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2011年3月30日 (水)

地震や津波から逃れたから一安心、とは今回ばかりはいかないようです

先のニュージーランドの地震でも大きな数の犠牲者を出したように、従来地震による被害と言えば怪我ややけどといった外傷によるものという印象が強く、当然医療支援に関しても外科系を中心とした急性期医療が非常に重要視されていたものでした。
ところが今回の地震では地震国日本として誇るべきなのか、地震そのものによる被害は案外少なかったものの、一方で津波による被害が極めて深刻であったという事情から、被災地の医療事情もかなり異なった様相を見せています。
ごく大雑把に言えば津波の場合溺死するか逃げ出すかの二つに一つで案外膨大な犠牲者数の割には急性期の治療に手がかからずにいる一方で、住宅を始め地域社会自体が物理的に破壊されてしまった影響がここに来て極めて深刻なものとなってきているのですね。

宮城の医療連携、再構築の糸口見えず- 関係者ら「慢性期医療への支援を」(2011年3月27日CBニュース)

 東日本大震災が発生して2週間余りが経過し、被災した宮城県内の医療機関にも支援物資が行き渡り始めた。ただ、病状が安定し始めた患者を受け入れる慢性期病院は、未だに十分な機能を果たせないまま。周辺の後方病院を丸ごと失ったため、機能不全に陥る中核病院もあり、地域の医療機関は連携再構築の糸口を見出せずにいる。

■届き始めた支援物資

  3月26日午前9時、仙台市太白区にある杜都千愛病院に、日本慢性期医療協会(日慢協)からの支援物資を積んだトラックが到着した。この日届いたのは医薬品や紙おむつ、栄養剤など約8トン。同病院をはじめ、この地域の周辺で慢性期医療を手掛ける6病院に送られた物資だった。

 職員と共に物資の荷降ろしを行った安カ川鈴美事務部長は、「外部から支援物資が届き始めたのは、先週末くらいから」と語る。
  11日の地震発生時、杜都千愛病院や系列の杜都中央病院(仙台市)にはそれぞれ数日分の食糧の備蓄があった。しかし、それから数日間は、停電などの影響で外部との連絡が付かず、新たな食材確保の見通しも立たなかった。そのため、患者の一日当たりの食事の総カロリーを半分以下に減らしてしのぐほかなかったという。

■このままでは「院内で凍死も」

 地震発生から2週間余りが経過した現在では、電気も水道も回復した。外部との連絡も取れるようになった。
 ただ、ガスの供給再開は遅れており、暖房施設も動かすことはできない。このため、杜都千愛病院や杜都中央病院では、臨時の暖房器具としてストーブを用意したほか、ペットボトルにお湯を満たした即席の湯たんぽを利用者に配るなどの対策を講じている。

 しかし、ストーブだけでは広い病棟内を十分に温めることはできない。特に杜都千愛病院では認知症患者が多く、暖房の切れた病棟内を普段着のまま徘徊した結果、肺炎を発症するケースも出た。そのため現在では、ストーブを集中的に配置した区域内に患者の移動範囲を限定している。

 それでも、安カ川事務部長によると「うちはまだ恵まれている方」という。今後は、被災地で慢性期医療を支える病院や、老健施設などへの支援を強化する必要があると安カ川事務部長は訴える。
 「津波で大きな被害を受けた沿岸部の病院や老健の中には、支援物資や燃料がまだ十分に届いていないところもある。このままでは、病院や老健施設にいながら低体温と低栄養で凍死したり、持病が悪化したりする人も出かねない
 宮城県医師会の佐藤和宏常任理事も、「(現地で必要な医療は)慢性期に移りつつある」と指摘する。

■急性期病院「手術や検査」に対応できず、災害対応が足かせ

 慢性期病院への支援強化を望む声は、津波で甚大な被害を被った沿岸部の急性期病院からも上がっている。
 県内の拠点病院の一つ石巻赤十字病院(石巻市)の担当者は、地震による直接的な被害は少なかったため、外科的な治療が必要な患者は少なかったという。「生か死かで、真ん中がなかった」と振り返る。

 同病院には現在、高齢者を中心におよそ380人が入院しているが、このうち約10分の1を占める急患患者には、誤嚥性肺炎やストレスによる胃潰瘍など、地震後の避難生活による影響が色濃く出ている。ただ、市中心部が津波で壊滅的なダメージを受けたため、本来なら容体が安定した患者を送り出すはずの周辺の慢性期病院や診療所はほとんど機能していないのが現状だ。「超急性期医療をカバーするうちの病院だけが残っても、後方病床がない」と、この担当者は嘆く。

 宮城県医師会の佐藤常任理事は、急性期病院が未だに災害対応を強いられている状況を問題視する。
 「地震前から予定されていた検査や手術が延期されたままになっている。それぞれの役割を仕分けした上で、(各病院が)本来の業務に戻らないと、うまく回らないのではないか」

「高齢の被災者受け入れを」-国境なき医師団・黒崎会長(2011年3月20日CBニュース)より抜粋

 警察庁によると、3月20日午後3時現在、東日本大震災による死者の数は8199人に達し、最も多い宮城県では4882人に上る。NPO法人「国境なき医師団日本」は現在、医師や看護師ら12人が計4チームに分かれて、同県内の南三陸町などで援助活動を行っている。地震発生直後の12日から2日間、現地で活動に当たった黒崎伸子会長は、慢性疾患を持つ高齢の被災者が多いことから、「受け入れる施設があれば、どんどん受け入れてほしい」と話し、医療機関に協力を求めている
(略)
―医薬品や燃料など、さまざまな物資が不足していると思いますが、現在、どのようなニーズが多いのでしょうか。

 わたしがこちらに戻ってきた日に、足りない薬のオーダーが現地から入りました。血圧のお薬とか、血小板凝集抑制剤とか、あとは睡眠導入剤みたいなものもありましたが、高齢者が飲まれるものがほとんどでした。オーダーのあった9000人のうち、6割が高齢者ということで、1か月分の慢性疾患用の薬を送ったら、「1日分にしかならない」と言われて驚いたのですが、それぐらい慢性疾患の方が多いということです。せっかく薬を届けても、1日分にしかならないのでは意味がありませんし、こうした薬は飲み続けないと効果が出ません。輸送ルートの確保や薬の納品が難しいという問題もあるので、薬の供給不足がこのまま続くのであれば、重症な方は一時的に避難していただく必要があると思います。
(略)

―医療者の方にメッセージをお願いします。

 津波の場合、外科的な治療が必要な被災者は非常に少なく、既に亡くなっているか、あるいは行方不明になっている方と、それほど重症ではない方に分かれます。高齢者の多い地区で起こった今回の震災は、過去の地震とはまったく違います。被災地には慢性疾患を持つ高齢者が多いので、そういった方々を受け入れる施設があれば、たくさん受け入れてほしい。とにかく早く、バスを出してでも引き取りに行っていただきたい。5人でも10人でも構いませんので、施設の空きスペースに順番に入れていただく。重症の方は必ずアセスメントして、例えば85歳以上の方を優先するといったやり方がよいのではないでしょうか。

現地に派遣された方々の話を聞いても今回は被災の性質もあって、外科や救急よりもとにかく慢性期に近い内科や心療内科的な医療が非常に不足しているということですが、とりわけ東北地方沿岸部が中心という被災地の地域性から気になるのが高齢者の医療・介護に関わる諸問題です。
避難所で何人凍死したといったニュースは大々的に取り上げられますけれども、例えば公式には各地に一通りの食料が行き渡っていると言われているとは言え、先日紹介したような物資配給のムラはまだまだ多い、まして今までとろみ付き流動食しか食べられなかった高齢者に向かって、贅沢を言わずに配布されたおにぎりを食べろと言われてもどうしようもないですよね。
狭い避難所の硬く冷たい床で寝たきりともなれば当然床ずれ(褥創)も出来るでしょうし、食事内容に加えて介護の人手も少なければ誤嚥性肺炎のリスクも大きく跳ね上がるでしょうけれども、それでは治療をしましょうと言っても引き受けるべきベッドがないというのが現状です。
誰が見てもこれは重症という急性期の患者はどんな高度医療機関でも亡くなる可能性はある以上仕方がないという言い方も出来ますが、こうしてインフラが破壊されることによって本来さして難渋することもなかったはずの疾病が重症化し命に関わっていくというのは、医療の需給バランス崩壊が何をもたらすのかということを如実に示しているように思いますね。

日本病院団体協議会なども「とにかく被災地の患者は疎開させるべき」というコメントを出し、国も被災地からの患者の県外搬送を図っているところですが、もともと東北地方界隈は医療資源が不足していることで知られていて、隣接する関東地方なども慢性期患者を大量に受け入れるほどの余力があるようにも見えません(というより、日本全国で慢性的かつ構造的に医療資源が不足しているわけですが…)。
特に寝たきり高齢者などとなりますと意志決定能力などがないだけに、本人だけを引き受ければいいというものではなく家族の引き受けも関係してきますから、つきそう家族の職住支援など様々な問題が絡んで非常にややこしいことになってしまうと想像されますけれども、被災地の状況も時間がたつほどに状況が悪化していくのは目に見えているだけに迅速な対応が是非とも必要ですよね。
自力で移動する体力のある妊婦さんなどは既に関西方面にまで「避難出産」しているなんてニュースが出ていましたが、自力で動くことも出来ない高齢者の方が数にすればよほど多いはずで、しかも移動ひとつにも寝台と複数の介護スタッフを要するなど非常に手間がかかるものですから、恐らく今現在顕在化していない水面下の医療・介護需要は相当なものになっているはずです。

少し前にようやく避難所に物資が届いたと思ったら棺桶だった、なんてブラックジョークのような話が出ていましたけれども、冗談でも何でもなくせっかく津波を逃れたのに今後続々と新たな犠牲者が増えていくという望ましくない可能性すらあり得るだけに、医療体制の再構築は何にも増しての急務であると言えそうですが、それが何より難しいのがこの国の医療の現状でもありますよね。
福島や岩手などは当「ぐり研」でも何度も取り上げているように地域医療にかねて多くの課題を抱えてきた地域ですが、今回の震災も受けていよいよ抜本的な医療の再編が避けられなくなったと言うことでしょうか。

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