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2010年10月25日 (月)

まずは増やすところから始まっていますが

医師不足だ、いや偏在だという問題は未だに明確な決着がついていない状況で、おそらくどちらの問題もそれなりに存在しているというのは確かである一方、政策的には偏在解消よりも医師不足解消が先行して対策が進められているというのが現在の状況で、偏在解消に至る具体策の困難さを思う時これは現実的な話ではあるかとも思います。
この方法論の一つとして医学部の定員増はどの程度が妥当であるのかは各人各様の考え方があると思いますが、少なくとも国としてはもっともっと増やさなければと考えているらしいということなのか、すでに大幅増を認めた今年度よりも来年度はさらに増やすことになりそうなんで、ここでは旗を振っている主体が誰であるかということにも留意しながら記事を見ていただければと思います。

大学医学部:入学定員、来年度も増加へ…医師不足に対応(2010年10月21日毎日新聞)

文部科学省は21日、11年度の大学医学部の入学定員について、過去最高だった今年度(8846人)よりさらに増員することを認めると発表した。閣議決定された新成長戦略や、厚生労働省の「必要医師数実態調査」で医師不足が指摘されたことなどを受けた対応。事前調査によると、国公私立の27大学から計87人の増員が申請される見通しという。

 文科省は25日までに各大学から増員計画申請の提出を受ける。省内での審査を経た後、12月中に定員増となる具体的な大学とその定員数を決定する。

 定員増は08年度から4年連続で、これまでは168~693人増員した。今回、申請される増員数が減少するとみられる背景には「大学側の設備が限られるなど受け入れ体制の問題と、都道府県が負担する奨学金などの財源不足が考えられる」(文科省医学教育課)という。

 医学部定員は07年度に7625人まで減ったが、09年度にはピークだった81年度の8280人を上回った。【篠原成行】

医学部定員、4年連続で増=27大で87人-文科省(2010年10月21日時事ドットコム)

 文部科学省は21日、2011年度の大学医学部入学定員の増加を認めると発表した。国公私立の27大学から来月、最大で87人分が申請され、総定員は8933人となる見通し。産科などの医師不足を背景に、4年連続の定員増となった。
 これまで年168~693人が増えていたのに比べ、伸び率は鈍化。同省は都道府県ごとに最大10人の増員を認めるなど510人分の枠を設けたが、届かなかった。担当者は「大学側の受け入れ態勢が限られているためではないか」としている。
 国は1982年に医学部定員の削減方針を打ち出し、07年度には7625人まで減らした。翌年度から定員増に切り替え、今年度はピークだった81年度の8280人を上回る8846人となった。

深刻な医師不足解消へ、23年度の医学部定員枠87人増の見通し(2010年10月21日産経新聞)

 文部科学省は21日、平成23年度の大学医学部入学定員を国公私立合わせて87人増員すると発表した。全国各地で深刻化する医師不足を解消するのが目的。増員後の総定員は国公私立79大学で計8933人で、3年連続で過去最多を更新する見通し。

 22年度に引き続き、47都道府県の奨学金を活用した選抜枠▽複数大学と連携して研究医を養成する大学▽歯学部と医学部の両学部を持つ14大学のうち、歯学部の入学定員を削減した大学-の3つの枠組みで、増員を認める。

 国は医療費抑制の観点から医師を養成する医学部の定員も抑制してきたが、医師の都市部への流出や偏在、産科医や小児科医不足の深刻化が指摘されるようになったことから、20年度からは増員方向に転じている。

 今年9月29日に公表された厚生労働省の実態調査結果では、1万8000人の医師不足が指摘されたことから、文科省では23年度も増員を決めた。

先日の厚労省による医師不足調査なども解釈は色々とあるのでしょうが、偏在と言うからには不足する診療科があれば余っている診療科も存在しているはずで、今のところ医者が余って困っているという話も聞かない以上はやはり偏在よりは不足の方がより大きな問題であるという考え方もあるでしょう。
一方で最近は朝日あたりまで偏在解消に強制力を発揮せよなんてことを言い始めているようですが、およそ強制的に医者を僻地や奴隷労働に送り込むとなれば犠牲になるのは何も知らない若い医者、そして送り込むのは自分自身は安全な場所に立っている連中という構図が当然に予想されますから、職業選択の自由などと難しいことを言わずとも何やら釈然としない人間は多いところでしょう。
民主党としても少なくとも野党時代には強権的な偏在解消は現場の反発を招く以上、当面は不足の解消に努めますというスタンスであったわけですが、偏在を抱えたままでも過剰になるほど不足が十分に解消されれば相対的に人手不足の領域にも手が回るようになるのは道理である一方、社会的に見れば無駄なコストが必要となる上に今度は過剰による問題が出てくる可能性もありますよね。

このあたりは先行する法科大学院の崩壊例などを見ても判る通りで、後々「学費詐欺だ!」なんてことを言われないためにはある程度医者を養成する側にも自主規制が必要であるだろうし、入試偏差値(=大学の人気)の下落などという単純な物差しで考えて見ても、結局後で一番割を食うのは簡単に定員を増やして自分達の権威を安売りをしてしまった大学ということになりそうです。
となると、いずれ再び緊縮路線になってくるだろう中で医学部定員増という現在のブームはなるべくコストをかけずに切り抜けておいた方が賢い、一時の流行を追って巨額の経費を投じたところで恐らく元は取れないだろうという予想が成り立つわけですが、元々人口比で医学部定員が不足気味な地域においては格差是正の絶好のチャンスと張り切るのも仕方がないところかも知れません。
北海道などは人口あたり医師数ではほぼ平均並みというところで、もともと西高東低と言われる医師分布の中では総数で見ると必ずしも不足というほどではありませんけれども、何しろ地理的に広大であるだけに僻地医療問題はかなり深刻なようで、他府県の新設医学部が私立主導で話が進む中で珍しく公立医学部を計画していることで知られています。

医学部設置に77億円の試算 函館(2010年10月23日朝日新聞)

■公立はこだて未来大

 医学部設置には施設の整備費だけで約77億円が必要――。函館市は22日、公立はこだて未来大に医学部を設置した場合の試算を明らかにした。有識者が設置の可能性を話し合う「医学部設置検討懇話会」(会長=今井浩三・東大医科学研究所附属病院長)に示された。

 試算は、教養教育を未来大のキャンパスで行い、市立病院を大学付属病院に移行することが前提。定員は60人と80人の場合で計算した。

 その結果、付属病院に隣接した講義室や実習室、教員研究室整備などに約57億円、学生実習用の機器や研究用設備などに17億円、図書整備に3億円が必要とされた。

 運営費も含めると、開設前年度に21億5千万円、1年目に6億6千万~7億7千万円、2年目以降は13億~22億8千万円かかる計算になるという。

 国は医学部の新設を抑制してきたが、全国的な医師不足を受け、新設検討に動き出した。この流れの中、函館市は今夏、同懇話会を設置。設置の課題や持つべき特色などを話し合ってきた。同懇話会の議論は今回で終了。後日、西尾正範市長に報告書が提出され、設置検討の材料となる。

まあ逆に考えると、最初から赤字覚悟で行政のバックアップを期待するというスタンスであれば、経営的にあまり難しいことは言わなくてもいいじゃないかと言う考え方もあるかも知れませんけれども、恐らく全国の誰もこれだけの投資(しかも恐らく、現実問題これだけで済むとは思えないような最低限のさらに下という内容ですが)をして元が取れるとは思っていないんじゃないでしょうか?
それでも地域の医師不足が解消するならいいじゃないか、それも大事な公共サービスだという意見はもちろんありだとしても、この医師増員問題で気になるのは医学部増員を主導しているのは大学を所轄する文部科学省である一方、実際に医師を管轄している厚労省の方ではどうも文科省が医師問題に口出ししてくるのを面白く感じていないようだということですよね。
先頃初めて厚労省が医師不足問題の実態調査をしたなんてニュースになるのも、裏を返せばこれだけ医師不足だと世間で騒がれている中でも医者が不足していると認めたくなかった、偏在しているだけだという従来のスタンスを本質的に崩していなかったことの現れとも言えるところで、本音の部分では不足だと言い立てて勝手に医者をどんどん増やすなんてケシカランと考えている気配も感じられます。
民主党政権は医療を経済成長の牽引役に指名したくらいで、医療費抑制政策からの脱却を主要政策の一つに掲げたことは知られていますけれども、そんな中で厚労省からこんな話題が出てくるのも色々と深読み出来る話ではありますよね。

25年度の医療費52兆円に 1・4倍、伸び率年2%(2010年10月22日47ニュース)

 厚生労働省が将来の国民医療費を推計したところ、10年度の37兆5千億円が25年度には1・4倍に膨らみ、14兆8千億円増の52兆3千億円に達することが22日分かった。

 医療機関への報酬改定などの影響を除くと医療費は例年3%台で伸びているが、今後は高齢化による増加が鈍り、25年度までの伸び率は年2・2%にとどまるとしている。推計には13年度に導入予定の新たな高齢者医療制度の影響を織り込んでおり、25日の高齢者医療制度改革会議に示す。

厚労省は06年時点では、25年度の国民医療費を56兆円と推計していたが「医療費を抑えたい政府が過大に試算している」との指摘が続出した。前回の推計を下回る結果となったことで、政府、与党が進めている税制と社会保障の一体改革の議論にも影響を与えそうだ。

 国民医療費は病気やけがの治療で医療機関に支払われる1年間の総医療費。15年度では10年度比約5兆円増の42兆3千億円、20年度では47兆2千億円と推計した。

厚労省の医療費予測ほどいい加減なものはないという突っ込みも確かにあって、例えば1993年の同省予測によれば今年2010年の医療費は実に68兆円!という実際の二倍にもなる過大な数字であったわけですが、これに対しては「医療費の伸びをそのまま放置していればそうなっていたはずだ」という言い訳をしているようです。
逆にいえばこういう大変な数字になりますよという予測を出してくる裏には、医療費はもっと抑えなければ困るでしょ?という裏の意味があると受け取るべきですから、そうなりますと現在の脱・医療費抑制政策継続を前提に組み立てた医師数増加計画と言うものは予想よりも早い時期に破綻する可能性があるということですね。
厚労省にすれば文科省主体の医師数増加政策に対してかねて医師強制配置論に近いスタンスに立っていた節がありますから、今後厚労省独自の医師偏在対策が発動された場合に文科省側の医師不足対策と相乗効果で、予想より早く医者がそれなりに足りてしまったということも起こりえるかも知れませんが、その場合医療現場がどうなるかですよね。

例の「医者を増やせば増やすほど医療費は増える」という論理を厚労省が完全放棄したわけでもないらしい、一方で思ったより早く医者がそこそこ足りてしまったとなれば医師を優遇する必要もなくなるわけですから、今まで甘やかせた分も厳しく締め上げるべく医者余りを前提にした医療政策を打ち出してくるでしょうが、現場と関わりの浅い文科省側ではそろそろ医者が足りたからと言って直ちに政策変更をとならないかも知れません。
同様の状態を一足早く経験している弁護士業界などを見ていると、すでに確固たる地位を確保している中堅以上は案外動じることはない、しかし後から後から押し出される新参は相場崩壊の影響をまともに被ってワープア化一直線という悲惨な状況になっているわけで、しかもいざ文科省が定員を減らそうと思っても医学部は六年制だけに、減らすにしても法科大学院以上に小回りは効かない道理ですよね。
現場の状況として若手の医者が大量に余って相場が下落してくる、中堅以上とすれば自分たちまで引きずられて安売りされるのも嫌でしょうから「それでは人員豊富な若い先生方に一つ頑張っていただいて」と厚労省に彼らを売り渡そうとする、結局後に残るのは働こうにも体が動かないお年寄りと、モチベーション低下で全く働く気のない若者ばかりという悲惨な状況にもなりかねません。

一足先に崩壊した歯学部にしても定員割れであっぷあっぷしている、法科大学院など国が音頭を取って幾つか潰さなければどうしようもないなんて言っていると、国の言う通りにやった結果他業界の養成システムがどうなったかと言うことを考えた場合に、医療現場のみならず医学教育のレベルにおいても同じことをまた繰り返すようなら、よほどに学習能力が欠如していると言われても仕方ないですよね。
経営を考えずともいい公立大学であればともかくとして、各大学が競って定員大幅増を図っている中で新設私大を一から作るということになれば数百億単位の巨額のお金もかかる、それだけの投資をして元を取れるかと言えば難しいだろうと思えるネタがこれだけ挙がっているだけに、一時の誘惑に乗って突っ走った結果経営者が泣くだけならともかく、多くの学生の恨みまで買ってしまうのもどうなのよということでしょう。

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