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2010年11月 2日 (火)

やはりアサヒっていた?!医科研問題続報

先日も紹介しました朝日新聞のがんワクチン報道問題を巡って、その後各方面から抗議が出ているという状況ですが、本日まずは日本癌学会と日本がん免疫学会が記事の訂正と謝罪を求めたという記事から紹介してみましょう。

2学会が朝日新聞に抗議 がんワクチンの記事めぐり(2010年10月22日47ニュース)

 日本癌学会と日本がん免疫学会は22日、東京大医科学研究所が開発した「がんペプチドワクチン」の臨床試験に関する朝日新聞社の記事について、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめた」などとして、記事の訂正や謝罪などを求める抗議声明を、癌学会のホームページに掲載した。

 記事は、ワクチンで治療を受けていた男性の消化管からの出血に関し、ほかの病院に知らせていなかったことに関するもの。15日と16日に掲載された。

 医科研側は記者会見などで「単独の臨床試験を(他施設との)共同研究のように報道された。ペプチドの開発者とされた教授は、開発者でも試験の責任者でもない」などと反論している。

 同教授の研究成果を基に、治療薬開発などを目的に設立され、記事で取り上げられた川崎市のベンチャー企業も22日、朝日新聞社社長などに抗議文を送った。

ちなみに日本癌学会のHPに掲載されている抗議声明はこちらですが、「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめ、読者を誤った理解へと誘導する内容」と断定され、患者の側にとっても不利益であると言われてしまっては朝日に立つ瀬はありませんかね。
これに対して朝日の側では「事実誤認?何それ?」と言うコメントを発表しているようですが、ここでは朝日の側が「確かな取材に基づいて」云々と言っていることに留意ください。

医科研記事、癌学会など抗議 朝日新聞「確かな取材」(2010年10月24日朝日新聞)

 日本癌(がん)学会の野田哲生理事長と日本がん免疫学会の今井浩三理事長は、東京大学医科学研究所が開発したがんペプチドワクチンを使った付属病院の臨床試験で起きた有害事象が、ペプチドの提供先である他の医療機関に伝えられていなかったことを報じた15、16日付朝日新聞朝刊の記事への抗議声明を両学会のホームページに掲載した。「大きな事実誤認に基づいて情報をゆがめ、読者を誤った理解へと誘導する」としている。

 朝日新聞社広報部の話 記事は、薬事法の規制を受けない臨床試験には被験者保護の観点から問題があることを、医科研病院の事例を通じて指摘したものです。抗議声明はどの点が「大きな事実誤認」か具体的に言及していませんが、記事は確かな取材に基づくものです。

要するに朝日の側としては何らやましいことはありませんと断言した形ですが、ここでは朝日の側が「被験者保護の観点から問題がある」という言葉を口にしている点に留意しておいていただきたいと思います。
さて、29日には日本医学会からも両学会の抗議声明を支持するというコメントが会長名で発表されましたが、これも見るだけでも朝日という会社は本当にどうしようもないのだなと思わせるほどにケチョンケチョンな内容となっていて笑えると共に、単なる事実誤認ではなく「事実を歪曲した」とまで言い切っていることが注目されますよね。

「事実を歪曲した朝日新聞がんペプチドワクチン療法報道」(2010年10月29日日本医学会)より抜粋

(略)
 しかし医学的真実は異なります。医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではありません

 まず、この臨床試験は難治性の膵臓がん患者さんを対象としたものであり、抗がん剤とがんワクチンを併用したものでした。難治性の膵臓癌で、消化管出血が生じることがあることは医学的常識です。当該患者さんも、膵臓がんの進行により、食道からの出血を来していました。あえて他の施設に消化管出血を報告することは通常行われません。さらに、この臨床試験は医科研病院単独で行われたものであり、他の施設に報告する義務はありませんでした。以上から、医科研病院が情報隠蔽をしていたわけではないことがわかります。

 さらに記事には問題があります。それは、日本のトップレベルの業績を持つ中村祐輔教授を不当に貶める報道内容であったことです。

 2010年10月15日の朝日新聞社会面は、「患者出血「なぜ知らせぬ」ワクチン臨床試験協力の病院、困惑」「薬の開発優先批判免れない」となっています。本文中では、中村祐輔教授が、未承認のペプチドの開発者であること、中村教授を代表者とする研究グループが中心となり、上記ペプチドの製造販売承認を得ようとしていること、中村教授が、上記研究成果の事業化を目的としたオンコセラピー・サイエンス社(大学発ベンチャー)の筆頭株主であること、消化管出血の事実が他の施設に伝えられなかったことを摘示し、「被験者の確保が難しくなって製品化が遅れる事態を避けようとしたのではないかという疑念すら抱かせるもので、被験者の安全よりも薬の開発を優先させたとの批判は免れない」との内容が述べられています。

 しかしながらこの記事の内容も誤っています。中村祐輔教授は、がんペプチドワクチンの開発者ではなく、特許も保有しておらず、医科研病院の臨床試験の責任者ではありません。責任を有する立場でない中村祐輔教授を批判するのは、お門違いであり、重大な人権侵害です。
(略)

臨床試験をやっている当事者が反論したと言うだけならともかく、第三者であり公的な権威でもある癌学会あたりが「大きな事実誤認」と言い、日本医学会からは記事の内容が誤っていると認定され「重大な人権侵害」とまで言われてしまったわけですから、もはや医療の世界で朝日を支持するものなど誰もいないのではないかとすら思えてきます。
これに加えて東大医科研と関係が深いCaptivation Network臨床共同研究施設からも、同日付で抗議文が朝日社長宛に送られたと言うことですけれども、朝日の記事によれば「他の施設はこんなに迷惑しているんだ!」という論調であったものが、当の他施設から「は?あんた何言ってるの?」と切って捨てられてしまったという、何ともしまりのない構図と言うことなんですかね?
そしてさらに注目されるのが「事実誤認」から「事実の歪曲」、そしてとうとうここでは「捏造」とまで言われているところで、記事の検証が進むにつれて朝日という会社が例によって得意技を発動したらしいという気配が濃厚になってくるのですね。

抗議文(2010年10月29日Captivation Network臨床共同研究施設)
より抜粋

(略)

(医学的事実の誤りについて)
第1、我々は東大医科研病院の共同研究施設ではなく、独自の臨床研究が行われた東大医科研病院の有害事象について、情報の提示を受ける立場にはありません。したがって、記事見出しの「なぜ知らせぬ」という表現は、我々自身も不自然な印象を受けます
第2、本有害事象は、発表された論文(当会注釈:論文中Case 2)からも原病である膵癌の悪化に伴った食道静脈瘤からの出血と判断されています。進行がんの一般臨床において、出血が起こりうることは少なからず起こることであり、出血のリスクを有する進行がんの患者さんにご協力を頂き臨床研究を実施する危険性について、我々の中では日常的に議論され常識となっております
第3、原病の悪化に伴う出血の有害事象については、医科研病院の有害事象が発生する以前に、既に我々のネットワークの施設で経験をしています。ペプチドワクチンによる有害事象とは考えられないが臨床研究実施中に起こった有害事象として、2008年2月1日の「第1回がんペプチドワクチン全国ネットワーク共同研究進捗報告会」にて報告がなされ情報共有が済んでおります。したがって、ペプチドワクチンとの関連性が極めて低いと判断され、原病の悪化に伴うことが臨床的に明らかな出血という既知の事象(当会注釈:前記2008年2月1日報告会で出血について情報共有済。医科研症例の出血は2008年10月発症)について、この時点での情報共有は不要と考えます

(捏造と考えられる重大な事実について)
記事には、『記者が今年7月、複数のがんを対象にペプチドの臨床試験を行っているある大学病院の関係者に、有害事象の情報が詳細に記された医科研病院の計画書を示した。さらに医科研病院でも消化管出血があったことを伝えると、医科研側に情報提供を求めたこともあっただけに、この関係者は戸惑いを隠せなかった。「私たちが知りたかった情報であり、患者にも知らされるべき情報だ。なぜ提供してくれなかったのだろうか。」』とあります。

我々は東大医科学研究所ヒトゲノム解析センターとの共同研究として臨床研究を実施している研究者、関係者であり、我々の中にしかこの「関係者」は存在し得ないはずです。しかし、我々の中で認知しうるかぎりの範囲の施設内関係者に調査した結果、我々の施設の中には、直接取材は受けたが、朝日新聞記事内容に該当するような応答をした「関係者」は存在しませんでした。

我々の臨床研究ネットワーク施設の中で、出河編集委員、野呂論説委員から直接の対面取材に唯一、応じた施設は7月9日に取材を受けた大阪大学のみでした。しかし、この大阪大学の関係者と、出河編集委員、野呂論説委員との取材の中では、記事に書かれている発言が全く述べられていないことを確認いたしました。したがって、われわれの中に、「関係者」とされる人物は存在しえず、我々の調査からは、10月15日朝刊社会面記事は極めて「捏造」の可能性が高いと判断せざるを得ません。朝日新聞の取材過程の適切性についての検証と、記事の根拠となった事実関係の真相究明を求めると同時に、記事となった「関係者」が本当に存在するのか、我々は大いに疑問を持っており、その根拠の提示を求めるものであります。

また、10月16日、朝日新聞社説においては、捏造の疑いのある前日の社会面記事に基づいて、『研究者の良心が問われる』との見出しで、ナチス・ドイツの人体実験まで引用し、読者に悪印象を植え付ける形で、われわれ研究者を批判する記事が掲載されました。これら一連の報道は、われわれ臨床研究を実施している研究者への悪意に満ちた重大な人権侵害であり、全面的な謝罪を求めるものです。
(略)

ここで注目していただきたいのは医学的事実の誤認に関する指摘もさることながら、特に朝日お得意の捏造問題に関する指摘ですが、朝日の記事中に登場する「ある大学病院の関係者」なる人物のコメントについて、当の共同研究施設の側で調査した結果、該当する発言について発言者の存在が確認できなったということですよね。
これについて「われわれの中に、「関係者」とされる人物は存在しえず」記事は捏造の可能性が高いとまで断じているわけですが、こうして公開の場で事実関係の調査を要求されてしまった以上は、朝日の側としても知らぬ存ぜぬで通用するとは考えがたいところです。
一方で当事者である東京大学医科学研究所の清木元治教授に至っては、わざわざ「大丈夫か朝日新聞の報道姿勢」なんて一文まで公開しているというくらいなんですが、こちらに関してもやはり別な面から朝日の捏造ぶりを指摘するという、非常に興味深い内容となっているのですね。

大丈夫か朝日新聞の報道姿勢(2010年10月22日東大医科研HP)

平成22年10月15日の朝日新聞朝刊に東京大学医科学研究におけるペプチドワクチンの臨床試験についての報道があった。これに対して、10月20日に41のがん患者団体が厚生労働省で記者会見を開き、我国の臨床試験が停滞することを憂慮するとの声明文を公表した。朝日新聞は翌日21日に、“患者団体「研究の適正化を」”と題する記事(朝刊38面)を書いている。
この記事が記者会見の声明文の真意を伝える報道であれば朝日新聞の公正な立場が評価されるところだが、よく読んでみると声明文の一部分を削除して掲載することにより、声明の意図をすり替えているように読める。

声明文の一部をそのまま掲載すると:

「臨床試験による有害事象などの報道に関しては,がん患者も含む一般国民の視点を考え,誤解を与えるような不適切な報道ではなく,事実を分かりやすく伝えるよう,冷静な報道を求めます。」 全文はこちら

ところが朝日記事の声明文説明では:

「有害事象などの報道では,がん患者も含む一般国民の視点を考え,事実を分かりやすく伝えることを求めている。」

となっており、 なんと「誤解を与えるような不適切な報道ではなく」の部分が削除されている

本来の声明文は、臨床試験を行う研究者・医師、行政関係者、報道関係者に向けられており、特に上記に相当する部分では報道に対して「誤解を与えるような不適切な報道」を慎んでほしいとの切実な要望が述べられている
科学論文の世界では、事実の一部をなかったことにして解釈を意図的に変えることを捏造と呼んでおり、この捏造の定義に異論を唱える人はないだろう。朝日新聞の10月15日から始まった一連の関連記事を読むと、実際の事実関係と書きぶりによって影響を与えようとしている目的との間に大きなギャップを感じざるを得ない。社会に対して大きな権力を持ち責任を担う朝日新聞の中で、急速に報道モラルと体質の劣化が起こっているのではないかと思わせられ大変心配になる。「医療や臨床試験の中では人権保護が重要だ」と主張している担当記者の人権意識は、単にインパクトある大きな記事を書く為の看板であり、最も根幹である保護されるべき対象が欠落しているのではないかと思わせられる。

実際にこの「がん患者団体有志一同」による「がん臨床研究の適切な推進に関する声明文」の全文を読んでみますと、少なくとも今回の報道を受けて東大医科研を始めとする癌研究推進を批判するような論調では全くなく、むしろいい加減な情報に基づいて研究が歪められることを危惧するものと言え、その意味ではまさに朝日を始めとする報道側に対してのコメントであると言える内容ですよね。
それを文の主語を完全に入れ替えてしまった挙げ句に文意そのものを完全に逆転させて報道しているわけですから、これが意図的な捏造報道であると言うのでなければ、朝日の記者はよほど日本語の理解力に不自由していると考えざるを得ません。
こうして見てみますと純粋に医療・医学の側だけから見ても朝日の捏造は明白に思えますが、問題は何が朝日をしてそうまでさせたのかという動機付けの部分であって、この点に関してネット上では非常に興味深い指摘も行われているようなんですね。

朝日新聞 東大医科研がんワクチン事件報道を考える(2010年10月22日内憂外患)より抜粋

【なぜ、10月15日だったのか?】

 今回の朝日新聞の記事は、そのセンセーショナルな内容以上に、理解に苦しむことがあります。それは、なぜ、この記事が10月15日に、一面トップ、社会面の多くを占めたのかという点です。他紙がチリの救出劇を大きく取り上げているのとは対照的でした。出河記者たちは長期間にわたって取材を続けていたことが知られており、発表の機会はいくらでもあった筈です。

 実は、翌週に控える政府の政策コンテストで、がん治療ワクチン研究への予算要求が審査されます。今回の報道は、この審査に大きく影響することは確実です。がん治療ワクチンの開発が遅れることは、多くの患者にとり不幸です。

 しかしながら、がん治療ワクチンが導入されることで、困る人たちも大勢います。それは、科学的に有効性が証明されていない治療で商売をしている人たちです。がんワクチンの登場は、「終末期患者ビジネス」を生業としている人には脅威です。

 ちなみに、朝日新聞には、このようなビジネスの広告がしばしば掲載されます。出河記者が意図したか否かはわかりませんが、今回の記事は「終末期患者ビジネス」の営業を後押しする結果になるでしょう。そもそも、朝日新聞のような一流紙が、「科学的に根拠がない」と考えられている治療の広告を掲載することには違和感を抱きます。

朝日が怪しげなビジネスの片棒を担ぐような真似をするか?と言う点に関してはまさしく朝日故にとも思える話なんですが(苦笑)、実際こうした疑惑を証明するかのように内閣府の科学技術政策の評価において、「がんペプチドワクチン」はC判定という低い評価を受けてしまいました。
がんペプチドを積極的に推進したくない人々にとっては今回の朝日の記事がナイスアシスト!であったという形ですが、どうも先日嘉山先生がトップに就任したがんセンターを巡る一連の騒動などを見ても、何かと政治家や官僚の間で暗闘じみたことがあるらしいと想像出来る話で、あるいはそのあたりの流れもこちらにも波及しているということなのでしょうか?
この問題、朝日の単独スクープが一転して例によって例のごとくなアサヒった症例の呈示ということになってきた気配ですけれども、さすがにこうまで集中砲火を浴びた上でもただ沈黙を守るだけだと言うことであれば、朝日お得意のフレーズである説明責任なんてものは一体どこにあるのかと問われることになるでしょうね。

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コメント

閑想閑話:「マスコミは病院側を取材せず記事にしたんです」… /島根
http://megalodon.jp/2010-1029-1652-34/mainichi.jp/area/shimane/news/20101029ddlk32070413000c.html

 「マスコミは病院側を取材せず記事にしたんです」--。医師不足に悩む大田市の「地域医療シンポ」で、
千葉県のNPO法人「地域医療を育てる会」の藤本晴枝理事長は報道陣にとって衝撃的な内容を語った
▼07年に同県東金市で救急搬送された心肺停止の男性が、14回受け入れを断られた後死亡したと
一部マスコミが“スクープ”した。だが同会の取材では、打診先は当直医1人で他の患者を次々処置中か、
処置できる人員の無い病院だったとのこと。藤本さんは「消防署に聞いた話を書くだけで、記者は医師不足の現実に触れようとしなかった」という
▼前に他県で医療ミス隠しを記事にした際、病院の主張と現状も極力取材した。心ある医療スタッフは協力してくれた。
「医療現場をよくしよう」との思いで、綱紀粛正という結果を残せたと自負している。スクープ欲で一方的、安直な取材をしていれば、
何の実もない記事ができただけだったろう。医療報道は何のためのものか、改めてかみしめている。【鈴木健太郎】

投稿: いつものこと | 2010年11月 2日 (火) 12時44分

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