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2011年2月 1日 (火)

結果として世界標準に近づいているとも言えそうです

たぶんマスコミ一流のでっち上げもかなり入っているのだと思いますが、テレビ番組を元ネタにしたこんな記事が出ていました。

夢の治療は金次第―画期的新薬も高すぎて使えない!(2011年1月27日J-CASTテレビウォッチ)

クローズアップ現代

   医療の発展は目覚ましく、最近はとりわけ「桁違いの技術革新」(濃沼信夫・東北大学大学院・医科系研究科教授)が進んでるそうで、画期的な薬や検査が続々登場してるようだ。ところが、そんな「夢の治療」によって、患者と(国家)財政が追い詰められている――というのが今回の放送の趣旨である。

   問題は、有り体に言って「おカネ」だ。たとえば、抗がん剤の年間費用は250万円~1000万円(保険負担も含んだ額)になるケースがある。新しい薬は「開発・製造に新しい技術を用いることや、ターゲットとなる患者を絞りこむので、個々の薬剤の価格は高くなる」(濃沼信夫教授=前出)からだ。この経済的な負担で「夢の」治療をやめざるをえない人もいる(この番組でよく聞かれる言葉『○○な人が増えている』は使っていなかった)。

白血病が治った!でも、続かなかった薬代

    「結局、貧乏人は長生きできないのかな」

   昨年2010年11月に、長年連れ添った夫(58歳)をなくした女性は取材にそう話した。ともにパスタ店を営んでいた夫が10年前、慢性骨髄性白血病にかかり、医師から余命4~5年と言われた

   画期的な分子標的薬「グリベック」が状況を変えた。この薬を使うと、血液検査の数値は1か月で正常範囲に戻った。夫は「オレ、病気じゃねえよな」と話し、薬を飲み続けなければいけないということ以外、普通の人と変わらない様子に見えたという。

   しかし、グリベックは高かった。当時、年間で約450万円(保険負担含む)かかる薬だ。通常の患者負担3割の健康保険だと負担額は135万円。実際は高額療養費制度が適用されて50万円の負担だった。店の経営が順調なうちはまだよかったが、近所に大型店舗ができた影響で客足が遠のき、収入は月25万円に落ち込んだ。そのなかから薬代で月4万円の出費は大きな痛手だ。

   経済的な苦境などで妻に迷惑をかけて「すまない」という気持ちを抱き続けていた夫は3年前、妻に黙って薬を飲むのを止めてしまったという。中断している間に癌が進行し、後に薬を再開したが、すでに薬は効かなくなっていたそうだ。

    「医療がどんどん進歩してよくなってるのに、自分たちの生活がままならないから払えないで、長生きできないなんて、ちょっと理不尽ですよね」

   女性は悔しそうな目で話した。

つつしんでご主人のご冥福をお祈りいたしますが、余命4~5年と言われたご主人は仕事をしながら結局10年生きられたということですから、高い薬を使っただけの効果はあったと見るべきなのでしょうね。
ただ今回のような命に関わる病気と言うことになれば、別に画期的な新薬などと言うものを使わずとも普通に高額医療の適用になる程度にはお金がかかりますから、それを負担できないというのであれば民間保険を掛けておくといった平素からの準備は必要であったかなという気がします。
日本の国民皆保険制度というものは非常によく出来ていて、民間保険ではとても真似が出来ないくらいに手厚い保証がなされているのは事実ではあるのですが、それでもまだ不足だと言う場合のために民間保険というものがあるわけで、このあたりは日本人も保険というものの意味をもう一度考え直していくべき時期には来ているのかという気がする話でもあるわけです。
日本人は水と安全、そして医療はただ同然で当たり前だという認識を持っているなんて言われますが、世界では命の沙汰は金次第という場合の方がむしろ常識なのであって、例えば日本のマスコミが盛んにヨイショするアメリカなども、国内で高すぎる治療を受けられない人々が外国に出て行くのがメディカルツーリズム興隆の発端であったことを思えば、「理不尽」の一言で済ませてしまうべき話でもないように思いますね。

ここからは記事の内容から離れますけれども、医療は誰にでも平等に、お金のあるなしで区別されることなく与えられて当然であると言うのであれば医療は全額公費負担とするよう国民として動き始めるべきであってしょうが、例えば小児の医療費無料化に伴う諸問題などを見るに付け、逆に人の命や健康とはそこまで安いものなのかという素朴な疑問を抱いている医療関係者も多いものです。
数年前から業者のCMに絡めて「水道トラブル5000円、トイレのトラブル8000円、命のトラブル3000円、安くて早くて安心ね。」なんて戯れ歌がネット界隈で流行っていましたけれども、手塚治虫の「ブラックジャック」に出てくる名台詞として知られる「その言葉が聞きたかった」なんてものは、これとは真逆とも言えるある種の価値観を表しているとも言えますよね。
お金の額で人の命を語るということは確かに空しいことなのかも知れませんが、同時にお金の額が象徴する何かは決して小さからざる意味を持つという場合が多々あるもので、それを平素から肌身に染みて知っていることも全国医療従事者が医療費無料化にいい顔をしない理由の一つではないかという気がします。

ま、そうした余談はともかくとして、いずれにしても国民にとってはこういう不景気の最中ですから、「命の沙汰は金次第」という言葉の意味が身近に実感できるようになってきた、そういう今までにない経験に不安感を募らせているのは理解できますし、社会保障政策として考える上でもこうした国民不安を放置することは賢明なこととは思えません。
先日は全国保険医団体連合会(保団連)がマスコミ関係者を集めて懇談会を開いたということなんですが、その詳細を取り上げているロハス・メディカルさんの記事を見てみますと医科と歯科の違いこそあれ、医療とお金という問題に関してなかなか興味深い話が出ているようなんですね。

歯科で進む格差医療、いずれ医科も......?(2011年1月28日ロハス・メディカル)
より抜粋

 「9割超が保険の利く範囲を広げてほしいという高い数値が出ました」─。経済的な理由で歯の治療を受けられない患者が増えているらしい。(新井裕充)

 「窓口負担が高いという回答は5割超」「保険の利く範囲を広げてほしいとの回答が9割超」─。

 全国保険医団体連合会(保団連)は1月27日、衆議院第2議員会館内で「マスコミ懇談会」を開き、歯科医療に関する市民アンケートの結果を公表した。

 それによると、「歯は全身の健康にとって大切」と答えた人が9割以上いたにもかかわらず、治療を放置している人は4割近くいた。治療をしない理由のトップは「時間がない」(52.0%)、続いて「費用が心配」(34.5%)、「治療が苦手」(32.1%)などだった。

 この結果を受け、宇佐美宏・副会長はこう述べた。

 「歯科は混合診療の宝庫。3割の窓口負担が重いというだけではなく、歯科固有の自費診療の存在がある。負担感が歯科の通院を妨げているのではなかろうか。歯科に対する通院の敷居が高いということが今回の調査でも明らかになったのではないか」

 一方、歯科医をめぐる状況の悪化について、「私立歯科大学の定員割れの問題等も十分ご承知だと思います」と指摘、「ある大学では自分の名前さえ書ければ通っちゃうみたいな、そんなひどい実態がある」とまで言った。

 「歯科は自費診療、医科は保険診療が中心」と言われる。もし、医科で混合診療を解禁して、さらに医学部をガンガン新設したら、その先にあるのは......?
(略)

ご存知のように歯科は以前から混合診療が解禁されていて、それが混合診療推進派にとって「向こうではうまくいってるじゃないか」という主張の根拠の一つになっているわけですが、どうもその内情を見てみますと必ずしもそう単純なものでもないらしいのですね。
ちょうど保団連が患者の受診実態調査というものを先日やっていて、これによると医療機関への調査で過去半年間に経済的理由から患者が治療を中止した例があるかという問いに「はい」と答えたのが病院では23.3%、医科診療所では33.6%であるのに対して、歯科診療所では51.3%と非常に高い数字を示している事が判ります。
一方で治療費の未回収については病院75%に対して歯科、医科とも診療所では50%以下でほぼ同等ですが、直接命に関わるような重症患者は病院にかかるはずだと考えると、軽症患者ほど経済的理由が治療中止に結びつきやすい、それも自由診療のようないわばオプションの処置ほどとりわけそうした行動を取りやすいのかという推察も成り立ちそうですよね。
歯科の場合は先の診療報酬改定でも医科を上回る増加率を得たことに加えて、自由診療で儲け放題なんだからいいじゃないかと考える向きもあるかも知れませんが、どうも経営とはそう単純なものでもないらしいというのが次のような話からも判ります。

[宇佐美宏・保団連副会長、歯科代表]

(略)
 そういう中で、昨年の診療報酬改定で(本体部分の改定率の内訳は)、歯科(プラス)2.09%(医科1.74%、調剤0.52%)という......。まあ、技術に着目してという......。日本歯科医師会では、かなり大きな数字を頂いて.......ということで......。

 まあ確かに、全体から見れば大きな数字ではあったのですが、残念ながらですね、どうも蓋を開けてみたところ、いつまで経っても2.09%に到達しないという状況で、今、大体1.2%ぐらいですよね。

 実は、その前の(平成20年度)改定では、(プラス)0.42%(医科、0.17%、調剤0.38%)で、「0.42」という数字をめぐって......。その後、意外に歯科の点数が上がったものですから、そこにいらっしゃる朝日新聞から、かなり......。どこかでごまかしをやったんじゃないか、という意見が出されまして......。杉山先生と行って朝日新聞の方とかなり激論を交わしましたけれども......。

 歯科の場合にはですね、従来はパーセンテージが決まった後、1年目ぐらいは結構上がるんです。で、2年目ぐらいになると下がってくる、このパターンの繰り返しがあった。

 確かに、2008年の(改定率プラス)0.42%の時はですね、1年目は上がったんです。その結果は明らかになっていて......。

 例えば、今の歯科医療のシェアは全体の7.2%なんです。にもかかわらず、09年の時は7.5%まで戻ったんです。ところが歯科の場合は、2年目からジワジワと下がってきて、最終的に昨年のデータではマイナスになって、結局7.2%になった

 だから......。7.3%、7.5%、結局7.2%になってしまった。歯科の場合にはそういう状況がある。
(略)

[杉山正隆・保団連理事]

 私は毎日新聞の記者をやっていて、それから歯医者になったわけですが、歯医者になって一番最初に驚いたのは、新卒で免許を取ってすぐの先生でも、誰でもできる治療が保険でできないことです。

 例えば、前歯の右3本左3本......、上下で12本は白いやつが認められるけれども、その奥は自動的に銀になる。これは、歯学部でこんなことをやったら卒業させてもらえないですよ。(中略)

 決められた材質しか使えない。(中略)やれないことが圧倒的に多いんです。これは駄目、あれは駄目......。(中略)難しい治療をさせてくれとか、儲かる治療をさせてくれという話ではなくて、ごくごく当たり前の治療が歯科では保険に入っていなくて......。

 この10年間で制限が厳しくなっているんですね。
(略)

[竹崎三立・保団連副会長]

 (前略)例えば、医科の場合は昨年の診療報酬改定で、(難易度の高い)手術(点数)が大変上がりました。500床を超えているような大病院で、外科系(中心)の所は間違いなく上がったんですね。

 ところが歯科の場合は、最も一般的な、基本的な技術料はそんなに上がっていないわけです。そうすると、平均では上がっているんだけれども......、全然上がっていない。ないしは、いろんな書類とか条件が加わることで診療報酬の請求ができず、マイナスになる所も相当あるわけです。(中略)

 「うちは全然上がってないよ」という所が一杯あることをトータルにどう評価するかということです。高度先進医療の所は点数がバーンと上がったんだけれども、請求件数は大変少ないから総合的な費用としてはそれ程のものではない
(略)

要するに診療報酬改定のマジックということなのでしょう、平均して報酬が幾ら上がりましたとマスコミには数字が出てくるわけですが、では実際の保険請求の方から逆算してみるととてもそんなに上がっているようには思えない、その理由として滅多に加算がとれないようなところばかりが点数が上がって、日常的に請求しているような部分ではまるで点数が上がっていなかったという実態があるということです。
医科の領域でも「こんな加算が取れる施設がどれだけあるんだ!」なんて無茶な算定要件の加算ばかりに高い点数が設定されていたり、今の時代当然やってしかるべきことと社会的にも要求されている安全対策関連では到底対策が出来るようなお金が出ていないという話があって、しかも中医協の場においても国や支払い側委員などはそれを十分に理解した上でやっているなんて話がありました。
歯科のこういう話を聞いて普通に考えるなら、保険診療の範囲でやれることをなるべく小さく制限していこう、そして患者を自費診療に誘導していこうという意図が疑いようもなさそうに思えますが、医科での例から想像するに当然ながらこれも国や支払い側の意図を反映した結果であると捉えるべきなのでしょう。

こうした先行する歯科での事例を知った上で、医科の側でも混合診療が解禁になった場合にどうなるか、恐らく真っ先に取り入れられるのは今高度先進医療などでやっている領域なんだと思いますが、ある時点で高度医療であっても時代が下ればごく普通の医療という話は幾らでもあるわけで、そうなるとどこの段階で通常の保険診療に組み込んでいくかという議論が必発であるはずですよね。
例えば今は医療の標準化ということで多くの疾患で診療ガイドラインなんてものが策定されてきていますけれども、すでに以前から「ガイドライン通りの治療は保険診療の制約上出来ない」なんて話が結構あった、それに加えて今後はガイドラインに取り入れられた治療法のみ保険診療に組み込んでいくといった使い方も考えられ、しかも「使いたいならどうぞ。混合診療で使う自由は認めています」という言い訳も効くわけです。
もちろん支払い側はともかく国としても無原則に渋いことばかり言うというものでもないのでしょうが、医科の側の方が支出の額としてはずっと大きなものになるわけですから制限のやり甲斐はある道理で、しかも通常診療の範囲を逸脱した高額の医療費を使うような人々は社会的にも少数派でしょうから、民主主義の原則から考えると真っ先にターゲットにはなりやすそうですよね。
混合診療推進派にしてもどこをどこまでという部分について必ずしも意見が一致しているわけでもありませんが、結局のところは声の大きいものの意見が通るということになるのであれば、国民の側としても「いやそれは保険外にしてもらっては困る」といつでも声を出せるように用意しておくか、いざという時のために民間保険なりの手立てを用意しておくべきだと言うことになるのでしょうか。

[朝日新聞]

 (前略)どこから、どういう風にお金を持ってくるか、これから議論が進んでいくと思われますが、保団連としてはどう考えるのか、お聞きしたい。

[竹崎三立・保団連副会長]

 最終的には国民自身が、自分たちが受ける医療というものに対して、その費用をどのように了解していくかということだと思います。

 どんな医療であれ、一定程度の費用が掛かることは当たり前のことなんで......。国民自身がどこまでなら治療に対するペイをするのか、どこのレベルまで合意できるかということです。

 インプラント(を保険適用にするか)もありますけれども、医科でも高度先進医療でますますいろんなものが出てきているわけですよね。そうすると、どのレベルまで本当に国民皆保険制度の中で、きちんと保障していくのかどうか。(中略)

 高齢化もありますが、医療の高度化が総医療費を上げていることは間違いないわけですから、そういう意味での国民の合意形成がどれだけできるかということが一番大切だと思っています。(中略)

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