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2010年11月29日 (月)

当然の判決!と喜んでいるばかりでは仕方がないので

どうも予防注射の副反応かと思ったら風邪を引いているようで、ちょっとばかり体調不良を自覚しながら書いています。
それはともかく、医療訴訟も相変わらず多いという時代ですけれども、地裁ではなく高裁レベルで注目に値する判決が出たということで、ちょっとした話題になっているのがこちらの裁判です。

誤診認定、賠償認めず 男性死亡 遺族が逆転敗訴 福岡高裁判決(2010年11月27日西日本新聞)

 大分県宇佐市の病院を受診した帰りに急性心筋梗塞(こうそく)で死亡した会社員男性=当時(42)=の両親が、当直医の診断ミスが原因として、病院を経営する医療法人に約5500万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁であった。広田民生裁判長は、当直医が急性心筋梗塞を疑わせる心電図のわずかな兆候を見逃したと認めた上で、「当直医に専門医と同じ判断を求めるのは酷で(見逃しは)やむを得ない」とし、法人に約5100万円の支払いを命じた一審判決を取り消し、原告の訴えを棄却した。

 一審・大分地裁中津支部判決は「心電図は急性心筋梗塞の疑いを示した。当直医は循環器の専門医への相談や、血液検査などをすべきだった」と過失を認めた。

 控訴審判決は、医療法人側が提出した循環器が専門の医師の鑑定書を重視、「専門外の医師が心電図から急性心筋梗塞の兆候を把握するのは困難」との記述を引用。「専門が一般内科で急性心筋梗塞の診断経験がない当直医が、兆候を見逃したのはやむを得ず、急性心筋梗塞などの疑いを持つことは不可能だった」と、過失を認めなかった

 判決によると、男性は2005年11月8日夕、胸の痛みを訴えて医療法人「明徳会」が経営する佐藤第一病院を受診。当直の内科医が心電図などをもとに逆流性食道炎の疑いと診断し、胃薬を処方して帰宅させた。男性は帰宅中に倒れ、別の病院に搬送され、急性心筋梗塞で死亡した。

医療事故:当直医の診察に専門性要求は酷 賠償請求棄却--福岡高裁判決(2010年11月27日毎日新聞)

 胸痛を訴えた男性が05年、大分県宇佐市の病院で当直医の診断を受けた後に急死した医療事故を巡り、遺族が病院に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁であった。広田民生裁判長は「当直医は内科医で、急性心筋梗塞(こうそく)の診断や治療経験がなく、循環器の専門医と同等の判断を要求することは酷」と指摘。病院側の過失を認めて遺族に約5100万円の賠償を命じた1審・大分地裁中津支部判決を取り消し、遺族の請求を棄却した。

 地方の救急病院の当直態勢にどこまで専門性が求められるかが争点になった。病院側は控訴審で「当直医の確保がやっとで、当直医に専門医と同レベルの注意義務を課せば地域医療の崩壊が加速する」と主張していた。判決後、病院側の山本洋一郎弁護士は「地域医療の限界をくみ取ってくれた画期的判決」と評価した。【岸達也】

伝え聞くところによれば明らかにこれは見逃してはいけない症例だろうというようなものではなく、機械判定で正常範囲と出る程度のレベルの所見を読めるかどうかと言ったところが問われた訴訟であったということなんですが、医学的に見てもこれはやむなしという判断の妥当性もさることながら、病院側の主張するような地域医療の限界といった社会的側面もくみ取られたということであれば、これは確かに「画期的判決」ですよね。
毎日新聞が前後の経緯を多少詳しく取り上げていますので引用させてもらいますけれども、地裁の一審判決と今回の高裁判決との間に存在する数年間の社会的情勢の変化というものも、あるいはこのあたりの判断の差に表れているということなのかも知れません。

医療事故:専門外の診療で急死 当直医の責任どう判断 あす控訴審判決--福岡高裁(2010年11月25日毎日新聞)

 胸痛を訴えた男性が大分県宇佐市の病院で当直医の診断を受けた後に急死した医療事故を巡り、1審大分地裁中津支部が病院の過失を認め遺族に約5100万円を賠償するよう命じた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁(広田民生裁判長)で言い渡される。病院側は控訴審で「地方の病院は当直医の確保がやっと。夜間・休日の救急医療を担う当直医に専門医と同レベルの注意義務を課せば、地域医療の崩壊が加速する」と主張しており、高裁の判断が注目される。【岸達也、高芝菜穂子】

 1審判決によると05年11月18日夕、胸部に痛みを訴えた男性会社員(当時42歳)が救急病院を受診。病院は当直態勢で、内科の医師が心電図などを基に逆流性食道炎の疑いと診断し、胃薬を処方した。男性は病院を出た約10分後に倒れ、別の病院に搬送されたが、急性心筋梗塞(こうそく)で死亡した。内科医は急性心筋梗塞の治療経験がなかったという。

心電図の自動解析装置は「異常なし」と判定していたが、1審は、心電図検査が急性心筋梗塞の所見を示していたと認定。循環器の専門医への相談や血液検査、超音波検査をすべきだったとして病院側の過失を認めた。病院側は判決を不服として控訴した。

 控訴審で病院側は循環器病の専門医、木村剛・京都大教授の鑑定書を提出。木村教授は当時発症していたとみられる心臓疾患と逆流性食道炎などの症状が酷似しており「専門外の当直医に、専門医でなければ気づかない軽微な心電図の変化などから診断を要求するのは無理」と指摘した。病院側の弁護士は「高裁の判断が1審同様なら、専門医がそろわない救急病院は難しい患者を引き受けづらくなる」と話している。

 一方、遺族側の弁護士は「事故が起きた病院には循環器の医師もおり、適切な措置を講じていれば救命できた」としている。

裁判:当直医の過失認めず 専門外の診断後に急死 福岡高裁で遺族が逆転敗訴(2010年11月27日毎日新聞)

 胸痛を訴えた男性が05年、大分県宇佐市の病院で当直医の診断を受けた後に急死した医療事故を巡り、遺族が病院に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が26日、福岡高裁であった。広田民生裁判長は「当直医は内科医で、急性心筋梗塞(こうそく)の診断や治療経験がなく、循環器の専門医と同等の判断を要求することは酷」と指摘。病院側の過失を認めて遺族に約5100万円の賠償を命じた1審大分地裁中津支部判決を取り消し、遺族の請求を棄却した。
(略)
 控訴審で病院側は循環器の専門医、木村剛・京都大教授の鑑定書を提出。木村教授は男性が当時発症していたとみられる心臓疾患と逆流性食道炎などの症状が酷似していることから「専門外の当直医に、専門医でなければ気づかない軽微な心電図の変化などから診断を要求するのは無理」と指摘した。

 控訴審判決はこの鑑定書を重視。当直医が男性の問診や聴診、心電図検査をしたことを踏まえたうえで、心電図に表れた急性心筋梗塞を疑わせるわずかな変調について「内科医が見逃したことはやむを得なかった」と結論付けた。【岸達也】

 <解説>当直医に専門医と同等の判断を求めず、原告の請求を棄却した福岡高裁判決は、医師の当直態勢に専門医を充てる潤沢なマンパワーを持たない地域医療の窮状をくんだと言える。だが一方、患者の側からすればそれで問題が解決したとは到底言えない。救急医療の疲弊、都市と地方の医療格差。訴訟で浮き彫りになったのは、医療行政が本来解決すべき重い課題だ。

 宇佐市医師会によると、同市には三つの救急病院がある。事故はそのうちの一つ、循環器内科や消化器内科などをそろえた民間総合病院(約130床)で起きた。

 地方の救急病院にとって、当直態勢の維持は極めて難題だ。04年に研修医が自由に研修先を選べる新医師臨床研修制度が導入され、これを機に特に地方で医師不足が顕在化。夜間や休日は当直医が専門外でも外来対応することが常態化している。宇佐市医師会も「募集を出しても医師は集まらない。地方はどこも一緒のはずだ」と話す。

 こうした状況に、当直医に専門医並みの高度な判断まで求められては、救急医療の現場を去る医師がますます増えてもおかしくない

 半面、患者側の専門医志向は根強い。患者の要求と、医師不足など医療供給とのアンバランスが医療崩壊の本質だ。一医療機関で解決できる問題ではない。医療圏の統合・再編や開業医との連携など多角的に取り組む以外に道筋はないだろう。

【岸達也、阿部周一】

毎日新聞にしては「患者の要求と、医師不足など医療供給とのアンバランスが医療崩壊の本質」などと言い切っている点は全くアグリーなんですけれども(苦笑)、あくまで高裁判断の大前提となったのは「こんな所見は専門外が読めなくても仕方がない」という専門家の判断であったことには留意すべきであって、専門外とは言え一定レベルの臨床能力も問われずという話ではないことは認識しておかなければなりませんよね。
ただ一方で現場臨床医の能力に関して「ここまで出来ていればオーケー」という一線が引かれ始めたということが昨今の司法判断の一つの特徴であって、しかもその一線というものがかつてのようにトンデモ鑑定に基づくトンデモ判決というレベルではなく、一般臨床家の目から見てもまずまず妥当と思えるあたりに落ち着いてきたということは言えるかと思います。
ひと頃は鑑定書を書いてくれるなら誰でも良いというくらいにその質を問われない時代もあって、鑑定書を書いている人間こそその臨床能力を疑問視されかねないトンデモ鑑定書も散見されたものですが、大野事件などを経て医療業界にも鑑定書作成など単なる面倒な仕事という認識から、一臨床家の人生のみならず医療の将来も左右しかねない重大な仕事であるという認識へと移行しつつあるのかも知れませんね。

司法の世界でもかつては被害者救済的思想から、とりあえず見舞金的な額であれ何かしらのお金を出しておけと言う判決が出される傾向にあった、そうした件も司法関係者に言わせれば人が死んで百万、二百万といった額しか出ないというのは限りなく医療側の主張を認めた内容であって、「もうこれくらいで手を打ってはどうですか」という和解を促す気持ちが込められているのだという声もあるようです。
このあたりは健診で引っかかってひどく心配だと外来にやってくる患者も多いわけですが、医者の側からすると「こんなものどうでもいいじゃないか」と思えるような「異常値」も素人にすれば大問題に思えるというのと同じで、医者と患者の間に存在する医療に関する情報格差と同様の問題が、司法と医療その他の国民との間にも存在しているということを、一方の当事者である司法が理解出来ていたかも問題だったのでしょう。
医療関係者から見れば賠償の金額が一円だろうが一億円だろうがほとんど違いはなく、単に日々行っている医療行為が司法的にはどのように判断されたのかという点だけが注目されてきたわけで、こうした和解的判決の結果JBM(司法判断に基づく医療)なるものがどれほど普及し、まともな(と医療側が考える)医療を歪めてきたかという現実はまず司法の側も認識してもらわなければなりませんし、社会的影響をも踏まえた上での判断が求められるということでしょう。

昨今の司法判断の流れが少しばかり変化してきて、現在個々の症例レベルで司法の判断基準の見直しがようやく進みつつある印象がある、そうだとすればそれを如何に医学的に見ても妥当なものに近づけるのかという作業に関しては、トンデモ鑑定医問題も含め医療の側にも大いに責任無しとしませんが、ここでひとつ注意しておくべき問題は医療側で昨今進められている医療の標準化、ガイドライン化といった流れですよね。
産科領域では緊急帝切は30分以内になんて話が実際には難しいとしばしば問題になりますけれども、例えば最寄りの町立病院まで救急車でまず一時間、そこから遠い基幹病院まで搬送するのに更に一時間という僻地レベルで考えてみれば、「脳梗塞発症後3時間以内にt-PAを」なんて話も限りなく非現実的な話に見えているはずです。
医療の世界においては臨床成績のデータを元に、こうしておけばより良い結果が期待出来るという「学会権威ご推薦のやり方」が広まりつつあるわけですが、そうしたデータを出している施設というのは都市部の基幹施設であるという現実に思いを致せば、果たして大多数の地方における医療の現状に即しているのかという検討も必要でしょう。

今回の裁判となった症例に関しても、病院には循環器の専門医が勤務していたということが最後まで争点になったようですが、それでは胸痛は全て循環器科の医者を呼ぶ、腹痛と来れば必ず消化器科の医者にも見せるなんて院内ルールを策定するならば、確かに誤診や医療過誤は減るかも知れませんがあっという間に病院から医者がいなくなりそうですよね。
もちろんそうしたルールを作ったは作ったで、それなら脳外科の医者は非常勤だが不在の日にも呼び出すのか、内科医だけでなく外科の判断も仰がなくていいのかと際限がない話で、どこかでこの「医者は必ず間違いなく診断をし、正しい治療をしなければならない」というあり得ない前提から離れていく必要があるはずです。
「白い巨塔」などと揶揄された学閥は崩壊しつつあるなんて言われる一方で、やはり医療のやり方というものに関してはどこかの偉い先生が決めたルールに現場は従うといったトップダウンの関係があることは否めませんが、こうした問題こそ現場の末端臨床家が「こうでなければ困る!」と声を上げて、ボトムアップで話を進めていかなければならない仕事であるように思えますがどうでしょうね。

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コメント

毎日新聞>患者側の専門医志向は根強い。

ちょっと前まで、「総合医は患者のニーズに合致している」みたいなこと言ってませんでしたっけ。

投稿: | 2010年11月30日 (火) 10時46分

そこ、触れちゃいけない黒歴史w

投稿: 通りすがりのただの人 | 2010年11月30日 (火) 14時38分

心臓疾患も見抜けないような病院は、救急指定を受ける資格はない。医療体制・組織がなっていない。

投稿: | 2015年7月26日 (日) 14時37分

そうですね。専門医の24時間診療が実現できないような地域の救急病院は全て廃止してしまいましょう!そうすれば誤診も100%根絶できます。

投稿: おちゃ | 2015年7月27日 (月) 11時11分

心臓疾患を見のがしなく診療できると言うのは大変に高い要求水準で、現実的にはまず不可能なのではないかと言う気がします。

投稿: 管理人nobu | 2015年7月27日 (月) 12時47分

画像に現れる変調なら、自動解析の改良をばんばんやってしまえばいいのに
無理なの?

投稿: | 2015年7月27日 (月) 17時10分

全ての人間が元々正常で、単一の病気しか発症しないなら、可能ですよ。というか、それがいまの自動診断機そのもので、一般の方に言われなくても改良はメーカーがやってます(ビジネスですからね)。

問題は、持病や併存疾患で画像が乱れているところの変調をどうやってみつけるかです。さらには、データ集習時のエラーも重なります(電極の位置の誤差とか)。矛盾する所見群の中から、重要な情報だけを抜き出すのは、なかなか自動化が難しい分野ですね。

投稿: おちゃ | 2015年7月28日 (火) 13時00分

それでも専門医が見ればわかる、というなら条件をきっちりいれれば可能に思えますがね
専門医を配備するよりは、まだメーカーが自動化を頑張った方が実現性が高そうに思える
ビジネスのどこが悪いのかと

投稿: | 2015年7月28日 (火) 13時22分

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