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2011年1月13日 (木)

増やせば増やすだけ楽になる?

先日出ていた何ともめでたいというニュースがこちらなんですが、まずは記事から紹介させていただきましょう。

新見に弁護士新事務所11日開設 本州唯一の「ゼロワン」解消へ/岡山(2011年1月6日山陽新聞)

 弁護士がゼロもしくは1人しかいない「ゼロワン」地域である岡山地裁新見支部管内の新見市に11日、岡山弁護士会所属の弁護士が事務所を開設する。管内2人目の常駐弁護士。全国に計253カ所ある地方裁判所・支部のうち、本州で唯一となっていたゼロワン地域が解消される。

 開設するのは、2008年に弁護士登録、10年末まで岡山市内の事務所に所属していた丹羽一裕弁護士(38)。弁護士不足の地域で事務所開設費用を支援する日本弁護士連合会(日弁連)の制度を活用し、新見市西方のビル1階に法律事務所を構え、常駐する。

 同支部管内には05年3月、司法過疎解消を狙いに、公設の新見ひまわり基金法律事務所(同所)が開設された。しかし、弁護士1人だけのため、利害関係者双方から相談があった場合、一方の依頼を断らざるを得ない状況で、民事裁判では弁護士を伴わず当事者だけが出廷するケースも少なくないという。

 「困っている人を助けるために弁護士になった」という丹羽弁護士は10年9月、そうしたゼロワンの“弊害”を解消したいと独立を決意。「法的ニーズの掘り起こしに努め、気軽に相談できる“町のお医者さん”のような事務所にしたい」としている。

確かにこういう状況では何かと不便なのも理解は出来るのですが、今どきの道路状況であれば新見市から岡山市まで一時間程度ではないかと思いますし、そもそも医業と異なって弁護士の仕事というのは一分一秒を争うような緊急の事ではないわけですから、わざわざ少数の弁護士を田舎に常駐させる意味がどれほどあるのかという疑問は感じてしまいます。
こういう言い方をしては失礼ですけれども、弁護士が二人ということになればどうしても紛争当事者はその優劣というものが気になるところで、下手をすれば紛争の度に先に○○先生を取った方が勝ち組、なんて話にもなってしまうんじゃないかという懸念もあるやも知れません。
いずれにしても今やこうして弁護士が積極的に法的ニーズを掘り起こしていかなければならない時代になったのかとも思える記事ですが、都市部ではすでにそれどころではない騒ぎになっているようですね。

弁護士、3万人時代 過疎改善も都市部は激戦 若手は“悲鳴”(2011年1月10日産経新聞)

 法曹人口増加の政府方針により弁護士が15年前の約2倍の3万人を超えた。地方の弁護士過疎に改善傾向がみられる一方、都心では競争激化で若手弁護士を中心に「仕事がない」との“悲鳴”も。法律事務所に就職できず、弁護士にならない人も急増している。

 日弁連によると、昨年12月16日現在で弁護士は約3万300人。年々増加する中、日弁連は地裁支部管内に弁護士が全くいないか1人しかいない「ゼロワン地域」解消のため、事務所開設資金を支援。その結果、1990年代に50カ所あった「ゼロ地域」は昨年末に消滅。それでも、関西地方のベテラン弁護士は「地方は経験10年未満の弁護士が過半数。サービスの質はまだ十分でない」と話す。

 一方、東京や大阪では激戦の様相。国選弁護人になるべく1日数件程度の依頼や抽選に若手弁護士が群がっているという。

新聞などを見ていますと色々と細かい事情も載っていたりするのですが、非常に興味深いなと思ったのは司法試験に合格しても弁護士登録をしないという人も結構いるらしいということです。
確かに弁護士会の会費などで年数十万単位の出費がいるそうですから、仕事が入る当てもない人にとっては到底払えない金額の固定出費ということになりますけれども、かつては最難関のエリート資格職とも言われた弁護士というものがそうまで追い込まれているということは注目されるべき事態ですよね。
そして前述のように各地で弁護士過疎地域の解消が図られているのはいいとして、その実態が単に職にあぶれた若手の逃散先になっているということであれば質的にどうなのかですし、何より過疎の田舎にも人材が行き渡るようになるまで増やすと言うことは、国全体で見るとこれだけの状況になってしまうという事実は見逃せません。
こういう弁護士過剰という状況になればどうしたって食べて行くために仕事を選んではいられないでしょうが、見ていますと非常に興味深い現象が起こっているらしいのですね。

企業内弁護士急増 5年で4倍に(2011年1月6日産経新聞)

 弁護士資格を持ちながら企業で社員として働く企業内弁護士が急増している。背景には、弁護士の増加による就職難で弁護士事務所以外の就職先を探さざるを得ない弁護士側の事情に加え、企業側のコンプライアンス(法令順守)意識の高まりや経済のグローバル化で法律業務が拡大し、弁護士需要が増大していることがあるという。

 日本組織内弁護士協会(東京)によると、調査を始めた平成13年に64人だった企業内弁護士は年々増加し、22年7月の調査で435人に。5年前の122人に比べ約4倍に増えた。

 その理由の1つは弁護士数の大幅な増加だ。日本弁護士連合会(日弁連)によると、22年12月1日時点で2万8868人と、5年前の2万1185人から約1・4倍に増加。23年には3万人を突破するのは確実で、15年前(1万5108人)の約2倍だ。

 弁護士数の増加に伴い、司法修習を終えたばかりの新人弁護士がそのまま企業などに就職するケースも目立つ。20年に弁護士登録した人のうち65人(全体の約3・2%)、21年登録のうち57人(同2・7%)が企業などに就職した。

 8人の企業内弁護士を抱えるパナソニック(大阪)では、3年以上の弁護士経験を目安に“即戦力”として採用している。その意義について、コーポレート法務グループの新井克彦マネジャーは「価値観を共有しながら、プロジェクトの初期段階から法的な検討を加えつつ意思決定できるのが魅力。必要なら、すぐに現地に飛んでもらえる機動性もある」と話す。

 4年余りの弁護士事務所勤務を経て同社に入社し、企業の合併・買収(M&A)などに携わる寒(さ)川(がわ)智美弁護士(38)は「世界を舞台に大勢の社員と力を合わせ、大きな仕事を成し遂げる達成感は弁護士事務所では味わえない」と醍醐味を語る。

 増加傾向が著しい企業内弁護士だが、日弁連副会長として新人弁護士の就業サポート担当を務めた小寺正史弁護士は「弁護士数の増加分に比べれば、思ったほどのペースでは増えていない」と指摘。

 日本組織内弁護士協会理事長で、日弁連組織内弁護士プロジェクトチームのメンバー、片岡詳子弁護士は「今後も企業内弁護士の需要は確実に高まる。認知度を高める努力を続けたい」としている。

企業の側にとってももちろん需要が高まっているというのは確かなのでしょうが、裏を返せばこうしてサラリーマンとして企業に入っていくくらいに弁護士の側にとっても求職の需要があるということで、かつての弁護士=高給取りの代名詞であったような時代からするとちょっと信じられないような話ですよね。
こういう状況が成立するための前提条件として、企業に勤めるということと弁護士として働くということの間に待遇面でさほどの違いがないということが必要なんだろうと思うのですが、以前にも紹介したように司法修習生の4割が就職先も決まらないだとか、わずか三年間で弁護士の平均年収が以前の4割水準にまで急降下したとか言う話を聞けば、安定した企業に就職した方が得なのではと考える人も当然少なくないのでしょう。
いずれにしても新司法試験でチャンスと見て弁護士を目指してきた方々にとっては「こんなはずじゃなかったのに」でしょうが、こういう状況が弁護士を身近におけるようになった地方の住民にとっても、弁護士の選択枝が増えた都市部の住民にとっても、そして安く自前の弁護士を抱えられるようになった企業にとっても、いずれも非常に喜ぶべき状況であるということは言えるんじゃないかと思います。

先日も文科省で医学部定員はどの程度にするべきかという議論が始まった件を紹介したところですが、どうやら現場で医者が足りているかどうかなんてレベルをはるかに突き抜けて国策として医者を大幅に増やすつもりだという気配が濃厚ですから、近い将来これ以上(あるいは以下?)の状況に医者の世界も追い込まれるということは確実だとして、それで誰が困るというわけでもないのもまた同様の話ですよね。
国民や企業にとってももちろんですが、たとえば「OECD平均まで!」が口癖の熱心な医師増員論者として知られる某大先生なども、基幹病院の管理職としての立場からすれば安く骨惜しみせず働く(それはこういう状況になれば、食っていくため誰しも必死にもなるでしょう)医者を幾らでも抱えられるようになって万々歳というもので、誰にとっても反対する理由などないわけです。
現場の人間が「いや、医者という人種のモラルが低下してしまって、ただ食っていくための道としてやるようになったら大変だよ?」と言ってみたところで、部外者にとってはしょせん既得権益擁護としか受け取られない話ですから、それなら残された時間において少しでもましな撤退戦の準備を整えておくのがまだマシであるということになるのでしょうか。

なぜか現場医師の代弁者のような顔をしている日医の原中会長などは、先日も「過疎地域に行った医師にポイントを与えて、将来、都市部で開業したい時には、ポイントを持っている人の開業を優先できるような方法が取れればいい」と持論を展開していましたが、実のところ国からすれば「開業権を得るのが医者の勝ち上がりの道となるべきだ」なんて日医の主張は願ったり適ったりなんだと思うんですね。
世論の後押しを受けて近年ますます開業医に対する診療報酬配分は冷遇されていますけれども、実質的によほどの軽装開業か親の継承ででもない限りは新規開業など地雷以外の何者でもないという状況に陥りつつある中で、それでも唯一勤務医無間地獄から脱出する逃げ場が食うや食わずの開業であるということになれば、逃散先の門戸は狭まる一方であるわけです。
ひと頃はさんざん馬鹿にされていた老人病院や老健施設の常勤医といったポストもすっかり埋まりつつあるという昨今、後から後から新規参入してくる医者達はどうしたって条件の悪い職場に就職せざるを得ない道理ですが、当然供給がそれだけ増えれば値崩れも起こしてくるということで、国にしろ国民にしろ大先生にしろ万々歳な状況はもはや目前に迫っていると言えそうですね。

過去三十年もずっと横ばいだった(つまり相対的に見ればずっと下がりっぱなしだった)勤務医の金銭的待遇が今さら下がろうがどうでもいいことかも知れませんが、問題は先の弁護士業界などの事例を見ても供給過剰の状況になったからと言って別に仕事が楽になったわけではない、むしろ以前よりずっと忙しくなっている側面も見え隠れしているという点で、まさしく単なる人員増が労働条件改善に結びつくわけではないということの傍証と言えるかと思います。
単純に考えても労働あたりの単価が下がればより多くの仕事をこなさなければならないというのは当然のことですけれども、例えば国選弁護士の仕事を求めて行列に並ぶだとか、新規顧客を開拓するためにあちらこちらに挨拶回りをするだとか、今までは司法書士など他業種がやっていた仕事にまで手を伸ばさなければ食べていけないだとか、気になるのがどうも弁護士の仕事の内容自体がより専門性の低い領域に変わってきているということですよね。
これを医者稼業に置き換えてみれば何のことはない、毎朝病棟を回って患者さんの採血や点滴をして回るだとか、薬局まで薬を取りに行き検査室に検体を持っていくだとか、患者さんの車椅子を検査センターまで押していくだとか、要するに医者余りの大学病院でやってきた医療が日本全国のスタンダードになっていくということになるのかも知れませんね。

さてそこで問題ですけれども、平均的水準よりずっと多くの医者を抱え込んでいる大学病院と、ずっと少ない医者しかいない市中病院とではどちらが医者の待遇が良く、日々の仕事がやりやすく、何より医者が医者として果たすべき仕事に専念出来ているのか、これは誰もが悩まざるを得ないほどの難しい問いかけですよね(笑)。
昼夜を問わず続く激務に悲鳴を上げ、もはや何ともならないのであれば逃散するしかないとまで思い詰めた全国勤務医の「現状を変えたい!」という切実な叫びを、その結末までも予想して自分達の望む方向に誘導してきたのだとすれば、大先生とは単なる声が大きいだけの○○だなどととんでもない、希代の策士として後世に語り継がれる偉人の一人であったのかも知れないと、実は最近ちょっと見直してます(笑)。

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