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2010年12月 6日 (月)

問題を抱え続ける地域医療の今

先日島根県は大田市からこんな話題が出ていましたが、まずは記事から紹介してみましょう。

大田市立病院:「救急充実」が7割 指定再開に期待--市民調査 /島根(2010年12月4日毎日新聞)

医師不足から市立病院が救急告示を取り下げた大田市で、市民に地域医療への意識を問うアンケート結果がまとまり、3日に開かれた同市地域医療支援対策協議会(会長、中村一夫・市自治会連合会長)で報告された。市立病院で力を入れるべきこととして、「救急医療の充実」を7割が挙げるなど、外科・整形外科を含む救急指定告示の再開と、中核病院としての高度・専門医療に期待する声が高かった。アンケートは9~11月に実施。市民1000人に用紙を送り、667通の回答があった。

 回答者の58・6%が定期的に医療機関にかかっており、最もよく使う医療機関は1位が「(同病院以外の)市内機関」(63・3%)、2位が同病院(14・8%)で、合わせて8割近く。同病院を「受診したい」と思う人は48・7%、思わない人は30・9%で、その理由(回答二つ以内)のトップはそれぞれ「専門的な治療を受けられる(受けられない)」となっていた。機能充実で力を入れるべきこと(回答二つ以内)は、1位が「救急医療」(72%)、2位が「高度診療、最新の検査」(41・4%)で、二次医療圏の中核病院として重視されていることを裏付けた。【鈴木健太郎】

島根県の中程に位置する大田市はこの地域の中心都市とは言え人口わずか4万人足らず、すぐお隣は島根大学医学部のある出雲市ですから難しい病気の方々はどうぞそちらにお越しくださいと考えたくなるような場所柄ですが、救急医療充実はともかく高度の専門医療や最新の検査を求める声がこれだけあるということをどう考えるかですね。
こんな小さな地方都市の崩壊最中にある病院に対してこういう声が出てくるという時点で民度としてどうかという多々意見もあるでしょうが、これは別に大田市が特別だというわけではなくて、全国どこの地方に行っても同種のアンケート調査には同じような結果の答えが並んできているという現実は認めなければならないかと思います。
救急を充実しろ、市内でお産が出来るようにしろ、24時間小児科専門医が対応しろ、癌や難病を近くの病院で治療できるようにしろ、etc…もちろん単に希望を述べよと言われれば誰でも好きに希望は述べるのが当然なのですが、逆にこういうアンケート結果を見てみますと厚労省あたりの主導する医療集約化などという話に対して、一般市民というものが全く理解が追いついていないのではないかという印象も受けますね。

近年医療崩壊などという言葉と共に医療資源が不足しているということが盛んに叫ばれていて、では医者を国家権力によって僻地に送り込めばいいという読売新聞などを始めとする医師強制配置論者などが一定の支持を得ている所以ですが、その影に隠れてあまり話題にならないのが一昔前とは医療の内容自体が大きく変化しているということです。
かつてはそこらの町医者がお年寄りから子供まで何でも見ていた、専門外だろうが何だろうが取りあえず診てやろうという医者が多かったわけですが、そうした古い時代の診療を完膚無きまでに破壊したのが医療訴訟の急増などに見られる社会的な責任追及意識の高まりです。
医療に求められる水準というものがそれなりに高くなってしまえば、当然その担い手は減っていくのは道理であって、世の中に星の数ほどある疾患、病態に対応するためにはそれだけ多数の各専門領域の医者を揃えなければならないし、それぞれの医者に求められる医療の質すなわち業務量というものもずっと増えてきているということですよね。

こういう時代になればせいぜい内科数人、外科数人くらいで一通りの地域需要を満たすことを求められていた地方の中小病院などが最もその影響を被ったことは当然で、そこで無理をさせて出来もしない業務をやらせ続けた施設は崩壊し、身の丈にあったレベルにまで業務を整理した施設は生き残っているという現状も当たり前の現象だと思いますが、利用者の側から見れば別の論理があるのも前述の記事の通りです。
昨今では上野原市の新市立病院建設問題などを幾度か取り上げさせて頂いていて、どう見ても身の丈を超えたレベルの医療を求める市長側の要求を経営側がはねつけたというところまでは先日お伝えしたところなんですが、なにやらその後も相変わらずゴタゴタ続きであるということなんですね。

市長と面談中止 医師会側が通告・上野原 /山梨(2010年12月03日朝日新聞)

 市長と医師会との「和解」が造成工事着工の条件となっている上野原新市立病院建設問題で、上野原医師会は江口英雄市長との面談に向けた日程交渉を「いったん中止する」との文書を市側に提出した。建設問題は2日に開かれた市議会一般質問でも論議が集中したが、早期の収拾は難しそうな雲行きだ。(永持裕紀)

 同医師会の文書は、1日に渡部一雄会長名で提出された。造成工事着工には上野原土地改良区の同意が必要で、改良区は市と医師会の「和解」を条件としている。このため江口市長ら市側は11月上旬から医師会との面談に向けた折衝を始めていた。

 医師会は文書で、「(市長の記者会見などでの言動から)急いで医師会と和解するのは改良区の(同意を示す)ハンコのため、ということが明らかになった」と指摘。市長に謝罪や名誉回復などを求めてきた同会側は、「謝罪する姿勢は形ばかり」として、交渉をひとまず中断したうえで「出直し」を求めた形だ。

 一方、2日の市議会一般質問で、各議員は「来年3月末までに新病院が着工できるのか」という点をただした。国の耐震化工事補助金など約13億円の交付条件は「今年度中の本体工事着工」で、交付の有無は市財政に大きく影響する。市側は、来年1~2月に造成工事に入れば交付の条件を満たすことにならないか、県などと折衝する方針を明らかにしたが、着工時期のめどについては「改良区とさらに密に調整して理解していただく」(病院対策課)とだけ答え、明言できなかった。

 今後の対応を問われた江口市長は、「医師会と話をする中で私の配慮が足りなかった点については説明したい」と語った。

深まる溝、建設にも暗雲 上野原新市立病院 市長と医療関係者対立 「一方的」募る不信感 関係修復、道筋見えず(2010年12月05日山梨日日新聞)

 上野原市が2012年春の開院を目指している新市立病院計画をめぐって生じた、江口英雄市長と市内の医療関係者との溝が埋まらない。病院計画では一部歩み寄りも見られたものの、医療関係者の中には、市側の病院建設の進め方について「一方的だ」との不信感が根強くある。両者の溝が新病院建設の遅れや地域医療への悪影響を招きかねない、と心配する声が出ている。

 指定管理者との溝が顕著となったのは新病院の設計。市立病院の指定管理者「地域医療振興協会」が策定した基本設計案に対し、江口市長は産科と救急循環器診療体制の確立を含む血管造影室を構想に加えた。自身の「産める、育てるまちづくり」という公約を盛り込んだ形だった。
 これに対し病院の経営再建に取り組んでいる協会は「(市長の要望は)発展途上の病院の身の丈に合っていない」(両角敦郎院長)と指摘。しかし市側は指摘を受け入れず、江口市長の構想を基本設計に盛り込むことを通知。結局、江口市長が要望を撤回し、折り合いがついた。
 だが、協会側は撤回するまでの市側の姿勢に不信感を募らせた。協会の指摘に腰を据えた協議もないまま「市長案採用」を通知してきたことや、協会として市の病院建設に対する考えをただした質問書に対する詳細な回答がなかったことがその要因。「市は一方的に考えを押しつけるばかりで、対話の姿勢や誠意がない」(両角院長)と感じた。

撤退も危惧

 市内の開業医でつくる任意団体・上野原医師会(渡部一雄会長)と江口市長の関係もぎくしゃくしている。
 当選後は地元医療関係者と地域医療について協力体制を構築していく考えを示していた江口市長。しかし、「新病院の在り方をあらためて検討する」という公約を実現するために委嘱した委員などに「地域医療振興協会に批判的」(渡部会長)な市外在住者を重用し続けた。
 地元医療関係者との協力体制を期待していた医師会側は、江口市長の一連の対応に「裏切られた」との思いを強めた。常勤医が減り、一時は閉院の危機を迎えた市立病院再建に成果を上げてきた地域医療振興協会の市立病院からの“撤退”も危惧し、市長との対立を深めていった。
 今春には市長と医師会の対立から、医師会が務める小中学校の学校医が不在となる事態にも発展。学校医は医師会が譲歩し復活したが、市が補助する各種予防接種の窓口代行業務は「辞退」したまま。12月定例市議会では複数の市議が「市民の不満が高まっている」と解決を求めた。

解決の糸口

 両者の対立は病院建設自体にも影響し、予定地の造成工事に入れない状態となった。工事道路予定地に管理する水路がある上野原土地改良区が、市と医師会の和解を着工同意の条件に挙げたためだ。
 市は和解へ向け、医師会と直接協議の場を設けようとしている。しかし、「医師会との問題は次元が違う話だが、改良区の同意が必要なので早く解決の糸口を見つけたい」などとした江口市長の発言に、医師会側は「和解と言っているのは、改良区から同意のはんこがほしいだけ」と指摘。江口市長の真意を疑問視し、市側から求められた協議の日程交渉を打ち切った。
 12月定例市議会で「市の医療、福祉、保健は行政、市立病院と地元医師会が一体となってやるべき」とし、医師会との和解に向けて努力する考えを強調した江口市長。しかし、「一体」への具体的な道筋は今も見えない
 改良区の同意がなければ、病院の本体工事がずれ込み、国の補助金を得る条件である「年度内の本体建設工事着工」にも影響を与えかねなくなった江口市長と医療関係者との対立。地域医療を担う新病院計画実現には、早急な関係修復が求められている。

ま、正直こういう田舎町の行政なんてものは色々としがらみだらけであるのがデフォルトというもので、特にこの市長さんの場合はかねて市議や地元企業の贈賄問題などを告発してきたとか、公立病院建設費は高すぎる!なんて土建業批判までしてきた経緯があるわけですから、それは市長としても市外の人間を重用せざるを得ない状況であろうというのも納得はいく話ではあるのですけれどもね。
ただ今の時代こうした地方公立病院でかくあるべし論で話を進めてもどうにもならないという事例はすでに世の中に満ちあふれているにも関わらず、現実の裏付けのない公約という形でそうした幻想に対する市民の期待値を高め続けたまま市長の座についてしまったということがそもそものボタンの掛け違いというもので、その点については率直に下手打ったなという印象は受けるところです。
市長も元医者だと言うことですから、現実はしばしば理屈を超越するという常識はよくわきまえているはずだと思うのですが、少なくともこの問題に関するインフォームドコンセントという点に関しては一体いつの時代の流儀でやっているのだと、今のところ落第点しかつけられない状況なのではないでしょうか?

すでに市の運営によって一度破綻しかけた公立病院が何とか民間の力で再生を目指して苦闘している中で、本来ならその破綻に至る責任を真摯に反省し、真っ先にその再生をサポートすべき行政側がむしろ最大の阻害要因となっているというのでは、いったいどこまで役立たずなんだと市民の不満も高まりかねませんよね。
市長を始めとする行政側としてはこうした地域医療の現実というものをきちんと市民に説明し、いったい同市にとっての身の丈にあった医療とはどんなものなのか、それによって起こりえる市民の不具合、不都合に対して市側はどのような解決策を用意するつもりなのかということを、この機会にしっかりと周知徹底してコンセンサスを形成していくことこそ最も求められている仕事なのではないかという気がします。
そしてもちろん、最終的には現代の医療の抱える限界というものを医療の受益者たる市民がどれだけ我が事として理解し、時代にあった医療との関わり合い方を模索していけるかどうかが問われることは言うまでもありません。

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コメント

こんな噂もあります。(本当かはわかりませんが?)

医師不足の理由は医療事故をおこした広大の医師を切利捨てたこと
市は関係ない、個人の責任と突き放した。
裁判での支払い命令は2000万円、もちろん個人の賠償だった。
その後、外科医を派遣していた広島大学は、
手術する機会の減で臨床の経験を積むことが困難になった医師が、
大田市立病院に行きたがらないことを理由に、医師の派遣打ち切りを通告してきた。
島根大でも医師が大田市の体質を敬遠している。
大田市立への派遣も本年度から中止しいるのが現状。

投稿: | 2010年12月 7日 (火) 07時47分

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