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2011年2月17日 (木)

一段と締め付けの厳しくなる日本の医療

先日記事を見ていて、思わず「無茶しやがって…(AA略)」と思ってしまったのがこちらの記事ですが、色々な意味で日本ではとても真似できそうにない話ですよね。

糖尿・高血圧の薬無料 ブラジル新政権、実現(2011年2月7日しんぶん赤旗)

貧困層に恩恵 製薬会社が協力

 【メキシコ市=菅原啓】ブラジルのルセフ政権は3日、糖尿病と高血圧の治療薬を無料とする施策を今月14日から開始すると発表しました。これはルセフ大統領が昨年の選挙で公約していたもの。ルセフ氏は発表にあたって、就任(1月1日)から「1カ月で公約を達成できた」と報告しました。

 同国では、ルラ前政権が2004年に、貧困層向けに薬品を安価で提供する「国民薬局」プログラムを開始。ぜんそく、骨粗しょう症、緑内障など特定の病気の患者に対して、治療薬を無料あるいは9割引きの価格で提供してきました。

 政府統計によると、ブラジルにおける糖尿病と高血圧の患者数はそれぞれ3300万人、750万人と推定されています。2009年には、死亡原因の34%がこの二つの疾病でした。

 ルセフ大統領は、家計支出に薬代の占める割合が富裕層で2%なのに対し、最貧困層では12%となっているとのデータも明らかにし、今回の施策が貧困削減という政権の重点課題の一環であると説明しました。

 新しいプログラムでは、公立病院の処方せんと身分証明書などを提示すれば、富裕層も含めだれでも全国1万5000の薬局で必要な薬を無料で入手することができます。

 しかし、実際には富裕層や中所得層は、民間病院での診察を望む傾向にあるため、新しいプログラムの恩恵を受けるのは、主に公立病院を利用する貧困層の患者約96万人とみられています。

 無料の薬品提供プログラムを拡大することには、財政負担の増大を懸念する声もあります。これに対し3日、記者会見したパディリャ保健相は、政府が製薬会社と交渉し、会社側が利益の一部を削って無料で薬品を提供することに合意していると説明。追加的な支出は「一切かからない」と強調しました。

これが公費ではなく製薬会社の持ち出しで実現したというのですから驚く話で、おそらく裏交渉では製薬会社側にかなり強引な要求が突きつけられたのだと思いますが、市場としても巨大な人口を抱え購買力が増す一方のブラジル政府の要求に対して、製薬会社にしても無碍には出来ないという事情はあるのでしょうね。
前政権から続いた路線の継承にしても、糖尿病や高血圧といったcommon diseaseまでを対象に全ての国民に無料でというのはこうした巨大な資本主義諸国では珍しい話で、いったいどこまでこの路線が続くのか、利益確保のため製薬会社が他の薬品を値上げしたりするのかと興味は尽きないところでしょう。
ひるがえって日本ではどうかと言いますと、先日も国が生活保護(生保)受給者への投薬はジェネリックにしろ!なんて再度指導に乗り出したという話題を紹介しましたけれども、どうも今回ばかりは生保のみならず徹底的にやるつもりであるようなんですね。

生活保護世帯の医療費を適正化 厚労省、電子診療明細を分析 (2011年2月13日日本経済新聞)

 厚生労働省は2011年度から生活保護受給者の医療費の適正化対策を強化する。レセプト(診療報酬明細書)のオンライン請求が義務付けられることを受け、電子化された診療データを分析。薬を過剰に処方していないかを洗い出すほか、特別な理由がないのに新薬を使っている場合は価格が割安な後発医薬品を使うように指導する。

 生活保護の受給者数は昨年11月時点で約197万7000人。低収入の高齢者の増加や雇用低迷を背景に増え続け、09年度の支給総額は3兆 72億円と初めて3兆円を超えた。保護費の約半分を医療費の補助(医療扶助)が占め、社会保障費増大の一因になっている。

 生活保護世帯の医療費を巡っては、医療機関が受給者に過剰な診療を繰り返して診療報酬を不当に得ていた疑惑や、受給者の処方箋を複製して複数の薬局から向精神薬を不正に入手したと疑われる事例などが相次いで発覚している。

 厚労省はレセプトが電子データに切り替わるのに伴い、市町村に生活保護の指定医療機関からの医療費請求の点検を強化するように求める。

 データの電子化で受給者に処方された薬の実態も把握しやすくなる。同じ効能の後発医薬品があるのに新薬を使う場合、主治医の意見を聞いたうえで後発医薬品を使うように求める。後発医薬品の利用を促し、増え続ける生活保護費の抑制にもつなげたい考えだ。

【ジェネリック薬差額通知】地域保険で11年度全国実施(2011年2月15日薬事日報)

 厚生労働省保険局は、後期高齢者医療の当面の重点課題として、[1]重複・頻回受診者に対する訪問指導体制の強化[2]後発品普及[3]長寿・健康増進事業の推進[4]医療費通知・医療費削減査定通知の送付の徹底――を挙げ、都道府県や後期高齢者医療広域連合へ、対応を要請した。後発品の普及では、国民健康保険と後期高齢者医療の全保険者が、差額通知を加入者に送付できる体制を2011年度に整備する方針を示した。

 重複・頻回受診者への訪問指導は、レセプト情報などから対象者を選定し、保健師らが適正受診を促す取り組み。2009年度に14広域連合が実施し、3530人に介入して1564人の受診改善につながった。指導後3カ月の給付費縮減効果で、1億6148万円の実績を上げたが、10年度での実施は19広域連合にとどまる。そのため厚労省は、さらなる拡大を図りたい考え。

 後発品の普及については、患者が医療機関や薬局で、後発品の調剤を求める際に使える「希望カード」の配布を、全保険者で進めているが、秋田、神奈川、静岡、三重、兵庫の広域連合で遅れているため、完全実施を目指す

 また、都道府県国保連合会が一括し、被保険者へ後発品差額通知を送付する仕組みを、全国的に導入する。システムは国民健康保険中央会が開発し、市町村や広域連合が、国保連へ事務を委託する形をとる。11年4月当初から委託が可能になる見通しで、厚労省は、特別調整交付金などによる、保険者に対する委託経費の支援を検討しているという。

 長寿・健康増進事業は、08年7月から特別調整交付金の一部を活用して実施している。先進的な広域連合を重点的に支援することで、さらに積極的な取り組みを促す。

医療費通知や医療費減額査定通知の送付は、保険者の基幹的な業務だが、医療費通知は4カ所、査定通知は7カ所の都道府県で実施していない。

ま、犯罪行為はともかくとしてもこの生保患者の医療問題というのも昔から色々とあるところで、特にこのところの医療崩壊とも言われる業界事情の中で、相変わらず生保患者=親方日の丸で取りっぱぐれのない上顧客という施設もあれば、最初から生保はお断りと生保が受診可能な指定医療機関の申請自体出さない施設とに二極化しつつある気配もありますよね。
今どき前者のような感覚の施設はよほどに経営が危ないのか、元々の顧客層がそこまでアレなのか、いずれにしてもブラックなの?と疑われても仕方がないところがありますが、近頃ではこうした生保患者を主要顧客にしている施設にはとりわけ厳しい監視の眼が及んでいるようで、それだけ保護費による財政の圧迫が社会問題化しているということなのでしょう。
特に多忙な施設に勤務している医師の方々で、夜中にベンツに乗りつけてくる類の生保患者に辟易としているような向きには、国が率先して厳しく取り締まっていただくのは大歓迎と言う声もありそうですが、ただこの医療費適正化という微妙な言い回しはいったい何を意味しているのかと気にはなりますよね。

生保についての余談はともかくとしても、例えば前回にも取り上げましたジェネリック使用促進の件などは、国としては名前が違うだけでジェネリックは同じ薬であると言っているわけですから別に生保患者や高齢者だけを対象にするような話ではないはずで、それをわざわざ一部の人達だけを対象に厳しく指導するようなことを言うから余計な火種を作ることになるわけです。
本当に同じものだと国が保証しているのであれば、今どき先発品を使っている施設には問答無用で徹底的にペナルティーを、なんて話にすればいいわけなんですが、それを敢えてやらないのは本当のところではジェネリックと先発品は違うということを彼らも知っているのかと勘ぐりたくもなりますよね。
先日は中医協の分科会でこういう話が出たということなんですが、ジェネリック使用を推進してきた立場だと受け取られている公の場でこういう発言が出てくるというのは何なのか、あるいは退任の挨拶をする時期になるまでこの程度の「本音」も口に出来なかったということなのかと、様々に裏読みが出来そうな話ではないでしょうか?

後発品の不使用、「医者のわがまま以外に理由がある」(2011年2月10日ロハス・メディカル)

 全国のDPC病院に対して規制的な役割を果たす中医協の分科会で意外な発言があった。(新井裕充)

 厚生労働省は2月9日、中医協のDPC評価分科会で「機能評価係数の再整理案」などを示し、大筋で了承された。

 この日は、次期改定の目玉であるDPC病院のグループ化は議論されなかった。

 すべての議題を終えた閉会間際、厚労省の担当者が西岡清分科会長(横浜市立みなと赤十字病院長)と山口俊晴委員(癌研究会有明病院副院長)の退任を報告した。
(略)
 山口俊晴委員は退任に際し、同分科会で過去に行われたヒアリングを振り返りながらこう述べた。

 「ある病院がジェネリックをあまり使っていないということで、そのときの皆さんの論調はですね、『国策に反して......』という一斉攻撃で、私は非常にこれは危ういなと思った。ジェネリックを使えば病院としてはプラスになるはずで、当然、利益を考えたらやるはずなのにそれをやっていないというところに、何か医者のわがまま以外に理由がある

 その上で、「優しい視点を持って議論していただければ」と要望、「癌研もいつここに引っ張り出されるか分からない」と冗談交じりに付け加えた。
(略)

個人的な意見としては、もともと何の薬であれ医薬品の効き具合というものは個人差があるのが当然で、人それぞれに量や用法などを調節しながら使うのが当然であるわけですから、明らかに副作用発現頻度が高いとか言った問題点がないのであればジェネリックも先発品とは「違う薬として」使う分には何の問題もないと思います。
ところが国は元々が違うものを同じ薬だと無茶なことを言う(本当に同じだと言うのならせめて適応病名くらい統一しろと小一時間(略))、それを純真に信じ込んでAという薬を同一成分同一含有量のBという薬にそっくり入れ替えても効果は変わらないのだという誤解をしてしまうから問題が出るわけで、最初から違う薬として気をつけながら処方していけば済む話だったはずなのです。
効果効能が明らかに違うジェネリックがあるという以前に、こういう国の詐術に反感を抱いている医者は全国に数多いと思いますし、国のデタラメな宣伝を信じて薬局で少しでも安い薬をと選んだ結果健康被害を被っている国民こそいい迷惑という話ですよね。

怪しげな詐欺商法紛いのことをやっている自覚があるというのであれば一部の立場の弱い患者だけに厳しく指導するなんてハンパなことをやる必要もないですし、詐術を承知でそれでも財政上やらざるを得ないのだということであれば下手な嘘などやめにして、例えば生保など公費での医療に関しては医療統計や販売後調査などにとことん使わせてもらうなんてルールにすればよい話です。
「社会的弱者の方々は公費で医療費を負担します。その代わり受けた医療に関する情報は全て社会のために活用させていただきます。個人情報は保護しますからご安心ください」くらいのことを言えば国民の納得も得られるでしょうし、何より情報ソースとして一定の数の対象がいつでも簡単に集まるわけですからこれ以上便利な話はないはずで、どうせデータを分析するならせめてそれくらいはやってもらいたいですよね。
もっともこの財政難の折ですから、むしろそうした公費医療の対象を切り詰めていくという方向にこそ話は進みそうな勢いなんですが、そうなるといよいよ国の言う通りの医療を受けていたのでは命が幾らあっても足りない、もう勝手にやらせてもらうしかないなんて声も出てくるんでしょうか…って、まさに先のブラジル同様に安い公立病院を皆が忌避して高い民間病院へ向かうという、世界中で当たり前に行われている医療そのものになるってことですか。

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コメント

レセプト電子化で把握しやすくする、という制度ではありますが、問題は、医療機関や薬局で処方内容をその場で把握できないことであり、こうなると、医療機関や薬局では「後出しじゃんけん的制裁」が加えられる、ということなんですね。

レセプトというのは、前の月に行った診療内容と報酬明細を請求書として出す、(そしてその請求に対して問題がなければ更に翌月に報酬が支払われる)というシステムですから。

そうなると、「生保被保険者なのに先発品を使っていた」となったとき、それを処方した医療機関あるいは薬局にその分の診療報酬を「払わない」という形で制裁が加わります。でも、その分のコストは既に医療機関・薬局は負担した後なので、丸損になってしまいます。すなわち完全に「医療機関・薬局が悪者」として扱うわけです。
しかもそれが判明したときには、患者(生保被保険者)は薬を受け取っているわけで。

そういう意味では、患者側には全く抑止効果が働かず、医療費を医療機関の負担で抑制できてしまう(保険者・国・自治体にとって)すごく都合のよい制度になってしまう可能性が高いんですよね。
まあ、レセプトオンライン化を無理やり推し進める最大の(裏の)目的ですから、こうなることは目に見えてましたが。

もちろん、このやり方で「違法な抗精神病薬の入手」は全く阻止できません。

もしそれを阻止するのを目的とするのなら長期投薬の禁止しか手段はないと思います。

投稿: | 2011年2月17日 (木) 11時26分

違法な抗精神病薬の入手を阻止するだけなら、生活保護の抗精神病薬処方は自立支援医療+院外処方に限ればある程度効果はあります。

投稿: | 2011年2月17日 (木) 14時50分

こうなる事はとっくにわかってた事
まだまだガンガン締め付けくるよ

投稿: aaa | 2011年2月17日 (木) 21時21分

レセプト電子化についてはまあ、あれだけ現場から「こうなるぞ」と言った通りの経過を辿っているわけですから、国の尻馬に乗って「医療の効率化を!」なんて畑を振ったマスコミの責任もどうなのかですよ(苦笑)。

それはともかく、生保受給者の医療問題はつつけばつつくほど幾らでも突っ込みどころがあるのですが、今まで医療側からも行政側からも漫然と見過ごしにされてきた印象があります。
ただ昨今ではこれだけ生保受給者の増加が問題視されていて、世間的にもあまり良い目線が送られていない中で、医療費がこれだけ削られているのに生保だけノーチェックでいいのかとなるのは当然ではありますよね。
そう考えると国がメスを入れる気になったというのはごく自然な流れだと思うのですが、当然ながら予想されるだろう反発の声に対して民主党政権がどういう反応を示すかが個人的に注目ですね。

投稿: 管理人nobu | 2011年2月19日 (土) 19時10分

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