« 南の島の公立病院も結構すごい | トップページ | 今年の話題を振り返っての雑感 »

2010年12月28日 (火)

文科省の描く医療の未来図とは

先日紹介しました文科省の大学医学部の入学定員に関する有識者検討会の件ですけれども、予定通りこの22日に第一回の会合が開かれたと言うことです。
医学部定員を云々すると言いながら実際には医療の行く末を見据えた議論が不可欠であるだけに、こうした話を文科省単独で進めていることには何かしらの危惧も感じるわけですが、まずは記事から紹介してみましょう。

今後の医師養成数は? 医学部定員の議論がスタート(2010年12月24日CBニュース)

 2012年度以降の中長期的な医師養成の在り方を探るため設置された文部科学省の「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」は12月22日、初会合を開いた。依然として続く医師不足を背景に、協議では、医学部の新設を含め、養成数を増やすことに積極的な意見が相次いだ一方で、大学側の受け入れ体制や学生の質の確保といった点から慎重な議論を求める声も出された。

 人口当たりの医師数や医学部定員の推移、「地域枠」の取り組み状況、厚生労働省が行った必要医師数の実態調査結果などについて事務局の説明を受けた後、現状の問題認識に関して意見を交換した。

 「地方の立場から言えば、医師は全然足りない」と強調したのは、全国知事会を代表して出席した平井伸治・鳥取県知事。臨床研修制度で地方に医師が集まらないといった地域差を指摘し、「国全体というマクロの視点だけでなく、ミクロの視点も含めて判断いただきたい」とした。ほかにも、基礎研究や産婦人科などの特定診療科、医薬品開発といった分野での医師不足を訴え、養成数を増やすべきだとする声が多く上がった。

 ただ、教員や設備など各大学の受け入れ体制については、近年の定員増に伴い、「限界に達しているのではないか」(矢崎義雄・国立病院機構理事長)との指摘も。今井浩三・東大医科学研究所附属病院長は、「(既存医学部の定員増より)新設の方が、ずっと(話が)早いのではないか」と述べた。

 一方、既存医学部の定員増で対応すべきとする中川俊男・日本医師会副会長は、将来的に医師数が充足することを考慮して「医学部新設はあり得ない」と反対。黒岩義之・全国医学部長病院長会議会長は、全体の養成数を増やすこと自体には肯定的な立場ながら、「これまでの定員増で、人口千人当たりの医師数がOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均を超える時期も来るだろう。少子化の中での医学生の質の確保、卒業後の定着率など、総合的な視野が必要だ」として、慎重な議論を求めた。
 このほか、医師の偏在や、医学部の「出口」である臨床研修制度の課題、女性医師のワーク・ライフ・バランスといった論点が出された。

 検討会は、医師不足や高齢化の進展などを踏まえ、将来の医学・医療ニーズに対応した医師養成を図るため、過去の定員増の検証などを含めて調査・研究を行う。1年をめどに結論を出したい考え。委員は国公私立の大学や市中病院、自治体、産業界、患者会などの代表20人で構成し、この日の会合で慶応義塾学事顧問の安西祐一郎氏を座長に選出した。

 文科省によると、今年度の医学部定員は8846人で、来年度はさらに8923人に増員する。定員の抑制方針が取られていた07年度(7625人)に比べ1298人の増。

前回も書きましたが、医師不足と言えばとかく臨床医の不足ばかりが取りざたされる中で、今回の初会合では基礎研究や医薬品開発などの分野での医師不足も指摘されたというのは良い傾向だと思います。
ただ研究に専念すべき医師までが臨床に加わることで辛うじて現場が維持されているということも一面の真理なのですが、一方でとりわけ大学などに見られるように臨床のアルバイトでもやらなければ研究だけでは食べていけない薄給(あるいは無給)の研究者が多いというのも一面の真理であって、研究者が研究に専念できるようにするためには単に人員面のみならず報酬面にも目を向けていく必要はありそうですよね。
また今回少なからず意外であったのは、既存医学部の定員増もそろそろ限界ではないかという文脈から「いっそ新設の方が手っ取り早い」なんて話が医者側の立場に近い参加者から出ているという点ですけれども、実のところこれこそ「待ち望まれていた現場の声」だったらしいということが後々明らかになってきます。

いずれにしても国の立場として考えると、医師国家試験の足切りラインは幾らでも高く出来るわけですから、医学部を幾ら新設しようが定員を増やそうが将来的には国試の難易度調節で医師数はコントロールできると考えているのでしょうけれども、その場合真っ先に当落線上に位置することになるだろう全国数多くのいわゆる底辺私大医学部において何がどうなるのかです。
すでに同様の国家試験合格者数調節によるコントロールが行われている司法畑においてもそうですけれども、通らない学校では本当に合格者ゼロなんてことも普通にあるという状況になった場合に、法科大学院よりもずっと年数が長く学費も高い私大医学部に通わせながら国試には通らなかったとなれば、本人は元より学費を負担しているだろう親としても立場がないですよね。
法科大学院の方ではすでに合格率が低い学校は潰していこうという段階にまで至っているようですが、何しろ六年間という長い就学期間を要求する医学部であるだけに、いざ定員を減らしましょう、学部も廃止しましょうと言うことになっても法科より小回りはずっと効きにくいということは確実でしょう。
そうしたことを考えた場合に医大新設論者というものがどの程度のメリット、デメリットを考えて発言しているのか、単に新設の方が話が簡単だからという程度の認識でよいのかということが気になってきますが、ちょうどロハス・メディカルさんでこの議論の様子を取り上げているので、それぞれの委員がどんな態度で参加しているのかを参照させていただきましょう。

なぜ、医師を増やすの?(2010年12月25日ロハス・メディカル)

 医師不足だから医師を増やす。医学部の定員を増やす、医学部を新設する。答えは簡単......だろうか? (新井裕充)

 文部科学省は12月22日、「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」(座長=安西祐一郎・慶應義塾学事顧問)の初会合を開いた。

 冒頭の挨拶で、鈴木寛・文部科学副大臣がライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)の重要性を強調。その後、各委員がそれぞれ意見を述べた。

 同検討会の最終ゴールは医学部の定員増か、医学部新設か、海外大学の誘致か、それとも現状分析にとどまるのか、同日の議論からは見えない。ただ、医師の増員をめぐる論点はほぼ出尽くした感がある。

 「本格的な人口減少時代に入った」と言われる中、医師を大幅に増やすべきか。医師増よりも、まず偏在を解消する手立てはないか。いったん増やした医師は簡単には減らせないが、それでいいか。

 もし増やすとした場合、どの程度の増員を考えるのか。その方法は何か。医学部の定員増や新設など、あくまでも「官製」にこだわるのか、社会人に医師への道を開く「メディカル・スクール」では駄目なのか。

 出席した18委員らの発言について、詳しくは2ページ以下を参照。
(略)

極めて詳細に発言内容を追っていることもあってずいぶんと長い記事ですから、実際のところは読者の皆さんで確認して頂くとして興味深いところだけ引用させていただこうと思います。
まずは冒頭、鈴木寛・文部科学副大臣が挨拶に立つのですが、どうでもよさそうにも見える(失礼)話の中で気になったのが冒頭で確かに医師確保のための医学部定員増ということにも言及しているものの、話のほとんどを占めているのが例の医療主導の新成長戦略であるとか、(例の医療ツーリズムも念頭においた?)国際的医療貢献といった観点から議論をよろしくと言っているように聞こえるところですね。
日医は元より、参加している自治体や病院の関係者は恐らくそのほとんどが、今ある医師不足という現象の中での医学部定員に関わる議論というつもりで来ているのではないかと思いますが、それに対して当の厚労省ではそんな目先のことではない、もっと遠い将来の話をして欲しいんだと言う意向なのだとすれば、先日も少しばかり取り上げました奇妙な人選というものも理解可能になるのかも知れません。

そうなりますと委員の間でのコンセンサスは大丈夫なのかとも気になりますけれども、前回何故参加しているのか?と疑問を呈した情報科学が専門の安西祐一郎氏が「中央教育審議会の大学分科会の議長を務めており、高等教育政策の全体を把握している。さらに、慶應義塾大学の学長のご経験から大学運営の実際にも精通している(推薦した矢崎義雄委員談)」として座長に推されているのも気になります。
一応は文科省として大学の定員を云々しようという場ですから大学関係者が座長になっても全くおかしくはないのですが、挨拶に当たって「副大臣が言われましたように、特に「世界最高水準の医療をこれから続けていくためにはどうしたらいいのか」ということも含めて」とわざわざ強調するあたり、やはり目先の医師不足問題にとらわれた議論を主導するつもりはないように見えますよね。
もちろん文科省筋とすればそこらの医者などよりずっと近しい立場でもあるでしょうし、厚労省の手垢のついた現場の医療関係者よりはこういう大学関係者に議論を主導させた方がやりやすいのでしょうが、何やら早くも議論の収束していく先が見えてくるようにも思われる話です。
この後はいつものごとく棒読みの資料提示に続いて質疑応答が始まったわけですが、幾つか追加資料の要求については次回以降に改めてということになるのは妥当として、それら質疑応答の締めくくりという形で安西氏を座長に推した矢崎委員からわざわざこういう「らしい」発言が出ているところにも注目しておくべきでしょう。

[矢崎義雄委員(独立行政法人国立病院機構理事長)]
 医学部定員については、先ほど副大臣がおっしゃいました医師不足や医師の偏在など、このたびの事態を深刻に受け止めつつも、その時々の、一時的な趨勢に流されることなく深い現状分析を行って、かつ冷静に議論をお願いいただければと存じます。

 さて、医学部の現状の定員でございますが、文科省の資料によると、定員が相当多くなっています。そのときにですね、私は現在の医学部の定員はスタッフ数から見て限界に達しているのではないかと危惧しています。
(略)

わざわざこういう念押しするような発言をしているのが何故なのか、これが文科省のシナリオにそった発言だとすればやはり「医師不足問題だけで定員問題を論じるべきではない」「既存の医学部定員はすでにこれ以上増やせない」という二つのポイントが重要視されているということでしょうね。
素直に読み解くとそうであるからこそ医学部は新設されるべきであるし、仮に今後医師不足が解消されようとも国策として医療を巨大産業に育てていこうとしているわけですから、さらに医者は増やすべきだというのが文科省の意向であるということになりそうですが、同時に文科省とすれば傘下にある大学がどんどん大きくなっていくということは悪い話ではないという考えなのでしょうか。
こうした発言を踏まえて直後に始まった実質的な質疑応答で真っ先に手を上げたのが「医学部新設反対派」である日医副会長の中川俊男委員だというのもある意味当然ではあるし、いったいこの検討会の目的とするところは何かというところを確認しようと言うのもこれまた当然ではありますよね。

[中川俊男委員(日本医師会副会長)]
 (不機嫌そうな声で)あの......、最初なのでおききしたいんですけれども......。(略)本日の第1回の検討会は、全国的にひじょーーに注目度が高いです。それが地域医療崩壊という現状の中でですね、待ち望んでたんですよ。

 ▼ 医学部の定員を増やしても、18歳が即戦力の医師になるのは10年後。

 この検討会の位置付けを委員の皆さんと共通認識を持ちたいんですが、鈴木副大臣が冒頭でおっしゃったですね、「ライフ・イノベーション」、「新成長戦略」の中の位置付けで、この検討会を議論することではないと思いますよ。

 もう、地域医療が崩壊しているという現状の中で、緊急の課題ということで検討する会で、そのことをやっぱり共通に認識していただきたいと思います。 

 (安西座長、疲れたような表情で眼鏡を外した)

ま、当然ながらこういう日医の場の空気を読めない発言というものは華麗にスルーされるわけですが(苦笑)、逆にそのことが検討会の目的、あるいは文科省の描くシナリオというのをはっきりと確定させる形になったという点では、日医GJと言うべきなのでしょうね。
こういう不規則発言が出てくることを警戒してか(苦笑)以後の発言は座長が順次指名するという形になるわけですが、座長から真っ先に指名された東大医科研附属病院長の今井浩三委員が「臨床医が足りない足りないと言っているが実は研究医も足りない、行政の医者も足りない。そういう領域での医師不足ももっと考えて欲しい」と猛烈アピールを始めます。
この文脈において医者は「今、とても足りないので、十分に増やしていくことが大事」であり、「教員も増えていなければ施設もないという状況の中で」これ以上の定員増は難しい、むしろ「新たな医学部として立ち上げていく方がずっと早い」と、まさにシナリオ通りと思われる発言をしてくれたのには座長もニンマリというところなのでしょう。

[今井浩三委員(東京大学医科学研究所附属病院長)]
 私は、どういうポイントで話を進めるかということが非常に重要だと思います。地域医療が直ちに壊れていくという現状を十分認識した上で、全体の枠組みについても少し発言させていただきたい。

 まず、地域医療を担う医者が重要であることはもう......、現場の医者ですから間違いないんですが、その他に、今後の医療を担うような、研究をするような方も非常に重要であると考えております。

 ここ(文科省の資料)にはちょっとしか出ていなかったですが、非常に、我が国では(研究者が)枯渇しつつあるという現状がございます。これを考慮に入れないで議論できないと思います。

 それからもう1つ、行政に携わる方とかですね、そういう、ちょっと、一見、(地域医療の現場に)関係ないように見えるけれども、我が国の医療を考える場合に非常に重要な役割を担っている方のことも十分に考慮に入れながら考えていく必要がある

 ▼ 再生医療などの基礎研究に携わる医師のほか、死因究明に必要な病理医や法医学者の不足も問題になっている。

 なかんずくですね、現場で困っている地域医療について、全体のプロポーションを見ながらですね、しかも成熟した、ある程度成熟した国としての医療の体制をきちんと整えていくためには、やはり展望を持ちながら、地域医療に従事する人たちを......。
 今、とても足りないので、十分に増やしていくことが大事だろうと思います。

 今、既存の医学部に何人かずつ増やしていますけれども、これは先ほど矢崎委員(国立病院機構理事長)からも出ましたが、教員も増えていなければ施設もないという状況の中でですね、そこを現場に強いるというのはやはり限界があると思います。

 ▼ 教員を増やすために近隣の病院から即戦力の医師が引っ張られると、地域医療の崩壊がますます加速するという批判がある。

 先ほど、私が申し上げたような観点に立てばですね、新たな、むしろ新たな医学部として立ち上げていく方がずっと早いのではないかと考えております。以上です。

続いて指名されたのが長崎大学長の片峰茂委員ですが、離島医療の多い自県での例を引きながら医師の偏在問題について「国民の税金を使って医師を育てるわけですから、その中で公益、公益をですね、観点としてですね、やっぱりガバナンスを発揮するべき時期に来ているんではないかという気がします」と、医学部からの「出口」問題も議論すべきだと主張する。
続いて日本私立医科大学協会副会長の栗原敏委員が「医学教育はとにかく金がかかる」と私立医大学長らしい視点から問題提起し、だからこそ単にどんどん数を増やせばいいでは経済的にも大問題で、既存の医療資源を有効活用するという議論が必要だと、要するにこれまた片峰委員と同様に公益に基づいたガバナンスを発揮すべきだと言う見解を述べる。
何やら厚労省あたりの主催する検討会でこそ出てくるのがふさわしいような話なんですが、これらの委員に続いて指名された横浜市立大学医学部長の黒岩義之委員は、地域医療崩壊という現象に留意しつつもそれに引きずられ過ぎてはならないと言う論点から、むしろ将来の定員削減を見据えておくべきだというコメントを提示しているのは注目されます。

[黒岩義之委員(全国医学部長病院長会議会長、横浜市立大学医学部長)]
 全国医学部長病院長会議の黒岩でございます。この検討会におきます重要なテーマとして2つあると思います。
 1つは、地域の医療崩壊に対してどういう対策を立てられるかという問題。もう1つは、医学部の入学定員の適正数はどこら辺にあるかという、この2点かと思います。
(略)
 まず医師数の問題については、人口千人当たり2.1人でございますが、2008年以降の1221名の定員増によりまして、人口千人当たりの医師数は(人口減少が深刻化する)2032年には3人、2040年には3.4人、2050年には3.9人になると推定されております。

 現在のOECD加盟国の平均値3.1人を超える時代が来るであろうということ。これについては、慎重な検討が必要かと思います。
(略)
 今後も18歳人口が減少していきますので、いずれは18歳人口100人に1人が医学部に入学するということになりますので、学生の質の確保と言いますか、それが......。

 ▼ この検討会の趣旨に逆行する意見だからか、他の委員らは雑談している。

 先ほど、鈴木寛副大臣も言われましたように、WHOで世界最高水準と自負していい、そういう医療水準を持っているわけですが、国民の利益、安心、安全ということを考えますと、医師の数だけではなくて、質の確保ということが非常に重要であるということ。

▼ 医師も色々......、大学も色々あるわけで......。弁護士の増員をめぐる議論に似ている。

 そういうことで、今後、将来、現在の入学定員8846人をそのまま維持できるのか。場合によっては3000人以下に大幅に削減する必要があるような、そういう時代が来るかもしれないという観点に立って、総合的な視野に立って考えていくべきと思っております。

この後は産科看護研究そして製薬といった各業界から、それぞれの立場に基づいた「うちも困っているんだ!」という現場の声というものが続きますが、いずれも初回の顔見せ発言的な要素が強いものの、座長以下文科省の意図に沿って議論を主導したい側には好都合な意見の持ち主が多いということですよね。
そしてようやく順番の回ってきた日医の中川委員ですが、日本の医師不足は偏在の要素が大きいのであって、これを医師不足だからと定員を増やしすぎると早晩歯科のような定員割れの相次ぐ「悲劇的」な状況になると考えるならば、今井委員の言うような医学部新設論というものは「現時点においては到底あり得ないこと」だと言い切ってしまいます。

[中川俊男委員(日本医師会副会長)]
 第1回目ですので、各論の細かいことを申し上げるつもりはございません。今回、厚労省の資料の15ページ(病院等における必要医師数実態調査)にありますが......。 

 ▼ 同調査はこちらを参照。調査の概況によると、「必要求人医師数は18,288人であり、現員医師数と必要求人医師数の合計数は、現員医師数の1.11倍であった。また、調査時点において求人していないが、医療機関が必要と考えている必要非求人医師数を含めた必要医師数は24,033人であり、現員医師数と必要医師数の合計数は、現員医師数の1.14倍であった」としている。

 必要医師数の実態調査ですね。こちら、1.1~1.2倍という結果には、現場の感覚から言うと驚いたわけです。ところがですね、短期的な解消方針としては......。

 もちろん、(医師の)絶対数は十分ではありませんが、日本の医師不足の特徴として、偏在というものが一番大きいんだと思います。その解消策をどうするのかが、この検討会の1つの重要な論点だと思っております。(中略)

 「偏在をどう解消するか」ってことに知恵を絞るんだろうと思います。来年度から8923名という医学部定員で行けば、2020年、2025年には、例えばG7(先進7か国)の平均並みに到達するわけですね。

 その時、私、黒岩委員(全国医学部長病院長会議会長)が言ったことに賛同するのですが、将来的に医師数が過剰になった場合にですね、日本の医学部の定員数の調整でやっていくことだと思っているんです。

 あの、事務局に次回出していただきたいんですが、歯科の先生方、ひじょーーに苦労してます。もう簡単に言うと、誤解を恐れずに言うと、悲劇的っていうか、大問題になっています。

 これは定員割れの大学が続出しているわけですよね。そういうことも考えれば、今井委員(東大医科研究病院長)がおっしゃいましたけれども、医学部を新設するということはですね、現時点においては到底あり得ないこと。第1回目なので、あえて申し上げたいと思います。以上です。

これに続く京大病院長の中村孝志委員は、定員を増やさずに地域への定着率向上を目指している国立大を例に引きながら医学部新設論を暗に否定する、名古屋大学総長の濱口道成委員は医者の数というものは簡単に調節がきくものではない、質のコントロールもなしに青天井で増やしたのでは粗製濫造になると、いずれも中川委員とは慎重に距離を置きながらもどちらかと言えば反対論に近い主張を展開しています。
こうしてやや流れに逆らうような意見が散見されるようになった中で登場するのが矢崎義雄委員ですが、副大臣の発言を引用しつつ「幅広い分野で活動する医師の育成も非常に大きな課題」であり、そのことを踏まえて「モデル事業として新しい構想の医学部創設も、その対策の1つになる」と、何やら強引にも聞こえる論法を提示してくるというのはやはり「取り込まれている」ということなのでしょうか?(苦笑)

[矢崎義雄委員(独立行政法人国立病院機構理事長)]
 医師数と共にですね、最初に副大臣がおっしゃられたように、やはり幅広い分野で活動する医師の育成も非常に大きな課題ではないかと思います。

 専門領域において活躍されることも欠かせませんが、地域医療の建て直しや医学研究への貢献、あるいは製薬などの医療産業や、我が国にとどまらずに国際的に活躍する医師の育成が求められている

 現在、文科省の医学教育のコアカリキュラムでも、総合的診療能力の習得、地域医療への使命感の向上、基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの醸成となっています。

 しかし今、アウトカムベースドの評価になりますと、必ずしもそれが実感されていないことが指摘されています。それはやはりスタッフのサポートが乏しいということが大きな原因ではないかと思います。

 私としてはですね、このような視点から、1つ提案したいと思います。

モデル事業として新しい構想の医学部創設も、その対策の1つになるのではないかということです。その内容につきましては、私なりの考えもありますけれども、慎重に検討すべきではないかと思います。

 そして人材育成のアウトカムを比較しますと、自ずから医学教育の抜本的な改革への大きな推進力になるのではないかと期待されていますので、その方面からの検討もぜひお願いしたいと思います。

最後に登場するのが元・日本病院会長という肩書きを持つ山本修三委員ですけれども、「医師が足りない」とはすなわち病院、特に急性期の病院で働く医師が足りないということに他ならないという観点から、地域や診療科での医師偏在問題は単に数を増やすということでは対応出来ないはずだと指摘し、「医療の資源の適正配置という仕組み」を考えるべきだと主張しています。
このあたりになるともう文科省というよりは厚労省あるいは総務省あたりの問題になってくる気がしますけれども、いずれにしてもこうして全体の流れを見ていきますとごく現場に近い立場の人間からは「うちはまだまだ医者が足りない。早く何とかしてくれ」という素朴な声が上がっている一方、日医を筆頭に医師数大幅増に警戒している向きは総じて医師の偏在を公権力によって是正すべきだとも併せて主張しているように見えます。
そしてもう一派として医師数を増やすのは国策であり、単に現場の医師不足解消という狭い視点からのみ不足だ、充足だと語るのは間違っていると言い切る一派が存在していて、主催する文科省を始め検討会を主導する立場の方々はそろってこちらに与しているらしいことが見えてきますよね。

厚労省は厚労省で医師偏在を是正する方策を検討しているところなのでしょうが、今回の流れを見る限りでは特に厚労省側での話の流れと(委員個々の重複などは別とすれば)リンクしているような気配は見えない、となれば文科省は独自の思惑から医学部新設も含めて定員を更に大きく拡大し、しかもそれを国策として現場の状況とは無関係に続けるつもりであるらしいということになりそうです。
仮に近い将来にでも厚労省側が日医などの言うように、医師配置の是正によって臨床現場の医師不足問題を解消し得た場合であっても、後から後から文科省お墨付きの新卒医者はやってくるとなれば、どうしたって臨床の現場からあふれた医者が関連分野に流出するなり新たなビジネスを開拓するなりせざるを得ないのは明らかですし、まさに文科省としてはそういう未来絵図を描いているらしいわけですよね。
そうなりますと日医の言う定員大幅増で先行する歯科で起こっているような「ひじょーーに苦労」している状況、あるいはロースクール乱立でわずか三年で弁護士の年収が6割減なんて状況は、単に行き過ぎた専門職増員政策の勇み足だったと考えられていますけれども、どうやら医者の世界で今後起こることは意図して行われることらしいと言うわけですから、今まで以上に徹底した結果が期待出来るということなのでしょう。

何やら非常に面白いことになりそうだなという予感はあるわけですが、今後は医療行政は自分の仕事と考えている厚労省あたりがこの文科省の方針に対してどういうスタンスで接するつもりなのか、そのあたりにも注目しながら経過を見ていきたいと思います。

|

« 南の島の公立病院も結構すごい | トップページ | 今年の話題を振り返っての雑感 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

良い記事をありがとうございます。

医師が増えると公費負担となる医療費が増えるという構図は、国民皆保険制度かつ出来高制があって成り立つのですが、このどちらかが壊れれば必ずしもそうとはいえない。

混合診療導入かつ 保険診療部分は定額制となれば医師が増えたほうがいいわけです。
逆に言うと医学部の定員増に着手したということは、皆保険制度、出来高制を見直すことにつながる可能性が高いです。

投稿: ya98 | 2011年1月 2日 (日) 01時10分

おっしゃるとおり、医者をここにきて大幅に増やすことを是認し始めたというのはシステム自体を大がかりに変えていくということの前触れだと思います。
ところが日医などという団体は今も昔も相変わらず保険診療とは未来永劫変わらぬもの、混合診療など認められないものという前提でしか医療をみていないように見えるわけですから、いずれどこかで大転びする可能性が大でしょうね。
そのあたりも含めて面白そうだなと感じているわけですが(苦笑)。

投稿: 管理人nobu | 2011年1月 5日 (水) 16時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/50420778

この記事へのトラックバック一覧です: 文科省の描く医療の未来図とは:

« 南の島の公立病院も結構すごい | トップページ | 今年の話題を振り返っての雑感 »