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2011年1月17日 (月)

時代はどんどんと変わっていくはずですが

本日まずはかねてからの懸案という話題の続報を二つばかり紹介しておきますが、最初にこちらの記事からいってみましょう。

新上野原市立病院:土地改良区が同意 造成工事着手へ /山梨(2011年1月13日毎日新聞)

 3月の本体工事着工が計画されている上野原市の新市立病院について、周辺道路造成予定地に水路を持つ地権者の上野原土地改良区(理事長・奈良明彦前市長)は12日、理事会を開き、市が造成工事で土地を使用することに同意した。造成工事は昨年11月に着手予定だったが、改良区の反対でストップしていた。周辺道路は本体着工に不可欠。今回の同意で、新病院建設が前進することになった。

 奈良理事長は記者会見で「同意しないと、国の耐震化工事など補助金約10億円がもらえず、新病院が建設できなくなる」と説明した。補助金は3月末までに着工すれば交付される

 会見によると、理事会には江口英雄市長が出席し、奈良理事長に「新病院建設の諸手続きで、市の不手際から、多大なご迷惑をかけ、誠に申し訳ありません」とする文書を提出。文書には、奈良理事長が同意の条件とした上野原医師会との和解について「(医師会と)協議しているが理解をいただいていない。医師会の理解を得るよう鋭意努力を重ねる」と記されていた。

 江口市長は「奈良理事長らに感謝する。医師会とも協調し、12年春の新病院開設を目指す」とのコメントを発表した。【福沢光一】

上野原市民病院の話題は過去にも何度か取り上げていて、先日は新病院造成工事開始のための条件であった市と医師会の和解を医師会側が断固拒否しているということをお伝えしましたけれども、どうやら市側が歩み寄ると言う路線で決着しそうな気配ですね。
医師会のメンツはともかく新病院の今後ということから考えると、一番の問題はかねて不採算となる事が確実視されている産科や循環器救急といった市長のごり押し項目がどうなるのかでしょうが、もはやここまで後退に次ぐ後退を続けてきた市長としても今さら「いや、あれはやっぱりやりますから」などと言い出せば、病院計画自体が頓挫しかねないというくらいの空気は読んでもらいたいものです。
それなら病院の指定管理者である地域医療振興協会の言うことを最初から聞いていれば良かったという話なんですが、一連の新病院問題は医療と言うものが地方自治体における票集めにも非常に大きな影響力を持つようになった時代にあって、現場の経営努力や方針を無視して自治体首長が「自治体病院ですからあれもやります!これもやります!」と好き放題言って回ることに非常に大きな警鐘を鳴らした事例と言えるのでしょうね。

さて話はかわって、先日は大阪高裁で「当直は労働時間である」という一審判決を支持する判断が示された県立奈良病院の産科医による民事訴訟ですけれども、どうやら原告たる産科医側はさらに攻め込むつもりであるようです。

産科医割増賃金訴訟:産科医側3回目提訴 08、09年割増賃金支払い求め /奈良(2011年1月14日毎日新聞)

 県立奈良病院(奈良市)の産婦人科医2人が、夜間や土曜休日の宿日直勤務を時間外労働と認めないのは違法として、県に04、05年分の割増賃金の支払いを求めた訴訟を巡り、産婦人科医側が新たに08、09年分の割増賃金約5000万円の支払いを求めて奈良地裁に提訴したことが、訴訟関係者らへの取材で分かった。提訴は昨年12月30日付で一連の問題では3回目

 04、05年分については奈良地裁が09年4月、宿日直勤務を時間外労働と認め、県に計約1540万円の支払いを命じ、大阪高裁も昨年11月、地裁判決を支持、原告・被告双方の控訴を棄却。県が上告している。

 また、06、07年分についても、産婦人科医側が計約1億円の支払い求めた訴訟が奈良地裁で係争中。産婦人科医側は3回目の提訴をしたことについて「時効が成立するため」としている。

 県と同病院は昨年7月に労使協定を締結。医師の時間外労働は年間1440時間を上限とし、特別な事情があれば協議の上でさらに360時間延長できるとした。荒井正吾知事は昨年12月、細川律夫厚生労働相に対し、法整備などを含め、医師の夜間や休日勤務について全国的に対応するよう要望している。【高瀬浩平】

おそらく自らは訴訟を起こさないまでも、全国各地で多くの勤務医が心情的に両産科医の応援をしているのではないかと思いますが、いずれにしてもこうした訴訟の場における奈良県当局の主張の数々が明らかになっていくほどに、同県の聖地としての地位はいや増そうと言うものですから、他府県に対しての以て他山の石とするべき教訓としてもこの訴訟の意味は小さいものではありませんよね。
何よりネット時代に入ってから他業種との情報交流がようやく進むようになり、全国の勤務医が次第に「あれ?俺たちってまさかとんでもない非常識なことやらされてる?」と気付くようになった、その一連の流れに対して司法の場での判断が裏付けをしていっているわけですから、今後同様の境遇にある勤務医達にとって法廷に持ち込めばかなり高い確率で勝てそうだと言う確信を与えることになったんじゃないでしょうか。
考えて見れば医者という専門職は希少価値もあれば伝統的に売り手市場でもあって、本来なら労使交渉において相応の発言力もあるはずですが、いままではそうした交渉自体に興味がなかったということなのか、勤務条件や給与なども含めてただ黙って言われた通りに働くという場合が多かったのですが、いつまでもそうした「医者の常識は世間の非常識」が通用するわけにもいきません。

今の時代には医者は聖職であるなんて特権的?意識は否定されていて、医者も世間並みの常識を身につけなければならないという声が主導的ですから、これまた世間並みにきちんとした契約に基づいて労働を行い、その対価として正当な報酬を要求するということは当たり前のことなのでしょう。
ちょうどネット上から始まった医者の意識改革とちょうど相前後するように、長年「白い巨塔」などと世間で言われてきた大学医局の権威の否定や、新臨床研修制度導入による新卒医師の流動化が進んだ結果、医者が自分で病院と交渉し自由に仕事を得るという世間並みのスタイルが急速に一般化しつつあるのは非常におもしろい現象だと思いますが、一方ではそれに対抗するような動きもあるようなんですね。
特権的地位を剥奪されつつある大学医局が意外にさばけていると言いますか、これも時代の流れと割り切っているらしいのと対照的に、近年「全ての医者は医師会へ加入せよ」だの「開業の資格を得るためには僻地勤務を義務づけるようにせよ」なんてなりふり構わぬ主張をしていらっしゃる日医などは、いっそ清々しいほどの態度で医者に新たな首輪を付けて回ることに熱心であるようです。

臨床実習に国家ライセンスを-日医が改革案(2011年1月12日CBニュース)

 日本医師会は1月12日の定例記者会見で、医学部教育から初期臨床研修までの教育研修の在り方についての制度改革案の骨子を示した。骨子では、医学部 5、6年生が行う臨床実習で医行為を行うために、国家ライセンスを取得することを義務付けるとしている。改革案は、今月にも正式に発表する。

 改革案は、医師の教育研修の在り方の問題点を把握するために、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が都道府県医師会の会長や大学病院の教育関係者など37人にインタビュー調査を実施し、その結果を踏まえたもの。

 改革案は、▽医学部教育における臨床実習のライセンス化▽医師国家試験の臨床への集中▽初期臨床研修における初期対応力養成を基本とする柔軟なコース設計-の3本柱。

 臨床実習については、日医総研の調査で、医療事故の際の責任の所在がはっきりしないことなどを理由に、実際に医行為を行う実習が不足していると指摘する声が上がった。これを受け、改革案では医学生が臨床実習に進むために国家ライセンスを取得しなければならないとした。ライセンスの取得には、必要不可欠な医学的知識を問う「CBT」、症例への具体的な対応が求められ、技能・態度が問われる「OSCE」に合格しなければならないとしている。
 また、実際に医療事故が起きた場合に、医学生個人の責任を問わなければならないケースがあると指摘。国家ライセンスを取得した医学生には医師賠償責任保険への加入を義務付けるとしている。医賠責保険については、日医が運営している一般医師向けのものを拡大して臨床実習生にも提供する仕組みをつくるとした。

 このほか、国家試験については、臨床面に焦点を当てるとしている。一方、初期臨床研修については、初期処置能力獲得を共通の目標に設定し、それが達成されるかぎりは柔軟なコース設計が可能としている。

日医さんもかねて医師教育についても今後持論を展開しますよなんて予告はしていましたけれども、蓋を開けてみればこういうことを言い出すというのですから開いた口がふさがらないと言いますか、相変わらず何をどう考えているのか理解しがたいようなところがありますよね。
そもそも臨床実習に進むために国家ライセンスが必要であると言うのであれば、当然ながら臨床実習の始まる以前の四年生末までに必要不可欠な医学的知識だの症例への具体的な対応や技能・態度が身についていなければならないわけですが、こうしたものはいままで五~六年生の臨床実習期間を通じて身につけていたものです。
当然ながら二年間分を前倒しするということになれば臨床実習に必要な能力を身につける前提となる基礎医学的知識はそれ以前の段階で身につけておかなければならない、となれば従来そうした時期に行われていた一般教養などはどうなるのかという話で、要するに医学部というところを医療以外何らの知識も教養も持たない人間を量産するだけの国試予備校化したいと言うことなんでしょうか?
事故の際の責任の所在が云々と言っていますが、そうした責任論と医療知識、技能の問題は全く別な賠償保険の領域であることに加えて、そもそも医師免許を取得してもいない医学生に医療事故の責任を問われるような実習を行わせることの是非も問われるわけですが、一体日医が何をどう考えてこんな話を出してきたのかということが気になります。

わずか37人へのインタビューで決めたというこうした内容が日医内部においてもどの程度のコンセンサスを経て形成されてきたものなのかも判りませんけれども、例えば昨今話題の救急隊への教育の必要性などといった話の流れで臨床研修向けのライセンスを創設すべしなんてことであればまだしも理解できますが、あまりにも唐突すぎる提案の意図がいったいどこにあるのか疑問の余地無しとしません。
下世話な考えをするならば、このシナリオの中で医賠責保険に関しては日医御用達のそれを医学生にも適用しようと言うことですから、なるほどそのあたりに何かしらの利権構造でも発生するのかとも推測されますけれども、こうした医師教育改革案の出所が大学関係者はともかく、都道府県医師会会長などというおよそ教育研修ということに関しては最も縁遠そうな人々であるというのはどうなんでしょう?
医者がようやく旧来の因習を離れて自由になりつつあるという時代に、改めて医者に自前の首輪を用意しようと昨今の日医が一生懸命努力されているのは判るのですが、その究極的な目的が医者の世界における日医という組織の特権的地位確立などという小さく邪なところにあるのだとすれば、これはどう考えても多くの支持を得られるようには思えません。

ところでこんなことを言っていても世間では日医って、医者の利権団体か何かのように言われているらしいんですが(笑)、どこの世界の業界利権団体だよと思わず突っ込みたくなる主張の数々を思い返して見ると、なるほど医者の常識は世間の非常識とはこういうことかとうなずけるところはありますかね。

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コメント

総理大臣だって、仮免があるんだから、医者にも仮免があったっていいじゃないか、ということですね。
「民主党支持」医師会幹部の発言としては、意外と理にかなっているのかもしれません。

投稿: | 2011年1月17日 (月) 14時51分

ネタ元はこのあたり?

スチューデントドクターの認定証交付 山大医学部、臨床医の第一歩
http://yamagata-np.jp/news/201101/17/kj_2011011700278.php
 山形大医学部(山下英俊学部長)は17日、付属病院で臨床実習を始める医学生81人に「スチューデントドクター」の認定証を交付した。

 同学部の医学生は4年次から約1年半かけて、患者の診察や検査、治療などに携わる臨床実習を行う。授与式で、山下学部長は「いよいよ患者さんを前にした勉強が始まる。一つ一つ考えながら臨床医としての第一歩を踏み出してほしい」と激励。代表の栗田紗由美さん(医学科4年)に認定証を手渡した。

 スチューデントドクターは、臨床実習資格判定に合格した学生に与える同学部独自の「称号」制度。医療に参加する責任と心構えを学生に再認識させるとともに、学生の質を大学が保証し、患者側の抵抗感や不安感を払拭(ふっしょく)するのが狙いだ。09年から導入している。

投稿: 匿名希望 | 2011年1月18日 (火) 05時02分

世間知らずなまま黙って奴隷労働に勤しむ医者が多い方が盆暮れには海外周遊したい医師会の御老人方にとってはありがたい話なんだから首尾一貫してると言うべき

投稿: | 2011年1月19日 (水) 10時58分

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