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2010年12月 2日 (木)

朝日医科研報道問題続報

…と書いておいて何ですが、まずは本日の本題に入る前に、奈良県GJ!というこちらのニュースを先に紹介させていただきましょう。

産科医宿直訴訟で上告=奈良県「現場実態と乖離」(2010年11月30日時事ドットコム)

 奈良県立奈良病院の産婦人科医2人が宿直勤務を時間外勤務と認め割増賃金を支払うよう求めた訴訟で、県は30日、時間外労働と認めて県に約1540万円の支払いを命じた一審判決を支持した大阪高裁判決を不服とし、上告したと発表した。
 上告理由について、県医療政策部は「厚生労働省通達で定める医師の宿日直勤務の定義の内容は医療現場の実態と乖離(かいり)しており、実態を踏まえない通達だけに基づく裁判所の判断は、労働基準法の解釈を誤っている」としている。

おかげさまでこの件に関して最高裁での判断が下されるということとなり、全国の現場臨床医は奈良県には深く感謝してもいいくらいだと思いますが、いずれにしてもこと公立病院勤務ということに関しては、奈良県という土地の評価が完全に定まったと言う点でも喜ばしいニュースではないかと思います。
聖地奈良の偉業はともかくとして、先日来続いています朝日の医科研報道に関しての続報ですが、ようやく一方の当事者である朝日新聞社側からの反論文が登場しました。

朝日新聞、「がんワクチン」問題で東大医科研に反論(2010年11月26日J-CASTニュース)
   朝日新聞が2010年10月15日朝刊1面に掲載した「がんワクチン」に関する記事に対して東京大学医科学研究所が抗議して謝罪を要求、さらに清木元治所長が「質問状」を出していた問題で、朝日新聞社は医科学研に対して反論する回答を送った。回答書の全文は11月26日、同社の医療サイト「アピタル」に掲載された。回答書では質問に対して具体的に反論しているほか、清木所長がウェブサイトで、記事中の関係者コメントを「ねつ造」などと指摘している点については、撤回を求めている

東大医科研の抗議、本社が反論回答書 臨床試験巡る記事(2010年11月26日朝日新聞)

 朝日新聞社は、10月15日付朝刊の記事「臨床試験中のがん治療ワクチン 『患者が出血』伝えず 東大医科研、提供先に」などに対して東京大学医科学研究所から寄せられた「抗議及び謝罪・訂正請求書」、同じく医科研の清木元治所長からの「質問状」に反論する回答書を送った。全文を26日、朝日新聞の医療サイト・アピタル(http://www.asahi.com/apital/)に掲載した。

 医科研ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授が、がんペプチドワクチンのペプチド(たんぱく質の断片)の開発者であるとした記事の記述について、「抗議及び謝罪・訂正請求書」などは、本臨床試験のペプチド開発者は中村氏ではないと指摘。これに対して回答書は、医科研が開発したペプチド全体について、中村氏がワクチンの探索や実用化を進める過程で主導的役割を果たしていたことを、中村氏の著書などを示し説明している。

 また、臨床試験の実施状況や取材開始日など寄せられた質問には、一つひとつ具体的に反論している。

 回答書はさらに、清木所長が医科研のウェブサイトに掲載している文章で、記事中の関係者のコメントを「ねつ造」などと述べていることについて、事実に反し、社の名誉を傷つける記述だと指摘し、撤回を求めている

単なる弁解に留まらず、こういう反撃をしてくるとはさすが斜め上方向への独走ぶりには定評のある朝日侮り難しというところですが、実際の反論文の内容はご参照いただくとして、これが反論として成立しているかどうかは大いに主観的判断の入る余地がありそうですよね。
さすがに朝日としてもこれだけでは不足に感じたということなのでしょうか、こんな弁解がましい記事まで載せているというのは女々しいというしかありませんけれども、朝日の考える問題点なるものを認識する上でもまずは記事からそのままで紹介させていただきましょう。

【ワクチン臨床試験報道】 Q&A 何が起きた?/どこが問題か/社説の意図は(2010年11月30日朝日新聞)

 朝日新聞が報道した理由や考えを整理しました。

■ 何が起きた? ■

 Q がんペプチドワクチンの臨床試験をしていた医科研病院で何が起きたのですか。

 A 記事で取り上げた臨床試験は2008年に始まりました。膵臓がんの被験者1人が消化管から出血を起こし、輸血治療を受けました。

 医薬品になりそうな候補物質による影響かどうかに関係なく、被験者の身に起きるあらゆる好ましくない出来事を「有害事象」と言います。医科研病院では消化管出血が「重篤な有害事象」として院内報告されました。「重篤な有害事象」には「死亡」から「入院期間の延長」までさまざまなレベルがありますが、この場合は出血で入院期間が延びて「重篤」とされました。

 医科研病院は「ペプチド投与と消化管出血との因果関係を完全には否定できない」として、消化管出血が起きた臨床試験で使われていたペプチドと同種のペプチドを使う計9件の臨床試験の計画内容を変更し、消化管出血の危険が高いと見られる患者は被験者から除きました。そして、被験者候補に臨床試験のことを説明する文書にも消化管出血が発生したことを書き加えています。

■ どこが問題か ■

 Q どこが問題なのですか。

 A 医科研が開発したペプチドは、医薬品として未承認で、安全性や有効性がまだ確かめられていません。医科研病院での臨床試験のように安全性の確認を主目的とする早期の臨床試験では、候補物質にどんな危険が潜んでいるかわからないので、被験者を健康被害から守るためにとりわけ安全性情報に対する配慮が必要です。

 人を対象とする医学研究の倫理規範である世界医師会のヘルシンキ宣言では、被験者の安全確保や人権保護が重要とうたわれています。第6項には「研究被験者の福祉が他のすべての利益よりも優先されなければならない」(日本医師会訳)とあります。こうした被験者保護の原則に照らして、ペプチドを他施設に提供している医科研が、「重篤な有害事象」の発生を、同種のペプチドを使って臨床試験をしている他施設に伝えていないことは、医の倫理上、問題があると判断しました。

 今回のような研究者主導の臨床試験は、薬の製造販売承認を受けるための治験と違い、薬事法の規制を受けません。どのようにして被験者保護を担保するかが大きな課題と考えています。

 Q 今回の報道後、医療関係者の間に「膵臓がんで消化管出血はありうることではないか」との指摘もあるようですが。

 A 出血が起きた患者は、評価が定まっていない、薬になりそうな候補物質の被験者です。有害事象が起きた時に「この病気ではありうる症状だから」で片づけてしまえば、被験者の安全を守ることも、候補物質の適正な安全性評価も難しくなりかねません。被験者保護の観点から、重要な事実と考えています。

■ 社説の意図は ■

 Q 医科研の問題について、社説で、ナチス・ドイツの人体実験を持ち出し、研究者を批判したと言われています。

 A この問題を取り上げた10月16日付の社説「研究者の良心が問われる」では、被験者にリスクを十分に説明することなどは、ヘルシンキ宣言でもうたわれていると指摘しました。この宣言について「ナチス・ドイツによる人体実験の反省からまとめられたもの」と誕生の経緯を説明したもので、今回の問題とナチの人体実験を同列に論じたものでは全くありません

 Q 記事でふれた医科研の中村祐輔教授について、医科研は、当該ペプチドの開発者でも、臨床試験の責任者でもない、と説明しています。

 A 中村教授は医科研を中心にして、がんペプチドワクチンの探索やその実用化を推進するプロセスにおいて主導的な役割を果たしておられます。こうした趣旨、意味から、記事では、中村教授についてペプチドの「開発者」と記しました。「開発者」ということについて、取材過程でも中村教授から否定されたことはありません。また、同種のペプチドの提供を受けている他施設の臨床試験の実施計画書で、中村教授を研究協力者や共同研究者と記載しています。記事は、こうした事実を指摘しました。

 Q 今回の記事中の関係者のコメントについて、ペプチドワクチンの提供を受けて臨床試験をしている研究施設のグループが「極めて『捏造(ねつぞう)』の可能性が高い」と指摘しています。

 A 指摘は全く事実無根で、朝日新聞社の名誉を傷つけるものです。

 記事では、ペプチドの臨床試験を行っている大学病院の関係者の証言として「私たちが知りたかった情報であり、患者にも知らせるべき情報だ。なぜ提供してくれなかったのだろうか」と記しました。

 これに対し、臨床試験実施施設のグループは「対面取材に応じた施設は大阪大学のみだった」「(この関係者について)記事に書かれている発言が全く述べられていないことを確認した」と主張しています。

 朝日新聞では、複数の施設の関係者に対面取材しております。取材源の秘匿の原則から、詳細は説明できませんが、記事中の発言を臨床試験施設の関係者がしたことは、揺らぐことのない事実です。

 医科研の清木元治所長が、医科研のウェブサイトの文章で、このグループの意見表明を引きつつ「ねつ造」などと記述されていることについて、朝日新聞社は速やかに撤回するよう求めています

例の捏造コメント疑惑否定ということに関して言えば、結局のところ「ソースは明かせないが確かにそういうコメントはあった」という極めて説得力に乏しい反論しかしていないわけですが、この朝日流の報道のやり方というものは色々な方面で応用が利きそうではありますよね。
朝日の論拠の中心となっている患者利益の確保という点については当事者などから既に詳細な反論が出ていますけれども、個人的考えとすれば何よりも朝日によって擁護されるはずの患者側が、全く朝日の報道に同調する気配がないということがこの問題の本質を物語っているのではないかと思います。
いずれにしても天下の朝日がこうして公式に反論を載せ、逆ギレまでしてみせたことから本問題が早期に沈静化する可能性は限りなくゼロに近づいたことは確かでしょうが、非常に興味深いことに医療の側からこの朝日報道を支持するという立場の人間もいらっしゃるということで、少し長くなりますが紹介させていただきましょう。

政策部長談話 「医の倫理問う 朝日新聞報道を積極的に支持する」(2010年11月8日神奈川県保険医協会)

神奈川県保険医協会
政策部長  桑島 政臣

 10月15日の朝日新聞1面トップ報道「臨床試験中のがん治療ワクチン 『患者が出血』伝えず 東大医科研、提供先に」を巡り、医療界の権威筋より批判が相次いでいる。しかし、この記事は、混合診療解禁、医療特区、高度医療評価制度、先端医療開発特区(スーパー特区)と連綿と続く、医療保険制度の形骸化策動や、臨床試験のダブルスタンダード化、医療法制の規制緩和の動きの下、現実に起きた事実を伝え、医の倫理を医療界に正面から問いただした記事だと、われわれは理解している

 この朝日新聞のスクープは、他社が同日夕刊で東大医科研の会見を後追いで報道することとなるが、会見では臨床試験の費用の一部を公的医療保険に請求、禁止されている混合診療を行っていたことが明らかになり、朝日新聞はこのことも翌日朝刊で報じている。当協会はこれまで有効性・安全性の担保のない未承認薬の保険外併用療養の制度化や臨床試験のダブルスタンダード化と無原則な保険外併用につながる高度医療評価制度などに関し、被験者保護のヘルシンキ宣言や皆保険の制度理念に照らし、その問題性に警鐘をならし、撤回するよう論陣を張ってきた。健全なジャーナリズム精神を発揮した朝日新聞の報道姿勢に対し、われわれは積極的に支持を表明する。

 公的医療保険の下での日常診療における患者の治療と、ヒトを対象とした介入試験である臨床試験は全く別ものである。臨床試験は実施計画書(プロトコル)に基づき、対象の被験者も病態、病状など厳密に選定され、厳格な管理の下、「試験」が行われる。また被験者数の確保の観点から、複数の実施医療機関で行うのが一般的である。その中で、医薬品や医療機器の製造販売の承認のため成績データ集積をする臨床試験を薬事法では「治験」と定義し、倫理性・信頼性基準(GCP:省令)の下で行われている。当然ながら、臨床試験の費用は製薬メーカーや大学・研究機関などによる独自財政により運営されるものである。

 朝日の報道で問題とされた、がん治療ワクチン投与による消化管出血、つまり臨床試験における「有害事象」に関し、GCPでは「治験薬又は製造販売後臨床試験薬を投与された被験者に生じたすべての疾病または徴候をいう」と定義されている。また、医薬食品局審査管理課の課長通知で「被験者に生じたすべての好ましくない又は意図しない疾病又はその徴候をいい、当該治験薬又は当該製造販売後臨床試験薬との因果関係の有無を問わない」とされている。

 この有害事象の報告を、治験においては義務づけられている。つまり、被験者にとって軽度のものだから記録や報告が必要ないとはされず、これらの集積のなかから、のちに科学的推論に導かれて、その因果関係の評価がなされるのである。

 有害事象の報告について、治験ではない医師主導の臨床試験は、GCP(法令)の適応ではないため義務化されていない。薬事法と「臨床研究の倫理指針」(ガイドライン)のみである。

 朝日報道へ事実誤認との批判がなされているが、東大医科研はがんペプチド投与による出血および臨床研究の中止は事実と認めている。また、同種のペプチドを使う病院に報告をしなかったことも認めている。確かに、東大医科研のいうように「報告義務」はないが、果たして医療倫理上はどうかと朝日新聞の記事は投げかけ、「法規制なし対応限界」と臨床試験が法令による管理の治験と、行政指針によるそれ以外の臨床試験と、欧米の規制と異なるとダブルスタンダード化を衝いたのである。

 朝日新聞の報道にあるように、東大医科研は先端医療開発特区(スーパー特区)でペプチドワクチン臨床試験の統括を担っている。この「スーパー特区」とは、大学病院などの臨床研究施設を中核に企業や研究機関をネットワークで結んだ「複合体」に、最先端医療の戦略的テーマを設定させ、コンペ方式で政府が選抜し、各省庁の科学研究資金の一元的運用の自由を与え、特許の早期審査など大幅な規制特例をあたえるものである。しかも開発段階から厚労省と規制の特例を密接に協議し技術開発を支援する仕組みとなっている。このスーパー特区は経済財政諮問会議が提案し2008年5月に内閣府、文部省、厚労省、経産省の四省合同で決定したものである。

 この「スーパー特区」は一見、医療産業育成や知財戦略の一環の色彩を帯びているが、臨床現場から見て問題が多い。なぜなら、この「スーパー特区」は、治験を前提としない「高度医療評価制度」の活用を認めているからである。

 本来、健保法の認める保険外の医薬品等と医療保険の併用は、治験終了ないしは治験段階にある―法令(GCP)に則った有効性・安全性の確認、が前提だった。高度医療評価制度とは、これを反故にし、治験段階にさえない未承認薬と医療保険の併用を認めたものである。有効性・安全性の未確立なものが医療保険に入りこむことになる。逆に言えば臨床試験に医療保険財政が流用されることになる。また、治験ではない臨床試験が行われるため、集積されたデータは製造販売には連動しない。更には、「複合体」が高度医療評価制度を扱うため、「医療特区」で問題となった企業の医療保険参入の“迂回路”となる

 われわれは08年当時、このスーパー特区が企業の医療経営参入と産官学複合の投機マネーの誘導策であり、法令に則らない臨床試験の合法化やダブルスタンダード化や、その下での医療機器「試作品」の臨床研究への利用、事故補償の保険商品開発の準備など、人道的にも問題が大きく、“人体実験”の懼れがあり、ヘルシンキ宣言からの逸脱が非常に危惧されると、政策部長談話を発表し警鐘した。いまもその危惧は依然、払拭されていない。

 高度医療評価制度は、保険外併用療養の第3項先進医療(高度医療)と医療保険のなかで類型されているが、それでも適用にあたっては施設基準と大臣承認を必要としている。この未承認薬での第一号は久留米大学のがんペプチドであり、東大医科研は適用になっていない。だからこそ、記者会見で、禁止されている混合診療の認識の有無が問われたのである。

 朝日の報道への人権侵害批判も、ワクチン開発者の株式取得の事実は否定されておらず、利益相反、「李下に冠をたださず」の示唆に応えていない。

 われわれは、患者・国民のための医療・医学技術の進歩・発展、スピード化を否定するものではない。第一線の臨床家も治験に積極的に関与しはじめており、当会も治験審査委員会、倫理審査委員会を外郭と会内に設置し組織的対応をしている。

 またわれわれは過日、医科政策提言を厚労省で記者発表をし、その中で医療者と患者の倫理、医療ガバナンスの確立に触れている。

 朝日の報道は、投機マネー誘導、臨床研究の混合診療化、医療特区の全国化と、医療を蹂躙し産業界の野望に満ち溢れた「スーパー特区」を背景にした記事であり、事実による問題提起である。

 いま医療の倫理の確立は、日々その重要性を増している。ヘルシンキ宣言を遵守できない組織に医療ガバナンスを語る資格はない。医療界の冷静な議論と卓見を期待したい。

一読いただければ判る通り、臨床的な見地からの意見というよりは保険医協会という立場に由来する朝日擁護論であることは明白な内容ですが、逆にいえば今回の一連の朝日報道が何故突然この時期に行われたのかということに関する、かねて提示されてきた疑惑もあるいはそれなりに根拠あるものであったのかとも思わされる話ではないでしょうか。
話に政治向きのことが絡んでくるということになりますと、臨床の事しか頭にない凡百の医者にとってはいささか対応に熟慮を要するということになりますけれども、今後朝日がこの議論をどういう方面につなげていくのかによって同社が何かしらの意志を代弁して動いているのか、あるいは単に目先の功名に駆られただけだったのかも見えてくるように思いますね。

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コメント

もう見ました、面白いですね

投稿: うたわれるもの 画像 | 2010年12月 9日 (木) 10時20分

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