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2010年8月 3日 (火)

ドラッグラグ解消 簡単な抜け道というのはないようです

先日東京で開かれた癌の研究会についてロハス・メディカルさんが取り上げていますが、どうやらこの手の討論会を今後も何度か開催して広く問題を掘り下げていこうという意図があるようですね。
今回は最初と言うことで何やら感情的な部分でのもつれもあったようですけれども、最後のまとめをした野田先生曰く「正直、開けてみるまで、どんな方が来るか分からなかった。一回やって勝手が分かった」と言う通りで、今後次第に実のあるディスカッションが繰り広げられるようになっていくのでしょう。

率直に話し合ってみたら、役者が足りなかった(2010年7月30日ロハス・メディカル)より抜粋

 7月25日午後、東京・有明の癌研究会で<癌研オープンアカデミー『日本のがん医療の未来を考える』>が開かれた。冒頭に野田哲生・研究所長が「がん治療・研究に関するあらゆるステークホルダーが集まって一緒に話をしようという趣旨」と説明したように、医療者はもちろん、患者、政策担当者、企業人、メディア人など150人あまりが集まり、歯に衣着せぬ活発な議論が行われた。今までにないほど率直な議論ができた時に皮肉にも見えてきたのは、隠れた最大のステークホルダーである「医療費を払ってくれる健康な人々」が、その場にいないということだった。(川口恭)

 この日のプログラムは非常に盛りだくさん。講演の数々も面白かったのだが、要約するのが難しいほど内容が濃く、片木美穂・卵巣がん体験者の会スマイリー代表が、癌研有明病院を受診していた複数の患者から「見放された」とか「免疫細胞療法や重粒子線治療を勧められた」という相談を受けていると語ったことだけ記しておき、最後の総合討論をかいつまんでご紹介する。

 進行役は16日に教授に昇任したばかりの上昌広・東大医科研特任教授。パネリストは、向かって左から中村祐輔・東大医科研ヒトゲノム解析センター長、宮野悟・東大医科研教授、嘉山孝正・国立がん研究センター理事長、野田哲生・癌研究会研究所長、土屋了介・癌研究会顧問。冒頭に上教授が「手前の2人は国際的なスーパースター、向こう側の方々は政治力の凄い人たち。いわばイチローと清原のような感じ」と紹介したことが、嘉山理事長の逆鱗に触れたようで、以後、険悪なムードのまま進んだのだが、その結果生じた小競り合いなどは省いて各人の発言要旨を淡々とつなぐことにする。
(略)

ディスカッション事態は医療現場でのコミュニケーションということを考える上でもなかなか示唆に富んでいて、医療の提供側も受ける側も是非一度目を通していただければと思いますけれども、ここで規制緩和という話の流れの中でドラッグラグ解消という話が出てきます。
話の中では例の55年通知というものが出てきますが、これは当時日医会長であった武見太郎氏の「医薬品の用途は薬理作用によって決まるべきで、適応症病名によって決められるのはおかしい」というクレームに対して、厚生省保険局長が社会保険診療報酬支払基金理事長あてに出した通知です。

1.保険診療における医薬品の取扱いについては、厚生大臣が承認した効能又は効果、用法及び用量(以下「効能効果等」という。)によることとされているが、有効性及び安全性の確認された医薬品(副作用報告義務期間又は再審査の終了した医薬品をいう。)を薬理作用に基づいて処方した場合の取扱いについては、学術上誤りなきを期し一層の適正化を図ること。

2.診療報酬明細書の医薬品の審査に当たっては、厚生大臣の承認した効能効果等を機械的に適用することによって都道府県の間においてアンバランスを来すことのないようにすること。

要するに医者が薬の薬理作用からしてこの薬はこの疾患に有効であると処方したところで、それが認可された薬の保険病名に載っていなければばっさり保険で切られても文句は言えないというのはおかしいということで、こうした事態を回避するためいたずらに保険病名ばかりを羅列させるのではなく、薬の効能効果もよく考えて柔軟に査定しなさいよということですよね。
言い方を変えれば適応症に病名記載がなくても薬を使って良いし、それを診療報酬支払いの対象にしてもいいということですから、保険診療における医薬品の適応外投与も理屈に合っていればやってもいいとお墨付きを得た形であったわけです。
こういうものをもっと活用してドラッグラグ解消に役立てられるのではないかというのが最近のちょっとした流行りではあるのですが、まずロハス・メディカルさんの記事から議論の流れを引用してみましょう。

嘉山
「山形大学時代に文科省には言って機能特区というのを進めさせている。完全な混合診療解禁にすると、医者の中には金儲けに走る人もいるので、国家戦略としてやる部分を明確にすべき。ドラッグラグの問題に関して言えば、55年通知をもっと活用するよう中医協でも働きかけている

土屋
「基本に立ち返ると、なぜ通知の所で議論しなきゃいけないのかという問題がある。規制改革会議に行ってみて分かったことだが、厚生省には課長通知があまりにも多い。他省庁では大抵が局長通知だし、昭和55年の通知なら、とっくのとうに法律になっているはず。それは厚生省が悪いというのではなく、そのように医療界が要求してこなかったせいだ。法律に則って、専門家が自律していかないとうまくいかない」

嘉山
「医者は55年通知を結構使ってた。でも保険支払基金がチェックしてしまう。彼らの言い分は、承認されてない使い方を認めて、もし何か起きたら責任を問われるのでないかということだった」


「要するに、根っこはお金の問題。子宮頸がんワクチンの運動がよい例だが、なぜこんなに盛り上がっているかと言えば、三原じゅん子さんや仁科亜季子さん、森昌子さんたちが登場したから。あの手法は見習うべきで、我々と患者の間に1枚入る必要があるのでないか」

やや議論が発散しているように見えますけれども、要するに通知の文言だけを見ていると現状でもある程度の抜け道はある、ところが実際上の運用では何かと保険診療上の縛りがきつくて難しいと言うことで、確かに「根っこはお金の問題」というのは広い意味でその通りなのではないかという気もします。
ところが嘉山先生がドラッグラグ解消のために「55年通知をもっと活用するよう」働きかけているという中医協では、この通知は厳密で抜け道などないのだと宣告されてしまったようなのですね。

ドラッグ・ラグ解消、「55年通知では無理」?(2010年7月29日ロハス・メディカル)より抜粋

 「この通知でやるのは無理だろう」─。薬事法上の承認を受けた適応以外でも一定の場合に保険支払いを認めるとした旧厚生省保険局長の「55年通知」の活用によるドラッグ・ラグの解消は厳しい状況にある。(新井裕充)

 厚生労働省は7月28日の中央社会保険医療協議会(中医協)で、「55年通知」の対象となる診療行為や判断権者などを整理した一覧表を示した。

 その中で、「55年通知」の対象となる診療行為について「再審査期間が終了した医薬品の適応外使用」と明記。副作用の報告義務期間や再審査期間が終了して有効性や安全性が担保された医薬品であることを改めて確認した。

 その上で、「再審査期間」について保険局医療課の磯部総一郎薬剤管理官はこう説明した。
 「新薬は現在、通常8年の再審査期間を付けている。オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)は10年。最初の新有効成分のときの再審査期間が効いている期間はこの(55年)通知が適用されないので、『最初に薬価収載されてから8年間はこの通知が実質適用されない』とご理解いただきたい

 この説明に診療側の安達秀樹委員(京都府医師会副会長)は理解を示し、こう述べた。
 「今の抗がん剤の新しい疾患への適応という実態には合わない通知。この通知でやるのは無理だということは確かにそうだろうと思う。ですから、『55年通知的なもの』が、がんの特性と抗がん薬の特性での、いわゆる臓器がん対象の適応症を超えたがんの横断的な適応の在り方についてどうかと、さらに必要なのかどうかということの議論が必要だ」
(略)

55年通知とは現在Aという疾患に対して用いられている薬をBという疾患にも(理屈にあっていれば)使って良いよという話で、海外で開発された新規抗癌剤をさっさと日本で使えるようにしろといった事態を想定しているわけではないということですから、それに関しては確かにその通りとしか言いようのない内容ではありますよね。
ただここでの問題は厚労省側が新薬がただちに55年通知の対象となるわけではない、十分な期間をかけて安全性を確認してから初めて適応外使用が認められると改めて宣言していることで、確かに前述の通知の文言を見てもそうなっているわけですが、要するに厚労省としてはこの通知をドラッグラグ解消目的で拡大解釈するつもりはないということです。
厚労省側のそうしたスタンスは今回提出された資料にも明記されているところですが、当然ながらそこにかみつくのが「55年通知をもっと活用するよう中医協でも働きかけている」嘉山先生ということで、これが見ているとなかなか面白いですよね。

[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)]
 3ページの厚生省保険局長の通達(=55年通知)で、1番の3行目。
 「副作用報告義務期間又は再審査」と書いてある。その「終了した医薬品」を対象にするということなので......。

 この再審査......。普通は4、5年......ですよね?

 (佐藤課長と補佐らが顔を見合わせて何かつぶやいている。「そうではない」と言いたげな様子なので、嘉山委員が強い口調できき直す)

 何年ですか?
(略)

[保険局医療課・磯部総一郎薬剤管理官]
 新医薬品の再審査期間......、これ新有効成分の場合は現在、通常8年の再審査期間を付けている。オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)のようなものは10年。

 法律上は「10年以内で厚生労働大臣が定める」となっており、8年か、オーファンの場合は10年。また、新有効成分でないものについては若干短いものも確かにあるが、「通常は8年」とご理解いただければと思う。
(略)

[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)]
 そうすると、適応はもう認められていて、適応外に使う場合にはこの......、これはどういう足かせになるか?

 再審査はいらないんでしょ? 終わってないから駄目なの?

[保険局医療課・磯部総一郎薬剤管理官]
 (語気を強めて)いえ、ですから、この問題は再審査期間が終了しないといけませんから

 新有効成分出てきて、「その新有効成分の医薬品がほかの適応に使えるんじゃないか」ということでしょうから、最初の新有効成分のときの再審査期間が効いている期間はこの(55年)通知が適用されないということですから、「最初に薬価収載されてから8年間はこの通知が実質適用されない」というふうにご理解いただければと思う。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 ですから、すぐには出てこない。その間は使えない。ただ、その間にいろいろエビデンスを揃えてということ。「それをどうするか」というのは今後のご議論になる。

要するに現状で55年通知をドラッグラグ解消に使えるというのはごく限定的な領域に限られてしまう、ならば制度そのものを変える必要があるんじゃないかというのが今回の議論のスタートであるということをようやく再確認したという話ですが、これだけを見ていると嘉山先生の理解がいささかアレなのか、役人が舌足らずなのか、どちらとも判断しかねるところですよね。
そこでようやく制度をどう変えていけばという話になってくるわけですが、記事を見る限りでは「積極的な議論を」という言葉とは裏腹に、何ともやる気のなさそうな遠藤会長の仕切りぶりが目につくという感じですかね?

[嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)]
 その際、(資料)4ページ(比較表)は会長がおっしゃったように、非常に分かりやすい。

 「55年通知」、従来スムーズに機能していなかったというよりは......、ほとんど認められていなかったのはこの(比較表の)「判断権者」のところですね。

 ▼ 資料によると、判断権者は「審査支払機関の各審査委員会」(※支部間格差の解消の観点から審査情報提供委員会でも審議)となっている。

 医師のオートノミー(裁量)で使っても、その後の審査支払機関で認められていないことが多かった。それが都道府県の差などで出てきたので、その辺はやはり......、支払権者がいらっしゃるので......。

 ドラッグ・ラグをなんとか解消することを......。会長がいまおっしゃったように、この中医協で認められるのであれば......、決めていただきたいなと考える。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 (冷ややかな口調で)それは今後の議論ということ。

 (適応外医薬品への)アクセスを短くするということの裏腹で、安全性の担保という問題とも絡んでくる。そのバランスをどう取っていくかということになる。

 無制約に決めるということは当然できないし、他の部局で決めなければいけない内容にどこまで踏み込めるかという問題もある。

 ま、それはそれとして(中医協では決められないが)議論はできるということなので、ぜひ積極的な議論をしていきたいと思う。
(略)

[安達秀樹委員(京都府医師会副会長)]
 会長がおっしゃったとおり、これだけの議題がある中の最後の一部で資料の整理だけなので......。

 恐らく、この案件だけで総会が1つ、この議題だけで議論していただかないと、あるいは1回で済まない話だと思うということをまず申し上げる。「これを早急にやりたい」ということをまずお願い申し上げたい

 この「55年通知」で一番大きいのは抗がん剤使用の問題。これについては(厚労省側の)説明に納得したように、再審査の終わった薬剤が対象。
 今の抗がん剤の新しい疾患への適応という実態には合わない通知なんですね。この通知でやるのは無理だということはもう......、確かにそうだろうと思う。

 ですから、「55年通知的なもの」が、がんの特性と抗がん薬の特性での、いわゆる臓器がん対象の適応症を超えたがんの横断的な適応の在り方についてどうかと、さらに必要なのかどうかということの議論が必要だということが1つ。

 もう1つは、公知申請にしても......。認められてからまた治験が必要になって、薬価収載されるまでに時間が掛かるところでまたタイムラグができる。

 実質上のドラッグ・ラグを生むという問題が起こり得るので、その場合、公知申請で行く場合に、そこのところを速やかに薬価収載できる方法論はあるのか、どこを変えればあり得るのかという具体的な事例はできれば次回、事務局(保険局医療課)に示していただければありがたい。

 もう1点は、抗がん剤の「55年通知」を超えた新たな問題とは別に、私が申し上げている「55年通知」そのものの問題がある。これは、現在の薬剤の使用法における用量の上限設定という問題。そのことを超えた使用についてどうするのか。

 これは現在の「55年通知」そのものの議論なので、これについてもこの際、一緒にきちっと結論を出す方向でやっていただきたいということをお願い申し上げておきたい。

[遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)]
 ありがとうございます。そういうことも含めてご議論いただきたいと思う。公知申請はあくまでも保険外併用療養の対象となっているということなので、保険収載するためにはまたその期間、ラグがあるというお話。

 はい、具体的な中身に入っているが、そういうことで今後ご議論いただきたいと思う。本日は共通の知識の認識ができたということで、私は非常に良かったのではないかと思う

遠藤久夫氏と言えば医療経済学者を名乗っていますけれども、医療アクセスの公平性を損なうという立場から混合診療反対派であり、低所得者は不利益を受けるという立場から医療費増大に否定的見解を示している方ですから、新規抗癌剤への保険医療適応などにはあまり熱心でないんだろうなとは想像がつくところではありますよね。
いずれにしても会長がこの調子である、そして厚労省としても別に積極的にやりましょうという気配でもないとなれば、嘉山先生なりがよほど尻を叩かなければ議論もおいそれと先に進まないんじゃないかと予想は出来ますけれども、このあたりは前回の中医協でも「癌患者の命がかかっている!」と積極推進派の嘉山先生らに対して、とりわけ支払い側代表である他委員には温度差も見られるところですから難しそうですよね。
遠藤会長自身が繰り返し「中医協で議論は出来るが、基準を作ることは出来ない」と語っているわけですが、逆に言えば基準を作る立場にある人たちが停滞する中医協を飛び越して決断することも可能だとも取れるわけで、結局推進派の人たちにとっては世間的にもっと大きな声を出してこの問題をアピールしていくのが一番の早道ということになるのでしょうか。

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