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2011年2月 7日 (月)

変わらざるを得ない社会保障の中で、これは小さくも大きな問題か?

財政が厳しいのは国と地方とを、あるいは官民を問わずどこでもそうだという時代ですが、こちらもずいぶんと厳しいことになっているという話が出ています。

国保:納付率、最悪88% 赤字拡大2633億円--09年度(2011年2月5日毎日新聞)

 厚生労働省は4日、自営業者らが加入し、市町村が運営する国民健康保険(国保)の09年度財政状況(速報)を発表した。保険料の納付率は全国平均で88・01%で、国民皆保険制度開始(1961年)以降、過去最低を更新した。景気悪化により所得が減り、保険料を支払えない人が増えたためとみられる。

 国保の納付率は、納付率の高い75歳以上の人が後期高齢者医療制度に移り、08年度に2ポイント以上下落して初めて90%を割り込んだ。

 国保財政収支は、市町村が一般会計から繰り入れている額を除いた実質収支で2633億円の赤字となった。前年度に比べ250億円赤字が拡大した。

 保険料を滞納している世帯は、10年6月時点で約436万4000世帯。前年度より約5万5000世帯減ったが、総世帯数も減少したことから、滞納世帯の割合は前年度と同じ20・6%だった。

 一方、後期高齢者医療制度の納付率(09年度)は99・0%で、前年度から0・25ポイント上昇した。【山田夢留】

ご存知のように後期高齢者医療制度の廃止とあわせて国保を市町村単位から都道府県単位に再編しようという話になっていますけれども、その背景にあるのが不景気で低収入、非正規雇用世帯が増えているという現実で、こうした低所得層がそろって国保に加入しているわけですから納付率も下がる道理で、それは小さな自治体単位では到底維持出来ないということにもなりますよね。
支出に応じて保険料を上げればいいんじゃないかと言う声もあるでしょうが、特に低所得者の場合は保険料が高くなるほど「どうせ医者なんてかからない(かかれない)のに割に合わない」という未納者が増えるわけで、現状でも自治体間で3倍以上にも開いている保険料負担の差を考えた場合、皆保険制度が破綻するとすればまずこのあたりから始まりそうだということは多くの人々が感じているのではないかと思います。
一般にも生活水準と健康水準には正の相関関係があると言われますが、国保にはこれに加えて給付の多い高齢者も多数含まれているのですから当然支出はかさむわけで、もともとシステムとしてかなり不利になっていることを考えると、今後は加入している保険の種類によって医療の不公平感はますます拡大していく可能性は高そうですよね。

ただ国民としても医療に金がかかる、しかも今後ますます費用がかさんでいくということにはようやく理解が及んでいるようで、総論としてはある程度の負担増については仕方がないという受け止め方が主導的であるようです。
ただ国民皆保険制度の維持と考えても今まで通り保険料方式がよいのか、それとも税によって広く支えていくことがよいのか、窓口負担についてもコンビニ受診などと呼ばれる過剰利用問題も考えると安いばかりでは医療費増加を促進しかねず、どの程度の額までが妥当なのかという点について国民間、あるいは国民と行政、あるいは医療関係者の間でもずいぶんと温度差があるように感じますね。
先日日医のシンポジウムで発表されたこちらの調査などは、調査の主体などを見てもかなり為にするものなんだろうなと設問を見るだけでも想像は出来ますけれども、少なくともこれ以上は断固として医療費を増やすべきでない!と言う声はごく少数派であるとは言えそうです。

医療費負担増「仕方ない」が6割超(2011年2月2日CBニュース)

 今後の医療費の負担増は「仕方がない」という人が6割を超えたとのアンケート調査結果を、中央社会保険医療協議会で会長を務める遠藤久夫・学習院大経済学部教授が2月2日、日本医師会の「医療政策シンポジウム」で発表した。

 調査結果によると、今後の医療費に関する考えを選んでもらったところ、「医療費の増加を抑えるような政策は必要だが、あまり医療利用の制限が進むのは良くないので、医療費負担が増加することは仕方がない」が64.9%で最も多かった。以下は、「患者の医療利用に制限を積極的に設けて、医療費はできるだけ現状の水準にとどめる」25.3%、「医療の質や医療利用の制限は現状の水準を維持するのが望ましく、そのために医療費負担がかなり増加してもよい」 5.5%、「医療の質や医療利用の利便性を現状以上に向上させるため、積極的に医療費負担を増加させる」4.3%だった。

 年齢階層別(20-39歳、40-59歳、60歳以上)にみると、医療ニーズの高い高年齢層ほど「医療利用に制限を積極的に設けて、医療費はできるだけ現状の水準にとどめる」が低下する一方、「医療費負担が増加することは仕方がない」が上昇する傾向が見られた。

 一方、医療費増を賄う主な財源として望ましいものは、「増税」が34.3%で最も多く、これに「患者の自己負担の引き上げ」(33.5%)、「保険料の引き上げ」(22.0%)、「その他」(10.3%)が続いた。
 年齢階層別にみると、高年齢層ほど増税を支持し、低年齢層ほど自己負担増を支持するなどの傾向があった。

 調査は、1月14-17日に調査会社にモニター登録している一般市民1000人(男女500人ずつ)を対象にウェブ上で実施した。

設問の文言で結果を思うように誘導していくというのはこうした調査の常套手段ですから前半部分は飛ばしてもらってもよさそうに思いますが、お金を持っている一方で医療需要の高い高齢者とその逆の若年者とで結果が逆転しているのは当然としても、昨今マスコミなどが一生懸命主導している社会保障の財源確保のための増税論に対して、純粋に賛成している人は案外少ないのかという見方も出来そうですよね。
増税と自己負担引き上げがこうまで拮抗しているというのは、要するに医療を社会保障の一環として捉えるべきか、それとも利用するかどうかも含めて個人の選択に委ねるべきかといった考え方の差でもあるのでしょうが、少なくとも今のワープア層にとって医療とはただ同然でいつでも利用できて当然のものという認識では必ずしもなくなってきているとは、実感としても感じられるところではないでしょうか。
いざその時が来て大金が必要だとなればすっぱり諦めるという声は巷間よく聞くようになりましたし、実際に医療費支払いが出来ずに治療中止といった事例がどんどん増えているわけですから、どうせ自分が使わない医療のために増税などとんでもないという人も事実結構な割合で存在しているのでしょうね。

国としては皆で助け合う保険というものの性質上、自分が使わないものには金を出さないという人が増えてもらっても困るわけですから、医療需要が少ない一方で所得の低い若年者を中心に社会的不公平感を生まない範囲での落としどころを探る必要があるはずですが、その手段の一つとして医療費総額を抑制するという方針が案外有効であるというのは皮肉な現象ではないかとも思います。
要するに人間というものは財布から出て行く金額が少なければ多少の不平不満は我慢できてしまうものだと言うことですが、さすがに診療報酬削減に国民が無邪気に拍手喝采という時代ではなくなってきているだけに、国としてもいかに見た目の医療重視という形を整えつつ実質的な公費負担分を削って行くかというあたりが腕の見せ所であるということですよね。
近頃ではやるかやらないかといったことはもはや問うべきところではなく、いつからどんな形でやるかだけが問題であるとも言われる混合診療の導入なども、そうした観点から見ると非常にうまいやり方だと衆目の一致するところでしょうが、見ていますと今さらそれは?と少しばかり疑問符を付けたくなるような話も飛び出してきているようなのですね。

後発医薬品利用の指導強化=生活保護受給者対象、費用を抑制-厚労省(2011年2月5日時事ドットコム)

 厚生労働省は5日、2011年度から生活保護受給者を対象に新薬より低価格のジェネリック医薬品(後発医薬品)を利用するよう指導を強化する方針を決めた。11年度からレセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求が義務化されるのに伴い、受給者の医薬品の利用状況を把握。特別な理由なく新薬を使っている場合、医療機関や地方自治体を通じて後発医薬品を使うよう指導する。
 厚労省は後発医薬品の利用促進により、増加傾向にある生活保護費の抑制につなげたい考えだ。生活保護受給者数は長引く不況の影響により、昨年11月時点で約197万7000人。09年度の支給総額は3兆72億円と初めて3兆円を超えた。医療費補助は生活保護総額の約半分を占める
 しかし、現在は生活保護受給者がどれだけ後発医薬品を利用しているか正確に分かっていない。そのため、レセプトのオンライン請求を通じ、受給者にどういう薬が処方されたか実態を把握することにした。同じ効能の後発医薬品があるのに新薬を使う場合、主治医の意見を聞いた上で後発医薬品を使うよう受給者に理解を求める

ご存知のようにこの一件、実は今を去る2008年にも全く同じ通達を出したところが、世のマスコミや評論家諸氏から袋だたきにあって即座に撤回したという経緯があるのですが、世間的にこういうことには批判的でありそうにも見られていた民主党政権下で再び言い出すというのは、政治主導をうたっていたはずの厚労省内での状況はどうなっているのだろうと興味深くも思いますね。
実際に使われている医療現場での認識はともかくとしても、国としてはジェネリックは先発品と同じものですよと大々的にコマーシャル展開しているわけですし、WHOからもジェネリックを忌避するのは医療費の無駄遣いであるとまで言われているわけですから、むしろ生活保護(生保)受給者に限らず故無き先発品使用には何らかのペナルティーくらいあってしかるべきと言う意見もあってしかるべきかも知れません。
このあたりは医療関係者の間でも意見の分かれるところでしょうが、少なくとも医者は患者のために最良の方法論を必ず選択しなければならないといった旧時代の共学観念から解放されつつある人も多い今の時代、こんなところで余計な手間暇を掛けるのも馬鹿馬鹿しいと、国の通達ですの張り紙一枚で済ませておこうと考える施設も案外多くなりそうな気がします。

前回の通達が出た2008年初頭に比べても、リーマンショックを経た現在の経済状況は(少なくとも実感として)決してよいわけではないですし、生保受給者が史上最高を更新し続けるという時代にあって、ワープア層と呼ばれる人々を中心に不公平感は増す一方ですから、率直な国民世論として以前のような強烈な反発もないんじゃないかという気もします。
それでもマスコミや評論家諸氏が前回同様に強力な反対論を展開するということであれば単にマスコミ論としても興味深いですが、近頃ではひと頃の蜜月時代からすっかり冷却してしまった感のある政権与党との関係においても大きな意味を持ちそうですよね。
冷静になって考えて見ると、国民皆保険制度なんて大前提すらひっくり返りかねないと大騒ぎしているような時代にあって、正直こうしたジェネリック問題とは純医学的に考えてもそこまで大騒ぎするものなのかという考え方もあるでしょうが、政治的社会的なシンボルとしての意味合いは案外小さいものではないのかも知れません。

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