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2011年1月12日 (水)

その時日医はこう言った

すっかり存在感のなくなって久しい日本医師会(日医)という団体ですが、当事者達は未だに日本の医療に対してそれなりの影響力を発揮しているつもりではあるようで、何かしら主観と客観との間に存在するギャップもかの団体にとっての不幸の一つになっているような気がします。
そうした余談はともかくとして、先日は日医会長の原中氏がインタビューに答えてこんなことを言っていたということなんですが、これがどこから見てもなかなかに受けのとれそうな内容らしいということで、記事から引用してみましょう。

医師偏在解消も含め「医療は県単位の時代に」―展望2011(1)日医・原中勝征会長(2010年1月5日CBニュース)

 政権交代後初となった2010年4月の日本医師会会長選挙で、民主党とのパイプを強調した茨城県医師会長の原中勝征氏が、現職の唐澤祥人氏、京都府医師会長の森洋一氏らを破って当選し、新執行部による日医の運営が始まった。しかし、夏の参院選では、日医の政治団体である日本医師連盟が「推薦」または「支援」した候補が全員落選し、政治との距離の取り方の難しさが露呈した。内閣支持率が低迷する中、原中執行部は今後、どのようなスタンスで医療を取り巻く諸問題の解決に取り組んでいくのか―。10年の振り返りと11年の展望について、原中会長に聞いた。

―10年4月の日医会長選で初当選し、新執行部の8か月を振り返っていかがでしょうか。
 今回の役員選挙は、従来の「キャビネット選挙」ではありませんでした。その結果、わたしの推薦する人たちが思った以上に当選せず、「ねじれ日医になった」「新執行部は数か月しか持たない」とまで言われました。しかし幸いなことに、そんなことは全くありませんでした。今になってみると、(4人の会長候補のうち)3人を応援した人がそれぞれ執行部に入ったことで、日本全国の医師を代表する医師会執行部とすることができ、喜ばしく思っています。
 社会保障は、公金を使って行われることがほとんどなので、わたしたちの考えを実現するには政府との協議が不可欠です。そのため、執行部の一人ひとりが政府関係者ときちんと話し合える場を一生懸命つくってきました。今では、日医の思想や信念をはっきりと打ち出し、政権に対して、きちんとメッセージを伝えることができるようになってきたと思います。

日医執行部がどうとかいう話題は日医内部の御老人方しか興味がないところだと思いますので、別に誰がどれだけ続けようが世論の批判にも興味にも晒されることもないんだろうとは思うのですが、会長曰く今では政府に対しても「日医の思想や信念をはっきりと打ち出し、政権に対して、きちんとメッセージを伝え」られるようになったというのは素晴らしいですよね(笑)。
ただ問題は言うだけであれば修学旅行で田舎から上京してきた小学生の皆さんでも同様に陳情は出来るということで、それが時の政府に対してどの程度の影響力を発揮出来るのかという点こそが重要なのだと思いますが、どうも今までの医療行政に関わる議論の流れを見る限りでも、日医と言う団体が以前よりも影響力を強く発揮出来るようになったという気配は全く感じられません。
日医と言う団体が今後発言力を手にするには開業医の利権団体という立場から離れて、今や政府も世間も最も注目している現場勤務医の代弁者としてどれくらい機能できるかということが問われるはずなんですが、そのあたりに関してもずいぶんと主観と客観との間に乖離があるようなんですね。

―10年4月には診療報酬改定が行われました。
 今回の報酬改定では、08年の前回に引き続き、勤務医の負担軽減に重点が置かれました。確かに勤務医の労働環境は厳しいものがあります。負担軽減の観点から言えば、医師の代わりに入退院時の説明をしたり、事務を手伝ったりする「医療クラーク」を大至急養成する必要があります。わたしたちとしても、これまでの医療秘書の教育に医療クラークの教育を加え、補助者として働いてもらえるよう検討を始めています。
 そのほか、今回の改定では、(看護配置)15対1の病院の評価が相当下がりました。その前提に、「黒字だからもっと下げていい」ということがあったのだと思います。しかし実際に調べてみると、全国的に看護師が不足する中で、経営が非常に厳しいことが分かります。安い給料で雇って黒字を維持している可能性がある民間病院を除き、公的病院だけで改定の影響を比較すると、一番マイナスになったのは15対1の病院でした。これらの病院は、地域で救急医療も担っているのに職員の給料は下がり、さらに医師、看護師の確保も難しく、赤字が一番ひどくなっています。もちろん、診療所も全くプラスになっていません
 中央社会保険医療協議会(中医協)に出されるデータは、病院で働く看護師の給料がどれだけ安いかまでは検証していません。医療・介護に対する分析は、もっと厳密にやらないと間違いが起こるということです。

―11年は診療・介護報酬の同時改定に向けて議論を進める1年になります。
 先の参院選で「ねじれ国会」になったので、相当早くから議論をしないと間に合いません。日医では現在、医療、介護それぞれについて議論するチームをつくっています。いろいろな問題点をいち早く洗い出して、それを日医の意見として急いで集約していく予定です。10年の報酬改定で焦点となった病院と診療所の再診料統一のような誤りを繰り返さないよう、しっかりと意見を申し上げていきます

いや、勤務医の負担軽減策ということで真っ先に口から出てくる対策が「医療クラークを大至急養成すべし」ですか…ある意味日医らしい現場感覚の欠如がいっそ清々しいほどのものがありますけれども、医療クラークをいくら養成したところで勤務医を疲弊に追いやる救急当直の過酷さが解消されるとも思えないんですけれどもね。
15対1の慢性期病院の評価が相当下がって赤字だとも言っていますけれども、厚労省としてはこの種の病院は統廃合というのが既定路線であり、自治体病院を統括する総務省にしても赤字病院はさっさと整理する必要があると言っているわけですから、国が一生懸命潰そうと政策誘導しているものに向かって、これでは経営が厳しくなるなんて言ってどうするのかです。
国が特定の目的をもってやっていることに対して、それでは既存の施設が立ちゆかないからというスタイルの反論は単に既得権益擁護と取られるのも仕方がないところで、日医のこういう長期的ビジョンの提示のない場当たり的な主張というものが、ことにやる気のある医療従事者からそろってそっぽを向かれる一因となっていることは自覚された方がいいんじゃないかと思いますね。
その意味では日医が現場目線を語ることの馬鹿馬鹿しさというものは相当なものがあると思いますけれども、自覚してのことかどうなのか会長氏はこんなことを言っているようです(苦笑)。

―日医の提言・施策を実現するための政権政党への働き掛けはどのように行っていますか。

 

現場を無視した問題が起こるたびに、関係各所に説明に行っています。例えば療養病床削減の問題です。これからさらに高齢者が増えるという時に療養病床を減らせば、社会不安は増します。帰る場所もない人や、一人で生活をしている入院患者の移動先を政府が保障するのは困難でしょう。病院現場で何が起こっていて、患者をなぜ動かせないかを現場目線で一つ一つ説明しています。今では民主党の政調に話をしに行くか、厚生労働政務三役や官僚と直接話をすることが多くなっています。重要な場面では、わたしが首相や厚労相に話をします。政治的スタンスをよく問われますが、民主党だから、自民党だからということではなく、政策を決める権利があるのは政権政党です。だからこそ、政権政党に説明して理解をしてもらい、「悪いものは悪い」と認めてもらうことがわたしたちの仕事だと思います。

実際のところ現場目線で見ますと(苦笑)、いわゆる社会的入院の寝たきりお爺ちゃんお婆ちゃんを療養病床に押し込めてただ寝かせておくことほど楽な商売はないわけですが、現場の人間がそれを喜んでやっているかのように世間に誤解されるのは甚だ心外であると感じられている先生方も多いのではないでしょうか?
その昔とある郡部で唯一の入院施設である公立病院の先生が語って言うことに、訪問診療など医療・介護サービスの助けを借りながら田舎の一軒家で寝たきりのお爺ちゃんをお婆ちゃんが介護している家がたくさんある、それを入院させればただ寝かせているだけでも月30万かかるが在宅なら15万で済むとなると、お婆ちゃんは月々15万分の労働をして社会に貢献してんだというんですね。
国保世帯の連なる田舎では保険財政も逼迫していて、誰も彼もお年寄りを片っ端から入院させるなんてことは財政的にも、町立病院の病床数やマンパワー的にも不可能な話で、そうであるからこそ寝たきりのお年寄りが増えている!もっと療養病床が必要だ!なんて脊髄反射的な発想でやっていたのでは地域自体が崩壊してしまうわけです。

もちろんそのためには在宅での介護を支援する各種公的サービスを(それこそ自宅のバリアフリー化やアクセス道の整備までも含めて)整えなければならないですし、病院や入所型の介護施設にはサービスをより必要としている重症の人から公平に利用できる体制が出来てなければいけませんし、何より住民自身に対して医療、介護に関する教育、啓蒙ということが非常に重要になってきます。
単に病院内だけの仕事に留まらず地域に足を踏み出してそこまで汗水垂らして働いて、はじめて単なる託老所が医療と名乗るにふさわしいものになり得るわけですが、そのレベルになってもやはりどうしても入院でなければという人は案外少ないものですし、一度入院すればずっと最後まで病院に入りっぱなしなんて人はそうそう多くはないはずなんですよね。
日医が全国の医者の代弁者面をして「御老人のために療養病床を増やすこと、これが現場の総意です!」なんてことを言うのであれば、まずそれ以前に医者の代弁者として患者たる国民に対しても言っておかなければならないことは幾らでもあるはずなんですが、どこの医療現場に行っても日医からのメッセージが患者に届いてるなんて話はおよそ聞いたことがないのはどういうことなんでしょうか(苦笑)。

そうした話はそれとして、特に気になったのが先日以来取り上げている医学部定員に対する日医のスタンスの表明なんですが、医療の将来像ということも絡めて原中会長はこんなことを言っているようですね。

―厚労省が10年9月に発表した必要医師数実態調査結果では、全国で約2万4000人の医師が不足していることが明らかになりました。

 日医は、既存の医学部の定員増を一貫して主張しています。一つの医科大を新しくつくると、400人ほどの教員が必要になります。そのために地方の部長クラスの医師を引き抜けば、地域の医療崩壊はもっとひどくなります。現在の医学部の定員は、3年前から1200人増えています。このままのペースで定員を増やせば、日本の人口1000人当たり医師数は25年には2.8人を超え、G7の平均(1000人当たり2.9人)に近づくのです。
 新しい医科大をつくった後に「(医師数が)足りているから廃校しろ」とは言えませんが、既存医学部の定員は多くなったら減らせばいいことです。必要医師数の調整は定員数でできるわけですから、新しい医科大をつくる必要はありません

―医師の診療科・地域偏在はどのように解消していくべきでしょうか。
 できれば、法律うんぬんは別として、ほとんどの医師が(都道府県)医師会に入会し、知事と医師会長で諸問題を解決する体制を取れればいいと思います。民主党は中央政権から地方への権限移譲を掲げています。医療保険制度の在り方も含め、都道府県単位で医療を考える時代が来るとわたしは思います。その中で、ドイツやフランスで行われているように、過疎地域に行った医師にポイントを与えて、将来、都市部で開業したい時には、ポイントを持っている人の開業を優先できるような方法が取れればいいのではないかと考えています。

まあ全医師が医師会に加入すべしなんて日医の悲願はともかくとしても(苦笑)、ここで注目しておきたいのは日医としては医療は今後都道府県単位で考えるべきであると主張していることで、医師の偏在問題も都道府県でよく考えて解消しなさいと言うスタンスであるらしいということなんですね。
もちろん日医がそう考える自由は誰にも否定されるべきものではありませんけれども、最後の医学部が出来てからもはや30年が過ぎ、その後の人口動態や医療需要もずいぶんと変わってきている中で、都道府県毎の必要医師数と医師養成数とのミスマッチはますます拡大しつつある、その結果として都道府県間における医者の奪い合いが激化しているということが昨今言われています。
日医の主張からすれば人口や医師数から考えて明らかに医学部定員の少ない県は、各県独自の判断でさっさと医大を新設すべしということになるはずなんですが、医学部新設は断固として認めないとも主張しているわけですから、これは医大を多く抱えている「勝ち組県」の優位性を固定化する、日医お得意の既得権益保護の主張という理解でいいものなんでしょうか?

個人的に日医の言うことがしっかり理解出来たと思える事例の方が少ないくらいですし、日医として別に何をどう主張しようと自由なのも確かなんでしょうが、原中会長としてはこうした主張のそれぞれが医療現場の多数派の声そのものであると認識されているということなんでしょうか?
日医自身が日本の医療の将来像をどのように思い描いているのか未だにはっきりしないのですが、外から見ている限りでは「何も変えるな!とにかく現状維持で!」と叫んでいるだけにしか見えないところもあって、果たしてそうした日医の主張が現場多数派の指示を得ているのかどうか疑問の余地無しとしません。
社会的影響力低下に懸念してか、日医も昨今では全医師を医師会に!なんて夢物語を盛んに吹聴していますが、まずはそれ以前に基本方針くらいは会員全ての総意に基づいて決められるような民主的なシステムを構築されるよう、形ばかりでも努力されてみる方が先決ではないのでしょうかね?

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