともないともいえない。肯定も否定もできない。これ以上のことは一切、コメントすることはできない」と押し黙った。

 臓器を摘出する病院は、脳死判定前に虐待の疑いがないか確認する必要があるが、病院の診断だけで判断するのは難しく、児童相談所や警察などとの連携が必要と指摘されている

 提供が行われるとされる病院を抱える自治体の児童相談所担当者は「個人情報に関係する事例になる。報告があったかどうかも含めて、回答することは控えたい」と話した。

 脳死下での子供の臓器移植は全国初のケース。臓器移植に関心を持つある医師は「今回の移植がうまくいくか、いかないかで、今後の子供の臓器移植医療も変わってくる。大きな責任がある」と指摘。「遺族感情への配慮もあり、情報の対外的な公表などのやりとりも含めて、病院側も慎重にならざるをえない」とみている。

ネット上の反応を見ても賛否両論といったところですけれども、特に反対意見については小児からの臓器移植そのものに対する心情的な反発と共に、虐待判定の曖昧さに対する懸念とが二分しているといったところのようですね。
昨年改正された臓器移植法によって家族の同意により15歳以下もドナーとして臓器提供の対象になったことが知られていますけれども、これと併せて特に「虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることのないよう適切に対応」することと被虐待児への対応が併記されています。
基本的にこうした虐待濃霧の確認作業はドナー側を担当する施設が検討していくことになるわけですが、そもそも全てのドナー担当施設がきちんとした検証が行えるのかという疑問もあり、とりわけこうした若年脳死の大きな原因となるだろう事故外傷について言えば、虐待による外傷としばしば区別が困難であるだろうとは誰にでも判る話ですよね。
CT等の画像診断によって虐待判定を支援するような試みも始まっていますが、こうした問題点から小児のドナーというのは扱いが難しいと感じている現場も多いようですし、実際に故意に虐待と事故を混同させるような行為があった場合には厳密な区別は限りなく困難なものとなりそうです。

ただ、こうした事件性の有無ということに関しては実のところ小児に限らず成人ドナーにおいても全く同じ問題が存在していて、今のところドナーとなることで直接的なメリットは全く無いし、あるべきでもないものとされていますけれども、何らかの犯罪的行為に伴う隠蔽工作の一環として利用される危険性はもちろんゼロにはなり得ないわけです。
前述の記事のように臓器移植と言えば非常に高度な匿名性が要求されもともと客観的検証が難しいものですが、特に移植担当者は司法や法医学者などと異なり犯罪行為などに関しては素人である上に、時間的制約もあるだけにどうしても医学的なチェックばかりに忙殺され、このあたりの検証が通り一遍になるのではないかと懸念されているわけですよね。
このあたりは専門的知識を備えた事件性検証のための外部組織なりを用意しておくことも必要なのかも知れませんが、こうした犯罪性のチェックがあまりに厳しくなるとただでさえ精神的に動揺しているドナー側親族に心情的ブレーキをかけることになりかねず、移植医療推進という公益性との折り合いは今後少しずつ妥協点を探っていかなければならないはずです。

ただその公益性と言うことに関して言えば、前述の通り「そもそも子供の臓器まで使わなければならないほど、移植医療というものは推進しなければいけないものなのか?」という声は少なからずあるのも事実なんですが、これはまさしく子供の臓器まで使わなければならない状況になりつつあるということは知っておかなければなりません。
以前から当「ぐり研」でも何度か取り上げましたけれども、すでにWHOからも「海外渡航による移植手術は自粛するように」という勧告が出るなど、今や「自国患者向けの移植臓器は自国内でまかなうべき」という臓器ナショナリズムとでも言うべき考え方が世界の主流となり、その結果かつては巨額の寄付金を持ち込んで世界中で臓器を買い漁っていた日本人患者も受け入れを拒否されるようになってきています。
ある程度歳をとっての移植待ち患者などは「寿命だから諦めましょうね」と言うのも社会的コンセンサスに基づいての話なら有りだとは思うのですが、先天性疾患による小児患者の場合は体のサイズの関係上同じ子供からの移植しか受けられないという現実があり、実際に海外で移植を受けますとニュースになるような患者のほとんどがこうした小児であったわけですよね。
「問題がありそうだから、小児ドナーはやめたら?」と言う声が一方にあり、その結果こうした小児患者は長年国内での移植が受けられずにいた、そして今や海外での移植の道も閉ざされつつある中で何とか彼らにも生きる道を提供したいと考える人々が増えた結果、昨年の臓器移植法改正がようやく実現したわけですから、ここはまず実際に運用して問題点を洗い出していくのが筋というものでしょう。

無論、そうした医療以外の部分で数多の課題を抱えている中さらに余計な騒動を起こさないように、移植医療に関わる担当者は高いモラルと正確な技術によって移植の実績を積み上げていくしかないわけですが、こうして第一例目が出た以上は遠からぬ将来に二例目、三例目と後を追うことになるでしょうし、将来的には年間数百例が行われる現在の生体腎移植などと同様、特にニュースにもならない位に受け入れられるようになるかも知れません。
しばしば言われることに、現在先進国と言われる国々では人肉食は野蛮な風習として忌避されるのが一般的ですけれども、(一部の人々を除いて)輸血などはごく一般的な処置として受け入れられているというのは、「他人の体の一部を分けてもらう点では同じことですよね?」という観点からするとなかなか微妙な問題提起をはらんでいますよね。
多くの先進的な技術と同様に、移植医療も初期の新規なものに対する反発を無事に通り過ぎた後から本当の評価が始まるとも言え、最終的に我々の文化の中でどのように位置づけられていくのかということは、少なくとも数十年は経ってみないことには判らないものなのでしょうが、これまた他の多くのものと同様に、やってみて始めて判るということもまた多いのではないかと思います。

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