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2010年10月 1日 (金)

決して人ごとではない他業界の現状 司法修習生の場合

昨日は医師数増加の未来像について少しばかり書きましたけれども、すでに夜逃げする者も出始めているという崩壊先行例の歯科医業界などでも、歯科医の数としての増加はせいぜい3割増であるということですから、有資格専門職の地位崩壊などずいぶんと簡単に起こるものだなと思いますね。
もちろん開業志向の強い歯科医と違って、勤務医の多い医者では話が違うだろうという意見もあるでしょうが、日本以上に医師数が少ないと言われていたお隣韓国などでも近年大幅に医師数を増やしましたけれども、未だOECD平均よりずっと少ない医師数にも関わらずすでに都市部は医師過剰で食っていけない、中小病院は患者が来ず倒産相次ぐといった状況ですから、何も医者だけが例外であると考える理由はどこにもないということですよね。
いずれにしても数が限定されてきた専門職である程度以上の数が増えてくれば、早晩一人あたりの実入りは減ってくるのは当然であり、また近年歯科医のみならず公認会計士やら薬剤師やらと、ひとたび国が数を増やしはじめたら必ず地位崩壊に至るまで増やし続けているという事実があるわけですから、今からそうした将来像を想定しておくに超したことはないという話でしょう。

さて、この方面で昨今世間でも話題になり始めているのが弁護士過剰の問題ですが、こちらも当初言われていた目標数にはまだまだ遠いという状況にも関わらずすでにワープア化が進行していて、厚労相調査における平均収入で見てもわずか3年で六割減という驚異的下落率を示しているというのですから、これはただ事ではありません。
もちろん利用者の側とすれば選択肢も増え、競争原理で安くて良いサービスを提供されることが期待出来るなら資本主義万歳じゃないかという考え方もあるでしょうが、その気になれば誰でも始められる商売と違って、資格専門職においてひとたびこうした状況になると自ずから別な問題も発生するということなんですね。

裕福でないと弁護士になれない時代に?(2010年9月6日読売新聞)

 司法修習生に国が給与を払う「給費制」が、今秋から生活資金などを貸し付ける「貸与制」に変わる。

 大学・法科大学院で学ぶために、すでに奨学金など多額の債務がある修習生は〈二重ローン〉を抱えることになる。日本弁護士連合会(日弁連)は「裕福でないと法曹が目指せなくなる」貸与制に反対、大阪弁護士会などは、給費制維持を求める約3万人の署名を集めた。9日には新司法試験の合格発表があり、〈貸与修習生〉が誕生する。

 給費制は1947年に始まり、月約20万円の給与などが出ている。しかし、司法制度改革で司法試験合格者は増え、2007年は00年の2倍超の2000人を突破。これに伴って国の負担が増えることから、貸与制導入が決まった

 貸与の基本額は月23万円で、修習期間(1年)の総額は約276万円。無利子で、修習終了後6年目から10年以内に返済させる。

 日弁連が昨年、修習生約1500人に行ったアンケートでは、約53%が大学・法科大学院在学中に奨学金や教育ローンを利用したと回答。借入額平均は約320万円、最高は約1200万円だった。修習生は公務員に準じた立場でアルバイトは禁止。最高裁は貸与希望者が多いとみて、昨年度合格者数(2135人)より多い2700人分の原資を今年度予算で確保した。

 9日の合格発表を待つ弁護士志望の女性(25)は、神戸大法科大学院に通った2年間、月13万円の奨学金を受けた。合格すれば修習生として貸与を受ける予定で、「修習を終えたら、借金総額は約600万円です」とため息をつく。

 難関資格とはいえ、司法試験合格者の増加に伴って、弁護士の就職も昨今厳しくなっている。日弁連が7月に行った調査では、今年末に修習を終える修習生の約4割の就職先がまだ決まっていなかった。この女性は「すぐに弁護士として働けるかどうかもわからない。借金を返せるのか」と不安そうだった。

 法務省は「国の財政には限りがある。粛々と施行する」としているが、大阪弁護士会の金子武嗣会長は「お金がなく苦労した人こそ人の痛みがわかる法曹になれるはず。多様な人材を確保する意味でも貸与制は間違っている」と話す。

今日から数を増やします、増やしたのでお金が足りなくなりました、明日から給料は出しませんって、考えようによってはずいぶんとひどい話だと思いますけれども、国は「粛々と施行する」んだそうです(苦笑)。
そうでなくとも近頃では高い金を取ったロースクールで一人も司法試験に合格しない、これは学費詐欺じゃないかと問題になっていますけれども、法科大学院などは当然本来なら社会人として稼いでいる年代の人たちが通うところですから、余計な学費はかかった上に卒業しても弁護士過剰で食っていく道もないとなれば、人生をかけて一念奮起するにしても非常にリスキーな話になっているわけですよね。
それに加えて給費制もやめて更なる借金漬けにしようと言うのであればこれはずいぶんと哀しい話ですが、考えて見ると医療業界においては古くは自治医大のような年季奉公システムから、近年の奨学金という名目の人買い行為まで人生を縛るシステムだけは充実していて、しかも看護師のお礼奉公は社会的にあれだけバッシングを受けたのに医者にはむしろますます推奨されているというのですから、全く人ごとではない話です。

民主党政権としてもこの件は放置できないと考えたのは当然で、つい先日は結局貸与制導入は取りやめて給与を継続しましょうという話になったところですが、見ていて面白いなと思うのはこの件に関してずいぶんと反対意見も根強い気配があるようなんですね。

司法修習生:給費制維持巡り、最高裁と日弁連応酬(2010年9月27日毎日新聞)

◇「理解得られているのか」「過酷な経済負担生じる」

 「金持ちしか法律家になれなくなる」として、日本弁護士連合会が司法修習生に給与を支給する制度(給費制)の維持を求めていることに対し、貸与制導入に向けて準備を進める最高裁が「国民の理解は得られているのか」と異例の物言いをつけている。制度維持の根拠を質問された日弁連は、逆に「最高裁が調査すべきだ」と反発、議員立法による制度維持を目指して各政党への働きかけを続ける方針だ。【伊藤一郎】

 司法修習生は現在、国費から月約20万円を支給されているが、11月からは月18万~28万円の貸し付けを受けられる貸与制に移行することが決まっている。司法制度改革で司法試験合格者の増加が打ち出されたことに伴い、04年に裁判所法が改正されたためだ。

 最高裁は既に、11月から修習を受ける司法試験合格者に対し、貸与を受ける意思を尋ねる通知を出した。修習終了後、5年間の返済猶予があり、6年目から10年間かけて返済することになる。1カ月当たりの返済額は2万5000円程度の計算だという。

 09年の弁護士白書によると、5年目以降の弁護士のうち64%は所得が1000万円以上で、最高裁事務総局の幹部は「月2万~3万円の返済が過酷と言えるのか」と指摘。今月10日と15日の2回にわたり、日弁連に質問書を送付し「給費制廃止で修習生に過酷な経済的負担が生じる」との主張の具体的な根拠を尋ねた

 これに対し、日弁連は「司法試験合格前に借りた大学や法科大学院の奨学金を返済する人の場合、毎月の返済額が6万円以上になるケースもある」などとするデータを示し、「本来は最高裁が自ら調査、分析すべきだ」と主張。「合格者増による就職難もあり、弁護士の経済状況は法改正時に想定できなかったほど極めて厳しくなっている」と反論する。

 応酬が続く中、民主党は日弁連の主張を支持して13日の法務部門会議で給費制を維持する方針を確認。11月の制度移行目前になって議員立法化に向けた動きが進み始めた。

 最高裁側には「司法は立法と距離を保つべきだ」との声もあるが、日弁連側は「法改正を求めているのに政府が動いてくれる気配がないのだから、議員に陳情するしかない」と譲らず、今後も各政党に理解を求めていくという。

司法修習生優遇に異論多く… 『給費制』存続険し(2010年9月30日東京新聞)

 司法試験に合格後、法廷実務を学ぶ司法修習生に国が給与を払う「給費制」が、十一月から「貸与制」に切り替わる。「金持ちしか法律家になれなくなる」と反対する日本弁護士連合会(日弁連)は、給与存続のための立法措置を求め、国会議員に猛攻勢。施行まで一カ月に迫る中、二十九日には議員会館で今月二度目の院内集会を開いた。弁護士や裁判官、検察官の卵の“特別扱い”復活には異論も多く、最高裁は「修習生の金銭負担はそんなに過酷なのか」と日弁連の動きをけん制している。 (小嶋麻友美)

 給費制は修習生を技能習得に専念させ、質の高い法律家を育てることを目的とし、仕事をせずに給与がもらえる特殊な制度。今年の新修習生約二千人に給費を続けるには、年間九十億円余り必要になる。

 司法制度改革の一環で、司法試験合格者を年間三千人規模に増やすのに合わせ、財務当局から給費制の見直しを迫られた。二年間の議論を経て、二〇〇四年に法改正。しかし今年四月、「貸与制阻止」を掲げた宇都宮健児氏が日弁連会長に当選し、消費者団体や労働組合を巻き込んだ全国運動が始まった。

 日弁連のアンケートでは、法科大学院で奨学金や教育ローンを利用した人は五割以上で、借入額は平均三百十八万円。修習を終えて二カ月後に就職が確認できない人は、〇八年が二十七人(1・2%)、昨年が六十人(2・6%)で、就職難も拡大傾向だ。こうした事情から「経済的不安を抱く人が法曹を断念し、質が低下する」と主張する。

 しかし、法曹界の足並みはそろわない。修習を担う最高裁は、二度にわたる日弁連への質問状で「奨学金などの返済負担は修習生全体に給与を支給しなければ解決しないほど苛烈(かれつ)なのか」「四分の三の弁護士は初任給で五百万円を超えている」などとただした。

 最高裁の担当者は「返済が始まる六年後までに、個別に免除する制度づくりもできるはずだ」と話す。法務省も「六年前に決まった話を今さら蒸し返すのか」(幹部)と再改正には反対の立場。だが両者とも「立法府が決めれば従うだけ」と口をそろえる。

 国会の行方は-。二十九日の院内集会で、弁護士でもある辻恵・民主党法務部門会議座長は「給費制でしっかり法曹を養成しなければ。全力で議員立法に取り組む」と力を込めた。同党は給費制存続の方針を決め、審議時間が短い委員長提案でのスピード法改正を目指す。

 だが、それには与野党全会派の事前合意が必要だ。最大野党でカギを握る自民党は態度を決めておらず、三十日の法務部会で最高裁と法務省の意見を聴く予定。平沢勝栄部会長は「年間九十億円は『大した額』だし、十分返済できる弁護士がいるのも事実。法曹界だけの特別扱いを、国民が理解するだろうか」と疑問を挟む。

 修習生を指導している司法研修所のある教官は、貸与制について「大手事務所で千五百万円の年収が約束されている上位層はいいが下位の弁護士に対しては貸し倒れになるだろう」とみる。一方で給費制維持の前提として、「修習生のレベル低下は著しく法曹人口も減らすべきだ」と話している。

【社説】司法修習生給与 混乱を招く民主党の横やり(2010年9月21日読売新聞)

 司法修習生に支払われている給与を打ち切ることに、民主党の法務部門会議が、突如として「待った」をかけた。

 修習生や、給与の存続を訴えていた日本弁護士連合会にとっては朗報だろう。

 だが、一度は打ち切りに賛成した民主党の場当たり的な方針転換には疑問符が付く

 司法試験に合格し、法律家になるために研修を積んでいる司法修習生には、国庫から毎月約20万円の給与が支払われてきた。

 修習生は公益性が高い法曹になることから、国が生活資金を含めて丸ごと支援し、養成するという理念の下、戦後一貫して続いてきた「給費制」という制度だ。

 だが、法曹人口の大幅増を掲げた司法制度改革の中で、2004年、これに代わって「貸与制」の導入が決まった。法曹の増加に伴い、過度の財政負担が避けられないとの理由からで、当時、野党だった民主党も賛成した

 1年間の修習期間中に月18万~28万円を無利子で貸し、修習生は10年間で分割返済する。修習終了後、5年間は返済を猶予する。貸与とはいえ、かなり有利な内容の制度だ。

 その移行が11月に迫ったところで、突然、議員立法で阻止しようというのである。

 日弁連は、「修習生の半数が奨学金などの借金を抱えており、貸与制になれば、さらに借金が増える」「富裕層しか法曹になれない状況を招き、志望者が減る」と、給費制の維持を求めてきた。民主党がそれに応じた形だ。

 だが、根本的な議論抜きの強引な「存続」に、国費の負担者であり、かつ法的サービスの受益者である国民は納得するだろうか。

 裁判官、検察官はともかく、民間人である弁護士になる修習生にも国が一律に給与を支払う必要があるのか、という疑問の声が以前からあったのも事実だ。

 今の司法修習制度のあり方を含め、法曹養成全体の大局的見地に立った根本議論なしに、ただ給費制か、貸与制かという二者択一の議論に固執していては、混乱の真の解決には至らない。

過疎地で業務に励んだ弁護士には、貸与金の返済を免除するといった折衷案も考えられよう。

 新司法試験の合格率は低迷し、法曹人口は計画通りに増えていない。財政事情は極めて厳しい。

 こうした様々な要因を踏まえつつ、良質な法曹養成と法的サービスの向上につなげる視線から議論を尽くすことが肝要だ。

しかし仕事をせずに給料がもらえると言えば聞こえは良いですが、義務として勤める期間中は仕事をしてはいけないという決まりになっているのですから農家への減反強制と同じことで、あちらに比べてずいぶんとマスコミの言うことも違うものだなと思いますね。
要するにマスコミなどの論調とすれば、高給取りの弁護士などは社会的弱者とは到底呼べず、巨額の公費を投じての保護する対象になど当たらないという考え方なのでしょうが、医師強制配置論を持論とする読売などはここでも弁護士など借金漬けにして田舎に送り込めばいいんだなんてことを主張していて、彼らの平素のスタンスと併せて見ると非常に面白いなとは思いますよね。
ただそれ以上に注目していただきたいのが、司法試験合格者にとってはいわば同業の大先輩にもあたる最高裁の方から「お前ら世間に甘えすぎ」なんてクレームがついているということなんですが、このあたりも医師の労働環境改善を阻害してきた最大要因が大学医局制度であったり日医の存在であったりするのと同様の構図にも見えて、これまた何とも興味深い話だなと思います。

この問題、医療業界としても近い将来起こるだろう現象のモデルケースとして注目していくべきなんじゃないかと思うのですが、こと権利を守るということは専門家と言っていい弁護士が、この問題にどう対処していくのかということにも興味があるところで、プロの手になる権利獲得・擁護の交渉術という観点からも非常に参考になるんじゃないかという気がしますね。

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コメント

特に弁護士になっても就職先もなく、なんて話は結局のところ、日本においては需要が少ない、という事実に過ぎないんでしょうね。そのあたりが実際には医師不足と根本的に違うのかもしれません。もちろん、需要が掘り起こされていないだけかもしれませんが。
最近は過払い請求が特需になって、と言われていますが、それにしてもかかる労働力がそう多いものではないですから、必要な弁護士労働量が増えていないんですよ。

その点、法曹人口としてはだいぶ多いアメリカなんか、もう、積極的営業、何かトラブルのにおいがあったらすぐに弁護士が近寄ってくる、とネタにされるくらいワープア弁護士が大量にいるわけで(その反対に成功した弁護士もいますが)。
そうなってもいい(そうしたい)、ということなのか、そこまで考えたことがないだけなのか。

日本の現状をみるに、どう考えても後者でしょう。

投稿: | 2010年10月 8日 (金) 15時47分

おっしゃるとおり需要が少ないというのもあると思いますが、田舎などでは行政書士など他の資格職で代用されているような需要も結構あるんじゃないかと言う気もします。
仮にそうだとすると弁護士が過剰に増えると弁護士だけがワープア化して終わるのみならず、関連諸産業にも大きな影響が出そうな気がするのですが、そちらの方面の方々はこういう状況の推移をどう考えていらっしゃるものなのか?
医者の場合は医療研究職だの健診、保健衛生方面だの案外潰しが効く余地があるものだなと最近実感している関係者も多いのですが、弁護士業界の場合はどれくらい過剰人員を受け入れる余地があるものなんですかね…

投稿: 管理人nobu | 2010年10月 8日 (金) 18時58分

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