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2011年3月15日 (火)

「まず冷静に、落ち着いて」はやはり大事でした

今なお続々と新たな犠牲者が見つかっている現場の状況を見るまでもなく、当初発表の千数百人などという死者・行方不明者の報道が過小であることは壊滅した数々の市街地写真を見るだけでも明らかに思えたものですが、ようやくマスコミにおいても「行方不明者は万単位か?!」という報道が表に出てくるようになりました。
これを自治体組織が崩壊した中で行方不明が確定するまでのやむを得ない遅延と受け取るべきか、マスコミの非難してきたところの情報公開の不足(ないしは意図的な隠蔽?)と受け止めるべきかは微妙なところですが、こと地震に対する防災体制に関しては世界でも指折りの先進国であると自他共に認めてきた日本でのこの莫大な被害は、国内のみならず世界に衝撃を与えずにはいられないでしょうね。
当然ながら現地では医療に関する需要が非常に高まっている一方で、地域医療システムが完全に破綻しているという極めて大きな需給ミスマッチが生じているわけですが、本日まずは現場でようやく医療環境の再建が始まりつつあるというこちらのニュースを紹介してみましょう。

厚労省が医療維持に懸命の努力-各地の派遣チーム到着(2011年3月13日世界日報)

 東日本大震災は東北地方の医療機関にも深刻な被害をもたらした。厚生労働省は大規模災害時に対応する各地の「災害派遣医療チーム」(DMAT)を4県に派遣、12日早朝には52チームが被災地に到着した。132チームが現地に向かっており、医療体制を維持すべく懸命の努力を続けている。

DMATは初動体制が遅れた阪神・淡路大震災を教訓に発足。医師、看護師ら原則5人で編成するチームを被災地に派遣し、医療支援を行う。

 厚労省によると、午後1時までに139チームが福島県立医大病院や仙台医療センターなどに駆け付け支援活動を展開している。

 一方、災害時に対応する災害拠点病院は、宮城、福島両県を除く11道県の22施設が停電などで患者を受け入れられない状況となった。両県の一部施設とは連絡が取れないという。

 手術などに必要な輸血の確保も、停電などの影響が出始めた。複数の血液センターは自家発電でしのいでいるが血液製剤の製造に支障をきたしている。

 特に血小板製剤は有効期間が4日間と短く、今後影響が出る可能性があり、厚労省は他地域からの輸送を検討している。

もちろん恒久的な医療環境再編には気の遠くなるような時間とコスト、マンパワーが必要となるでしょうし、そもそも福島、岩手と言えばかねて地域医療に関する話題には事欠かなかった土地柄だけに、いずれにしても中長期で考えると全県的な医療の再編が不可欠となってくるのではないかと思います。
ただ記事中にもある災害派遣医療チームを始めとして緊急時の初動体制は次第に整備されていっている印象を受けますし、四川大地震やニュージーランド大地震など海外への緊急支援も評価をいただいているわけですから、医療主導の新経済成長戦略とも絡めて今後こうした緊急医療支援システムを日本のお家芸として育てていければいいですね。
ちなみに現地からは奇跡の生還劇やごく普通の人々による献身的行為も伝えられてきて、そうした話を聞くほどに被災地から遠くても何か出来ないものかと気ばかりあせってしまうという方々も多いと思いますが、現地や周辺地域で様々なマンパワーや物資が多量に消費されているわけですから、その分を補うべく身近な日々の仕事をしっかり行っていくということも立派な後方支援になると思います。
またこういう場合は下手に物資を送って仕分けの手間を増やすよりお金を送っておくのが一番無難であるとも言うのですが、義援金を出したいがお金を集めている団体が正直ちょっと信用できないかな…と不安な向きには、各地元の自治体でも公的ルートでの義援金について告知を出していると思いますのでご参照いただくのもよろしいでしょう(不肖管理人も利用させていただきました)。

それにしても、あちこちからの生情報が飛び交って混乱が続き、政府の対応にも批判の声などがあがっていますけれども、そうした中で伝えられる現地の医療状況を見てみますと、緊急避難的投薬の実施であるとか放射線被爆のリスクの中での医療であるとか、当「ぐり研」としても非常に興味深い議論のテーマが幾つもあるようですね。
久しく医療訴訟などということが問題化してきた世相だけに、こうした緊急事態での医療行為に妙な制度的掣肘がかかりはしないだろうかと気にしていたのですが、聞く限りでは町が消え病院からも患者が押し流されるようなインフラの崩壊が逆に臨機応変な対応を行わざるを得ない状況を呼んでいるようで、こういう現場での経験を今後制度的に生かしていけるよう汲み上げていければいいのかなと思っています。
人材はもとより薬剤や機材を始めとする医療物資の極度の不足がある一方で、それらの現場への輸送手段が崩壊していることから自衛隊や米軍などにも強力な支援をお願いする必要がありますが、この面では阪神大震災の教訓が生かされたということなのでしょうか、幸いにも初動から関係各方面ともあの当時よりはずっとスムースに動けている印象を受けました。
現段階ではまず間違いだろうが何だろうが動くということが大事でしょうし、個別の問題に対する批判や検証は後日の事としてとにかく前に進む動きを支援していくことが重要なんだと思いますから、あまり細かい部分に関して言及するつもりはないのですが、もう一件だけ当「ぐり研」的に興味深かいと思われる現場のニュースを紹介してみましょう。

「被災患者は軽症か救命不可能」 仙台派遣の福井赤十字医師(2011年3月13日福井新聞)

 「重篤患者がなかなか運ばれてこない」。日本赤十字社福井県支部から被災地周辺に派遣された2チームは12日早朝、現地に到着した。しかし津波被害のあまりの大きさに、救出活動が遅れ、思うような治療や救護ができない状態が続いた。本県から出動した医師や看護師らは、いら立ちをにじませながらも、地道な救援活動に励んでいる。

 国の要請を受け出動した「DMAT」(ディーマット)の7人はこの日午前5時すぎ、仙台市宮城野区の仙台医療センター(旧国立仙台病院)に到着。一部損壊し停電が続くセンター内で一行は、重症度と緊急性によって治療の優先度を決定する「トリアージ」を受けた患者の受け入れ態勢を取った

 福井新聞の取材に対し、班長の田邉毅医師(55)=福井赤十字病院=は「沿岸に救助班が近づけない上、患者は(救命不可能な)黒か(緊急性の低い)緑の両極で、センターに運ばれてくる重篤者はまだ少ない」と説明。到着後しばらくは血圧や不眠、常備薬がなくなった軽症患者を診る状態が続いた。

 仙台市に向かう高速道路は隆起して損壊が目立ち、夜間は停電で車のライトが照らす以外は暗闇が広がっていた。

 「内陸部は思ったより倒壊家屋は少ない。その分、津波被害の大きさをひしひしと感じる」。午後4時ごろから患者の搬送がようやく本格化。自家発電のわずかな電力だけの環境だが「何とか一人でも多く救いたい」と語った。

 一方、同支部の別の救護班7人は盛岡市内で活動を始めた。連絡調整員の藤井友幸さん(41)によると、停電や断水は解消されつつあるが、スーパーなどには食料を求める行列ができている。重篤患者の受け入れが本格化する前は、メンバーが付近の避難所を回って高齢者のケアなどに当たっているという。

災害時の医療と言うことに関連して、どうしても取り上げないではいられないのがこの「トリアージ」という問題ですけれども、トリアージする側にとっても大問題なら、トリアージされる側にとっても大問題です。
以前の福岡沖地震においても、緊急処置が不要な緑と判定された人が腹を立てて札を引きちぎり、判定のやり直しを求めるという騒ぎがあったようですし、秋葉原での大量殺人事件などは場所柄もあってトリアージが有効に働いた成功例と言われますけれども、マスコミなどからはさんざんにバッシングされたりということもあったようですね。
こうした批判を例によってモンスターだ、牟田口症候群だと言うのは容易いのですが、もしこうした外部からの批判がいざ緊急時の救護活動に従事する現場当事者の行動まで掣肘するということになれば、最も守られるべき被害者の生命にすら危険が及びかねないということになりかねませんから、少なくとも公的に現場の担当者を守るようなルール作りは不可欠なんじゃないかと思います。
トリアージと言えば助けられる人をいかに大勢、効率よく助けるかという考え方が基本にあるわけですが、当然ながらその背景にはもはや手遅れと切り捨てられる人が出てくるということが広く認識されていなければ「なぜ俺の家族を見殺しにした!」と最悪訴訟沙汰にもなりかねない、そうでなくとも批判を恐れて現場が萎縮すれば黒タグをつけることに躊躇し、結果としてより多くの人にとっての不利益を招きかねませんよね。
こうしたことは限られた専門スタッフが知っていればいいというものではなく、全国末端の医療従事者はおろか救急隊や自衛隊など救助に当たるスタッフ、果ては実際にトリアージを受ける側である国民一般も常識として知っておくべきことだけに、今回の被災分も含めて検証結果の幅広いフィードバックが求められるところでしょうね。

また今回の地震報道を見ていて、このトリアージ問題とも関連して注意しておかなければならないと感じたのが、ここでもその徴候が見られるゼロリスク症候群の問題です。
東北地方沿岸部を襲った大津波と言えば3000人以上の死者、行方不明者を出した昭和三陸地震におけるそれが有名ですが、このとき壊滅的打撃を被った岩手県の田老町では高さ10mにも及ぶ巨大堤防を築き上げるなど防災意識の高さでも有名だったのですが、今回の津波ではこの巨大堤防ですらあっさり破壊され犠牲者が出てしまったということです。
とりわけ今回の地震では津波による被害が甚大であり、そうであるからこそ「だからさっさと全国にスーパー堤防を作っておくべきだったのだ!仕分けした民主党は責任を取れ!」なんて声もあるようなんですが、完成に要する莫大な年月を考えるといずれ今回間に合ったはずもありませんし、そもそもスーパー堤防に対するしっかりしたコスト計算と予想されるリスク及びメリットの検証は今回の被災とはまた別問題であるはずです。
地震に伴う原発事故などとも絡めて「安全に関してコストのことは考えるべきではない!」なんて極端な意見が現在メディアなどでも大きく採り上げられているようですが、現実的に無制限の資本を投入できるはずもないからこそ何が最も効率よく国民の安全に寄与出来るのかと言うことを考えなければ、それこそ黒タグをつけるべき人に全医療資源を投入した結果、助かるべき人も助けられなかったなんて悲劇も起こりかねません。

毎日のように自動車事故による犠牲者が出ても「だから車の運転は禁止すべきなんだ!」なんて声が出ることはないし、日航機事故のような悲惨な墜落事故が起こっても「飛行機なんて危険な乗り物は全廃しろ!」なんて極端な意見が世の主流とならないのは、身近な問題であれば多くの人が健全なバランス感覚を発揮出来るということを意味しているのだと思います。
こんなとてつもない大災害を目の当たりにすれば誰でも多かれ少なかれ冷静さを失って当たり前ですけれども、そんな時であるからこそあり得ないゼロリスクを追及して斜め上方向に猪突猛進してしまうのではなく、正確な情報の集積と正しい解析作業とを通じた最善の事後対策ということを皆で冷静に考えていかなければならないはずですよね。
甚大な犠牲を出した地震そのものもさることながら、それに対するこうした社会のリアクションというものも引き続き注意深く見守っていきたいと思っています。

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コメント

人間だけでも大変なのは判ってるけど、何とか助けてあげられないものかな…

東日本大震災が発生した11日から、宮城県亘理町で1頭の馬が水に囲まれ孤立している。
亘理町では約3000世帯が津波の被害に遭い救助に手が回らず、取り残された馬は寒さに
耐えながら助けを待っている。

馬がいる場所は不通となっているJR常磐線亘理-浜吉田間の線路そば。足場が狭いためほとんど
動くことができない。近所に住む安田泰平さん(65)は「震災の翌日に避難したときには既に馬がいた」と話す。
安田さんによると、飼い主の住所は直線距離で2キロ以上離れた長瀞小学校(亘理町)の北側。
馬はそこから流されてきた。

仙台管区気象台によると、15日から天気は下り坂で朝晩は氷点下の冷え込みが続きそうだ。
馬は足元の枯れ草を食べて命をつなぎ、寒さに耐えている。

ソース
nikkansports.com http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20110315-748681.html

投稿: | 2011年3月15日 (火) 15時33分

馬って結構寒さには強いらしいけど、飢えに対してはどうなんだろう?

投稿: 匿名希望 | 2011年3月15日 (火) 18時20分

同じ馬なのかどうか判りませんが、助けられたそうですよ

http://2.syawa.net/nicotter/watch/sm13869032

投稿: | 2011年3月16日 (水) 13時24分

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