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2010年10月 6日 (水)

いつか必ず起こる事故ならば、起こった後の備えが大切ですが

本題に入る前に余談ですけれども、ちょうど先日こういう記事が出ていまして、この方面の進歩に注目してきた人間にはいささか残念な結果になったのではないでしょうか。

ロボット支援手術で死亡 名古屋大病院、胃がん切除患者(2010年9月22日中日新聞)

 名古屋大病院(名古屋市昭和区)で9月上旬、内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」による胃がんの手術を受けた70代の男性患者が、5日後に死亡していたことが分かった。松尾清一病院長らが22日に会見し「ご遺族に耐え難い結果に終わってしまった。心より哀悼の意とおわびを申し上げたい」と謝罪した。

 名大病院でのダ・ヴィンチによるこれまで14例の手術で、患者が死亡したのは初めて。病院は、早急に外部事故調査委員会を設け、死因と手術の関連を調べる。日本医療安全調査機構の死因調査モデル事業にも調査を申請した。

 男性は早期の胃がんで、一部を切除する手術を受けた。手術中に膵臓(すいぞう)に亀裂を発見。何らかの原因で損傷が起きたとみられ、縫合して修復した。手術後、動脈血流の障害による腸管壊死(えし)が起き、翌日に腸管を切除する手術を受けた。その後、壊死性筋膜炎も併発し、4日後に多臓器不全で死亡した。手術中にロボットの不具合はなかったという。

 病院側は「膵臓の損傷が手術中に起きたのは、間違いない。ミスなのか、通常の合併症の範囲なのかは分からない」と説明した。

 病院によると、執刀医は腹腔(ふくくう)鏡手術の十分な経験があり、ダ・ヴィンチを扱うトレーニングも受けていた。病院は今年3月にダ・ヴィンチを導入。このロボットを使った胃がん手術は4例目で、すべてこの医師が行っていた。

 ダ・ヴィンチは米国の医療機器会社インテューティブ・サージカル社が開発。執刀医は、数メートル離れた場所にある「コンソール」と呼ぶ装置を操作し、患者の体内に挿入した小型カメラから送られる立体映像を見ながら、カメラ用を含む4本のロボットアームを操作し、先端のメスや鉗子(かんし)を動かして手術する。

 人間の関節では不可能な動きもでき、手ぶれも補正。手術の精度アップにつながり、国内では今年3月までに大学病院などで13台を導入している。1台約3億円。手術は保険適用外で、通常は自費で200万円ほどかかる

 名大病院は今後、胃がんの手術についてはダ・ヴィンチの使用を停止するが、前立腺がんについては過去10例で問題なかったため、他大学の経験ある医師が立ち会うなどして手術を続ける方針。

このダ・ヴィンチという装置、込み入った場所でも視野が広く取れ操作性に優れるということで、記事にもあるように前立腺癌などでは良い適応とされていますし、消化器領域においても今後肝胆領域などに応用が期待出来そうな道具なんですが、本体3億、消耗品だけで一回40万以上という高コストもさることながら、やはり現状では触覚などフィードバック系の方に問題がありそうですよね。
外科医の手先は並みのそれとは違うんだ!なんてことを、古い先生ほど熱心に主張されますけれども、通常であればまず命に関わることはないだろうと思われる早期胃がんでこうした重大合併症が発生したということは、「なんだ馬鹿馬鹿しい、進んで余計なリスクを背負い込みやがって」と考える人間も多いでしょう。
ロボット手術というものは将来的には遠隔医療に結びつく技術で、日本全国僻地にある医療機関でロボットだけ運び込んで国手の手術が受けられるようになればこれは大変な医療の革新にもなるのでしょうが、まだまだそうした時代は遠そうだということで、お亡くなりになった患者さんは元より医療の将来にとっても少しばかり残念なことになってしまったと言わざるを得ません。

そうした将来の課題はともかくとして、今回の件においても病院側の言う「ミスなのか、通常の合併症の範囲なのかは分からない」という通りで、素人目には「人が死んでんねんで!ミスに決まってるやろが!」と言われそうな話においても、どこまでが医療過誤でありどこからがそうではないのかというのは区分し難いものです。
早い話が平均台の上を歩くなんてことは普通の人間であればそう難しいことではありませんが、これが吹きっさらしの谷に掛け渡された平均台の上を延々歩いて渡るとなれば、それは大多数の人間が途中で足がすくんだり落ちてしまったりするだろうなと想像できますよね。
医療の世界も同じことで、単純に開腹手術をしていれば間違いなく助かった症例じゃないかと言うだけではダメで、こうした装置を用いて普通の医者が行った場合の期待値はどのくらいか、仮に何かしらのトラブルが発生する確率が高いというのであればその方法論を選択したことが妥当なのかと言ったあたりが、仮に裁判にでもなれば問われることになるのでしょうね。

ただ患者の側からすれば例え一万人に一人の稀な合併症でも自分にとっては100%じゃないかと言うことになりますから、とりわけこうした先端的医療の分野では責任論とはまた別な次元で救済措置というものは考慮していかなければならないし、その部分で変に患者と対立の構図に持ち込んでしまっては医療の側にとってもデメリットが大きいだろうとは予想できるところです。
不要かつ不毛の対立を回避する手段として以前から無過失補償制度というものに注目している人も少なからずだと思いますが、ちょうどそのテストケースとも言うべき産科無過失補償に関して最近相次いで途中経過が出てきていますので紹介しておきましょう。

お産事故補償周知が課題 申請年800件想定…導入1年余67件(2010年10月4日西日本新聞)

 出産事故で赤ちゃんが重度の脳性まひになった場合、医療者の過失の有無にかかわらず3千万円の補償金を支給する産科医療補償(無過失補償)制度の申請件数が、開始後1年8カ月で全国67件だったことが分かった。制度が保険料(1分娩(ぶんべん)3万円)の算定根拠とした推定対象件数(5年目以降)は年800件で、ペースはこれを大きく下回る。脳性まひの診断は幼児になってできる場合もあり、制度活用のため「小児科医や保健師にも周知を図ってほしい」と求める声が出ている。

 制度は、患者と家族の救済や再発防止に向けた発症原因分析、産科医不足の一因とされる医療紛争の軽減を目的に2009年に創設された。産科医院や助産院が財団法人日本医療機能評価機構を通じて保険会社と契約し、脳性まひの診断が可能になる生後6カ月から満5歳になるまでの間、補償金を申請できる。

 機構によると、09年1月生まれの子が生後6カ月を迎えた昨年7月から、診断書作成など2カ月の準備期間を含めた今年8月末までの1年余りの申請件数は67件。うち64件に支給が決まった。

 制度の創設時、機構は補償対象となる重度脳性まひ患児が1年間に800―500人発生するとサンプル調査などを通して予測した。申請件数がまだ少ない理由を(1)成長に伴って症状が変化することもあり、医療者が診断や申請に慎重になっている(2)制度について産科医以外の認知度が十分でない可能性がある-などと分析。「3歳前後になって診断が可能になる事例もあり、今後は申請が増えると見込んでいる。当初の予測より極端に少ないという認識は持っていない」(機構の同制度運営部)

 国内の出産は毎年約100万件で、1年間に集まる保険料は約300億円。09年生まれの対象児が満5歳になるまでに支給の申請・認定件数が500件に達した場合でも、約90億円の剰余金が出る計算になる。

 機構は「制度のPRを強化したい。もし剰余金が出た場合の使い道は未定で、支給要件や補償額の見直しを含め、今後検討する」と話している。

 ●患児の家族が 分からぬ例も

  ▼高橋保彦・九州厚生年金病院小児科部長(小児神経)の話 分娩(ぶんべん)に携わる産科医や新生児科医、一部の小児科医を除くと、補償制度は医療者にもまだ十分認知されていない。患児の家族も、わが子が補償対象なのかどうか分からないままでいる事例が多いのではないか。制度を社会に根付かせるためにも、乳幼児健診を受け持つ小児科医や保健師などにもっと広報するべきだ。

    ×      ×

 ●ワードBOX=無過失補償制度

 通常の妊娠・出産で分娩(ぶんべん)時の事故によって赤ちゃんが重い脳性まひになった場合、医師や助産師らに過失がなくても、患者側が金銭的補償を受けられる。(1)身体障害1―2級相当の脳性まひ(2)出生体重2千グラム以上(3)妊娠33週以上の出産-などの条件を満たせば、一時金600万円と毎年120万円の補償分割金を20年間支給する。妊娠28―32週でも補償対象になることもある。先天性の障害などは対象外。

 制度には、9月21日現在で全国の分娩を取り扱う産科医療機関の99・5%が加入。1分娩当たり3万円の保険料は妊婦に請求されるため、公的医療保険からの出産育児一時金が2009年から3万円増額された。

ま、現段階では当初の予想(あるいは予定?)通り保険会社にたっぷりの儲けを提供して終わっているという状況ですが、何しろ制度を運営するのが厚労省の天下り団体として悪名高い日本医療機能評価機構ですから、この程度のことは想定の範囲内と考えておかなければならないでしょう。
ただこの制度の一つの目的として、個々の医療行為の結果責任を問う不毛さを回避し事故被害者救済と再発防止を目指していくということがあるわけですが、当然ながら再発防止策が不明確であれば「やはり何か隠しているんじゃないか」と言われかねないですから、その部分に関してオープンな議論を行っていくことこそ制度定着に向けて最も重要な部分であるはずです。
ところが肝心のこの部分がどうもまだうまく回っていないらしいということが、先頃開かれた同制度の再発防止委員会で明らかになってしまったようですから、これは天下り団体の不当搾取なんて話以上に困った問題となりかねないですよね。

産科医補償 対象に逸脱診療も(2010年9月28日NHK)

出産に伴って赤ちゃんが脳性まひになった際に補償金を支払う「産科医療補償制度」で、これまで認定された申請に学会のガイドラインを逸脱した診療行為が含まれていることがわかりました。

これは27日に開かれた産科医療補償制度の再発防止委員会で明らかになったものです。この制度は出産に伴って赤ちゃんが脳性まひになった際に医療機関に過失があるかどうかにかかわらず、補償金が支払われるもので、日本医療機能評価機構が運営しています。会合では、去年1月の制度発足から先月末までに64件の申請が認定され、このうち11件の原因分析が終わったことが報告されました。
これについて委員の1人は「赤ちゃんを引き出す『吸引分べん』を23回も繰り返し行う日本産科婦人科学会のガイドラインを逸脱した診療行為があった」として「再発を防ぐため速やかに注意喚起すべきだ」と指摘しました。また仮死状態で生まれた赤ちゃんへの対応が不十分だったケースが複数あるという指摘も相次ぎ、今後、出産を扱う医師向けに改善策を提案できないか、検討していくことになりました。再発防止委員会の委員長を務める宮崎大学の池ノ上克教授は「全国規模で今回のようなデータが集まるのは初めてで、産科医療の向上につながるよう作業を進めたい」と話しました。

中・長期的分析と並行し、早期の事例報告を―産科補償制度再発防止委(2010年9月27日CBニュース)

 日本医療機能評価機構の「産科医療補償制度再発防止委員会」(委員長=池ノ上克・宮崎大医学部附属病院院長)は9月27日、2回目の会合を開いた。会合では、産科医療補償制度に基づき、分娩に関連した脳性まひ発症事例の原因分析と医療機関などへの情報のフィードバックをどのようにすべきかを議論。情報のフィードバックについては、相当数の事例を収集した上で慎重に分析すべきという意見と、再発防止の観点から、少ない事例であっても早めに現場に報告すべきとする意見が委員の間で分かれた

 初めに、脳性まひを発症した原因を「数量的・疫学的」観点から分析する方法について、同機構の事務局が素案を示した。それによると、▽分娩時間や曜日▽年齢区分や合併症の有無▽健診の受診回数や臍帯の状況▽分娩進行中の異常や娩出方法▽院内助産所の有無―などの項目について集計・分析する。
 これに対して委員からは、「複数の項目を組み合わせたクロス集計の結果によって分析が深まるような工夫を」「産科と他の診療科の混合病棟も増えており、現場の実情を反映するような項目を設定すべき」などの意見が出され、事務局が次回会合までに必要な修正を加えることになった。

 また収集した事例の扱いについて、勝村久司委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)が「事例の蓄積を待たなくても議論をスタートさせることはできる」と口火を切ったが、石渡勇委員(石渡産婦人科病院院長)が「報告で、かえって現場が萎縮しないよう、慎重な運用が必要」と指摘。さらに事務局が「ある程度の事例を収集し、原因を調査した上で、テーマを決めた分析をする方針」などと説明した。これに対して委員からは、「たとえ1例でも重要なものは重要。現場に早く知らせるべき」「(事例発生の)確率が2分の1でも、100分の1でも、解釈をきちんと加えれば問題ない」などの反論が出された。 委員の間で意見が大きく分かれたが、池ノ上委員長が「事例数に裏付けられた中・長期的な分析と並行して、短期間のフィードバックを随時行ってみては」と提案して議論をまとめ、次回以降、具体的に情報のフィードバックの在り方について検討することになった。

こういうところに出てくる専門医の人たちにしても、それぞれの立場からまた違った意見というものはあるのでしょうが、取りあえず現場にしても「こういう症例がありました」と注意喚起の情報を流してくれることについては単純にウェルカムであるはずですし、解析や解釈については後日詳細に報告していただくでも構わないのではないかと言う気がします。
恐らく一部委員が危惧しているのは「委員会はこう言っている。だから現場も○○すべきであった」式の結論に結びつく話なのでしょうが、どうせエヴィデンスレベルの低い一例報告的内容であるなら余計な考察などせずに生情報だけ流しとけやという話で、別に勝村氏の肩を持つつもりもありませんけれども(苦笑)、中途半端に解釈を試みたところで何やらよく判らない結論しか出せなかったとなるのがオチかなとも思うのですけれどもね。
むしろこういう場所で出された分析結果は、ガイドラインなりに可及的速やかにフィードバックしていくというルールでも早急に作っておかないことには、ガイドラインではこうなっているけれども委員会からはこんなお達しが来ているし、現場は一体どっちに従ったらいいの?と混乱を招くことにもなりかねませんから、生情報を出すこととその解釈を示すこととは厳密に区別してもらわなければ困るのでしょうね。

ちょうど全国産科医に対する先日の産科学会の調査で、2008年の調査開始以降産科現場の現状認識が年々良くなっているなんて結果が出ていましたけれども、産科の現場を助けるために出来た制度が逆に現場を混乱に追い込むなんてことのないよう、慎重かつ適切な運用を心がけていただくのは当然ですが、同時に制度自体の持つ世間へのメッセージ性をどう考えるかということもありますよね。
「なんだ、結局はリピーター医者を守るだけの制度じゃないか」なんて妙な誤解が世に広まることになっても目も当てられませんから、国民にとっても有益な制度であるということを目に見える形で示していくこともまた、結局は現場産科医にとってのサポートになるんじゃないかという気がします。

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