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2010年11月24日 (水)

天下のWHOがこうおっしゃっているそうですが

ちょっと現時点で情報がほとんど入っていないのでアレなんですが、唐突に「なんじゃこりゃ?」と思えるようなこういうニュースが出てきまして、取りあえず紹介だけでもさせていただきます。

世界の医療費、4割が無駄遣いか=財源確保へ「携帯税」提案-WHO報告(2010年11月22日時事ドットコム)

 【ジュネーブ時事】世界保健機関(WHO)は22日、医療改革に関する報告書を公表、制度運営上の問題で世界の医療費の最大4割が無駄遣いされる恐れがあると警告した。医療制度を悪用した汚職だけでも世界の医療費約5兆3000億ドルのおよそ6%、約3000億ドル(約25兆円)と推計している。
 報告書は、不必要な入院や病院の乱立、投薬ミスといった無駄を列挙。問題を放置すれば「控えめに見積もっても医療費全体の約2~4割が無駄遣いされる」と改善するよう提言している。その上で安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)の利用促進など「薬の適切な使用で医療費は最大5%減らせる」としている
 報告書はこのほか、全国民が医療サービスを受けられる皆保険の重要性を強調。課題となる財源確保の「革新的な手法」として、携帯電話利用への課税など新税検討を提唱した。西アフリカのガボンが導入している外国為替取引や携帯電話利用料金への課税案を紹介している。

元々の報告書なるものの内容に当たれているわけでもないので記事の内容だけから考えるしかないのですが、一体これは何を言いたいのかという話ではありますよね。
医療の無駄として挙げられたものとして「不必要な入院」「病院の乱立」「投薬ミス」などがあり、この結果「控えめに見積もっても」医療費の2~4割が無駄遣いされると言うのですから穏やかではありませんが、しかし不必要な入院や病院の乱立といった問題が医療財政上の大きな課題となるような地域が、世界の中でどれほどあるのか疑問に思えるのは自分だけでしょうか?
医療費支出が非常に多い国として知られるのが米国ですが、この国では手術後だろうがさっさと病院を追い出されて毎日消毒に通うなんてことが普通にある国で、入院期間を減らせなんて言われる以前に入院が必要な患者でも金銭的な面から入院出来ないなんて問題の方が多いわけですよね。
一方で平均在院日数が長いと言えば突出しているとよく言われるのが日本ですけれども、こちらは世界一にも名前が挙がったという医療のレベルと比較してひどく医療費支出の少ない国としても知られていますから、これが無駄遣いの根源だと言うのであれば他国はどんな恐ろしい無駄を他の部分でやっているのかと誰しも思うところではないでしょうか?

病院の乱立と言うと呼び込み合戦になっているほど病院が余っている地域が世界でどれだけあるのかという話ですけれども、実際に病院の乱立が医療費の無駄遣いにつながっているとして、どの程度寄与しているのかという疑問がまず一つですよね。
ではこれをひとまとめにして巨大病院を各地に一つずつ作れば効率が良いかと言えば、それはもしかすると実際に医療費の面では効率化されるのかも知れませんけれども、皆さんご存知のように大病院ほど診療は非効率化して何事にも手間取るようになりますから、地域に一つの病院は年中観光シーズンの行楽地のような芋洗い状態にもなりかねないというものでしょう。
確かにそうなれば「こんなに待たされるのであればもう帰ろう」と受診をあきらめる人も続出しそうですし、心筋梗塞患者がまず受付にたどり着くまで半日行列に並ばなければならないとなれば高価なインターベンションを受ける機会も激減しそうですから、確かに結果としていずれも医療費の削減にはつながるのかも知れませんけれども、それをもって無駄と称するのはどうなのかですよね。

個人的に注目したいのがこれらが非常に主観的な評価基準であって、何をもって不必要、乱立あるいはミスとするかという客観的基準の設定が非常に難しいという点ですが、例えばよくある「診断は確定できないが取りあえず経過観察目的で一泊入院させる」だとか、「初診時とりあえず可能性の高そうな疾患に対応して幾つかの治療を同時並行的に行う」といったものは無駄やミスにカウントされるのかということです。
素人考えでは後出しじゃんけん的に「実際の疾患と無関係な治療は無駄ではなかったか」と言う考え方はよく出てくるところであるし、昨今では実際にそういう主張をして窓口負担分を支払い拒否なんて患者もいるようですけれども、逆に初診時にとりあえず可能性の高いところを抑えておいたからこそ重症化せず、医療費が安くあがったという場合も多いわけですよね。
こういったあたりは日常的に臨床医を憤慨させているレセプトの査定などとも共通する話ですけれども、「いやこれは認められません」というその判断基準が取りあえず支払額○パーセントカットなんて数字目標先にありきで行われているのであれば、それはどんなところも無駄には認定できるようにはなるだろうといった事と同様で、まず何をもって無駄としているのかの定義を明らかにしていただくのが先決でしょう。

こういうものが積み重なった結果の2~4割の無駄遣いなんて数字の根拠も元のレポートでは挙げられているのかも知れませんけれども、医療費の無駄遣いというものが多々あるというところには同意するにしても、その理由としてこうしたものがまず出てくるというのは何かしら釈然としない思いを抱く現場の人間も、少なくともここ日本では多そうですよね。
そして興味深いのがこういう話をしておいて皆保険の重要性を強調しているんだそうですが、皆保険制度こそ患者支払額の低さから無駄な長期入院の温床や漫然とした治療の横行につながっているなんて批判もあるほどで、患者の利益という点では有利な制度であったとしても、こと医療費の無駄を省くという観点からすれば実のところ褒められるようなものでしょうか?
その財源確保の方法論として携帯電話利用への課税を提唱するとはWHOも一体何を言っているのかですが、WHOと言えば人間の健康達成を目的に設立された国際機関であったはずでしょうに、一体いつから税制を云々するような組織になったのかと疑問に感じる人間も少なからずではないでしょうか。

ここからは記事を読んだだけの推測モードになりますけれども、こうして見てみますと医療費の無駄遣いとして挙げられる諸問題と言い、皆保険制度のメリットを強調する後段と言い、何かしら非常に日本にターゲットを絞って書かれているかのような話にも感じられませんでしょうか?
実際にWHOがそういう文脈で書いているというのであればともかくとして、もしこれが記者氏の恣意的な引用によるものであるとしたら、こうしたごく短い記事という形で「WHOのお墨付き」を強調したい人間の意図は何なのかという話にはなってきますよね。
記事に挙げられた諸問題の逆を考えてみますと、「平均在院日数短縮」「病院統合」「ジェネリック利用推進」といったどこかで見たようなキーワードが連想されるわけですが、そういう話をもって「だからこそWHOも医療改革の必要性を主張しているのだ!」と言いたい人間がいるとすれば、それがどこの誰であるにしろ近い将来自分から大きな声でそうした主張を始めそうにも思えます。

いずれにしても実際のところの報告書の意図なり内容なりがどのようなものであるのか、何かしら情報をお持ちの方はご紹介いただけると助かります。

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コメント

◎WHOの報告書です→The world health report - Health systems financing: the path to universal coverage
Executive summary (pdfで20ページです)
http://www.who.int/whr/2010/10_summary_en.pdf

◎The world health report - Health systems financing: the path to universal coverage
http://www.who.int/whr/2010/en/index.html

◎Health financing
http://www.who.int/topics/health_economics/en/index.html

投稿: 鶴亀松五郎 | 2010年11月24日 (水) 13時00分

時事通信の報道と海外メディアであるAFPの報道では、同じことを記事にしているにも関わらず、内容が全く違います。

日本のメディアを信用せずに海外のメディアや、もとのWHOのレポートを読んだほうがよさそうです。

◎世界中に国民皆保険を」、日本は成功例 WHO年次報告
AFP 2010年11月25日 発信地:ベルリン/ドイツ
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2776625/6509489

【11月25日 AFP】世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン(Margaret Chan)事務局長は22日、世界では年間1億人以上が病気や高額な医療費のため貧困に陥っていると指摘し、「すべての国が国民皆保険の導入を目指すべきだ」と進言した。

 独ベルリン(Berlin)でWHO年次報告書を発表したチャン事務局長は、「今年の報告書では、より多くの人にヘルスケアが行き届き、健康のために人びとが経済的破たんを起こすリスクをなくす政策を採用するよう、世界のすべての国に提言している」と述べた。

 保険医療制度とその財源について特に焦点をあてた今年の年次報告書は、不況、疾患のグローバル化、社会の高齢化とそれによる慢性疾患治療などを背景に、国民皆保険制度の必要性が「これまでになく高まっている」点を強調している。

 WHO加盟192か国・地域は2005年以来、すべての人が医療サービスへアクセスできること、また医療サービスを受けたことで困窮状態に陥らないことを掲げているが「世界はどちらの点でも、国民皆保険からほど遠い」(報告書)。

 世界で年間1億人が医療のために困窮状態に陥る一方で、財源を蓄積し、社会で広く医療費を負担することで保険制度が成功している地域・国として欧州、日本、チリ、メキシコ、ルワンダ、タイの名が挙げられた。(c)AFP

投稿: 鶴亀松五郎 | 2010年11月25日 (木) 14時31分

う~む…やはりどう要約すればこういう記事になるのかというような内容であったということですね。
支離滅裂な記事の文面から半ば予想していた通りですが、ここまで露骨に偏向報道をするとなると中の人の目的が何かですね。

投稿: 管理人nobu | 2010年11月26日 (金) 16時00分

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