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2011年4月19日 (火)

医者不足時代における医師の就職活動についての雑孝

先日も「聖地」とも目される秋田県は上小阿仁村で再び逃散発生!という話題を紹介したばかりですが、一応同村の弁護をしておきますと今の時代村レベルできちんと腰の据わった医師を抱え込める方が珍しいというのも現実です。
全国あちらこちらの自治体で医者を招こうと四苦八苦しているわけで、聖地だからとか言うよりもむしろ「よほどの好条件でなければ医者は僻地に来ることはない」という言い方の方が正しいのではないかという気もしますが、問題はそのよほどの好条件とは何なのかです。

三好へ医師視察 参加ゼロ /徳島(2011年4月14日読売新聞)

パンフ作成、出身者ら依頼し再実施へ 

 三好市が医師不足解消に向けて1月から3月末まで実施した、医師を招待して市内各地を案内する「視察招待事業」が、参加者ゼロのまま終わった。市は今年度、改めて実施し、新たに市の魅力を紹介したパンフレットを作成して県内外に配り、市出身の医師も探してPRを強める。市は医師確保の新たな試みとして大きな期待を寄せ続けており、今度は効果が表れるか、気をもんでいる。

 同事業は、山間地の実情や、田舎ながら生活面で不自由することが少ない同市での「医師の生活」を理解してもらおうと企画。市が交通費を負担し、歯科医を除く医師を家族1人と1泊2日で招き、3人程度視察があれば――と期待していた。

 しかし、PR不足などもあって参加申し込みはゼロ。市はこれを教訓に、「大歩危峡などの自然や、平家落人、妖怪伝説といった文化遺産に恵まれ、住みやすい――」などとPRするパンフレットを近く作成する。市出身の医師や大学に、参加してくれそうな医師の紹介を依頼するなど、さまざまなルートを使って募ることにした。

 市の担当者は「とにかく一度、三好に足を運んでもらえるようにしたい。それで三好を気に入り、移り住んでくれる医師も現れるはず。気軽に来てほしい」と期待している。(土井省一)

過疎地の医師、年収2000万円で公募 勤務状況の改善は困難か(2011年4月9日MONEYzine)

 大阪府保険医協会勤務医部が実施した「勤務医の労働環境実態に関する調査」によると、主たる勤務先から受け取る報酬が、1000万円を超える勤務医の割合が約55%で、半数を超えていることがわかった。

 また、1週間の勤務時間を尋ねると、25%の勤務医が「40時間~50時間」と回答。「50時間~70時間」が31%、「70時間以上」が23%に達し、労働基準法の「週40時間」を大きくこえることが当たり前の状況になっている。さらに、宿当直明けの手術や外来などの通常勤務経験があるのかを尋ねると、ほとんどの勤務医が「ある」と答えるなど、働き詰めの状況に置かれている様子がうかがえる。

 一方で、過疎地域で医療活動を続ける医師も、厳しい状況におかれている。過疎地域には医療機関がほとんどなく、急患があれば24時間いつでも往診に赴く必要があり、1人の医師に負担が集中するケースが多い。さらに、正月であっても要望があれば診察をせねばならず、長期休暇も難しい。こうした現状に疲弊し、過疎地から離れる決意をする医師も少なくない。

 そうした場合、後任者を探すのも簡単な話ではない。たとえば、秋田県北秋田郡上小阿仁村。当村のホームページでは、後任の医師の求人を行っている。身分は地方公務員で、年収は2000万円と高額だ。

 しかし、過疎地での医療は、長時間労働をはじめとして住民との軋轢などの問題などが生じることがある。また若い医師にとっては診療内容に偏りが生じ、スキルアップがしづらいという面もあり、医者不足を招いているようだ。

まあなんと言うのでしょうか、僻地の人々は「自然も豊かだし!いいところだよ!」とオラが町の素晴らしさにはずいぶん自信があるようですし、実際そこにいる人々はそれが気に入っているからこそ住み続けているのでしょうが、日本全国どこでも仕事が出来る医者のような人種が何故そんな素晴らしい土地に行きたがらないか、単に「ここの良さを知らないだけだろう!」なんて考えてるだけでは永久に判らないかも知れませんよね…
それはともかく、高度経済成長だろうがバブルだろうが、勤務医の給与水準はかれこれ30年もずっと横ばいで据え置かれていた中で、ここ最近になって少し上向き始めたか?という気配が見え隠れしているのは、こうした顕在化する医師不足問題がその大きな契機となっていることを認めないではいられませんよね。
ただ「聖地」三重県尾鷲市のように、助教授クラスが飛んでくるというほどの高給を払おうが逃げるときは逃げてしまう現実を前にすれば、結局のところ幾ら金銭的に待遇を改善してもものには限度があるということが明らかです。
考えて見れば今の時代に医師数だけに注目して医者余り?などといういささか現実離れした指摘すらされている東京界隈ですら、就職先さえきちんと選択すれば食っていくには不自由ない、しかも金が目的なら当直バイトなど稼ぐ道は幾らでもあるのですから、生活のみならず何より医療を行うにあたって条件の悪い僻地にやってこようなどと言う志の高い人達が、まるでお金だけで動くかのように言うのは失礼ですよね。
先日NHKで放送された医師エージェントを扱った番組「加熱する医師争奪戦争」が文字起こしされて記事として出ていて、いわゆる医師派遣業界というものの実態という視点でも興味深い記事でご一読いただければと思いますが、ちょうど尾鷲の話題も出ている点で地方の医師集めということが今の時代どれほど難しいのかということが垣間見える内容でもあります。

激務で疲弊した地方医師が、続々と都会の病院へ?急成長する「医師エージェント」ビジネスの舞台裏 (2011年4月15日ダイアモンドオンライン)より抜粋

(略)
 過熱する都会での医師争奪戦。その一方で、地方の病院はどんな状況になっているのか。名古屋から電車でおよそ2時間、三重県尾鷲市を訪ねた。人口2万の漁業の町。過疎化が進む中、唯一の公立病院が医師獲得に奔走していると聞いて、取材することにした。

 去年4月から事務長を務めるのが、諦乗正(たいじょう・ただし)さん。医師獲得の陣頭指揮を執る。

 この病院では、10年前に28人いた常勤の医師が半分近くに減った。かつては地元の三重大学から医師の派遣を受けていたが、医療制度の変更で、大学の医局を離れる医師が急増。それを補うため、医局は病院に派遣していた医師のほとんどを引き上げた。例えば内科は、必要な医師9人の内、6人しか確保できず、当直や救急に「綱渡り」で対応している。さらに、神経内科や脳神経外科では常勤の医師がいなくなり、地元の開業医などの協力を得て、なんとか閉鎖を免れるという状況が続く。

 しかし、それでも諦乗さんはエージェントに頼るつもりはないという。この地域に愛着を持てる医師でないと長続きしないからだ。

「委託(エージェント会社)の方に頼むというのはあり得ると思っていますが、まず自分たちのやれることは何でもやる、というとこまでいかないと。あんまり安易な考えで医療をやりたくないと思ってますので。何にもやらなくて探すのと、這いずり回って探すのと、住民に訴える価値が違うと思います」

 諦乗さんは、去年の秋からある取り組みを始めている。向かったのは地元の公民館。病院が月に数回、お年寄りを集めて開く健康教室。最後に、諦乗さんが呼びかける。

「医者が不足しております。もしお知り合いがいらっしゃいましたら、ご紹介いただきたいと思っております。ご親戚とか県外で働いているお知り合いの中に、ドクターをされている方はおられますでしょうか?」

 女性の高齢者が声を上げた。

「庄司さん、庄司眼科」

 すぐに回りから声が飛ぶ。

庄司さん死んだで、眼科の庄司さん、死んだやないか

 地縁血縁に頼るという諦乗さんの作戦。成果は上がっていない

医師見極めの難しさ。
紹介をめぐるトラブルも

 この日、諦乗さんのもとに一通のメールが届いた。九州の大学医学部を出たという50代の男性医師。「尾鷲に永住してもいい」と書かれていた。早速、諦乗さんは会いに行くことにした。待ち合わせ場所として指定されたのは、和歌山県内のホテル。面接が始まって20分後、諦乗さんが戻ってきた

「どうでした?」

「たぶんなあ、ニセ医者に近い人やな。いまどこに働いているのですかとか、何科でやっているのですかっていうと、口をつぐんだ。田舎の病院やもんで、どんなドクターでも来てくれって言うやろうと思ったんじゃないかしら。日常茶飯事やからの、こんなんは
(略)
 2月半ば。東京銀座に、三重県尾鷲市の諦乗さんの姿があった。地元の知り合いから、中学時代の先輩が都内で医師として働いていると聞き、説得にやってきたのだ。風呂敷包みは医師への手土産。朝、港に上がったばかりのアワビやサザエだ。医師が待ち合わせ場所にやって来た。ある総合病院で救急医として働いているという。そして2時間半後。諦乗さんと医師がレストランを出てきた。諦乗さんに話を聞くと、

「6月に来てくれるようになった、うれしい。地元に帰って働きたいと言ってくれた、非常にうれしく思っています」

 1週間後、私たちは尾鷲を訪ねた。地元に戻ることを決意した医師が、下見を兼ねてやってくることになったからだ。医師は庄司国史(しょうじ・くにし)さん、56歳。妻も地元の出身で、2人の子どもはすでに独立。庄司さんは決断までいろいろなことを考えたという。

「(亡くなった)自分の親とか、親戚の顔が浮かんでくるんですね。そうですね、自分のこれからの人生を地元に帰って尾鷲市民のためにやってもええかなと。いままで考えなかったけど」

 ようやく来てくれた新しいお医者さん。しかし、まだまだ足りないのが現実。より良い待遇を求める医師たちと医師の獲得に頭を悩ませる病院。その狭間で、きょうもエージェント会社の電話が鳴り続ける。

偽医者問題と言えば県立宮古病院(現在被災地の中心医療機関として八面六臂の大活躍中だということです)で過日発生した偽医者騒動も記憶に新しいところですが、こうした偽医者問題は珍しい話でもなんでもなくむしろ日常的にありふれ過ぎていて、そうであるからこそ大多数は契約にも至らない時点ではじかれているのだということが記事から判ります。
もちろん偽医者でなくとも能力的な問題もあるわけで、特に田舎病院ともなると自分の専門分野だけをやっていればよいわけではなくある程度ジェネラルに診られる能力も要求される、そして何かあってもサポートする同僚も相談する上司もいない、さらには地域の医療介護の司令塔役として医療以外の関連知識も少なからず要求されるなど、実は求められるスキルのハードルは結構高いものがあります。
その割に患者自体はあまり来ない、当然医者として技量を磨くにも不適であるとなると、結局田舎病院にやってくる医者と言えば記事中にもある庄司さんなどのように医者としてすでにやるべきことはやり、その上で何かこれからの余生を別なものを求めていきたいという精神的に老成したような方が中心になってくるのでしょう。
よくこういう年配世代の医者ばかりが僻地病院の一本釣りに引っかかっているのを称して「また情弱世代が」なんて揶揄しますけれども、実際のところ短期で回す医局人事のローテート主体であった頃ならともかく、今のように永久就職が前提となればこういう枯れた世代でなければ長続きしないというのも事実なんでしょうね。

ただ「医師免許に定年はない」とばかり70代、80代の方々までも現役たることを要求されるような今の時代にあって、多くの医者達が目の前の仕事をこなすばかりで手一杯な中でこういう達観した人間がどれほどいるだろうかと考えて見れば、たぶんあまり多くはいないんだろうなとは思えますし、何より積極的にそれが出来る医者を増やそうという試みすら存在していないんですよね。
医者を求める側も「医者は誰でも同じ」ではなく、それぞれ個性もスキルの差もあることを前提にしなければならないのに頭数ばかりを求め「這いずり回る」ばかり、医者の側にしても昔ながらの医局人事による「俺でも務まると考えたから送るんだろう」という他人任せでなく、自己完結し職場環境に適合した診療能力を磨くことが必要になっているのにそれを学ぶ機会もないとなれば、お互い求めるものが偶然にも一致する確率は実は結構低いんじゃないかと思いませんか。
従来の医局による派遣人事が生きていた頃には職場の要求と個々の医師を見極め、「どんな医者でも使いこなすのが医局長の腕」とばかりにうまいこと医者を回して問題が顕在化しないようにしていたわけですが、当然ながら医師派遣業者にしても自治体の一本釣りにしてもそんなノウハウも情報もありませんから、お互い一緒に仕事をしてみて初めて「こんなはずじゃなかったのに」となる場合も増えるのも当然でしょう。
医者もようやく自分の選択で就職先を探すというスタイルが一般化してきた時代にあって、このあたりの「こんな職場を希望」「こんな人材を求める」という情報交換の流儀はまだ他業界と比べるとずいぶん物慣れていない印象があるのですが、もう少しこのあたりがスムーズに回るようになれば労使双方がwin-winの関係を結べるチャンスも増えるんじゃないかと言う気がします。

医局制度というのは閉鎖的なムラ社会であすが、あれはあれで昔から積み上げられた人脈に基づく非常に強力な口コミ能力を持っていたわけで、そんな有形無形の分厚い個人情報を持っていた医局が崩壊した一方でそれに変わる医者個人の評価基準がなく、志ある各個人が行き当たりばったりで頑張ってはみるものの雇用側、被雇用側双方に不幸な結果に終わるという事例が目立つというのは勿体ない話ですよね。
医師免許は一つきり、何科だろうが標榜は自由ということでやってきたこの国ですが、医者の力量を評価するには全く不十分だと批判される専門医制度の是正以前に、検査室向きの手の動く医者、外来向けの人当たりの良い医者といった各々の性質も含めて、何かしらの基準もないことには何の人脈も持たず情報もないまま医者集めの最前線に立たされることになった人達も大変でしょう。
一労働者としての医者一人一人の使い勝手を評価する指標にどんなものが必要になるのか、性格や性向などの人物評価までデータ化するのはなかなか難しいでしょうが、せっかく医師派遣業が業界として定着しつつある今こそ雇用側にも使い勝手の良い物差しを用意する好機ですし、逆に病院側が求めるスキルが明示されるようになれば医者の側も応募がしやすいんじゃないかと思うんですけどね。

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