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2010年10月 4日 (月)

動き始めた高齢者医療制度改革 その目指すべきところは

本日まずは久しく議論が続いている後期高齢者医療制度に代わる新制度について、おおむね話がまとまったという最近のニュースから紹介してみましょう。

後期高齢者医療制度見直し 対象「65歳以上」を断念(2010年9月27日産経新聞)

 厚生労働省は27日、75歳以上が対象の「後期高齢者医療制度」を廃止した後、平成25年4月からの導入を目指す新制度について、対象を65歳以上に広げる案を断念し、75歳以上とする方針を細川律夫厚生労働相の諮問機関「高齢者医療制度改革会議」に提示した。また、市町村が運営する国民健康保険(国保)に関し、25年度以降、全年齢を対象として全国一斉に運営主体を都道府県単位に移行する案も示した。

 改革会議が8月にまとめた新制度の中間報告では、対象年齢について「65歳以上」と「75歳以上」の両論を併記していた。しかし、65歳以上に広げれば保険料収入が1千億~2千億円減少することなどから、現行制度と同様に対象年齢を75歳以上とした。

 また、中間報告では国保を都道府県単位に広域化するものの、「全国一律」か「合意した都道府県から順次」のいずれかとしていた。厚労省は27日の改革会議で、合意した都道府県から順次進めるとすれば国民にわかりにくいことに加え、一部の都道府県では運営主体が市町村のままとなりかねないとの懸念を指摘。全都道府県が同時に移行することを目指す方針を示した。

 移行期限は23年の通常国会に提出する関連法案に明示する方針だ。この日の会議では新制度移行後2年から4年後が望ましいとの意見が相次いだ。

 ただ、国保の運営主体をめぐっては、全国知事会が都道府県による運営に反対している。このため、中間報告には市町村が構成する広域連合による運営も併記されている。

 中間報告は、25年度から後期高齢者医療制度の加入者のうち8割を国保に移行し、残る2割にあたる会社員とその扶養者を企業の健康保険組合などに加入させることが柱となっている。

新高齢者医療制度:別会計は75歳以上に 国保、全年齢で広域化方針(2010年9月28日毎日新聞)

 厚生労働省は27日、13年度に導入する新高齢者医療制度に関し、市町村の運営する国民健康保険(国保)に加入する高齢者のうち、現行の後期高齢者医療制度と同様に、「75歳以上」を現役世代と別会計として都道府県単位で運営する方針を決めた。将来的には74歳以下も含め国保の運営を都道府県単位に広域化する方針も示した。

 厚労省が同日の「高齢者医療制度改革会議」で提案した。年齢区分について、8月の中間とりまとめでは、現役世代と別に運営する年齢について「75歳以上」と「65歳以上」の両論を併記していた。だが、「65歳以上」では、現役世代の保険料負担が増える可能性があるほか、税による国費負担が膨らむ。

 新制度では、後期高齢者医療制度の加入者約1400万人のうち1200万人が国保に移行し、200万人が被用者保険に移る。

 一方、国保の運営については、中間とりまとめでは、(1)合意のできた都道府県から順次移行する(2)全国一律で移行する--の両案が示されていた。厚労省は「広域化の準備を計画的に進めるには全国一律が適当」と説明した。具体的な移行期日は年末の最終とりまとめに向けて調整する。【山田夢留】

当面は75歳以上に限定と決まったということですが、当初は65歳以上からと両論併記であったことからもわかる通り、単に今回ワンクッション置いたというだけで将来的には全高齢者が新制度に移行していくのは既定の路線であるという話しですよね。
となれば、ますます進む高齢化社会を反映して医療費の中でも大きな領域を占める高齢者医療と言うものについて、今後その依って立つところが各都道府県に大きな負担としてのしかかってくるということは言うまでもありませんが、とりわけ各自治体によって保険料率に非常に大きな格差が存在していたことがポイントではないかと思います。
厚労省としては市町村単位から都道府県単位に広域化することで平均化しましたと主張したいのでしょうが、都道府県の高齢化率は埼玉など首都圏の15%程度から島根や秋田の30%近くまで実に二倍近い開きがある、そして多くの場合高齢化が進んでいる地方ほど目立った産業に乏しく税収も低いという現実があるわけですから、これは大変なことになったと頭を抱えている自治体関係者も多そうですよね。

さて、そうした中で野党時代から民主党が目の敵にしてきた後期高齢者医療制度について、これを簡単に廃止すると大変なことになりそうだと各方面から異論が出ている状況であるというのは過日もお伝えしてきた通りです。
民主党としても政権奪取の金看板の一つであっただけにメンツをかけてもそう簡単には下ろせないのでしょうが、実際問題としてこの高齢者医療の話はこれからの医療の中でも大きな比重を占めていくだけに、消費税率を引き上げるなんて話以上に国民にとって大変な問題であるはずなのに、「年寄りを見捨てるのか!」なんて感情的レベルの反発で終わっている部分が多いのは残念なことだと思いますね。
国としても新制度の落としどころを探っているというのが現状だと思いますが、そんな中で各地で例によって公聴会が開かれているということなんですね。

高齢者医療改革で公聴会(2010年10月3日中国新聞)

 75歳以上が対象の後期高齢者医療制度に代わる新制度の導入を目指す厚生労働省は2日、広島市中区の中国新聞ホールで、国民の意見を聞く公聴会を開いた。中国地方を中心に高齢者や、健康保険の運営業務に携わる職員ら約400人が参加。高齢化に即した財源確保を求める声など、意見や要望が相次いだ

 新制度づくりを検討している高齢者医療制度改革会議座長の岩村正彦・東京大教授が「批判の声や政権交代を踏まえ、年齢で区分しないようにする」と新制度の方向性を解説。市町村の国民健康保険を都道府県単位の運営に切り替える方針などの説明もあった。

 参加者のうち116人が意見を提出し、8人が発言。「高齢者を邪魔者扱いする制度にしないでほしい」「現役世代の負担はすでに限界。消費税の論議を進めるべきだ」などと訴えた。

 公聴会は8月から全国7カ所で実施。意見を踏まえ高齢者医療制度改革会議が年内に最終とりまとめを実施。次期通常国会に法案を提出し、来年春の成立、2013年度からの制度導入を目指す。

ま、例によって厚労相のことですから、ここで何を発言しようが「国民の意見はちゃんと聞きました」と単にアリバイ作りに利用されるだけという懸念が非常に大きいわけですけれども、いずれにしてもここまで話が進んでいるということであれば、過去に報じられた通りの路線で進むということが完全に既定化しているということなのでしょう。
そうなりますと国保の負担増に対して自治体側の不満は一体どうなるのかということなんですが、ここに来て隠し球というのでしょうか、多少なりとも保険者側に配慮したような話が唐突に出てきているというのが興味深いと思いますね。

厚労省:70-74歳の医療費窓口負担を2割に引き上げで検討(2010年10月3日日経新聞)

  厚生労働省が2日、70-74歳が病院の窓口で支払う医療費の負担割合を現行の原則1割から2割に引き上げる方向で検討に入った、と3日付の日本経済新聞朝刊が報道した。2013 年度以降に70歳になる人から順次適用する考えで、13年度時点で71歳以上の人は1割のまま据え置くという。

  同紙によると、法律上は70-74歳の窓口負担は原則2割。しかし、政府は高齢者の反発に配慮して08年度以降は特例措置で1割としていたため、このほど特例の解除を検討する。

70~74歳、窓口負担2割に 新高齢者医療で厚労省方針(2010年10月3日47ニュース)

 厚生労働省は2日、2013年度に導入予定の新たな高齢者医療2341件制度で、医療機関の窓口で支払う患者の自己負担割合について、現在は暫定的に1割となっている70~74歳の負担を見直し、早ければ13年度から段階的に2割負担に引き上げる方針を固めた

 新制度では現役世代の負担増が避けられない見通しで、厚労省は高齢者にも応分の負担を求める考え。高齢者の窓口負担は総額で1700億円増える一方、公費投入は同程度減ると試算している。ただ、負担増には政府、与党内にも慎重な意見があり、調整は難航しそうだ。

 厚労省の方針では、早ければ13年度に70歳を迎えた人(10年度に67歳)から引き上げを開始。5年間かけて年度経過ごとに順次、70歳になる人へ対象を広げ、70~74歳の全体が2割負担となるのは17年度の見通しだ。現在68歳以上の人は1割負担のまま。

 方針通り見直されれば、高齢者2341件の窓口負担は、一般的な所得の人で(1)75歳以上が1割(2)70~74歳が2割(3)69歳以下は3割―と整理される。

この話のポイントは「高齢者の窓口負担は総額で1700億円増える一方、公費投入は同程度減ると試算している」というところですが、当面新制度の対象外である74歳以下の世代に関しても前述の通り将来的に新制度に一元化していくことは既定路線と考えられますし、もちろん元よりこうした高齢世代は国保加入の比率が高い層でもあるわけです。
要するに高齢者の患者負担を増やすことで自治体側の負担は軽くなりますという新制度導入のアメでもあり、ついでに高齢者の受診抑制によって医療費の伸びを抑えることも期待しているということなのでしょうが、ここで考えていただきたいのが医療機関を受診する患者の行動パターンについてです。
高齢者ともなるとほとんどの人が幾つも持病を持ち、定期的に医療機関に受診しているという場合が多いわけですが、一番お金のかかる終末期医療を見据えていく後期高齢者世代は元より、その前段階で医療費負担を少しでも少なくしようというモチベーションを高めていくことがどういう影響を及ぼすのかということですよね。

ちなみに高齢化率と入院患者数が正の相関を示すだろうとは誰しも予想できるところですが、注目すべきは高齢化が進んでいても必ずしも入院患者が多くない自治体もあるということで、国民健康水準に大きな地域差はないのだと仮定すれば、とりわけ医療機関への受診パターンというものが非常に大きなファクターとなり得ることが想像出来ます。
例えば昨今では現役世代に対してメタボ検診だ何だと非常にうるさいことを言うようになりましたが、あれも結局は早めに慢性疾患の対策を行い重大合併症の予防をすることが、トータルでの医療コスト削減につながるという考えに基づいてのことで、生活習慣を改善し健康で長生きすると言うことは裏を返せば医療費をあまり使わないことに直結するということですよね。
今後の高齢者世代と言えばまさに団塊世代が今後その中核をなしてくるわけですが、失礼ながら現役時代にイケイケで過ごしてきたこれらの世代は自己抑制に欠ける部分が多々あるとは指摘されているところで、近頃では「団塊モンスター」なんて言葉もあるくらいなこの世代に対する指導、教育というものは重要であると同時に難しい、ではその手段としてお金という物差しを使うことはそんなに悪いものなのかです。

自己負担を増やすことで受診抑制をと言うとまたぞろ日医(笑)をはじめ各方面から反論数多ということになりそうですが、こういう世代の人たちには細かい理屈がどうとか言うよりもお金がかかるからという話の方がよほど分かりやすいのも事実であって、現実にも一番お金を持っている層なんですから出す分は出していただくことが、必ずしも悪い話なのかです。
ちょうど先日は60代の親世代の7割以上が「自分たちの財産は子どもに残さず、自分自身で使いたい」と考えているという調査結果が出ていて、不況にあえぐ子の世代からは「子や孫の世代に借金先送りして、いい気なもんだな」「年寄りが溜め込んでるからカネ回りが悪いんだ」とさんざんな評判だったようですが、逆にいえば自分たちのために使い切りたいと言っているわけですから、存分に使っていただけばいいとも言えるわけです。
高齢者にとって一番必要性が高い医療の話だけに、何かと言えば「お金がないと医者にもかかれないのか!」なんて厳しい意見が出ますけれども、入院すれば直ちに収入を失ってしまう現役世代とは高齢者は違うわけですから、どうしても困窮している人々にはきちんと救済措置を講じていくということでいいんじゃないかと思いますけれどもね。

お年寄り=弱者だとして過度に遠慮して過保護にしてしまうのも若年者に対する逆差別にもなりかねない話で、昨今とにかく金がないという現役世代がこの高齢者医療制度改革に関してどう考えていくか、それとも増え続ける高齢者が数の論理で押し切るのか、意外に世代間の競合として見ても面白い話だと思いますね。

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