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2010年11月 9日 (火)

医療現場の接遇向上は社会的要請?!

先日出ていた短い記事ですが、「さもありなん」とも思わせるのがこちら国立がん研究センターでの調査結果です。

主治医の「説明に納得できず」8割 がん相談対話外来の利用者(2010年11月4日産経新聞)

 国立がん研究センターが7月に開設した「がん相談対話外来」にセカンドオピニオンを求めてきた利用者の8割が、「主治医の説明に納得できない」との理由で受診したことが分かった。同外来は、医師だけでなく看護師、必要なら専門相談員や精神科医も立ち会って患者や家族と対話し、疑問や悩みの解決を図るのが特徴。

 8月2~13日の相談64件を分析した結果、主治医の診断や治療方針に問題はないが、患者が説明に納得していないケースが83%に上った。次いで主治医が適切な治療法を提示していない(8%)、適切な診断ができていない(5%)など。

 同外来の対応として42%に新たな治療法、6%に新たな診断を示した。

主治医の言うことに全て納得できているということであればそもそもセカンドオピニオン外来にやってくることもなかったでしょうから、この調査対象であれば何にしろ納得出来ていない部分は全員が持っているはずですけれども、その中でも診断や治療方針には問題はないがとにかく言い方が悪い!と主張している患者がほとんどであるというのは興味深いですよね。
おそらくセカンドオピニオン外来にやってきた患者の前医のほとんどは一般病院医師でしょうから、こういう話を聞けば「忙しい診療の合間に一から十まで完璧に納得できるような説明は出来ない」なんて弁解が聞こえてきそうですけれども、逆に一般病院の患者のうちで説明や治療法に納得したという患者がどれくらいの割合いるものなのかというデータもあれば、より意味深いものになりそうな話です。
こういうことは顧客満足度ということに関わってくる話だと思いますけれども、今の時代この顧客満足度ということを医療現場も無視してやっていくことは出来ないというのはもっと常識化していいと思いますね。

ひと頃から「インフォームドコンセント」ということが医学教育の現場でも念仏のように唱えられるようになって、近頃はとにかく患者の同意がなければ原則何も出来ないということになっていますけれども、未だに古い時代の教育を受けた「俺の言うことが正しいんだから黙って聞け」式の先生も生き残っていないわけではありません。
最もそういう先生も一部方面には一定の人気はあるという逆説もあって、これはこれで需要と供給がうまくバランスしていれば構わない話なのでしょうが、一方で医療の現場は昔よりもずっと多忙になっている、その中で昔よりも遙かに懇切丁寧な説明を納得されるまで続けなさいと言うルールになっているとすれば、これは現場のスタッフもますます大変だろうなとは誰にでも判る理屈ですよね。
昨今ではそうした状況を逆手に?取って、まずはマニュアル通りに懇切丁寧な説明を一通り行う、そしてそれに納得できないという患者には「それではご納得いただけない以上当院での治療は出来かねます」とさっさと送り出してしまうというやり方を取り入れている先生も多いようですが、これなども一部に明らかに存在する難しい患者に対応する一つの現場の知恵とは言えそうですよね。

それでも前述の調査においても不満を抱えている患者の8割においても診断や治療法といった部分には納得しているというわけですから、逆に言えば後は言い方の問題さえクリア出来ていれば何も難しいことはなかったはずだという見方も出来るかも知れません。
難しい患者というものは基本的にいつトラブルのネタになってもおかしくない「要注意」顧客でもあると言うことですから、リスクマネージメントの観点からするとそういう患者は早めに見つけ出して他院に送っておくに限るというのも一つの正解なのでしょうが、クレーマーでも何でもない一般顧客相手にも余計なトラブルを抱え込みかねない接遇などは、やはり客商売に関わる人間として非難されるのも仕方ないでしょう。
実際のところ患者が気に入る接遇とはどのようなものであるのかは個々の顧客によっても違うのでしょうが、先日は日経新聞に興味深い記事が出ていましたので紹介しておきましょう。

患者は「顧客」 マナー重視 医療機関、競争激化で対応改善 職員に研修、学生教育も (2010年11月4日日本経済新聞)

医師の高圧的態度、職員の心ないひと言に不快な思いをした患者は少なくない。これに対し近年、患者を「顧客」ととらえ、きめ細かい対応を目指す動きが医療機関で広がりつつある。背景には、都市部を中心とした競争激化がある。医師・看護師はもちろん、事務職員も含めマナー教育に力を入れる医療機関が増え、医学生に「患者目線」を教え込む大学も出てきた。

 「医療はサービス産業。病院は医療サービスを提供することにより社会に貢献している」――。神奈川県秦野市の鶴巻温泉病院(鈴木竜太院長)は、今年4月に看護師や作業療法士ら新入職員70人に配った「メディカルマナー研修」のテキストの冒頭で、病院の存在意義をそう強調した。

 同研修は、医療事務スタッフの養成講座などを手がける日本医療事務協会(東京・新宿)が始めた。鶴巻温泉病院が契約第1号の病院だった。同協会は7年ほど前から、医療事務の仕事に就こうとする個人向けに「メディカルマナー講座」を展開。患者に好印象を与える受付や、保険証の正確な確認などを6時間かけて集中的に学習する。今年から法人向けも始めた。

電話対応に力注ぐ

 鶴巻温泉病院が研修の実践練習で最も力を注いだのが電話対応。「病院は意外と内線の取り次ぎが多い」(総務課)といい、メモや復唱確認は基本的な注意点だ。

 同病院の主力はリハビリテーションと介護療養で、入院患者は大半が高齢者。看護師らが患者と接して得た知見をまとめ「高齢者ケアのマナーブック」を出版し、他病院の手本にもなっている。タブーや禁句を列挙し、「香水は(つけすぎず)1、2滴で」などと、身だしなみについても細かく解説している。

 職員の口からは「お客様」という言葉が自然に出てくる。飲食店のような心得「私達のマナー 五つの約束」を院内に掲示。「会話の語尾に『です』『ます』を」なども「最低限のマナー」として従業員にたたき込んでいる

 退院1カ月後の患者アンケートも珍しい取り組みだ。回答はホームページなどに匿名で載せ、それへの病院応答も掲載している。病院内にも「ご意見箱」を設置。評価の声が大半だが「入院初日、病院に慣れていないのに職員紹介をいっぺんに受けた」「職員が忙しすぎて、じっくり相手をしてくれる人がいなかった」など手厳しい意見も多い

 医療現場を将来担う医学生へのマナー教育にも力が入れられている。独協医科大(栃木県壬生町)で責任者を務める古市照人教授は「学生は年代の離れた人と話すことに慣れていない」と指摘する。

 同大学は1、2年次に地域医療の現場実習授業を導入。看護師の1日の仕事に付き従い、患者に病気の説明をしたり、世間話に付き合ったりする。4年次には、近隣住民から募った「模擬患者」を活用、医療面接の授業をする。不機嫌な患者への接し方などで、学生は必ず戸惑いを見せる。

 医学部5年生の高橋充さんも「初めはほとんど質問できなかった」と振り返る。実践を繰り返し、今では「例えば、ベッド上の患者さんに話しかける時、立った状態より、かがんで同じ目線になったほうが威圧的にならない」などのコツを体得できたと語る。古市教授は「教師も勉強になる。診療技術が向上した」と授業の効果に胸を張る。

 企業向けマナー研修で知られるキャプラン(東京・港)JALアカデミー本部も、「患者接遇マナー1日コース」を東京だけで月3回ほど開催。6時間かけて電話応対や患者への接し方を教え、開業医も含め幅広い参加がある。講師を派遣する場合もあるが、老舗とあって「介護保険開始後は介護関係から、薬学部の6年制実施後は薬学部から声がかかった」という。

入院も外来も減少

 医療機関がマナーを重視するようになった背景について、東京医科歯科大の川渕孝一教授(医療経済学)は「デフレ不況で、高齢化社会と言いながら入院も外来も患者が減っている」と分析。「明らかに病院にも勝ち組・負け組の差が出てきた。特に慢性患者は気心の知れた対応の良い病院に行きたがる。だからこそ、患者の接遇が見直されてきている」と強調する。

 製品・サービスの安全や品質を重視する消費者行政が注目を集める昨今、医療現場にも「消費者の目線」が持ち込まれつつある。電話対応、クレーム対応の一つ一つが、病院の評判、ひいては経営にじわじわと影響することを肝に銘じるべき時代ともいえそうだ。

覆面調査のNPO「病院、踏み込み不足も」

 患者の目に病院の顧客対応はどう映るか。特定非営利活動法人(NPO)のCOML(コムル、大阪市北区)は「病院探検隊」を展開。入院経験などのあるボランティアスタッフら約10人を依頼のあった医療機関に派遣、覆面調査で70件近くのマナーを“診察”してきた。山口育子事務局長は「意識は高まっているが、踏み込んだ部分で徹底されていない」とみる。

 9月に訪れた岡山市の岡山旭東病院は患者とのコミュニケーションを重視し、5年前から案内係2人をロビーに配置。山口さんが初診窓口を探していると「どうしましたか?」と、すかさず声をかけてくれた。院内に芸術作品も展示、患者が待ち時間を楽しく過ごせる工夫もみられた。

 半面、整形外科まで案内してもらう際、職員は山口さんの歩くペースに合わせてくれなかった。診察の待ち時間の目安を示す表示がないため、芸術作品もゆっくりは楽しめず、トイレに行けそうなタイミングも分からなかった。こうした指摘に病院側は「細かな点が行き届いていなかった。改善したい」としている。

 ただ山口さんは、処置が上手だった看護師を褒め、治療で症状が改善した点は医師にしっかり伝えて感謝するなど、患者側の心遣いの大切さも説く。不満をぶつけるだけでは医療関係者も反発するためだ。山口さんは「病院から良質のサービスを引き出すのも患者の姿勢次第」と訴えている。

なんだ、特訓みたいなことを良いながら当たり前の常識ばかりトレーニングしているんじゃないかと感じる人もあるかも知れませんが、実際にその当たり前の常識が身についていない人間が現場には必ずと言っていいほど紛れ込んでいるものであり、百人に一人でもそういう人間がいればそこからトラブルがこじれていくという現実を認めないわけにはいきませんよね。
病院の勝ち組、負け組が顕在化してきているのは事実にしても、それが接遇面の優劣に由来する物なのかどうかは判らないじゃないか、実際多くの病院でもうこれ以上無理というくらいに患者が押し寄せていても赤字なのはどういうことだと考える人もいるでしょうが、少なくとも鶴巻温泉病院のように長期の患者を抱え込んでナンボの病院にとっては、接遇改善が安上がりに顧客満足度を向上させる手段の一つとは言えそうです。
今どき各病院にたいてい目安箱のようなものは設けられていて、現場の側からすれば「ちょっとそれは無理」と思えるような「わがまま」的な意見も多数投げ込まれているわけですが、業務に悪影響を与えることなく改善できることならさっさと改善しておいた方が、患者側もリラックス出来て「まあ、多少のことはいいか」と鷹揚に構えていられるようになるかも知れませんよね。

仮にも顧客とすれ違っても挨拶も出来ないとか、医療人として以前に社会人としてどうよと言うレベルの人たちは問題外ですが、こういう接遇改善なんて話を聞くと「忙しいのにそんなことに気を遣っていられるか!」と言い出す多忙な医師の皆さんにこそ、むしろこうした社会的要請を勤務状況改善のための好機と捉えていただくべきなのではないかと思います。
例えば丸々24時間の連続勤務明けでろくに眠れていない、ひげも当たらず髪はボサボサで白衣は皺だらけ、いまにも倒れそうな有様の医者が外来に出ているということになれば、自分が患者の立場に立ってみてもそんな医者に診てもらいたくはないと思いますよね?
自分が生きるか死ぬかの思いで入院しているのに、担当医は「あっ、あちらの患者が急変したのでちょっと失礼」とろくに話をする時間も作ってくれないとなれば、自分が顧客としてそういう扱いをされた場合を考えて見ても、もっと患者一人一人にゆっくり向き合えるくらいの余裕ある診療をして欲しいと思いますよね?

となれば、顧客満足度向上のために医療を提供する側として何をするべきかと言えば、衣食足りて礼節を知るではありませんが最低限の心身のゆとりをスタッフの側も持っていなければならない、少なくとも日々の業務に追われて患者の顔と名前もろくろく覚えていないような勤務態勢では、うっかりした勘違いからとんでもない大失敗をやらかしてしまうリスクも増えるだろうと言うことです。
現代の医療現場、とりわけ多忙な急性期の病院において、多くの医療事故が突き詰めるところ多忙であるが故に発生しているという現実がある、そして多忙とは顧客満足度も引き下げ最終的には病院の評判も貶めかねない重要な経営悪化要因であるとすれば、「俺たちにもっとまともな接遇をさせられるよう職場環境を整えろ」と要求することが職場に忠誠を求められる従業員としての当然の義務でもあると言えそうです。
いつもそうであるというのも現実問題無理があるのでしょうが、たまには医者も患者の世間話につきあったり、患者のペースにあわせてみたりといった程度のことが出来るように要求することは全く不当ではないし、その程度のことが実現できない病院は医者のみならず患者にとっても「良くない病院」であるという認識を、もっと社会常識として定着させていくべきなのでしょうね。

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