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2011年1月 7日 (金)

産科医療最近の話題から

世に「過ちて改めざる、是を過ちという」なんてことを言いますけれども、改められて初めてそれと世に知られる過ちというものも多々あるもので、先日はこんな記事が出ていました。

都立病院、分娩料を10月から上げ 一律15万7000円に(2011年1月5日日本経済新聞)

 東京都は都立病院の分娩料を10月から値上げする。現在の分娩料は出産の時間帯によって異なり、午前8時30分から午後5時15分は8万 6000円。夜間や早朝・深夜はこれに2万~3万円程度上乗せしている。10月からは時間帯に関係なく15万7000円に金額を一本化する。

 産科医療では医師不足が問題となっており、都は医師の待遇改善や人員補充に取り組んできた。都は値上げの理由を「医師の人件費が高騰しているため」と説明している。都立病院は年間に約3600件の出産を手掛けている。

いや、いくら基本料金だけとは言っても分娩料8万6千円って幾らなんでも安すぎるんじゃないかと思うところですが、調べて見ると全国の公立病院で結構こうした値付けをしているところはあるんですね(さすがに昨今では値上げしつつあるようですが)。
あちらこちらの施設で実際にかかった分娩費用の内訳というものを公開してくださっているものをみてみると、確かに公立病院の分娩料は不当に安く据え置かれているということがよく判りますが、今回の値上げ分を込みで考えてもやはり公立病院での分娩取り扱いというのは、医者らスタッフにとっては割の合わないものであるという状況は変わらないように思えます。
官民の病院における待遇格差なども同様の傾向ですけれども、世間ではお役所仕事と言えば非効率の代名詞のように言われる中で、ことこうした公立病院での医療という問題に限っては医者が奴隷のごとく酷使され、民間よりずっと安い医療を提供しているというのも何かしら興味深い現象ではないかという気がしますね。

まあそうした余談はともかくとして、こういう記事を見ますと分娩料値上げ料引き上げ分はそっくりそのまま医者の待遇改善に使われるものかと当然考えてしまうわけですが、もともと東京都というところは全国でも際だって公立病院医師の待遇が悪いことで知られていた土地柄です。
それが例の産科絡みの騒ぎが全国的に多発していると騒がれるようになった時期から考え直したということなのでしょうか、2008年から産科医に少しばかり手厚い手当を出すようにはなったと言うことなんですが、一方でざっと調べた限りでは分娩取り扱いで直接一件あたり幾らという手当がつくのは異常分娩に限られているように見えるのですが、実際のところどうなんでしょうね?
仮に相変わらず正常分娩は通常業務のうちということで報われない状況が続くということであれば、これは幾ら頑張ろうが疲れるだけだということで現場のモチベーションも上がらない、それどころか過労に追い込まれてうっかりミスでもするリスクを考えれば公立病院など働いたら負けだということで、全国公立病院で昨今みられるようになった自主的な労働調整が東京都においても進行していくかも知れませんね。
一応全国的に見ると近頃では分娩毎に手当をつけるという施設が増えてきていて、今では待遇が悪いことで有名な大学などでも四割超の施設で手当があるということですが、実際の手当支給の条件などを見てみると東京都の場合と同様に問題なしとしないようで、これでは実態を反映しない名ばかり形ばかりの「待遇改善」に過ぎないのではないかと言われても仕方がないところでしょう。

分娩当たり手当は増加、時間外は依然少数―産婦人科勤務医アンケート(2010年12月13日CBニュース)

 日本産科婦人科学会が実施した「大学病院産婦人科勤務医の待遇改善策の現況に関するアンケート調査」によると、調査対象となった106病院のうち、分娩当たりの手当が支給されているのは48病院で、全体の約45%だった。一方、当直時間帯の診療に対する時間外勤務手当について、完全に支給されているのはわずか15病院にとどまり、労働時間に見合った適切な処遇を求める現場の声と乖離した現状が浮き彫りになった。

 調査は2007年から毎年7月ごろに行われ、今回で4回目。調査対象は大学病院106病院で、内訳は国立大病院43病院、公立大病院8病院、私立大病院本院29病院、私立大病院分院26病院。

 調査結果によると、産婦人科医の当直体制について勤務超過を緩和するため、交代勤務制への移行が現場で模索されているが、実際に交代制が取られているのは国立の1病院のみで、それもMFICU(母体・胎児集中治療室)勤務に限られたケースだった。このほかは、少数の病院で宅直制が取られているものの、大多数が宿直制だった。

 分娩当たりの手当については、手当が支給されているのは106病院のうち48病院で、全体の45%だった。半数には満たないが、おととしの14病院と比べると、この2年で3倍超となった。ただ、手当の支給条件を時間外分娩に限定している病院も多く、本院では国立で27病院中13病院、私立で12病院中9 病院が時間外に限定していた。

 また当直時間帯の診療に対する付加的な報酬のうち、時間外勤務手当をすべて支給しているのは15病院、時間外手術に対する手当は37病院、緊急入院・搬送対応に対する手当は9病院にとどまった

大学病院などはアリバイだけの待遇改善だとしても、医療機関がどこも儲からない今の世にあって金銭的厚遇にも(特に、特定診療科だけとなりますと)自ずから限界もあるでしょうし、お産もかつてのような産めよ増やせよという時代背景の中で院内の稼ぎ頭という感じではなくなった、むしろ産科医を集めることの困難さや訴訟リスクの高さを考えると割に合わないと、お産からの撤退を検討あるいは実行している施設も少なくないようですよね。
産科医の側にしても様々な意味でバックアップ体制が整っていない施設ではお産などやりたくない人も多いでしょうから、今後徐々にお産施設の淘汰あるいは統廃合が進んでいく可能性もあるかと思うのですが、そうなると淘汰されていく側の施設としてはどうなのかということです。
とりわけ地方の公立病院あたりでは「うちの町の病院はお産も出来ないのか!」「産科医もいるのになぜお産を取らないんだ!」と市民からもお役所からも圧力がハンパないですから、一人医長の先生などは胃が痛い思いをしながら無理をしてお産を取り扱うか、いっそ職場を辞するかと決断に迫られる局面も増えているでしょうが、最近ではこの方面で人的な面でのサポートの必要性もようやく認められつつあるようですね。

奈良県立医大に院内助産所 役割分担でケア充実/奈良(2010年12月17日産経新聞)

 奈良県立医大病院(奈良県橿原市)で、正常な妊婦の出産を助産師が中心となってケアする「メディカルバースセンター(院内助産所)」が完成し、17日、報道陣に公開された。

問題を抱え、高度な医療が必要な妊婦は産科医が担当し、役割分担を明確化。医師不足の中でも必要なケアが行き渡るようにするのが狙い。

 奈良県では平成18年8月、同県大淀町の町立病院で分娩(ぶんべん)中に意識を失った女性が転院を相次いで断られ、搬送先で男児を出産した8日後に死亡する問題が起きた。県はこれ以降、産科医不足への対応策を検討していた。開設は来年1月11日。

 医師不足が深刻化する中、院内助産所は数年前から注目を集め始め、20年からは厚生労働省が整備に補助金を出す事業も始まっている

昨今ちょっとしたブームなのがこの院内助産というものなのですが、とうとう大学病院にも導入されたと言うことで、かねてなにかと問題が多いと言われて久しい開業助産所などと比べると産科医という限られた資源保護の点でも、チームによって医療の質を向上させるという昨今のトレンドに沿う意味でも積極的に活用されていくべき手法ではないかと思います。
もちろん産科医一人を雇うお金で助産師が三人雇えるだとか、金銭的にこれ以上お金はかけられないといった事情も背景にあるのかも知れませんけれども、個人的にこの院内助産については単純に産科医保護という側面だけではなく、むしろ先日も話題になったホメオパシー騒動にもみられるような一連の開業助産師問題に対する一つの解決策としても注目しています。
医者という人種は自信家が多いのか、「他人に任せるくらいなら俺がやった方がうまくいく」とばかりに何でも自分で片付けてしまう傾向がありますけれども、誰でも出来る仕事まで抱え込んだ結果過労を来たしミスを連発する、あるいは本当に自分にしか出来ない仕事に手が回らなくなってくるということでは本末転倒ですから、そろそろ他人をうまく使って楽をするということも真剣に考えていかないといけないはずですよね。

昨今国の方針として導入が進められそうな勢いのナースプラクティショナーなどもそうですが、コメディカルスタッフの業務拡大ということに関しては今も医者の側から反対意見も根強いのは事実で、その背景には「自分より下手な人間に仕事を任せるなんて不安」だとか、さらに進んで「下手くそな他人の失敗で尻ぬぐいを押しつけられるのではやっていられない」という素朴な反発があるように思います。
ただし医療の需要側の抑制が当面劇的に進展するということはまず考えられないわけであって、そうであれば今ある需要に対して医療業界全体としてどう対処していくのかという答えを提示することは専門職としての義務だと世間ではみているでしょうから、そろそろ医者も医療の全体像を見渡した中での適正な業務分担ということを考えておいた方が、何より結局は自分のためでもあるんじゃないでしょうか。
医療に対して社会的に出来ること、やろうとしていることが着々と話が進んでいく中で、現場を知らない人間に無茶苦茶に仕切られるくらいであれば医者が仕切った方がまだしも仕事は回る体制にもっていけるだろうし、後になって「誰が勝手にこんな阿呆なシステムを組みやがった!やってられるか!」と大騒ぎするくらいなら、今から声を出して言いたいことは主張しておいた方が気分はよくなりそうですよね。

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