« どこの業界でも質の維持には四苦八苦しているようですが | トップページ | ホメオパシー 問われるその社会的責任 »

2010年8月19日 (木)

また当直手当ネタかと何気なく見過ごしそうなニュースですが

小児科医過労自殺の件で遺族が病院に損害賠償請求をしていたものの高裁では認められなかったという民事訴訟の件ですが、先日最高裁で「異例の」和解勧告が出されようやく決着したということはすでに紹介した通りです。
特に「日本のよりよい医療を実現するため」だという最高裁の和解勧告の持つメッセージ性が非常に注目されましたけれども、先日の日経メディカルにそのあたりの解説記事が出ていましたので紹介してみましょう。

医師過労自殺、「最高裁での和解」の背景 裁判所主導の異例の結末(2010年8月9日日経メディカル)

 当直勤務は過重だったか否か─。1人の医師の自殺を巡り、勤務医の労働環境について議論されてきた裁判が、最高裁での和解という形で幕を下ろした。なぜ和解での決着となったのか。

 7月8日、うつ病だった勤務医の自殺が、過重労働によるものかどうか争われてきた民事裁判が、和解という形で幕を閉じた。最高裁で和解に至るケースは極めて珍しい

  1999年8月16日、宗教法人立正佼成会が運営する佼成病院(東京都中野区)に勤めていた小児科部長代行の中原利郎氏(当時44歳)が、病院の屋上から投身自殺した。中原氏は、小児科常勤医が6人から3人に減り、月8回の当直と月80時間の時間外勤務を行いながら、部長としての職務も果たし、うつ病を発症した。そのため遺族は、「自殺を予見できなかったのは、病院の安全配慮義務違反に当たる」とし、損害賠償を求めて民事訴訟を提起していた。

 同じ事件で労災認定が争われた行政裁判では、2007年3月に東京地裁で遺族側が勝訴。国が控訴しなかったため、判決が確定している。だが民事訴訟では、07年3月の東京地裁、08年10月の東京高裁ともに病院の責任は認めず、遺族が最高裁に上告受理を申し立てていた。

 自殺した中原氏の妻、のり子氏は上告受理申し立ての理由について、「高裁では過重労働の実態は認定されたものの、病院が夫の自殺を予見できた可能性はないとし、過失は否定された。病院に責任を認めてもらいたかったし、こうした判例が残っては、家族が過労死して労災で争っているほかの遺族にも迷惑がかかると思った」と話す。

裁判所主導だった和解

 今回の和解内容は、病院が中原氏に哀悼の意を示すとともに、700万円を支払うというもの。事件について公表する際には、これまで裁判で認められた事実を前提とし、相互の誹謗中傷はしないこととされた。

 和解文には、病院からの謝罪はなく、過重労働に関する病院の責任にも触れられていない。原告側が上告受理申し立てで求めてきた内容とは異なる。一方、病院側にとっても、地裁、高裁で責任が否定されており、和解に応じなくても最高裁で負ける可能性は低いと思われていた。

 では、なぜ和解に至ったのか。実は今回の和解は裁判所からの強い勧めによるものだった。「最高裁は、より良い医療を実現させる観点から見て判決ではなく、和解が望ましいと考えたようだ」と、原告側弁護団を務めた川人博氏は見解を示す。

 もちろん、裁判所が和解を勧めても、原告、被告双方にその意思がなければ成立しない。その点、原告側は和解文に、「医師不足や医師の過重負担を生じさせないことが国民の健康を守るために不可欠」という文章が入った点を評価。のり子氏は、「病院に謝罪を求めることは、私から放棄し、和解額にもこだわらなかった。過度な対立は望まないという夫の生き方に沿う結論を尊重した」と語る。

 一方の病院側も、争いの場ではなく、和解の席で対面して話をする意義は大きいと考えた。立正佼成会の代理人を務めた弁護士の安田修氏は、「事実を理解してほしかった。和解ならば、相手にこちらの思いを伝えられるし、病院として裁判を引きずることなく診療の最前線に戻れる。双方のためによいと思った」と話す。

 今回の裁判が、勤務医の労働環境、特に当直のあり方について一石を投じたのは間違いない。判決まで至れば、当直の業務過重性とそれに対する病院の責任に1つの“物差し”ができるのは明らかだった。

 最高裁があえて和解というまれな方法を選んだのは、その“物差し”が医療界に与えるインパクトを憂慮したとも考えられる。当直のあり方について、最終的に司法の見解が示されないままに裁判は終わることになった

最後の一行にある「当直のあり方について、最終的に司法の見解が示されないままに裁判は終わることになった」というあたりが今回の裁判についての一つのポイントだと思いますが、要するにここではっきり線を引いてしまうと日本の医療が立ちゆかないからと「空気を読んだ」ということなんでしょうね。
それが医者にとって良いことか悪いことかはともかくとして、最高裁としては自分たちの判決次第でこの国の医療が完全に終わってしまうかも…なんて選択を委ねられるよりは、国なり医療業界なり、あるいは主語のはっきりしない何かなりの努力目標ということにしておいた方が気が楽であると言う事情はあったのでしょう。

この当直業務の違法性ということに関しては過去にも何度も問題になったところで、その背景には法律をそのまま読めば明らかに違法行為であるのに、長年それが常習的に行われているという業界の慣習があるわけですよね。
そしてそれを知っていながら労基署などは見て見ぬふりを続けてきた、それどころか例えば愛育病院の一件などでは厚労省医政局長が病院に「こうやればもっと医者を酷使できるのでは?」なんて「抜け道」を助言したと言うくらいですから、国が率先して医者には人権などありませんよと言ってきたにも等しいということです。
それが最近になって世間の目がようやく医療現場の実態に向くようになり、それに合わせたかのように今さら労基署からも「それ違法」と何十年も黙認されてきた慣習を否定するような指導が入っていますし、奈良の賃金未払い訴訟でも「医者の当直は時間外労働」であるという画期的な司法判断が示されたりと、ようやく少しばかり是正への動きが見られるようになってきたというところなんですよね。

要するに「医者なんて実質年俸制扱いで、可能な限り酷使した方が得だ」という旧来の発想が、「どうせ来年になれば新しい医者が送られてくるんだし」という前提条件の崩壊と共に成立しなくなった、そうした時代の変化に対応出来なかった旧体質の病院では当然ながら医者が逃げ出していき「医者不足だ!国は早く医師強制配置の実現を!」なんて叫んでいるのが医療崩壊という現象の一側面でもあるわけです。
当然こういう状況ですから病院側にしろ医者の側にしろ昔と比較にならないくらい医者の労働環境というものに注目している、言葉を換えればいささか神経質になってきているとも言えるわけで、あちらでもこちらでもニュースになると言えば「○○病院に是正勧告が入った」だの「労働環境改善のために○○を改めた」だのと言った話がほとんどであるわけですが、もちろん例外もないわけではありません。
中でも先日はこんな記事が出ていまして、一見何気ない話のように見えてこれはまた揉めそうな話だなと思いながら拝見したところなのですが、まずは記事を紹介してみましょう。

小田原市立病院が医師に不適切手当 4年で1500万円(2010年8月18日読売新聞)

小田原市は17日、同市久野の市立病院で、緊急処置を患者に施すため自宅などから駆け付けた循環器科の勤務医17人に対し、本来支払う1万2000円の「オンコール手当」ではなく、2万円の宿直手当を誤支給していたと発表した。過払い額は今年6月までの約4年で約1500万円に達し、市は医師に全額返還を求めると共に原因を調査する

 市によると、同病院の循環器科は2006年8月に医師の宿直勤務(午後5時15分~翌日午前8時半)を廃止。代わりに、病院に30分以内に駆け付けられる自宅などに待機するオンコール制を導入した。しかし、その後も宿直手当は変わらず支給されていたという。

 今年7月、「循環器科医が宿直手当を不正受給している」などと書かれた告発文が市などに届き、市は調査を開始。その結果、同科医への過払いが判明した。

市立病院医師17人に宿日直手当過払い、退職者含め4年で計1500万円/小田原(2010年8月17日カナロコ)

 小田原市は17日、市立病院の循環器科医師計17人に支給した宿日直手当について、この4年間で約1500万円の過払いがあった、と発表した。宿日直手当の不正を指摘する匿名の文書が7月、市に郵送されたことから内部調査していた。

 宿日直手当の過払いがあった期間は2006年8月から10年6月までの3年11カ月。対象は循環器科の医師計17人で内訳は在職者6人、退職者11人。過払い総額は約1500万円。

 同病院の宿日直手当は(1)日直(2)宿直(3)オンコール(待機)―の3種類。支給額は(1)(2)が2万円、(3)が1万2千円。

 市によると、内科系病棟には循環器系特定集中治療室(CCU)が置かれ、循環器科医師が宿日直を担当していた。

 しかし、06年7月のCCU廃止に伴い、循環器科医師はCCU分の宿日直がオンコールに変更されたが、翌月以降も宿日直との差額分8千円を差し引くことなく、そのまま支給していた。支給にあたって宿日直手当は(1)(2)(3)と分類されず、合算後の総額だけが明示されているため、不正との指摘を受けるまで過払いに気付かなかったという。

 市は医師や看護師、事務職員など計24人から事情を聴くなどしたが「既に退職した職員もおり、現状では原因を特定できていない」と説明するにとどまっている

 市は、過払いのあった全医師に全額の返還を求める手続きを進めるだけでなく、内部調査を継続して原因の究明を急ぐ一方、医師の宿日直の実態が確認できるような改善策を検討する方針という。

市立病院の宿日直手当 小田原市、1500万円過払い(2010年8月18日東京新聞)

 小田原市は十七日、市立病院循環科医師への宿日直手当支給について、三年十一カ月間で延べ十七人に計約千五百万円の過払いがあった、と発表した。市は退職者を含む医師全員に返還を求める

 市によると、二〇〇六年八月、看護体制充実を図るためCCU(冠疾患集中治療室)を廃止。同科医師は土日の日直と平日の宿直に加え、当番制の自宅待機体制(オンコール)に切り替えた。CCU時の宿日直手当二万円がオンコールでは一万二千円となるが今年六月まで二万円が支払われていた。

 オンコールによる宿日直手当は、同科の当番表に基づき同病院経営管理課職員が計算していたが、市は「中間調査段階でミスの原因が事務方か診療側かは明確ではない」としている。

 この件について、先月と今月、二回にわたり、内部告発とみられる文書が市や報道機関などに届けられたため市が調査していた。 (長崎磐雄)

いきなり返金を求められる医者の側もいい迷惑なんでしょうが、この一件で注目されるのが「内部告発とみられる文書が市や報道機関などに届けられた」云々のくだりですよね。
要するに誰かが循環器科の連中がずるいことをやっている!と主張していた、しかもそれを隠れようのない形で世間に知らせて回ったということになりますが、記事だけを見ていますとこんなものは当番表に基づいて手当を計算していた事務方の初歩的なミスで、現場の医者の知ったことかというのがごく一般的な感覚になるんじゃないかと思います。
ところが単なる事務作業のミスでしょ?と思われる事例なのに市側は原因がはっきりしないと曖昧なことを言う、それどころか東京新聞の記事によりますと市側が「中間調査段階でミスの原因が事務方か診療側かは明確ではない」なんてことまで言っているというのが、何やらそうなってくると気になるところですよね。

ここからは全くの個人的推測ですが、前述のような事情もあって今どきの病院は医者に対して以前より腰が低くなってきている場合が多く、特にこの病院の場合循環器系が一つの中心にもなっているようですから同科の医者の機嫌を損ねたくはないという状況でしょうに、わざわざ市側がこんな微妙な説明をしているのが単なる空気を読まない市側担当者の失言であったのかどうかですよね。
通常こういう話で診療側がミスとしたと考える人間はそうそういないし、おそらく事務の単純ミスでしたゴメンナサイで済ませたかっただろう状況であったのに、敢えて診療側にも責任があるかもと言及する理由があったのだとすれば、例えば「内部告発とみられる文書」には医師側の関与を示唆される具体的な記載があって、それを報道機関側から突っ込まれたため言い逃れ出来なかったという可能性があるのかなとも思います。
いずれにしてももう少し事情がはっきりしてこないことには全て邪推でしかありませんけれども、たとえ完全なうっかりミスで決着したとしても面白くはない話ですし、どう転んでも今後何かしら診療の現場への影響は避けられないような気がするのですがどうでしょうかね?

|

« どこの業界でも質の維持には四苦八苦しているようですが | トップページ | ホメオパシー 問われるその社会的責任 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

なんだ結局事務のミスじゃん
これで金取られる医者もたまらんだろうな

職員の「怠慢」に主因、市立病院過払い問題で最終報告/小田原
http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1010070033/

 小田原市立病院1476件の循環器科医師への宿直手当過払い問題を調査していた外部調査委員会(三宮政俊委員長)は7日、
宿直体制からオンコール(夜間呼び出し)体制への切り替えに伴う手当の変更を実務に反映させずに支給を続けた経営管理局職員に主因がある、
とする最終結果を発表した。
 同病院は循環器科医師計17人に、この4年間で約1500万円を過払いしたことが、内部告発を機に発覚。市は6月から内部調査を実施後、
9月1日から顧問弁護士3人による外部調査委員会が内部調査の客観的評価や原因究明に取り組んできた。
 同調査委は、2006年7月の循環器系特定集中治療室(CCU)廃止に伴い、循環器科医師の宿直が廃止され、オンコールだけになった。
しかし、同病院が翌月以降もオンコール手当(1万2千円)ではなく、宿直手当(2万円)の支給を続けた点を重視。その原因について、
手当の支給を担当する経営管理局職員は宿直廃止後も、循環器科医師が宿直していると誤認していたと言及した。
 さらに「循環器医師は宿直をしていないのではないか」といううわさが立ったにもかからわず、宿直の有無を確認することもなく漫然と誤支給を続けた、と指摘した。
 一方、中島麓病院長は「宿直体制の変更を経営管理局に伝えた」と主張しているものの、文書などは残されていないことから、同調査委は
「病院長、診療部長は宿直体制の切り替えを確実に伝達すべきであったと指摘されてもやむを得ない」と結論付けた。
 市は各医師に過払い分の返還を求める方針。

投稿: | 2010年10月 8日 (金) 16時28分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/49187658

この記事へのトラックバック一覧です: また当直手当ネタかと何気なく見過ごしそうなニュースですが:

» やぶへびでは?小田原市立病院さん。(訂正しています…) [うろうろドクター]
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100817-00000031-kana-l14 {{{: 市立病院医師17人に宿日直手当過払い、退職者含め4年で計1500万円/小田原 8月17日20時30分配信 カナロコ  小田原市は17日、市立病院の循環器科医師計17人に支給した宿日直手当について、この4年間で約1500万円の過払いがあった、と発表した。宿日直手当の不正を指摘する匿名の文書が7月、市に郵送..... [続きを読む]

受信: 2010年8月19日 (木) 16時48分

« どこの業界でも質の維持には四苦八苦しているようですが | トップページ | ホメオパシー 問われるその社会的責任 »