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2010年10月29日 (金)

柔整問題 進む社会的包囲網形成

地方のごく小さな記事ですけれども、先日こういう話が出ていたことをご存知でしょうか。

自動車保険金詐欺とほう助で男2人を新たに逮捕(2010年10月27日和歌山放送ニュース)

交通事故を装った保険金詐欺事件で先月(9月)逮捕された男5人組に頼まれ、整骨院の治療費と通院日数を保険会社に水増し請求して、保険金およそ91万円をだまし取ったなどとして、和歌山県警は、きょう(27日)あらたに男2人を詐欺とほう助の疑いで逮捕しました。
詐欺の疑いで逮捕されたのは、和歌山市新庄(しんじょう)の「はたなか整骨院」経営、畑中昭次(はたなか・あきつぐ)容疑者31歳、ほう助の疑いで逮捕されたのは、和歌山市西浜(にしはま)の会社員、池原弘晃(いけはら・ひろあき)容疑者32歳の2人です。
和歌山県警の調べによりますと、畑中容疑者は、ことし(2010年)3月24日から5月13日にかけて、既に先月(9がつ)27日に自動車保険金詐欺事件で逮捕された男5人組のうち、2人分の通院日数を実際には3日間だったのを、57日間に水増しして損害保険会社に請求し、治療費あわせて91万円余りをだまし取った疑いです。
また、池原容疑者は、詐欺グループのメンバーから頼まれて、水増しした保険金請求書類や架空の事業所の名義のゴム印を作るなどして、詐欺をほう助した疑いです。
警察の調べに対して2人は容疑を認める供述をしています。畑中容疑者と池原容疑者に水増しを依頼した詐欺グループの男5人組は、先月(9月)27日、既に逮捕されています。

保険金詐欺などという話は失礼ながら昔からどこにでもある話で、どこの世界でも犯罪者というものは一定数出るものですしいちいち取り上げても仕方がないとスルーしているのですが、実のところこの種の話題自体は探せば幾らでも出てくるという程度にはよくある話です。
この場合は一民間企業である保険会社に対する水増し請求で退歩されたわけですけれども、全く同じ手口で診療報酬を架空請求したとなればこれは国民に広く関わる話で、しかも業界内でそうした行為が広く行われているということであれば、これは保険診療財政が厳しい折にどうかということになりますよね。
同じ診療報酬を医療業界と分け合う関係ということで、この柔道整復師の診療報酬問題というものはかねて医療におけるそれと比べて高すぎるんじゃないかと指摘されていることは以前に当「ぐり研」でも取り上げたところですが、その実態がどうなっているのかということに関して先日読売新聞から興味深い記事が出ていました。

肩こり→打撲…柔道整復師6割超が違う保険請求(2010年10月27日読売新聞)

 接骨院や整骨院でマッサージなどを行う柔道整復師の施術について、会計検査院が約900人の患者を抽出調査したところ、6割以上で患者が申告した症状と、整復師側が医療保険で請求した内容が食い違っていたことが分かった。

 患者は、保険適用外の肩こりなどを訴えていたのに、請求では適用対象の打撲やねん挫となっていたケースが多数確認されたという。検査院は厚生労働省に対し、審査の厳格化や、請求基準を明確にするよう求める方針だ。

 整復師の施術は骨折、脱臼、ねん挫、打撲、肉離れが保険の適用対象となり、病院と同様、患者に代わって保険請求することが認められている。厚労省によると、2007年度の国民医療費は前年度比3・0%増の34兆1360億円だが、うち整復師の療養費(保険請求した施術費用)は、同5・1%増の3377億円と高い伸び率だった。整復師の養成所が近年増え、05年には約5万人だった整復師の資格保持者が、09年末には約6万7000人に増加しているのも一因とみられる。

 検査院が市町村などを通じて整復師の施術を受けた904人を対象に聞き取り調査を行ったところ、うち597人が、整復師の保険請求の内容と、自分の訴えた症状が違うと回答。保険適用外の肩こりなどを訴えて通院していたのに、整復師の保険請求では打撲やねん挫などと記載されていたケースが多数を占めたという。

 また、検査院が保険請求の多い16道府県で、約2万8000人の患者の保険請求記録を点検したところ、施術の部位は1~2か所が一般的なのに、同じ患者への施術が3か所以上とされていたのが約1万8000人もいたほか、負傷の部位が月によって変わっていた患者が約9000人いた

柔道整復師の不正請求という現象自体は正直今さらの話題で、昔から多い多いと定性的な話はガイシュツだというところですけれども、今回こうして公的な調査で定量的な結果が出た、しかもそれによってなんと6割がこうした請求を行っていたというのですから小さな話ではありません。
むろんこうしたものの中にはいわゆる保険病名のように、保険診療扱いにするために善意でつけている病名というものも多々あるだろうと思いますが、柔道整復師に関してはその施術について本来非常に厳しいルールがあるにも関わらずどうもそれが守られていない、そして利用者側も「保険が使える安いマッサージ」といった感覚で安易に通っているということが、本来の趣旨に反しているのではないかとはかねて指摘されるところです。
無論それに加えて保健医療の財政が厳しいという時代背景もあるわけで、とりわけ病院などに対する保険診療の監査がどれほど重箱の隅つつきであるかを考えた場合に、同じ財源を共用する業界としてこの格差は何だと感じていた医者も多いと思いますが、会計検査院がこうしてダメ出しをしてきたところを見るといよいよ放置できなくなったとお上も判断してきているということなのでしょうね。

このあたりは金を出す保険者の側ではかねて是正に取り組んでいる領域で、例えば今夏にも東京の健保組合が柔整施術療養費の不支給を決めた、これに対して柔整側が不服申し立てをしたなんて話が出ていましたし、奈良などでは柔整絡みの不正請求が多すぎるということで柔整専門の審査機関で全件審査をやっているくらいです。
こうした各地の動きに対して柔整側も対応してきているということなのでしょうか、例えばロハス・メディカルによれば「厳格な審査体制を作ろうとしても、必ず政治家が介入して実らなくなっている(「国リハあはきの会」林幸男代表幹事)」なんて話があるくらいで、何しろ柔整だけが突出して優遇されている背景に何かしらの事情があるとは昔からささやかれているところですよね。
これまた以前にも紹介しましたロハス・メディカルの記事からですけれども、日本臨床整形外科学会の藤野先生の言葉がまさにこの「釈然としない」話の本質をついているということだと思いますが、昨今話題に上るように医療の世界での診療報酬というものはコンマ何パーセント上がっただけで大騒ぎになるくらい切り詰められているというのに、柔整においてはそうではないということも一つの大きな問題であるわけですね。

[藤野圭司・日本臨床整形外科学会理事長]
今日は柔道整復師の方たちのデータは出しませんでしたが、かなり詳しくは出てまして、全体で見ますと、整形外科のリハビリテーション、運動器リハだけでなくて脳血管など全部合わせて大体今(年間)5600億円ぐらいと言われています。それに対して柔道整復師は基本的に打撲、捻挫だけですね。そして応急手当としての骨折や脱臼、それで使われているお金が(年間)3800億円です。これは柔道整復師の方が高すぎるというのか、医師のリハビリテーションが安過ぎるのかどうだろうかと思います。

骨接ぎ医者が常々柔整を悪く言うのは同族嫌悪だろうなんてひどいことを言う人も中にはいますけれども、一般には医療とも深く関連するジャンルとして扱われているにも関わらず、柔整というものは実際には医療とはかなり異なった世界であるということは、そもそも両者のバックボーンの違いを反映しているのかも知れません。
たとえば日本手技療法協会のHPなどを見ていますと経営ノウハウから開業マニュアルから何でも事細かに情報が掲載されていて、一応資格を持った専門家と言う扱いでしょうにまるきり素人相手のようなちょっと独特な雰囲気ですが、本来は文字通り柔道高段者が弟子達の応急処置をするためにという資格だったものが、昨今ではお手軽に開業出来る医療関連職的な扱いを受けているということなのですね。
中でも不正請求の実態の記事一覧なんてコーナーは、見ていますとある意味もの凄く実践的な記事が集められているように思いますけれども、近年ではテレビなどでもこのあたりの手口はしばしば取り上げられているところで、何やらこうして見ると試験対策本のようなノリすら感じられますし、実際にそうした「あんちょこ」的な目的で掲載されているだろうことが想像に難くありません。

こうしたことになっている背景には、20世紀末以来柔整の養成数が激増しているという事実があるわけですが、例えば1998年にはわずか14校だった養成施設が2008年にはなんと97校になっている、その結果柔道整復師の数自体が2000年以降に4倍にも激増していて、平成20年「柔道整復の施術所」は34,839か所で平成18年に比べても何と4,052か所(13.2%)!も増加していると言う現実があります。
柔整と言えば元々は儲かるとも言われていたものですが、これだけ競争が激化すれば当然経営的にも厳しいところが多数出てきて背に腹は替えられないという話になる、そして絶対数としての不正請求が増えるほど監査も厳しくなっていく道理ですから、近年(数々の政治的圧力にも関わらず?)ようやくにこの問題に対策がなされ始めたのも当然と言えば当然の流れですよね。
今後ますます監査が厳しくなってくるとグレーゾーンの保険請求分は次第に廃れて自由診療の方にシフトしてくると予想されますが、いきなり単価が跳ね上がった場合に顧客がどれだけついてくるかは未知数ですから当然経営的にさらに厳しくなってくる、そうなるとこれだけ増えた柔整の施術所もあっという間に淘汰されることになるかも知れません。

そう考えると歯科のワープア化などと同様で、何やら国の施策に踊らされた柔整が哀れにも思えてくるような話ですけれども、根本的に何故柔整に保険適応があるのかといった話も含めて、この領域に対する理解と議論を深めるには良い機会になるのではないかとも思いますね。

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