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2010年11月19日 (金)

小異に注目するか、大同に注目するか

少し以前の記事ですけれども、こんな気になるニュースが出ていたことをご存知でしょうか。

医療事故の報告、過去最多のペース―日本医療機能評価機構(2010年10月13日CBニュース)

日本医療機能評価機構が10月13日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第22回報告書によると、医療事故の報告が義務付けられている国立病院機構や自治体所管の医療機関など272施設(6月30日現在)の今年1-6月の医療事故の報告数は1005件で、年間報告数が過去最多だった昨年同期の946件を上回った

2004年10月の事業開始以来、報告が義務付けられている施設からの年間報告数は、昨年の1895件が最多。今年1-6月の報告数は昨年同期よりも59件増えた
一方、任意で参加している554施設(6月30日現在)の1-6月の報告数は231件で、既に昨年1年間の169件を上回った。件数増について同機構の後信・医療事故防止事業部長は、参加施設数の増加が要因の1つとみている。

1005件を事故の程度別に見ると、「死亡」が8.1%、「障害残存の可能性がある(高い)」が10.9%、「障害残存の可能性がある(低い)」が27.4%、「障害残存の可能性なし」が28.0%、「障害なし」が21.5%、「不明」が4.2%
事故の概要では、「療養上の世話」(45.2%)と「治療・処置」(22.5%)が多かった
発生要因(複数回答)では、「観察を怠った」(11.6%)、「確認を怠った」(10.7%)が多く、次いで「判断を誤った」(9.8%)、患者が自らチューブを抜くといった「患者側」(9.3%)などと続いた

一方、「ヒヤリ・ハット事例収集・分析・提供事業」に参加する987施設(6月30日現在)から4-6月に報告されたヒヤリ・ハットの発生件数は14万 1984件。これを項目別に見ると、「薬剤」が33.5%で最も多く、これに「療養上の世話」(22.8%)、「ドレーン・チューブ」(16.2%)などと続いた
また、事例情報を報告する540施設(6月30日現在)から4-6月に報告された事例件数は6648件で、1-3月の2450件と比べて大幅に増加した。

■薬局ヒヤリ・ハット報告件数、半年間で約5000件
同機構が公表した「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」の第3回集計報告によると、同事業に参加する2841の薬局(6月30日現在)から1-6月に報告されたヒヤリ・ハット事例は4989件だった。後部長は、参加薬局のうち1件でも報告したのは319薬局だったことについて、「全体の1割程度で、まだまだ少ない」としている。

事例の概要を見ると、「調剤」が93.5%を占め、「疑義照会」は6.3%、「特定保険医療材料」は0.2% だった。「調剤」の内訳は、「数量間違い」が40.6%で最も多く、以下は「規格・剤形間違い」13.2%、「薬剤取違え」9.8%と続いた。発生要因 (複数回答)では、「確認を怠った」(57.7%)が最も多く、「勤務状況が繁忙だった」(15.5%)がこれに次いだ。
後部長は、事例の概要で「医薬品の販売」の報告数がゼロだったことについて、「実際には発生していると思う。数字が実態と乖離して誤解を招いてはいけないので、ぜひ報告してほしい」と話している。

こういう数字の場合、もちろん実際には全数把握出来ているわけでもないでしょうからあまり増えた、減ったを論じても仕方がないという考え方もある一方で、少なくとも現在のところこうした事故報告例がこれだけの数出ているということは、現場ではまだまだ事故を報告しようというモチベーションが保たれているということの傍証ではあるのでしょうね。
すでに二年ばかり前の話ですが、副作用や合併症に関する症例報告があっという間に激減して、とりわけ診療中に起きた個別の事例に関する報告は実質ゼロになってしまったなんて話が大きな反響を呼びましたが、こうした報告はあくまで再発防止のために用いてこそ意味があるものを、医療訴訟激増等の余波で個人責任追及の場に流用されるようになればどうなるかということを如実に示した好例だったと言えるでしょう。
先日の厚労相調査でも病院内で患者側と病院側との仲介を行う医療対話仲介者について、実際の相談内容(複数回答)として「医療過誤について」が90%と「診療内容について」の93%に次ぐ高い数字を示していることからも、医療現場ではこのあたりの領域に大きな関心が寄せられているし、神経質にもなっているという現実があるのは明らかですが、そうした状況になれば結局困るのは誰かということです。

そんな中で、先日今度は消費者庁の方からこういうニュースが飛び出してきていまして、またこれは考えようによってはずいぶんと意外な反響を呼びそうな話だなと思いながら拝見したものです。

医療機関に「調査員」 消費者庁、事故情報を収集(2010年11月11日日本経済新聞)

 消費者庁は11日、病院の入院患者の身の回りで起きた製品やサービスにかかわる事故情報を集める「調査員」を全国13カ所の医療機関に配置すると発表した。今月下旬に研修を実施し、12月から本格的に調査業務を始める。医療機関との連携を深め、事故の原因究明や再発防止につなげる。

 消費者庁によると、調査員は家電や乗り物などにかかわる製品事故、介護や入浴中の事故など様々な要因で入院・通院する患者の情報を患者本人や家族、医師らから聞き取り、同庁に報告する。

 調査員となるのは同庁の研修を受けた看護師や病院事務職員ら。国立成育医療研究センター(東京)、京都第二赤十字病院(京都市)など13医療機関に1~2人ずつ配置。内部の人材を活用するか外部から招くかは各病院が決める。

 医療機関の情報は従来国民生活センターが集めていたが、事故の原因などの詳細な情報は集まりにくかった

 製品自体に原因があると断定できず、不注意や誤使用が原因とみられる事故は同庁に情報が届かないこともあり、こうした事故も医療機関との協力を通じて調査する。

もちろんここでも目的は「事故の原因究明や再発防止につなげる」ことであると言うことになっていますけれども、消費者の視点から政策全般を監視する組織の実現を目指して設立されたという消費者庁というものの性質からしても、果たして素直にそれだけの話で終わるものだろうかと誰しも考えそうなものですし、そもそも当の消費者の視点から考えて納得できるものかどうかですよね。
こういう動きを見て思うことに、長年スルーされてきた医者の労基法違反問題が厚生省と労働省の統合以来急に世間を賑わすようになったことと同様、この医療事故の件に関しても消費者庁という新たな視点が入ることで意外な急展開があるんじゃないかとも感じるんですが、果たしてどういうことになってくるのか今後に要注目でしょう。
いずれにしても医療の消費者たる患者の側にもこうした制度に求めるものがある一方で、医療の提供者たる側にも求めるものがあるのは当然ですから、そのあたりの摺り合わせをきちんとしていかないことには詳細云々と言う以前に、現場の実情を反映した生情報は到底集まらないだろうとは言えそうです。

こういうそれぞれの思惑と利害の複雑に絡み合う話は簡単には片付かないでしょうが、医療側にせよ患者側にせよ医療安全推進の必要性を痛感していることは共通ですから、まずはそちらの方から手に手を取って話を進めていくというのも合理的ではありますよね。
先日は日医主催で医療安全の講習会が開催されましたけれども、前述のような問題点は昨今ある程度共有するところとなってきているようですから、後は理念ばかり先走らず現実的に一歩一歩話を進めていく忍耐が、関係者各位に求められる段階だということなのでしょう。

医療安全推進、「予防」に向けた取り組みを(2010年11月4日CBニュース)

 日本医師会は11月3日、医療機関や福祉関連施設の従事者などを対象に、医療安全推進者養成講座で「講習会」を開催した。厚生労働省の関係者ら4人がシンポジストとして参加し、医療従事者と患者間での対立や紛争などの「予防」に向けた取り組みの重要性を指摘した。

 この日はまず、同省医政局総務課の渡辺真俊医療安全推進室長が「我が国の医療安全施策の動向」と題して講演。同省が医療事故調査の制度創設に向けて 2008年に公表した「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」が制度化されていない理由について、「個人的な見解」と前置きした上で、▽関係者間の合意が十分に得られなかった▽医師不足などが叫ばれる中で、調査を誰がどこでどのようにやるかを詰める段階になかった―ことを指摘。今後は民主党案も含めて幅広く検討を行い、「当事者のみならず、国民的な議論をしていく必要があると思う」と述べた。

 続いて、日本医療機能評価機構医療事故防止事業部長の後信・産科医療補償制度運営部技監が、同機構の医療事故情報収集等事業や産科医療補償制度などを紹介。同制度は「補償」と「原因分析・再発防止」の2本柱で、補償を中心とする海外の類似制度と比べて、「同じ比重で原因分析・再発防止もやることになっているのが非常に特徴的だ」と述べた。また、産科の枠を超えた公的な補償制度の創設を望む声が聞かれると指摘した上で、「壮大な話なので、実現性についてはよく分からないところもある。いろいろな診療分野の中での議論の蓄積も必要だと思う」との考えを示した。

 さらに、東大大学院医学系研究科医療安全管理学講座の高橋知子特任研究員が、全国378か所(昨年12月1日現在)の医療安全支援センターの現状について説明した。同講座は07年度から、同省の委託を受けて「医療安全支援センター総合支援事業」を実施。同事業ではセンターの職員が参加するプロジェクトチームを立ち上げ、これまでに相談対応ガイドブックや住民向けの教育啓発用ツールのひな型などを作成してきたという。高橋氏は同センターについて、「発展中の組織だ。現場の方たちと在り方を探っていきたい」と述べ、医療機関とのネットワーク構築に向けた協力を参加者らに呼び掛けた。

 その後行われたシンポジウム「医療界全体の協働で強固な安全対策を」では、講師3人に加え、同講座の児玉安司教授がシンポジストとして参加した。児玉氏は、3氏の講演内容について「対立や紛争(の解決)ではなく、その予防をどうするかという大きなテーマがあったように思う」と指摘。医療安全支援センターについて、「予防の手だてを考えていく中で、どのようにコミュニケーションをよくするか、どのように相互理解を進めていくかという新しいスタイルの行政サービスを模索している」と述べた上で、現場の医療従事者や患者の声にしっかりと耳を傾ける必要性を強調した。

医者側と患者側とが同じ補償獲得という共通目標を目指して協力するという無過失補償などもそうですが、医療の提供側と患者側とがいたずらに向き合い対立する関係に陥るよりは、お互いに同じ方向の目線でいた方が相互理解も進むだろうし、余計なトラブルも少なくなる道理なのは冷静に考えれば理解できることですよね。
物理的には近そうに見える医者と患者の関係も実は案外敷居が高いことに加えて、以前は間にマスコミなどのバイアスが挟まっていた関係もあって決して意思疎通が円滑とは言えないものでしたが、この数年ネットなどを通じて両者が直接的に対話する機会も増えたせいか、格段に相互理解が進んできたんじゃないかという印象も受けています。
結局のところお互い対立したところでどちらにとっても何の得にもならないわけですから、それだったらなるべく仲良くやっていった方が双方にとって良いのだろうし、昨今盛んに言われるようになった医者の接遇スキル向上や患者の受診態度の改善といった相互のマナー向上といった話も、どちらかがということではなくどちらもがその一助になるんだろうと思いますね。
その場合にも最終的に必要になるのはやはり、「相手と仲良くしておいた方が、自分にとっても得になる」という共通認識を、双方がしっかり共有しておくということなのでしょう。

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コメント

 なんかさっき大同特殊鋼の渋川工場が地震によって壊滅的打撃を受けたとの
連絡があった。早く救援に行かなくては。

投稿: 岡谷 | 2011年3月11日 (金) 21時48分

 大同は岡谷と組んで島根を批判するが、竹島を取られそうなんだぞ。非国民め。

投稿: 不正体質打破 | 2012年8月24日 (金) 20時49分

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