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2010年11月16日 (火)

小さく産んで大きく育てる

本日は最近の産科絡みの話題を取り上げてみますが、まずは「結局そうなったのか」という話から紹介させていただきましょう。

小規模施設限定で受取代理を復活―出産育児一時金で厚労省素案(2010年11月12日CBニュース)

 来年度以降の出産育児一時金制度について、11月15日に開かれる社会保障審議会医療保険部会に厚生労働省側が示す素案の概要が明らかになった。直接支払制度は継続する方針だが、対応が困難な医療機関に実施を強制しないことを法令に明示することや、規模が小さい施設に対象を限定して受取代理制度を復活させ、制度化することを盛り込む。

 出産育児一時金の受取代理制度は、出産予定日まで1か月以内の人が出産前に保険者に申請し、出産後に医療機関が受け取る仕組み。直接支払制度を導入した昨年10月に廃止された。
 一方、直接支払制度は出産後に医療機関が申請して受け取る仕組み。申請から支払いまで1か月から1か月半程度かかるため、収入に分娩費用の占める割合が高い診療所や助産所などは資金繰りが苦しいとの声が上がり、完全実施は今年度末まで猶予されている。
 受取代理制度は直接支払制度に比べ、▽支払いまでの期間の短縮▽医療機関などの手続きの簡素化―などのメリットがある。素案では、規模が小さい施設の定義として、「年間の分娩件数が200件以下の診療所か助産所」を例示する。

 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会などは、直接支払制度を今年度までで廃止し、出産する人が出産前に申請して、出産する人と医療機関のどちらが出産後に受け取るかを選べる新たな仕組みをつくるよう要望していた。厚労省は保険者などの負担を考慮して、一律に出産前の申請にはしない方針だ。

■支給額42万円は維持
 また、支給額の原則42万円は維持する。原則38万円からの引き上げは来年3月までの暫定措置だが、今年8月現在の平均出産費用が47万円だったことを踏まえた。

この出産一時金問題に関しては以前からたびたび取り上げてきたところですが、こうして改めて見てみましても何故今まで事前申請でやっていたものをわざわざタイムロスが出る事後申告にしているんだとか、素朴な疑問は幾らでも出てくるような話で、それは関係各方面から「産科医を借金漬けにして一生こき使うための制度だ!」なんてさんざんな評判なのも判る話ですよね。
ただ学会の方にも今さら全くの被害者面を出来ない事情があって、当初から開業の先生などから「そんな制度設計では資金繰りが出来ないのが目に見えている」と危惧の声が上がっていたにも関わらず、大学病院など大病院の偉い先生方はそんな小さなお金の勘定など念頭になかったと言うことなのか厚労省案の問題点を軽くスルーしてしまった、そのツケを末端の臨床医が今負わされているということです。
実際に産科医を借金漬けに追い込んでいると悪評紛々たる天下り団体「福祉医療機構」側では貸し渋りの事実はないとか、機構側ではむしろ融資は優遇しているのだと主張していますけれども、新制度の導入以来廃院に追い込まれていく産科医院が相次いでいるという現状は隠しようがないところで、頭の痛い先生方も多いのではないかと思います。

さて、そもそもこの一時金直接支払制度にしても元々は現場の産科医を救済するためという名目で始まったものが、気がつけばむしろ産科医を追い込む道具に使われている気配すらあるというのが怖い話ですが、同様に現場の産科医救済を掲げて始まった制度の一つに産科無過失補償制度というものがあります。
この夏からいよいよ再発防止の観点から個々の事例に関する検証がスタートしていることは既にお伝えした通りですが、実際に議論が進んでいきますとこれまた思いがけないほどの波紋を呼んでいるようで、まずは入り口部分からしてすでに紛糾しているというこちらの記事から紹介してみましょう。

審議の公開、非公開で議論紛糾―産科補償制度再発防止委(2010年11月2日CBニュース)

 日本医療機能評価機構の「産科医療補償制度再発防止委員会」(委員長=池ノ上克・宮崎大医学部附属病院長)は11月1日、原因分析報告書などの内容を審議する場合の公開、非公開の考え方について議論した。事務局は、会議は原則公開だが、原因分析報告書などを基に審議する場合は非公開にすることを提案。これに対し委員からは、個人情報の保護を重視する一方、報告書の概要版などを用いて公開にすべきとの声が上がった。この日の議論では公開、非公開の考え方について結論は出ず、今後も引き続き検討することになった。

 事務局が示した審議の公開、非公開の考え方では、配慮が必要な観点として、▽原因分析報告書などを使用した会議が一律公開されることで、加入分娩機関が情報提供を躊躇することが懸念される▽再発防止に関する報告書(仮称)などの内容を議論する場合、組織決定されていないものは資料として公表することは適さない ―などを提示。非公開会議については、審議内容を議事要旨に取りまとめて公表し、会議の透明性を高めるとしている。

 これに対し隈本邦彦委員(江戸川大メディアコミュニケーション学部教授)は、「制度への社会の信頼という点で、非公開にするのは非常に限られた事例にしていただきたい」と要望。特に、組織決定されていない資料は公表に適さないとの考え方に対しては、「(決定までの議論の)プロセスを見せたくないというのはどうかと思う」と指摘した。
 池ノ上委員長は、個人や施設の特定につながる内容は原則非公開だが、そうでない場合は公開の原則に従うべきとの私見を示し、「患者側にも医療者側にも、健全な委員会であると受け止められるためには必要不可欠だと思う」と述べた。

 池ノ上委員長の発言を受け、田村正徳委員(埼玉医科大総合医療センター小児科学教授)は、「マスキングされた資料を(傍聴者らに)配布せずに、議論そのものは聞いていただく。患者や施設が特定されるかもしれない議論になった時には、一時的に非公開にして議論してはどうか」と提案。隈本委員は、「(報告書の)概要版を使った議論にしてもいいのではないか。本報告書を見なければいけなくなる時に、例外的にクローズドにしてはどうか」と述べた。
 これを受け同機構の上田茂理事は、深く分析するためにはマスキングをしていない報告書に基づいて審議をした方がよいとの考えを強調。その上で、報告書全文を基に非公開で議論し、その中で審議に用いる報告書は概要版でいいか全文がいいかなどを検討することを提案した。
 一方、マスキングした報告書を使用するとの委員の提案に対しては、「マスキングしたものを広く見せるのはなかなか難しい。(傍聴者らに)提示せずに議論を見ていただくとしても、現実にはその中身が公開の場で議論になる。個人情報に配慮する観点からいかがなものか」と述べた。

 その後、委員の同意を得た上で非公開の審議を実施。会合後、池ノ上委員長はキャリアブレインなどに対し、「基本的には委員会そのものは個人情報をちゃんと守る。原則公開だが、どの範囲が公開、非公開というのは、一例一例を丁寧に委員会で検討すべきではないか」と述べた。

話を見ていますと何やらよく判らないようなことを言っていますけれども、要するに現場に近い筋の人間としては再発防止のための資料が個々の責任追及に用いられるといった事態は勘弁してもらいたいというのが本音のところで、それをいかにオブラートに包んで開示範囲に制限をかけるかと言う要求がある一方、特に医療現場から遠い側からは原理原則を主張する声も多いということでしょう。
原則論としてはもちろんこうした情報は皆で共有して再発防止のためのアイデアを出していった方がいいということになりますが、結局のところ民事訴訟なりのソースとしてこうした情報が活用されかねないという懸念は残っているだけに、少なくとも諸手を挙げて全面開示大賛成とも言い出しにくい感情は理解出来るところですよね。
実際にこういう記事が朝日新聞からも出ていますけれども、過誤があったかどうかを問わず医療事故を平等に救済することで、結果として現場の訴訟リスク低減も図られるという制度のもう一つの目的からすると、症例報告的に微に入り細に入りで詳細な情報を上げてしまうと後で自分の首を絞めかねないと現場が躊躇する恐れがあり、それが再発防止のための事実収集という他方の目的上は退歩にもつながりかねないというジレンマもあるわけです。

お産事故で脳性まひ…不適切な診療行為も 補償事案分析(2010年11月8日朝日新聞)

 お産の際に赤ちゃんが重い脳性まひになり、家族が補償制度の適用を求め、原因分析がまとめられた例のうち、多くに診療行為の問題が指摘されていたことがわかった。お産事故の情報を集める財団法人日本医療機能評価機構(東京都)に、朝日新聞が情報公開請求をして11件の原因分析報告書が開示された。出産時の事故で重い脳性まひになる例は、年間500~600人程度とみられている。

 まだ制度が十分に知られておらず、補償制度の申請数は少なく、同機構は「11件は特異な例ではなく、他の出産時の事故でも同様の問題はあるだろう」とみている。ただ、報告書には「当直が月に20回」「当直翌日の勤務緩和は図られていなかった」などの記述が多数あり、背景に、医師不足や労働条件の悪化など、過酷な産科医療の現状があることも分かる。

 報告書によると、問題ある診療行為は、分娩(ぶんべん)監視装置を付けていなかったり、赤ちゃんの心拍数をこまめに取っていなかったりした安全管理の問題(6件)▽陣痛促進剤を最初から大量に使ったり、急激に増やしたりした(4件)▽酸素吸入など事故後の蘇生方法の問題(3件)▽診療記録に不備があり、分析が不十分(3件)――などだった。

 ある事例では、母親が医師に、おなかを押されたり、赤ちゃんを吸引されたりする行為を計23回、延べ57分にわたって続けられた。産婦人科診療ガイドラインでは通常は5回、20分以内で行うべきだとしている。

 これまでに、補償制度の対象となった約80件のうち13件で原因分析報告書が作られ、11件が開示された。不適切な行為が事故の直接原因とみられるものは少ないが、11件のうち10件で確認できた。報告書の詳しい内容が明らかになったのは初めて。

 厚生労働省が監督する同機構は、医療事故の情報を収集するほか、お産事故で脳性まひになった赤ちゃんの家族に補償をする産科医療補償制度も運営する。事故の原因分析をし、再発防止策の提言もしている。

 再発防止について報告書は、関係する学会がガイドラインや留意点を守るよう周知する▽医師以外の助産師や救急隊員も蘇生方法を十分に心得ておく――などを提言している。

 同機構の医療事故防止事業部長の後(うしろ)信医師は「事故が起きるときに、共通して発生しているサインをまず、洗い出すことが重要だ」と指摘する。日本産婦人科医会の石渡勇常務理事は「事故の多くは、もっと監視をしっかりやりましょう、というケースだ。だが、産科医不足の現状では難しい。報告書の勤務状況を見ると、労働基準法違反の環境で働いている例が多い。多くの人にこうしたお産の現状を知って欲しい」と話している。

 事故は、産科医や弁護士ら専門家でつくる原因分析委員会で検討され、報告がまとめられる。その後、再発防止委員会で分析結果をもとに、事故が起きる際に共通している条件や、リスクをはらむ医療行為や不適切な処置などを抽出する。機構は、年内に提出予定の報告書を合わせ、これまでの十数件の分析結果をもとに、来年4月までに再発防止のための中間的な報告書をまとめる予定だ。(小坪遊)

医療の側からすると、例えば「ガイドラインではこうなっているけれども実際の現場ではこういうことが行われていた」式のレポートが出てくるだけでも、俺はそれは知らなかったが気をつけようだとか、いや実臨床の現場ではそれは当たり前のやり方だとか様々な議論が喚起できるわけですから、別に個人情報を特定できるような細かい話はいらないよってことになりますよね。
逆にこうした公的組織によって半端に各ケースの赤ペン先生的解釈が行われてしまうと、それが公の見解として一人歩きしてしまう危険性もあるわけですから、基本的に現場で何が行われその結果どうなったかという生データの部分はどんどん開示していただけばよいし、後々議論を呼びそうな余計な解釈はほどほどにして欲しいというのが正直なところに思えます。
ただそうなりますと再発防止の提言ということでは物足りないものになるんじゃないかという声も上がってきそうですけれども、そもそもこうした後日の検証というものはどうしても後出しじゃんけんの要素を含まずにはいられないだけに、現場の心理ということを考えるとよほど慎重にやらなければ、「本当のことを言うだけ損だった」と正しい分析に必要な情報が上がってこなくなる危険性がつきまとうものです。

この制度が出来て何がどう変わったかと言うことに関してもう一度振り返ってみると、患者側としては少なくとも公的な調査レポートというものを(公開の範囲はまだ不明確とは言え)入手できるチャンスが得られるようになったわけで、その意味ではそのレポートの内容にどれほど実がなかろうが、少なくとも以前よりは情報開示の面で進歩しているということになりますよね。
一方で情報を出す側の現場医療従事者にしてみれば、最初から「うっかりすると責任追及に使われるんじゃないか」と腰が引けている中で、情報を全て包み隠さず出すということについて特に大きなメリットというものは現状で感じられていない、少なくとも情報開示をすすめた結果例えば医療訴訟が激減したといった結果が出てくるまでは、目に見えた制度の利点が感じにくいところでしょう。
スタートした直後からいきなり制度の趣旨が有名無実化してしまっては意味がありませんから、最初から理想を追求するばかりではなく関係する各方面にも配慮をしつつ、ごくごく緩いところから始めてまずは制度の定着を図っていくということが望まれるのではないかと思うのですが、委員会の皆さん方の考えは果たしてどうなんでしょうね?

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