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2010年11月10日 (水)

病院と患者は対立関係にあるわけではないはずなので

先日こういう記事が出ていまして、記者氏がどういう意図で書いているのかはよく判りませんけれども、とりあえず一読してみていただきましょう。

救急車、患者搬送せず引き返す(2010年10月24日朝日新聞)

◆自分で消防署へ、その後搬送◆

 江津市の会社役員の男性(53)が、119番通報して救急車を要請したところ出動を拒まれ、タクシーで江津消防署に行き事情を説明すると、浜田市の医療機関に救急車で運ばれたことが23日、わかった。江津邑智消防組合消防本部は対応が不適切だったとしている。

 男性によると22日朝、尿管結石の治療を受けるために江津市の病院で外来診察の順番を待っていたところ、激痛に見舞われた。看護師に訴えたが鎮痛剤をすぐには処方されなかったため病院外から119番通報した。救急車は男性の近くまで来たが引き返し、その後も2度通報したが拒まれた。出向いた江津消防署で事情を説明すると、救急車で運ばれたという。

 同消防本部総務課は「男性から最初の要請を受けた後、病院から『うちで対応する』と電話があったので出動した救急隊に戻るよう命じた。病院近くからの通報だったこともあるが、男性に接触するべきだった」としている。

 男性は「目の前まで救急車が来たが引き返した。命をどう考えているのか」と話している。(菱山出)

一見すると出動を拒んだという消防署が悪かったかのようにも見える記事ですが、これなどは記事を読めば読むほどにまさしく噛みしめれば味が出るという感じの事例ですよねえ…
こういう話は昔から決して珍しいものではなかったというのは現場の常識ではありますが、昨今興味深いのがかつては密かに闇から闇へと葬られていたような症例が、どんどん一般マスコミによっても報じられるようになったということです。
この記事なども一昔前なら黙殺されているか、「でも医者も悪いんですよ」で終わっていた話でしょうが、これも表に出るようになってきたのは時代の変化ということなんですかね?

医師の首絞め看護師殴る…患者の院内暴力深刻(2010年10月22日読売新聞)

 茨城県内の医療機関で、患者から身体的・精神的暴力、セクハラ(性的暴力)などを受ける院内暴力が深刻な問題となっている

職員の離職や医療サービスの低下につながる事態に、自主防衛策に乗り出す病院が増えている。

市民の意見聞く取り組みも 現場の声

 「医者を呼べ、お前らも殴られたいか!」。県内のある病院の夜間救急外来に、酒に酔った男性が来院した。名前を尋ねる女性看護師に「さっさとしろ。チャカ(拳銃)持ってるんだ!」とすごみ、頭をつかんで振り回した。けがはなかったが、この看護師はその後、不眠が2、3日続いた。

 筑波大大学院の三木明子准教授(看護科学専攻)が6月に出版した「看護職が体験する患者からの暴力―事例で読み解く」(日本看護協会出版会)で、全国の院内暴力の実態が明らかにされた。読売新聞の取材では、県内でも「急いでいるから薬だけ欲しい」と診療を拒否したり、「治療期間が長引いた分だけ生活補償しろ」と無謀な要求をしたりする患者や、女性看護師へのストーカー行為など実例は多岐にわたる。

 院内暴力の背景には患者の権利意識の高まりに加え、プライバシーへの配慮から密室でケアをする病院固有の事情が存在する。三木准教授は「茨城の医療現場は暴力に耐え忍ぶ地域性も見られ、組織での取り組みが十分に進んでいない。医療事故防止対策に比べ、暴力防止対策の優先順位が低い」と指摘する。

助っ人導入

 牛久愛和総合病院(牛久市)では3月、「患者サービス室」を設置した。専任の中村育夫さん(59)は、昨年まで東京都内の病院で同様の部署で働いていた。現場で15分以内に対処できない苦情が発生すると駆け付け、別の診療に影響しないよう別室に移動して話を聞く。看護師からは「仕事に集中できる」と信頼を置かれている。

 処理した事例は、関係する主治医らに必ず報告する。トラブルの再発防止や院内環境の改善に役立てるためだ。中村さんは「患者の要求を見極めて毅然(きぜん)と対応しなければ、理不尽な要求や暴力を振るう患者を生み出す」と、無理な注文には病院の立場を説明する役目も担う。

 土浦協同病院(土浦市)では4月から、県警の元警察官を常駐させている。心理学や護身術などの知識を持ち、法律にも詳しい“助っ人”として活躍している。筑波大付属病院(つくば市)でも3年前から、元警察官を採用。「患者相談窓口」には、患者の情報を正確に把握するため録音・録画装置を設置した。

 牛久愛和総合病院では「地域に開かれた病院を目指し、院内を明るいイメージにしたい」と今月、市民で作る外部評価委員会を設置。理不尽な要求に苦慮する病院の実情を知らせたり、市民の意見を聞いたりする取り組みが始まった。

 三木准教授はこうした病院側の動きについて「一部の患者の無用な暴言・暴力に対し、現場のその場しのぎの対応では解決にならず、組織で対策を立てざるを得ない現状に直面している」と見る。医療の原点である患者と病院の信頼関係構築に向けた模索は続く。(原田この実)

 茨城県内の院内暴力の事例

 ・看護師が殴る、けるの暴行を受け、眼窩(がんか)底骨折で手術、もう1人はあばら骨を折った

 ・つばを吐く、かみつく、ひっかく、暴言を吐くなどの行為を日常的に受けた

 ・作業療法士のリハビリ説明が気に入らず、なだめに入った医師が首を絞められた

 ・朝7時の体操の声かけに行くと、いきなり顔を殴られた。「眠かった」との理由だった

 ・介助のため、もう1人職員を呼びに行くと説明すると「不親切だ。お前なんて簡単に殺せる」と大声を出し、足げりされた

 ・ベッド横でカーテンを閉め、体をふいていると胸を触られた

 ・患者の家族から「体をよくふいていない」、「1番に父の処置をしろ」と召し使いのように扱われた

 (2008年、三木准教授の調査より)

病院の半数被害

 全日本病院協会が2007~08年、全国の会員2248病院を対象に行った「院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査」によると、患者やその家族らから職員が院内暴力を経験していた病院は52・1%に上った。1106病院から回答があり、有効回答率は49・2%。

 発生事例のうち、「警察への届け出」は5・8%、「弁護士への相談」は2・1%に過ぎず、多くは院内で対応していた。同協会は「院内暴力の対応に伴う病院負担が大きいことがうかがえる」としている。

 一方、職員の被害状況を院内で把握しようと、報告制度などを整備しているのは38・9%、対策マニュアルや指針を整備しているのは16・2%、院内暴力を回避するための研修を開催しているのは12・7%にとどまった

暴力被害を経験したことがある病院がわずか半数とはずいぶんと控えめな数字ではないかと思いますけれども、どうも患者や家族からの身体的、精神的暴力は仕方がないもの、黙って耐えるべきものと勘違いしている人間が、現場にも病院上層部にも未だに多いということなんでしょうね。
適切な対応が全く出来ていない、そもそも何が適切な対応なのかも理解していないという施設が大半であるという現実がそのあたりの事情を物語っていますが、その背景には長年にわたってマスコミ各社が一生懸命繰り返してきた病院バッシングが存在しており、「病院相手なら何をやっても許される。世間も味方してくれる」という勘違いが蔓延しているということは想像に難くありません。
ちょうど先日は患者側から見た病院の問題点といった感じの記事を紹介させてもらったところですけれども、こちらも全く同様に病院内の療養環境を悪化させる大きな要因であることは疑いないわけですから、これを改善するためには一方向からの努力だけでは無意味であって、まさしく「病院から良質のサービスを引き出すのも患者の姿勢次第(山口育子COML事務局長)」ということになりそうです。

何しろマンパワー集約型産業の典型ですから、少し大きな病院と言えば入院している患者が数百人にスタッフも数百人、さらに毎日毎日外来にも何百人もの患者が集まってくるという場所である上に、それぞれが深刻な問題を抱えていると頭を悩ませている人々であるわけですから、巨大な接客装置として考えた場合に日々トラブルが発生しない方がおかしいくらいですよね。
社会常識的に暴力等の許容されざる行為に対して毅然と対応することは言うまでもありませんけれども、一部の顧客による問題行動が他の大勢の患者にとっては時として生命や健康にも関わる問題となり得ることを考えれば、医療の現場でこそ飛行機内などと同様厳しいルールを設定し守っていただく必要があるということにならないでしょうか。
こういう顧客の問題行動に対してきちんとした対応を取れない施設と言えば、当然ながらスタッフの労働環境にも認識が甘いものと想像されますから、患者のみならずスタッフとしてもこうしたブラック病院は許さないという姿勢をはっきり示していくことが大事でしょうね。

しかしまあ、こういう今までであれば闇から闇へと葬られ泣き寝入りするしかなかったような問題が、きちんと日の目を見るようになっただけでも多少は意識の進歩が見られると肯定的に捉えておくべきなのでしょうが、院内環境改善に関しては病院側と患者とはマスコミが煽りたがる対立関係ではなく、本来的に同じ目的を共有する協力関係であるはずなんですよね。
その意味からすると今後は単に一部患者対策のみならず、多くの善良な患者さん達にも協力をしていただきながら病院内環境の改善を進めていかなければならないし、そのためには当事者である病院側もこうした機会を逃すことなく「あなた達にとっても大問題なのです」と世間にアピールしていかなければならないですよね。

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コメント

長時間勤務の外科医は燃え尽きやすく患者のリスクにつながる
http://health.nikkei.co.jp/hsn/hl.cfm?i=20101111hk001hk

投稿: | 2010年11月12日 (金) 12時15分

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