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2011年1月18日 (火)

医療の黒船?

今や制度的にも様々な問題が山積していることが誰の目にも明らかになり始めた日本の医療、とりわけ国民皆保険制度下での医療と言うものを、半世紀前から続く古いシステムのマイナーチェンジを繰り返すばかりでひたすら延命を図るということも一つの考え方ではあるのでしょうが、逆に考えて見ると抜本的なシステムの改変を図るには今という時代こそまさに良いタイミングであるとも言えるんじゃないかと思います。
医療崩壊などと言う言葉が一般マスコミにもごく当たり前に取り上げられるようになって、今や国民的にもどうやら医療というものはうまくいっていないらしいと言う認識が出てきたからこそ、それを正すために一時の不便を忍んでくださいという言い方もしやすいはずなんだと思うのですが、どうも肝心の医療関係者の方で「今の体制だけは何としても死守しなければ」と硬直思考に陥ってしまっている気配がありますよね。
こういう視野狭窄を起こしてしまうと「現状で手一杯なんだから新しいことなんて何も出来ない」となってしまいますから、とりあえず良い悪いは別として外圧という形ででも強制的に一度システムをリセットしてしまうということも必要なんじゃないかと言う気がしますし、その意味で昨今各地で相次いでいる地域医療の崩壊という現象も、医療体制の抜本的な再編成の好機として前向きに捉えるべきなのではないかとも考えています。
さて、そうした医療を取り巻く状況の中で、今までにない医療のあり方として国の主導で推進され、昨今急速にその体制整備が進んでいるメディカルツーリズムですが、先日もこういう記事が出ていました。

日光の観光医療 中国人ら月40人受け入れ(2010年11月16日読売新聞)

独協医大、月末にも本格始動

 栃木県日光市内の温泉ホテルと提携し、外国人旅行者向けの人間ドックを行おうと準備している独協医科大日光医療センターが、11月末にも中国・台湾人を中心に、受け入れを本格的に開始する。

 近く大手旅行会社と契約し、1か月に最大約40人を受け入れる態勢とする。同センターは住民の診療を優先するため、外国人には当面、治療は行わない方針だが、県内の医療関係者からは「地元患者の診療が後回しにされないか」といった懸念の声もある。

 同センターが外国人向けに行う人間ドックは1泊2日。血液検査や胃内視鏡検査など標準的な人間ドックを行う「スタンダードコース」、全身のがんを調べる陽電子放射断層撮影(PET)も加えた「プレミアムコース」など4コースを設け、料金は8万4000~27万3000円に設定した。

 料金は日本人の人間ドックよりそれぞれ1、2万円高いが、中国人看護師による通訳や、中国語で検査結果の書類を作成する必要経費と、旅行会社の仲介手数料の分だという。中元隆明・同センター院長は「外国人から過大な料金を取れば利益主義と批判されかねないので、日本人とほぼ同じ料金にした」と強調する。

 外国人の受け入れは月曜~水曜に限り、人数は1週間で最大9人の予定。受診者に治療が必要と診断された場合は、同センターが連携する上海の同済大学付属同済医院などを紹介する。

 外国人向け人間ドックを始める理由について、中元院長は「日光の観光振興に医療機関も協力すべきと考えた」と話す。これに加え、非都市部での病院経営の厳しさも背景にある。

 同センターは、2005年度に廃止された国立の珪肺(けいはい)労災病院から土地・建物を委譲され開設。観光客が多数訪れる日光に救急医療機関を残すため、県などが独協医大に要請した。しかし地域医療は不採算の場合が多く、同医大は病院を維持していくため、人間ドックと観光を結び付けた事業を開始。10月9日には国際観光医療学会も発足した。

 一方、日本医師会は医療ツーリズムは医療のビジネス化が進む恐れがあるとして、反対の立場だ。県医師会の太田照男会長も「病院が経営維持のために医療ツーリズムに取り組むのはやむを得ないが、懸念もある。MRI(磁気共鳴画像装置)やPETは、検診より一般患者の診断を優先すべきで、倫理観をもって行ってほしい」と話している。同センターには今後、年間400人以上の外国人が人間ドックを受けに訪れる可能性もある。地域医療との両立の可否が注目される。

観光とセットでという点は医療ツーリズムとして別に目新しいものでも何でもないのですが、この記事を見ていていままでの記事と少しばかり違った空気を感じる人もいるんじゃないかと思いますが、その理由として何やらずいぶんとネガティブな側面を強調したかのような記事になっている点に気がつきます。
前身が前身だけにいかにも田舎の公的施設という面影を残す同センターですけれども、外来表などを見ても大学からの非常勤医派遣で何とかしのいでいるという気配が濃厚ですし、立地を考えても純然たる医療施設としての経営は簡単なものではなさそうだなと想像できますから、病院存続のために新たな収入源を模索するのは地域医療存続のために褒められこそすれ、批判されるような話でもないと思うのですけれどもね。
推進する国にしてももともと医療と言う技術を売って外貨を稼ぐという政策であり、同センターにしても経営のためにやる業務に今さら利益主義云々もどうなのかですけれども、例えば地元民優先のために外国人への治療は行わずドック業務だけに専念しますなんて言い訳めいたことを言っていたりとか、医師会から「倫理観をもって行ってほしい」なんてお小言を頂戴したりだとか、地元から注がれる視線はずいぶんと厳しそうですよね。

地元としては元々国の療養所があって医療体制には恵まれていた、それが廃止された後も「いやうちは観光客も多いのでね。立派な病院がないと困るんですわ」と大学まで巻き込んで施設を温存した、そういう意味では確かに今まで地域医療の勝ち組であったわけですが、いつまでも分不相応な施設を抱え込みたいという一方で病院の自助努力も否定するというのでは外部からはどう見えるかということですよね。
あるのはゴルフ場ばかりの田舎に200床の病院が存在しているという不自然さは見て見ぬふりをしてきた、もちろんその経営がどうなっているかという視点も全く無い、ただ病院の診療体制が少しでも以前より悪化するのは困る、赤字?そんなものは自分らで何とかしろ、何のために大学を関わらしているのだという考えであれば、失礼ながら世間を知らなすぎると批判されても仕方がないとは思います。
そういう観点で見ると国策の一環として堂々と保険外診療に手を染められるようになってきたと言う現状は、亀田などを筆頭とする一部病院にとっては非常に大きなビジネスチャンスであって、多かれ少なかれ地域医療にも影響を及ぼさずにはいられないのかも知れませんが、一方ではそれに対する批判の声も何も日医や読売に留まるものではないらしいのですね。

医療滞在ビザ/国内事情と整合性図って(2011年01月17日河北新報)

 外国から日本に長期間滞在して最先端医療を受けられる「医療滞在ビザ(査証)」が新設され、今月中にも発給が始まる。
 シンガポールやタイ、韓国などが中国、中近東などの富裕層を受け入れて経済活性化、観光客増加を図る「医療ツーリズム」を推進しており、日本も国際的な風潮から乗り遅れまいと制度を整えた格好だ。
 医療滞在ビザの創設は、菅直人政権が昨年6月に閣議決定した新成長戦略に盛り込まれた。高度医療から長期療養、人間ドックまであらゆるサービスを実施、特に画像診断などで多くの需要が見込めるとしている。
 「強い社会保障」の下、医療分野を新たな産業に育てようという狙いがある。だが、国内では勤務医不足や診療所の縮小などで、目の前の患者の対応にも追われる状況にある。
 難病に悩む外国人を救うことに異議はないが、最初から大掛かりに展開するより、人道的な観点から受け入れを始めるなど国内事情と整合性を取りながら慎重に進めてもらいたい
 これまでは最長90日間滞在できる短期ビザでの入国だった。長期入院には期間延長が必要で、手続きの煩わしさから一昨年、長期滞在したのは約100人にとどまる。医療ビザは、滞在期間を最長6カ月間とし、1度取得すれば3年以内に何度でも出入国できる。
 利点の一つは医療機関の経営改善。長く医療費抑制の傾向が続き、収益確保に苦しむ病院にとって保険外の自費診療は魅力が大きいとされる。
 日本が強みを見せるのは充実した医療設備だ。診断に使われる磁気共鳴画像装置(MRI)、検査や治療に用いられる内視鏡などの普及度はかなり高い。
 外国人を受け入れ、検査機器などの市場を開拓することで、医療産業のすそ野を広げ、ひいては人材育成、雇用創出につなげる。政府が成長戦略に位置付けた理由もここにある。
 しかし、そんなにすんなりと事が運ぶのだろうか。国による診察システムの違い、薬の継続的な投与、言葉の問題に起因する医療過誤の恐れなど、いくつもの不安要因が思い浮かぶ。
 医療ツーリズムによる経済効果も明確さに欠ける。何より国民皆保険制度の日本で、富裕層への高額な診療が混在することへの懸念がある。
 一部の医療機関が利潤追求に走る事態を招かないか。日本医師会は「市場原理が入り込み、地域間格差が拡大しかねない」と慎重な見解を表明し、拙速な対応にくぎを刺す。
 経済力にかかわらず医療を受けられる公平性、利潤を第一の目的としない倫理観の確立。受け入れに当たって、共通のコンセンサスを確認しておく重要性を指摘しておきたい。

マスコミが普段からさんざんバッシングしてきた日医のコメントを錦の御旗に掲げるのもおもしろい現象だなとは思うのですが、国としては医療を経済成長の原動力となるように産業として大々的に養成していくという基本方針が先にあり、その一端として外国人富裕層からもお金を稼げるシステムを作りましょうと言っているわけですから、今さらお金持ち相手の商売はケシカランもずいぶんと的外れな批判ではないかという気がします。
しかしよくよく見てみますと本当に批判したいのは外国人相手の金儲けがどうこうではなく、大きな利益が見込める保険診療外の医療が拡大すれば既存の皆保険システム下での医療がおろそかになるのではないかということのようですから、何のことはない日本人の既得権益をゆるがせにして外国人相手の医療などとんでもないじゃないかという妙に後ろ向きな話であるようですね。
その背景にある医療は決して儲けてはいけないし、目の前に儲けるための道があっても華麗にスルーしていなければならないという発想の是非はともかくとして、当然ながら国としては今さら何を?という話ですから、ますます医療によるお金儲けのための道を拡大することに熱心であるようです。

病院を丸ごと輸出 中露などに官民で開設へ、来年度10件着手(2010年1月17日産経新聞)

 日本の高度な医療技術や機器、サービスの新興国向け輸出を振興するため、政府はモスクワや北京、カンボジアのプノンペンなどで官民共同による医療センターの開設に着手する。来年度中に救急病院や内視鏡施術施設など10件前後の決定を目指す。医療機器のほか、運営やサービスのノウハウを含めた日本方式の病院を丸ごと輸出。医療需要が高まっているアジアや中東、東欧などの新興国市場を開拓し、国内の医療産業を活性化する。

 政府は医療・介護・健康関連産業を昨年6月に決めた新成長戦略の柱の一つに位置付けており、病院の輸出と訪日外国人への医療サービスの提供を合わせ、2020(平成32)年までに約1兆円の経済効果と5万人の雇用創出を見込んでいる。

 病院輸出プロジェクトでは、経済産業省ががんや循環器の治療、内視鏡施術、再生医療など日本が得意とする分野で、新興国への進出を希望する民間の医療機関や医療機器メーカーなどを募っている。

 すでに「モスクワ内視鏡施術センター」(仮称)のほか、北京や広州の中核病院やプノンペンに開設される救急病院の中に「日本医療センター」(同)を設ける案件について、具体的な調整を進めている。来年度から準備に入り、数年内にオープンする予定だ。

 センターには、日本から医師や看護師らを派遣するほか、医療機器だけでなく、ベッドや内装などの病院設備、食事などを含む運営システムを提供。日本の医療方式を現地で普及させることにより、継続的な需要獲得につなげることを狙っている。

 政府は、現地が必要とする医療ニーズや市場価格などを調査するほか、医療過誤などの紛争処理の現状など課題を洗い出し、進出を支援する態勢を整える。また、具体的な開設にあたっては、現地の政府機関との許認可などの交渉も担当する。

 政府は、医療関連産業の活性化に向け、1月に日本で病気の治療や健康診断などを行う外国人と付添人に最長で半年間の滞在を認める「医療滞在査証(ビザ)」を創設したほか、外国語による医療情報の提供なども拡充する。こうした外国人の誘致による医療ツーリズムの促進と病院の輸出を2本柱とし、成長や雇用創出につなげる考えだ。

しかし正直何事に付けて腰の重い政府がこの段階でこうまで話を進めてきていたということには驚きを感じますけれども、考えて見るとかねて国内市場の先も見えている医療業界において不満を募らせてきた日本の医師達にとっては、決して悪い話ばかりでもないのかなという気がします。
日本の医療水準が世界的に見てどうなのかという点については諸説ありますけれども、例えば内視鏡なんて分野ではテクニック、テクノロジーの双方において間違いなく世界トップ水準であると言えますから、少なくとも進出先の国を選んでの商売であれば十分売り物になりそうですよね。
かねて医療崩壊だと叫ばれる中で嫌なら辞めろとばかりに逃散が叫ばれてきた経緯がありますが、国外への逃散という究極的な選択枝をこうして国が全面的にバックアップしてくれるということであればありがたい話でもあるし、こうして行き場を確保しておくことは国内市場においても発言力の強化につながるんじゃないかという気がします。

何にしろ保険診療専門でやっている限りにおいては医療の統制はますます厳しくなっていく一方でしょうし、ひと頃の医療崩壊阻止のための医師厚遇という流れから今後時間を追う毎に医者にとっては労働条件改善の要求を通しにくい状況になっていく中で、これもまた一つの使える好機として捉えていくという視点が必要であるということでしょう。
相変わらず日医などはますます医者に対する締め付けを強化することにばかりに熱心ですし、自分達の手を離れた医者が勝手に商売するなんて許さないという立場を強化していますから、当然ながらこうした国の方針に対しても近々反論を打ってくるのだと思いますけれども、その時マスコミ各社がどうするかという点にも興味が集まりますよね。
マスコミと言えばかねて医師会=医者の既得権益を擁護する悪徳業界団体としてバッシングを重ねてきたもので、「医療のことはよく判らないが、医師会がこうすべしと言ってるからとりあえず反対しておこう」なんて態度も露わにしてきたことは今さらではありませんけれども、まさか今さら口をぬぐって日医と共闘なんて路線変更をしてくるなんてこともあっていいはずがありませんよね(苦笑)。
そして地域ぐるみで無為に医者を抱え込んできた国民にとっても、閉鎖された島国の中で「医者の常識は世間の非常識」とまで言われてきた日本の医者達が、こうして世界水準の医療に触れ世界の常識を学べるようになるということは全く悪い話ではないはずですから、国民総出で日の丸の小旗を片手に送り出すくらいの度量は示してもいいんじゃないでしょうか。

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