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2010年11月22日 (月)

北から南から 公務員であるということの意味は

世の中これだけ不景気だ不景気だと言われ続けて早幾星霜、こんな時代にあっては公務員というのは代表的な「勝ち組」だと見なされているともっぱらの評判のようですね。
そんな中で先日こういう記事が出ていまして一見すると不思議な話にも見えるのですが、秋田県の方には申し訳ないことながら「さもありなん」と考える人間も実は多いのではないでしょうか?

人気なし?公務員獣医師、秋田県の応募ゼロ/秋田(2010年11月19日読売新聞)

「国民の安全守る仕事なのに…」

保健所など秋田県の機関で働く獣医師の人気が低迷している。

 ここ数年、採用試験の受験者は定員を下回っており、きょう19日締め切りの今年の採用試験でも定員4人に対し、応募はゼロ。来年早々に再度採用試験を行い、獣医師の確保を目指すが、県の担当者は「このまま行けば医師不足になり、伝染病予防などにも影響が出る」と頭を抱えている。

 県が採用する獣医師の主な配属先は、秋田中央保健所や県中央家畜保健衛生所、食肉衛生検査所などの機関。伝染病の予防研究や食肉の安全検査にあたるほか、動物管理センターで犬猫のしつけを担当することもある。県は、2004年から3年間控えていた獣医師の採用試験を08年に再開。だが定員は08年3人、09年5人に対し、応募者はどちらも4人にとどまり、辞退者も相次いだため、採用はともに2人で、定員を満たすことができない状態が続いている。

 人気低迷の理由について、県は「獣医師を目指す人の多くはペットを診る動物病院を希望する人が多く、公務員になろうという人がそもそも少ない。全国の自治体が公務員希望者を奪いあっている状態」と説明する。

 しかも、県の受験者はほとんどが県外出身者で、合格しても「東京から遠い」「雪が多い」などを理由に挙げ辞退する人がいるという。

 こうした状況を打破するため、県は今年から、採用後、原則15年間最大月額3万円の手当支給を決定し、インターンシップの交通費助成、関東地方に試験会場を設置するなどの対策を開始。獣医師の確保に努めているが、好転するまでには至っていない。

 県農畜産振興課の獣医師佐藤政善さん(57)は「口蹄疫などの伝染病予防や、食の安全確保の最前線に立つ仕事。獣医師には国民の安全を守る役割もあると知ってほしい」と話している。

まあ遠いだの雪だのは採用試験を受ける前から判っている話ですから、このあたりは受験者の方にも行く気がないなら受けるなと言う話ですけれども、想像するにそれらは断るための言い訳の部分も大きくて、実際には「公務員になろうという人がそもそも少ない」という言葉にこそ、この問題の構造的背景が見えてくるところですよね。
例えば獣医関係者の方々に言わせればこうした県職員としての仕事はサーベイランスやらの「誰でも出来る仕事(当事者談)」が主体と言うことですから、獣医らしい仕事を目指してせっかく大学を出たのにそんな雑用仕事(と言っては失礼ですが)なんて嫌だ、もっと獣医師としての技能を発揮できる仕事がしたいと感じるのも、獣医師としての職業意識が高い方ほど強いのではないかという気がします。
このあたりは保健所における医師などと同様、法令上どうしても獣医師資格が必要なポストは一定数あるということは理解できますが、「必要なのはあなたではない。資格さえあれば誰でもいいのだ」なんて職場に、有能でやる気に満ちあふれた人材が集まるわけはないのはどの職種でも同じことでしょう。

むろん仕事の内容云々以前の問題もあって、今どきの世間的には公務員=高収入で安定雇用というイメージがあるのかも知れませんが、それ以上にきちんとした働き口が見込める上にそちらの方がやり甲斐もあって人の役に立つ実感も得られるとあれば、むしろそちらを選ばない方がおかしいというのも世間の常識でしょう。
獣医学部というところも六年制の難関ですが、話を聞けば公務員となれば専門学校卒の看護師より給料が低いだとか、秋田県などでも獣医学生に奨学金まで出して人材確保に懸命なんだそうですが、これがまた例によって奨学金貸与期間の1.5倍を県内で勤務すれば返済免除という、どこかの世界で見るのと全く同じような構図になっているわけで、そう考えるとこの公務員忌避問題も同じような背景がと察しはつきますよね。
社会的にも意義ある大事な仕事であるというのであれば待遇面でもそれなりに厚遇すればいいでしょうに、むしろ冷遇するというのであれば実際はその程度の仕事としか見ていないのかと誰でも理解出来る話ですから、それは他の条件の良いところから人が集まっていくのは当然すぎる結果としか言いようがありません。

獣医の世界でもそんな状況だということですけれども、医師の世界でも似たような話があるということは先日沖縄から出ましたこんなニュースから知れることで、やはりこちらもその程度の仕事であるということを世間に公言しているようなものですから、同様の結果が期待されるということになるのでしょうか。

医師ボーナス削減検討 県が提案 組合、人材流出を懸念 /沖縄(2010年11月20日琉球新報)

 県病院事業局が県立病院で働く医師293人の期末・勤勉手当(ボーナス)を0・2カ月分引き下げて3・95カ月分とすることを県公務員医師労働組合に提案していることが19日、分かった。平均で1人当たり年間11万7142円の引き下げとなる。県立病院は離島や北部で医師確保が難しくなっており、組合側は「医師流出につながりかねない」と地域医療への影響を懸念している。
 病院事業局は(1)知事部局の給与・ボーナスがカットされる(2)一般会計繰入金が2009年度から増額されている―ことから「知事部局と足並みをそろえる必要がある」と削減を提案。削減による財政効果は年間約3700万円。今後、医師以外の職員にも同様の提案をする予定。県立病院課は「医師流出につながらないよう、丁寧に説明し理解を求めたい」としている。
 県立病院は北部病院で内科医、産婦人科医の不足のため診療制限が行われているほか、八重山病院、宮古病院でも内科医の確保が難しくなっている。県公務員医師労組の與座浩次副執行委員長は「医師がさぼっていたから赤字になったのではなく、南部医療センター・こども医療センターは当初から赤字計画の病院。増額分は本来、入れておくべき繰入金だった」と指摘した。
 県立病院事業会計への一般会計からの繰入金は09~11年度の3年間の経営再建期間中に、通常の65億円程度に再建支援分として18億円程度が増額されている。増額を決めた08年度当時の議論では、県立病院の赤字の最大の要因は中部病院の改築、南部医療センター・こども医療センター建築にかかる借金返済で、一般会計の負担が少なかったことが挙げられ、知事部局にも責任があるとされた。

ハコモノ行政の責任を現場スタッフにというのもなかなか素敵な話ですけれども、実のところ沖縄ではすでに三年前から、保健所で働く医師を対象に医師手当廃止を通告するという事件がありまして、この時の理由が「特殊勤務手当は本来、危険や不快、不健康、困難な勤務が対象だ。医療はこれに該当しない。基本給との二重取りとの批判がある」と言うことだったそうです(苦笑)。
今回はそれに味を占めて二匹目のドジョウをということなのでしょうけれども、もちろん医者も人並みの知性はあるでしょうから理解はしてくれるでしょうが、県の立場を理解することと実際にどうするかを決めることとはまた別問題ですから、県の思うような結果となるのか、それとも社会常識に従った結果となるのか、沖縄の先生方も社会人としての常識の有無を問われることにはなりそうですよね。
むしろこの件で注目していきたいのは、県立病院課の「医師流出につながらないよう、丁寧に説明し理解を求めたい」という言葉ですけれども、別に沖縄県職員として働かなければならないという医師など恐らくごく少数に留まるだろう中で、彼らがどのような説明をし流出を阻止しようとするのか、そしてここまでされてもまだ居残る医師とはどんな人々なのかが興味深いと思います。

個人的に思うことには今回の一件、世間的にはずいぶんと言われるところも多いのでしょうが、基本的に医療も経済観念が問われる時代ですから、沖縄県当局として医療にはそれだけのコストをかけるに値しないという判断をされたと言うのであれば、それはそれで無駄を省き県政の健全化にもつながる英断なのではないかとは思いますね。
沖縄県というところは離島や僻地医療で苦労をしている側面がある一方、新臨床研修医導入以来研修医集めに関して言えばむしろ堂々たる勝ち組で、産科や小児科といった不足診療科も含めて医師数は増加している県だと言いますから、県土として医者からはそれなりに魅力ある土地柄であるとは見なされているということですよね。
一方で公立病院と言うところは医師一人あたりの医療労働生産性と言う点で言えば極めて低いということが知られていますから、非効率な県立病院が大勢の医者を抱え込むくらいならさっさと民間に回した方がよほど県民の健康向上にも寄与するという話で、県民は元よりなかなか踏ん切りのつかなかった県立病院の医者にとってもよい契機にもなるかも知れません。

そう考えて見ますとこの問題、一見すると勝ち組県の驕りのようにも見えてその実は県民にも医者にも悪い話ではない、そして沖縄県当局としても想定以上に大幅な歳出削減に結びつく可能性があるわけですから、なんだ結局誰にとっても悪い話ではないんじゃないかという気もしてきませんか。
いっそボーナス削減などと小さな事も言わずに、赤字が続く県立病院スタッフは全員赤字比率に応じて給与カットするくらいの英断を示していただければ、さらに効率よく話が進みそうに思えますし、案外後世からは「あれは県当局の大英断だった」と絶讚される第一歩となるかも知れませんよね。

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