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2010年9月 2日 (木)

悪徳医者をこらしめる正義の権力、なんて構図は判りやすいんですが

医療業界における伝説的英雄として当「ぐり研」でも何度か登場いただいている前高知医療センター院長の瀬戸山元一氏に対する収賄事件の有罪判決が、先日とうとう確定したということです。
収賄については単なる犯罪行為であって当「ぐり研」で敢えて取り上げるべきものでもないかと思いますが、何しろ高知医療センターと言えば「公立病院PFI化すなわちこれ破綻の前兆」という全国的ムーブメントを創造した歴史的施設であるだけに、倫理面のみならず経営面からも落ちた偶像の責任が問われずにはいられないところでしょうね。

高知医療センター汚職、前院長の有罪確定へ(2010年8月27日読売新聞)

 高知医療センター(高知市)を巡る贈収賄事件で、収賄罪に問われた前院長で元同志社大教授瀬戸山元一被告(66)の上告審で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は被告の上告を棄却する決定をした。

 決定は25日付。被告を懲役2年、執行猶予4年、追徴金約185万円とした1、2審判決が確定する。

 1、2審判決によると、瀬戸山被告は2004年12月と05年1月、同センターの建設工事の設計を変更する際、工事を担当した特定目的会社「高知医療ピーエフアイ」(解散)のコストを抑えるよう便宜を図った見返りに、同社の元工事監督職員からソファやプラズマテレビなど約30点(計約300万円相当)を受け取った

ところで最高裁にまでもつれ込んだ一連の事件の顛末はともかくとして、この瀬戸山氏にしても休診ばかりだったとは言え一応院長外来を持とうなんて気概があった医者でもあるわけですから、この判決確定を受けて何かしらの行政処分が下されるのかどうかですかね。
瀬戸山氏の今後の行方はともかくとして、最近この行政処分というものに関して面白い記事が出ていましたので紹介しておきますが、以前にも東京女子医大の医療事故で無罪判決が出た医師に対して厚労省医療政策局医事課長「のみ」が行政処分を行使しようとしているという件を紹介しました。
その時にも書きましたけれどもこの行政処分というもの、法的根拠も何もなくお上(というより、官僚個人?)が好き放題に下す事が出来るということも問題ながら、彼ら自身が「厳しくやっていくつもりなので覚悟するように」なんて堂々と通達まで出しているのだということを考え合わせながら記事を御覧ください。

保険医取消に「違法」判決の背景 行政の裁量権逸脱を認めるも、二審は不透明(2010年8月26日日経メディカル)

 甲府地裁は今年3月末、無診察処方などで開業医の保険医登録を取り消した行政処分を違法とする判決を下した。ただ、兵庫県の同様の裁判では昨年9月、医師が勝訴した一審判決が二審で破棄された。

 「甲府地裁は、行政による取消処分の裁量権逸脱を認めてくれた。その判断を評価したい」──。

 保険医への行政指導を正す会と指導・監査・処分取消訴訟支援ネットの共催で、7月3日に東京で開かれた「保険医訴訟支援──7.3 全国集会」。山梨社会保険事務局(現・関東信越厚生局)による保険医登録と保険医療機関指定の取消処分の撤回を求めて提訴していた小児科医の溝部達子氏は、安堵感をにじませて地裁での勝訴をこう報告した。

 ただ、国が敗訴後すぐに控訴したため、二審が近々始まる。「法廷内外で闘いを進めたい」。同氏は気を引き締めるように言葉を結んだ。

「悪質性は高くない」と判示

 溝部氏は1995年、甲府市でみぞべこどもクリニックを開業した。同氏が山梨社会保険事務局から保険指導を受けたのは2004年9月のこと。同年3、4月の保険請求のうちインフルエンザ感染症の確定病名が多く占めていたことがきっかけだった。

みぞべこどもクリニックには、取消処分を受けた後も多くの患者が来院している。

 その個別指導の際、無診察投薬やタミフルの予防投与といった保険請求の疑義が生じ、同事務局は監査に移行。結果、約45万円の不正・不当請求が認められたため、05年11月、溝部氏の保険医登録と保険医療機関指定の取消処分を実施した。

 これに対して溝部氏は、不正・不当請求を一部認めながら、「違反内容に比べて処分が重すぎる」とし、国を相手に処分取り消しを求める訴訟を提起。不正・不当請求は「患者のためだった」と主張した。その判決が、3月に甲府地裁で下された。

 同地裁はまず、保険請求内容を個別に検討(表1)。例えば、親を診療したことにして小児にリレンザを投与した例では、溝部氏は小児に投与できなかった当時の規則のためとし、医学上もタミフルドライシロップよりリレンザの方が有用性が高く、架空請求ではないと主張した。現に06年2月以降は、小児へのリレンザ投与は保険診療上認められている。

 これに対して同地裁は、親を診療したように装って小児にリレンザを処方し、初診料などを請求した以上、架空診察に当たると判示。このほかの請求も大半を不正・不当請求とした。それでも、患者のための行為で悪質性は高いとまでいえないと判断。取消処分は、社会通念上著しく妥当性を欠くとし、社会保険事務局の裁量権の範囲を逸脱したものとして違法と判じた(表2)。

二審で覆った医師勝訴判決

 実は、行政の取消処分を違法とした判決はこれが最初ではない。同じ事情から保険医登録を取り消された眼科医の細見雅美氏が処分撤回を訴えた裁判では、神戸地裁が08年4月に細見氏勝訴の判決を下した。無診察処方などが問題になり、故意の不正があったことは認めたが、不正請求額が高額ではなく悪質とはいえないとし、保険医登録まで取り消すのは酷であると判断した(表3)。
 今回の甲府地裁判決は、これを踏襲した形となった。ただ、今後の二審では一審判決が破棄される可能性もある。細見氏の例では昨年9月、大阪高裁が一審を覆したからだ。

 大阪高裁は、争点の各請求内容については、「故意による不正請求」などとした一審とほぼ同じ判断を下したが、悪質性に関しては、「悪質とはいえない」とした一審とは全く逆の認定をした。そして、「取消処分が、裁量権を逸脱・濫用した違法なものとはいえない」と結論付けた(表3)。

 細見氏は高裁での敗訴後、上告を断念。代理人弁護士の小牧英夫氏は、「最高裁は社会的影響が大きい事案などでなければ審理しない。判決が覆る可能性は低かった」と話す。保険医再登録は取り消しから原則5年間できないが、細見氏は既に5年を経過している点も考慮したようだ。

 小牧氏によれば細見氏は今、自由診療の傍ら保険医の再登録を待っているという。近畿地方厚生局が、地元医師会の理事らを委員とする地方社会保険医療協議会に諮問し、答申があれば再登録される予定だ。

曖昧な取消処分基準

 それでは、細見氏の事件ではなぜ一審と二審で異なる判決となったのか。溝部氏の弁護を担当する石川善一氏はその理由として、取消処分の基準の曖昧さと、行政の裁量を規制する法律がないことを挙げる。

 現在、保険医登録・保険医療機関指定の取消処分基準は、表4の4つのみ。どの程度の故意や重大な過失、不正・不当な診療や報酬請求の場合、取消処分になるか、具体的な基準がないほか、不正を行った医師の動機や悪質性、それまでに個別指導を受けた経験などは考慮されない。各地の厚生局が独自に処分を判断しているのが現状だ。実際、溝部氏や細見氏と同じような不正・不当請求が個別指導・監査で見付かっても、取消処分に至らない例もある。
 さらに、監査後の措置には「取消処分」「戒告」「注意」の3つしかなく、取消処分と戒告・注意との中間に位置する措置がない上、厚生局の裁量や権限を規制する法律もない

 このため各裁判所は、「悪質性」や「社会通念上著しく妥当性を欠くこと」といった、漠然とした基準でしか取消処分の違法性を検討できず、それぞれの判断も違ってきてしまうわけだ。医師以外でも、同様の事情で福島県の歯科医が訴えた訴訟では、一審は行政処分の違法を認めたが、二審では逆転判決が出されている。

厚労省「見直す予定はない」

 だが、厚生労働省医療指導監査室は「取消処分のあり方を見直す予定はない」という。「不正請求などの実態を綿密に調べ、社会保険医療協議会にも諮問しているから」というのが理由だ。高裁で「適法」の判決が下されたのも背景にあるようだ。

 同省は5月末、医療給付費の適正化を目的に、個別指導件数を08年度の3410件から8000件に今後増やす方針を示した。これが実行に移されれば、溝部氏や細見氏のような例が全国で増加する可能性もある。

 指導・監査・処分取消訴訟支援ネットの代表世話人の高久隆範氏は冒頭の集会で、「指導・監査を改善する闘いは行政の強大な裁量権との闘い」と述べ、医師に関心を持つよう呼び掛けた。溝部氏の高裁判決は来年にも下される予定だ。

45万円の不正請求で保険医取り消し処分というのが妥当なのかどうか、見るものの立場によっても色々と違ってくるんだろうと思いますが、病院などではこんな金額ではない不正請求をやっているというのに開業医だけ不公平だ!なんて考える人もいるかも知れませんし、これをきっかけに自由診療に踏み切れてせいせいしたなんて人もいるのかも知れません。
この不正請求なるものも以前から何度か取り上げてきましたけれども、マスコミなどが盛んに取り上げる犯罪的行為じみたイメージと違って、その実態はかくのごとく医療の側にはたいしたメリットもないとか、あるいはやった以上報酬を請求して当然であるのに保険者の支払いを減らすという目的のために無理矢理不正行為扱いされているものが大部分であるということは、内部の人間であれば誰でも知っていることです。
もちろん今の時代顧客の利便性を図るためにお上の定めたルールを破るなどとリスクマネージメント上どうなのよと、別な意味で社会的非難を浴びかねないような行為ではあったにせよ、それが、「悪質」であるとか「社会通念上著しく妥当性を欠く」とか言われるのも何かしら違うという気はするところですよね。

ただ今回の記事で注目しておいてもらいたいのは、どうも世間の人間の目から見てもこういう行政処分というものの実態を知れば知るほど何かおかしいという疑問が出てくるようなシステムであるのに、当の厚労省の方では全く問題なしでスルーしようとしている、しかも医療給付適正化を旗印に、個別指導件数を倍増させるとまで言っているわけですね。
個別指導というと知らない人間にはまるで単なる注意かイエローカードか何かのように聞こえますけれども、これが入るということは「おたくの施設は診療報酬取りすぎじゃないですか。返してもらいますよ」という意味で限りなくレッドカード的存在であるわけですから、何の事はない診療報酬を増やしたと言いつつこうやって回収する分も増やして実質横ばいを目指しているのかと勘ぐりたくもなります。
個別指導という行為自体が単に金勘定のことばかりに終始していて、医療を正しい方向に向けるなんて崇高な理念とは無関係どころか逆に有害でさえあるとは多くの人間から指摘されるところですけれども、どうも厚労省にはそういう視点は全くなさそうだということが判る記事ではありますよね。

ものすごく邪推をしてみますと、厚労省としては以前から地域の医療機関に対してこれを整理し、集約化したいというプランを持っている、このための道具として例えばごく恣意的に特定医療機関だけをターゲットとして何かしらの強権を発動できる制度というものは、極めて使い勝手がいいんだろうなとは想像出来ますよね。
とりわけ経営が傾いてきた医療機関ほどもっと顧客数を増やし、顧客単価を引き上げなければと世間並みの経営努力をするものですが、顧客単価引き上げとはすなわち個別指導への呼び水ということですからお上としてはいつでも手を入れやすい、そしてこんな行き詰まった施設が不正請求だ!さっさと自主返納しろ!と言われれば、それは店をたたまずにはいられないということにもなるでしょう。
このあたりの邪推と関連して、最近少し興味深い記事を見ましたのであわせて紹介しておきましょう。

診療所10年で155カ所増 県内 病院は7カ所減 都市部の開業医「飽和状態」 勤務医は依然不足(2010年8月30日下野新聞)

 今年4月現在の県内診療所(病床数19床以下)数は1461カ所で、10年前に比べ155カ所増えたことが29日までに下野新聞社の調べで分かった。診療所のほとんどは開業医で、宇都宮市など人口が多い地域は「飽和状態になっている」(県医師会)という。一方、病院(同20床以上)数は110カ所で、10年間で7カ所減少)。勤務医数は回復傾向にあるが、まだまだ不足している状態で、一部病床を休止したままのところも多い。

 「開業医はベンツに乗っているとか、羽振りが良いイメージがあるかもしれないが、実際は違う」。県央地区で診療所を開設した男性医師は、病院勤務医からの“転職組”。地域の開業医が健康上の理由で後継の医師を探していたため、引き継いだという。

 土地建物の購入代金やリフォーム費用、運転資金などで借金は1億円。来月からは月50~60万円の返済が20年間続く。男性医師は「今は事務員や看護師の給与を払い、何とかやれているが、相当頑張らないといけない。患者を引き継いでなければ、食べていくのも大変だった」と話した。

 県医師会によると、2000年1月~10年1月までの10年間に、同会加入の県内診療所は155カ所増加。中でも宇都宮市医師会は53カ所、小山地区医師会は47カ所増えた。

 診療科目別では内科が最も多く40カ所増加。次いで整形外科28カ所、小児科17カ所、眼科15カ所、皮膚科13カ所の順で増えた。外科は訴訟リスクの影響からか9カ所減った。県医師会の太田照男会長は「人口の多い地区では飽和状態で、今年は開業数が少ない。患者の奪い合いではないが、経営が大変な所がある」と説明した。

 開業医が増えた背景には、04年に導入された新臨床研修制度がある。大学病院が各地の病院から医師を引き上げたたため、残された勤務医が過重労働になり、開業に流れたとされる。

 06年に818人にまで減った県内主要30病院の常勤医師数は、大学病院の支援などにより、今年は920人にまで回復したが、同会勤務医部会長の福田健獨協医大教授は「日本の医師総数そのものが少ない。医師が確保できず、病床、病棟を閉鎖したままの所もある」と、勤務医不足の実態を訴えた。

実際に開業医が余っているのかどうかはまた議論のあるところでしょうが、昨今ではあまりの激務から勤務医を逃散して開業に走る医者が多いとは言われていて、しかも近年の開業医締め付けで開業医がウハウハだなんて言っていたのははるか遠い昔の話、継承開業でもなければ食っていくだけで精一杯どころか、せっかく開業しても借金も返せずまた勤務医に逆戻りなんてことも珍しくない時代ではあるわけです。
そういう経営基盤の極めて脆弱な粒クリでは当然ながらなるべく顧客をかき集め、来た顧客を引き留めるべく必至にならざるを得ない、行き着くところが前述の記事で出てきたような、今どきそれはと思われるような過度に顧客にすり寄ったかにも見えるほどの過剰サービスということになりかねませんが、当然そういうことをやっているとお上にとっては良いターゲットですよね。
そしてそういう開業医では当然医者なんて一人しかいない零細開業が多いでしょうから、行政処分で保険医登録取り消しなんてことになれば即座に廃業に直結する可能性が極めて高いわけで、なんだ査定を厳しくすればするほどドロップアウトした開業医を勤務医無間地獄に逆戻りさせることになるのなら、誰にとっても良い話じゃないかと考えているかも知れませんよね。

こういう話とも関連してのことですが、新臨床研修制度と言えば世間では大学医局が医者を引き上げる原因になった、医師不足の諸悪の根源だなんてことしか言いませんけれども、実はこれにはもう一つあまり言われていない側面があるわけですね。

臨床研修新旧制度の比較(厚生労働省HP)より抜粋

旧制度

・     医師でない者が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事等の許可を受けなければならない。(医療法第7条)
・     病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は医師に、これを管理させなければならない。(医療法第10条)


新制度

・     臨床研修修了医師でない者が診療所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事等の許可を受けなければならない。(医療法第7条)
・     病院又は診療所の開設者は、その病院又は診療所が医業をなすものである場合は臨床研修修了医師に、これを管理させなければならない。(医療法第10条)

要するに今後病院や診療所をやっていくには臨床研修というものを受けていなければならないようになっていくと言うことですが、その臨床研修制度というものの定義をよくよく読んでみますとこんなことが書いてあります。

臨床研修    

・     診療に従事しようとする医師は、2年以上、医学を履修する課程を置く大学に附属する病院又は厚生労働大臣の指定する病院において、臨床研修を受けなければならない。(医師法第16条の2)

例えばの話ですが、今後これまた法律でも何でもなく厚労省のどこぞの課長なりの通達によって、「臨床研修が二年間では臨床医として十分な能力を養成するには不安がある。今後は臨床研修期間を暫定的に○年間に延長すること」なんてことを突然言い出したりと言ったことがないとは言い切れないわけです。
実際に二年次研修生に対する厚労省の調査では臨床研修の目標が達成できたと考えている者は自己判断でも全体の六割強に留まり、不満の理由として「一分野あたりの研修期間が短い」「プライマリ・ケアの能力がよく身につけられない」と言う声が非常に多いわけですから、「ローテータ-は使えない」という指導医側の声を聞くまでもなく「これはどう見ても研修期間短すぎでしょ」と結論するには容易い話ですよね。
既存の開業医を絞り上げるのも、医者に開業させずいつまでも飼い殺しにするのもお上の胸先三寸という道具立てはとっくに用意されているということになりますけれども、それを実行して誰かが困るかと言えば、たぶん奴隷労働している医者がいくらか文句を言うくらいなもので済んでしまいそうなんですよね(苦笑)。

こうして考えてみると実際にこれからの医療業界で何がどうなるかは判りませんけれども、思い通りに好き放題できるだけの権力を握った者にその権力の行使を自制させるための社会的縛りというものが、権力行使の容易さに比べると極めて乏しいという現実があることだけは間違いがなさそうですね。

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