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2011年3月 8日 (火)

今度は救命救急士による違法行為が発覚!

先日出ていたこちらの記事なんですけれども、一見すると「法律よりも人の命優先だろjk!」と思えてくるような話なんですが、実のところよくよく考えて見ると案外難しい問題を多々はらんだ事件だったのでは?とも感じさせられます。

救急救命士、「生命の危険」で患者に違法点滴(2011年3月6日読売新聞)

 愛知県常滑市は6日、同市消防本部の男性救急救命士(38)が、交通事故負傷者を搬送中に、救急救命士法に違反する点滴を行っていたと発表した。

 同本部は当時の状況をさらに詳しく調査をしたうえでこの救急救命士を処分する方針

 同本部によると、救命士は先月7日、常滑市内で起きた交通事故現場に出動。負傷した男性(35)に、救急車内で血流確保のための輸液を静脈に点滴した。救命士は「大量出血で意識がもうろうとしていたため、搬送先の常滑市民病院の医師と連絡を取りながら輸液を行った」と説明したという。負傷した男性は病院で治療を受け、現在は快方に向かっている

 救急救命士法の施行規則では、心肺停止状態の患者に限って医師から具体的な指示を受けながら、点滴や気管にチューブを挿入して酸素を送ることができるが、男性は心肺停止状態ではなかった

 同本部の事情聴取に対し、救命士は「施行規則のことは知っていたが、生命の危険があると思ったので輸液を行った」と話しているという。救命士は2004年に資格を取得した。石川忠彦消防長は「救命のためだったが、違法行為は遺憾。病院とのやりとりを含めて、当時の状況を検証していく」と述べた。

<救急救命士>「違法」に点滴 「助けたい一心で」 愛知(2011年3月7日毎日新聞)

 愛知県常滑市は6日、同市消防本部の男性救急救命士(38)が今年2月に救急救命士法で認められていない点滴治療を救急患者に施したことを明らかにした。同法では、救急救命士は心肺停止状態の患者のみに医師の指示を受けて点滴できるが、患者は心肺停止まで至っていなかった。救命士は「助けたい一心だった。法律違反は認識しており、反省している」と話しているといい、市は処分を検討している。

 同本部によると、救命士は2月7日午前10時ごろ、同市内の交通事故で出動。頭部から大量出血し、ショック状態だった男性会社員(35)に救急車内で輸液を点滴で投与した。救命士は「市民病院の医師に患者の意識や血圧などの状況を報告し『輸液の準備ができた』と告げた後、点滴を行った」と説明しているが、医師から指示があったかは覚えていないという。会社員は快方に向かっている。

 この救命士は経験6年。片岡憲彦市長は「現行法では認められていない行為であり、再発防止に努めたい」と語った。同法は、自発呼吸や意識がある場合の点滴を認めておらず、違反した場合、6月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。

 救急救命士の業務拡大を検討している厚生労働省の特別研究班の主任研究者で、藤田保健衛生大救急科の野口宏教授(救急救命医学)は「救命士の気持ちは分かるが、点滴により血圧が上がり、出血が激しくなるケースもあり、危険な行為だった」と指摘している。【三鬼治、工藤昭久】

この一件、ネットなどで見ますと法律が悪い!という声がほとんどのようなんですが、この救命救急士の医療行為問題というのは純医学的に見ても以前から議論のあるところで、例えば気管内挿管一つとってみても「下手くそが現場で挿管しようと手間取って時間を潰すくらいなら、さっさと病院に運び込んだ方がまし」だと言う声も根強くあるわけですよね。
実際に今回も藤田の教授からは批判のコメントが出ていますし(このあたり例によって症例検討会的発想で他人を批判したがる医者の悪癖を見る人もいるかも知れませんが)、救急隊が輸液ルート確保を行っている海外では重症外傷時に搬送前の輸液を行うと死亡率が上がったなんてデータも先日出てきたところで、医療関係者からは必ずしも絶讚されるような行為でもなかったのでは?という見方も少なからずあるようですよね。
このあたりはまだデータの蓄積も不十分ですから未だ確たる定説というものも存在しない領域ですし、特に頭部外傷患者でショック状態であったことを考えると今回の行為が良かったのか悪かったのか判断が難しいところですが、何にしろ助かったからこそこれくらいで済んでいるのであって、これでもし患者さんが亡くなってでもいればこんな騒ぎではなかっただろうことだけは確実です。
そう考えると今後も繰り返し問題になってくるだろう可能性の高い緊急時の無資格者の医療行為ということと関連して、これは日本においてもそろそろ「善きサマリア人法」をきちんと議論していかなければならないのではないかと感じた方も多かったのではないでしょうか。

この「善きサマリア人法」については日本でも以前から議論のあるところで、例えば医師を対象にした調査によれば航空機内での急患発生時に過半数が名乗り出ないと回答し、その理由として法的責任を追及されるかも知れないからと答えていることに注目すべきだと思いますね。
アメリカなどでは飛行機内の処置で何かあっても最終的な責任は航空会社が持つというという形で、善意の第三者の協力を得られやすいように制度上も整えているのに対して、日本国内の航空会社の場合は何かあった場合は医者個人の責任となるようですし、そもそも機内では救命に必要な道具や薬もないでしょうから、言ってみればどんな名医であれ常時加古川事件のような状態に追い込まれる環境であるわけです。
加えて実際に機内での蘇生行為を行った際に周囲の言動から心的外傷を来した方の話などがひと頃話題になりましたけれども、現状では様々な意味で少なからずのリスクがあるということを承知した上で、それでもやるかやらないかは各人が各人なりに判断していくしかないということですし、当然そうした状況で躊躇する人も多いだろうなと想像ができます。
いささか話が脱線しましたが、脱線ついでに先日出ていましたこういう記事をあわせて読んでいただきますと、世に麻酔科医が足りないなんて言われている時代であっても警察などは無資格での医療行為には断固たる対応をする構えであるということが判ります。

県がんセンター無資格麻酔:幹部は容疑を否定 県警が家宅捜索 /千葉(2011年2月19日毎日新聞)

 男性歯科医による麻酔は国の指針に沿った正当な研修だったのか、それとも--。「千葉県がんセンター」(千葉市中央区)が18日、医師法違反容疑で県警環境犯罪課の家宅捜索を受けた。センターは同日夜会見を開き、幹部らは「ご心配をかけたことは遺憾」と陳謝したが、「医師法違反に当たるようなことはないと考えている」と容疑を否定した。【黒川晋史、味澤由妃】

 県警環境犯罪課などの捜査員約40人は午前10時ごろ、押収用の段ボールを抱えセンターに入った。捜索は午後いっぱい続いた。

 捜査関係者によると、同センターで昨年7月にあったがん患者の外科手術で、医師にしか認められていない部位への麻酔(医科麻酔)を、30代の男性歯科医が行った疑いがあるという。歯科医による医科麻酔は医師法違反だが、国の指針で研修目的で行うことが例外的に許されている。県警は、指針が義務付ける手続きを取っていなかったとみて捜索に踏み切ったとみられる。

 家宅捜索を受けて、センターの松本均事務局長と館崎慎一郎医療局長が午後7時から会見。松本事務局長は冒頭、「捜査を見守りながら、万全の医療体制を構築していきたい」と陳謝した。

 松本事務局長らによると、退職した医師から昨年10月、男性歯科医の医科麻酔について「指針を逸脱しているのでは」という投書がセンターなどに寄せられた。これを受けて歯科医らに聞き取りを実施。「指導する麻酔医の監督は適正になされ、基準にのっとって行われている」という説明だったという。

 松本事務局長は「容疑はないものと思っている」としたうえで、指針が義務付ける「インターネットを通じての学会への登録」について歯科医が怠っていた可能性にも言及。「手術管理部長は『登録していなかった記憶がある』と言っていた。警察の捜査で何か出てきた場合は全力を挙げて挽回を図る」と話した。男性歯科医は「歯科麻酔専門医」の資格を持っており、登録は不必要と誤解していた可能性が高いという。

 同センターは1972年に開設され、国からがん治療の拠点病院に指定されている。病床数は341で、09年度の手術実績は2980件。麻酔医は常勤2人、非常勤16人

歯科麻酔専門医の資格まで持っているくらいですから技量は問題ないのでしょうが、警察にしろ医師法違反となれば黙っても見ていられないということは、法律に免責が明記されていない以上は同様な判断が前述のような緊急時の場合にも行われてもおかしくないということでしょうね。
もちろんルールとして決まっている以上はそれを守るのが「正しい」ことは誰でも知っているわけですから、現状では無資格医療行為には上司としても甚だ遺憾と言うしかないんだろうなと理解は出来るところですが、国民感情からしても今回の事件で責められるのは酷ではないかと感じられる話でしょう。
むろん現場の救急隊にしてもこれで罪に問われでもしたらやってられないと思うのも当然であり、何より諸外国では当たり前に行われている救急隊の医療行為というものについて、日本でも出来るようにした方がいいんじゃないかという議論がこれを契機に盛り上がってくるかも知れません。
ちなみに救命救急士法とその施行規則を見てみますとこんなことになっていますが、前述の記事中にも出ていたように「心配機能停止状態の患者」に対してはこれだけのことをやってもよろしいということになっているわけですから、別に能力的に出来ないものではなく単に法律上の問題だけなのかと誰でも思いますよね。

救命救急士法第四十四条
 1 救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生労働省令で定める救急救命処置を行ってはならない。

救命救急士法施行規則
(法第四十四条第一項 の厚生労働省令で定める救急救命処置)
第二十一条  法第四十四条第一項 の厚生労働省令で定める救急救命処置は、重度傷病者(その症状が著しく悪化するおそれがあり、又はその生命が危険な状態にある傷病者をいう。以下次条において同じ。)のうち心肺機能停止状態の患者に対するものであって、次に掲げるものとする。
一  厚生労働大臣の指定する薬剤を用いた静脈路確保のための輸液
二  厚生労働大臣の指定する器具による気道確保
三  厚生労働大臣の指定する薬剤の投与

事実ちょうど一年前の昨年4月に厚労省から「救急救命士の業務のあり方等に関する検討会報告書」というものが出ていまして、「診断の確実性と緊急度が高」く「迅速な搬送を妨げない」ものであって「処置が単純明瞭でプロトコール化できる」ことといった基準を満たしたものに関しては、今後救命救急士の業務として認めていってもいいんじゃないかという検討がなされているわけですね。
その結果下記の三項目に関しては、過去の分析からも明らかにやらせた方が利益が大きいだろうという判断から近々解禁される予定と言いますからそれは良かったとして、一方でアナフィラキシーに対するエピネフリン投与などは上記の基準を満たしているとは認められないということで、さらに検討を要するということになってしまったのは少しばかり残念であったと思います。

(1) 血糖測定と低血糖発作症例へのブドウ糖溶液の投与
(2) 重症喘息患者に対する吸入β刺激薬の使用
(3) 心肺機能停止前の静脈路確保と輸液の実施

個人的に今回のような話を聞いて思うのですが、救急隊と言えば必ず数人でチームを組んで行動するわけですから、例えばチーム内に一人くらいこれはと見込んだ人材は公費で看護師専門学校なりに通わせるようにして看護師資格を取らせておけば、救急の現場で行えることもずいぶんと広がってくるんじゃないかと思うんですけどね。
ただそういう別資格を取らせるとなると取得軽費は元より当然ながら給与や待遇面で優遇しなければなりませんから、財政厳しい折に誰がそんなことを言い出すのかという話なんですが、例えば田舎の小さな自治体でやる気のあるトップが一声かければ難しい議論抜きで出来ないことでもなさそうなだけに、どこかの自治体がやってみようなんて言い出さないものだろうかと期待しているところです。
特に周囲50km以内に医療機関は町立病院一つだけなんて僻地においては、そもそも患者宅から病院に搬送するまでが一時間以上かかるなんてこともざらにあるわけですし、今回の事件に対する反応を見ても住民が反対するとも思えないですから、単に人気取り政策として考えても比較的に安上がりで実のあるものになるんじゃないかとも思うんですけどね。

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コメント

救命救急士が目につく。

投稿: あ | 2011年12月 1日 (木) 09時06分

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