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2010年8月18日 (水)

どこの業界でも質の維持には四苦八苦しているようですが

司法試験のシステムが変わって法科大学院が乱立した結果、司法試験合格率が極端に低いロースクールが問題になったりだとか、突発的に発生した弁護士余りで弁護士の平均年収がわずか3年で以前の4割水準にまで急降下しただとか、あちらの業界も何かと最近賑やかですよね。
弁護士業界の急変ぶりがようやく社会的話題となってきた中で、先日読売新聞からこんな記事が出ていましたが、御覧になりましたでしょうか。

氷河期の弁護士…司法修習生4割が就職先未定(2010年8月13日読売新聞)

 今年末に司法修習を終える修習生の約4割の就職先が決まっていないことが、日本弁護士連合会の先月の調査でわかった。

 弁護士人口が急増して競争が激化し、法律事務所に新人を雇い入れる余裕がないためで、このままでは多数の新人弁護士が、不安定な独立開業に踏み切らざるを得ない状況だ。弁護士の活動分野を広げる努力も今まで以上に必要になっている。

 「もう70以上の事務所から採用を断られた」。弁護士希望の男性(34)は、昨年の司法試験に合格し、司法修習が終わる今年末以降の開業を目指すが、就職のめどが全く立たない。

 男性が思い描いていたのは、首都圏の法律事務所に入り、固定給をもらいながら、事務所が引き受けた案件を先輩弁護士とともに担当する「イソ弁(居候の弁護士)」。事務所で数年間経験を積み、取引先を開拓したうえで独立すれば収入の心配もないはずだった。

 男性は、「事務所の場所だけを借りる『軒弁(のきべん)』も考え始めた」という。これだと固定給は支給されず、依頼人探しも事務所は頼れない。法科大学院の奨学金など700万円以上を返済しなければならず、不安は募る。

 この男性と同期の司法修習生(約2000人)を対象に日弁連が先月調査したところ、回答した約1200人のうち43%の就職先が未定で、昨年の同時期の30%を大きく上回った。最終的に「イソ弁」「軒弁」にもなれず、いきなり独立開業した弁護士は昨年末の司法修習終了者で58人。日弁連は、こうした「ソクドク(即独)」の新人弁護士がさらに増加すると予想する。

 就職難の背景には、弁護士の急増がある。2000年以降、「国民への司法サービスを充実させる」とした司法制度改革で法曹人口の拡大が図られ、司法試験合格者は年間約1000人から2000人台に倍増。今年3月末の弁護士数は2万8789人で、10年前の1万7126人から1万人以上も増えた。日弁連の高橋理一郎副会長は「先輩からの指導がないまま開業するケースが増えると、市民の権利を守るという点で支障が生じる」と話している。

司法試験に通ったばかりで経験もない新米弁護士がいきなり借金を抱えて独立開業する、そうせざるを得ない状況に追い込まれつつあるということ自体がすでに恐ろしい話ですけれども、問題はそれが何を意味するかということです。
せっかく弁護士が増えたんだから田舎の自治体がある程度補助金を出してでも「おらが町の弁護士」を抱え込んで市民の用に供する、なんて話ならまだ健全で救いがありますが、多くの過剰人員は恐らく都市部で少しでも仕事がないかと徘徊しているはずですから、その結果多少?ヤバ目の仕事にでも手を出す人間が増えてくるのは当然ですよね。

日弁連、「過払い金」返還請求で規制強化へ(2010年8月14日産経新聞)

 払い過ぎた金利を貸金業者から取り戻す「過払い金」の返還請求で、債務整理を行う弁護士が法外な報酬を得たり、過剰な広告宣伝を行うなどの問題が多発していることを受け、日本弁護士連合会が規制強化に乗り出すことが13日、分かった。

 現在のガイドラインに強制力がないため、懲戒も科せる「規程」に格上げする。19日の理事会で詳細を詰め、弁護士業務の手数料などについて「原則、規制しない」とする公正取引委員会が規制強化を「独占禁止法違反に当たる」と判断しないよう調整に入る。日弁連は今年度内の臨時総会で承認したい考えだ。

 債務整理をめぐる顧客と手続きを代行する弁護士のトラブルが増えたのは、平成18年の最高裁判決による「グレーゾーン金利」の廃止がきっかけだ。「過払い金」の返還請求が急増した結果、日本貸金業協会によると、返還額など業界全体のコストは19年に約8500億円、20年に1兆120億円を超えた

 請求が増えるにつれ、顧客から「戻った金額が少ない。弁護士の手数料が高い」といった苦情が増加。昨年11月、全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会が行った電話相談によると全国から130件近い相談が寄せられた。今年3月、日弁連は債務整理事件に関するガイドラインを改正。弁護士に顧客との個別面談を義務づけ、手数料を説明するよう求めたが、実効性が課題になっていた。

 同様のガイドラインを5月に改正した日本司法書士会連合会も、懲戒を含む規制強化を検討している。

訴訟大国アメリカなどでは「弁護士=金の亡者」的なイメージが定着しているようですけれども、日本でもとうとうそんな社会になってきたのか?とも思わせるような記事ではありますよね。
ただここで注目していただきたいのが、2000年以降の一連の司法制度改革からわずかばかりの短期間で弁護士業界がこれほどの激変にさらされているということ、そして何よりこれだけ弁護士過剰だと大騒ぎされながら、未だにアメリカは元より欧州主要国より弁護士の数としては少ないという事実ですよね。
もちろん将来国内需要に対して非常にバランス良く弁護士が配置されるような安定的状況になればもう少し違ってくるのかも知れませんが、とりあえず少ないなりにバランスを保っていた弁護士業界にとっては一連の弁護士急増政策は、経済的にもモラル的にもかなり破壊的な衝撃となったとは言えるかと思います。

さて、今や有資格の専門職を急増させてみたら一気にワープア化したなんて話はあちこちから聞こえてきますけれども、難関をうたわれた医学部の世界においてもこのところの定員急増や地域枠等の特別枠導入によって入試難易度が降下中であるとか、医学部大量留年が問題になったりとかいった弊害が出てきているところで、やはりこちらも質をどう担保していくかは課題となりそうですよね。
別に多少試験の点数が低かろうが志のある学生が大勢来てくれた方がいいじゃないかという声もあるかも知れませんが、先の弁護士業界の例にも見られるように難関専門職における急な定員増加というと懸念されるのがモラルの低下というもので、安かろう悪かろうではいくら頭数が増えてもかえって医療のレベルが低下してしまうという危惧があるわけです。
そもそも地域枠というものは卒業後地域医療に従事するということで入試でもある程度優遇すると共に在学中の学費を支援する制度ですが、裏を返せばお金で将来を縛られるという現代の人買い制度でもありますから何とか義務逃れを図りたくなるのは人情としても、中にはちょっとした裏技的な逃げ道を使っているという事例もあるようですね。

医学部の地域枠、16大学で定員割れ…読売調査(2010年8月17日読売新聞)

 地域の医師不足解消を目的に、ここ数年急増した医学部の地域枠が、16大学で2010年度、定員割れだったことが読売新聞の調べでわかった。

 地域枠全体の定員から見ると9割以上確保できたが、地域によって明暗が分かれた。

 地域枠は主に、地元出身者を対象に推薦などで選抜し、奨学金と引き換えに一定期間の地域勤務を義務づける場合が多い。文部科学省によると、07年度には79大学中21大学(定員計173人)だったのが、地域の医師確保策として、10年度には(入学後に希望者を募る方式も含む)65大学(同1076人)に急増。医学部の全入学定員(約8800人)の1割以上を占める。

 調べでは10年度、16大学で募集定員に満たず、不足分は計80人だった。不足分は一般枠の合格者を増やすなどして対応していた。長崎大では5人の地域枠に3人しか志願がなく、合格者はゼロ。宮崎大では10人の枠に24人が志願したが、センター試験の成績が合格ラインに達せず、合格者は2人だった。定員通りの合格者を出したが、入学を辞退され結果としてゼロという大学があったほか、定員には達したものの、合格後に奨学金を辞退した例のあった大学が複数あった

 入学定員(約110人)の半分近くを地域枠に充てている旭川医大は、募集50人に合格者は22人だった。吉田晃敏学長は「地域枠は、地元の学生を大切にしているメッセージとして意義がある。今後も続けたい」と、11年度から合格基準を引き下げて確保に努める考えだ。

 医学教育に詳しい平出敦・近畿大医学部教授は「入学前に地域勤務を約束させるより、入学後に地域の現場を体験させて、希望者を育てることが大切ではないか」と指摘している。

地域枠が埋まらないこと自体は人生の選択ですから、おいそれと一時のお金で他人に人生を売り渡してはならないと考える真っ当な学生が多いということの現れなのでしょうが、問題は地域枠に応募する学生=通常の入試では合格ラインに達しない水準の学生という構図がすでに出来上がっていること、そして何とか水増しして合格をさせたものの奨学金供与を辞退された例が結構あるという点ですよね。
一見するとせっかく地域枠で合格したのにもったいないと思うかも知れませんが、いわば地域枠の低い合格ラインだけを利用して入学した上で、奨学金供与による将来の勤務地縛りという義務だけは回避しているのだとすれば、これは制度の盲点を突いてなかなかうまい裏技?を考えたものだと率直に感心しますが、世間的にどう受け止められるかでしょう。
今後こういう「おいしいとこ取り」のケースが増えてくるようですと何かしらのペナルティ(最悪、合格取り消し?)なども検討されるようになるかも知れませんし、医学生の試験の点数がいくらか下がるくらいならともかくせっかく地域枠まで作ったのに医者は来ないとなれば、世渡り上手ばかりが医者になってくれても困るなあと考える国民も結構いるかも知れないという視点は持っておくべきなんでしょうね。

いずれにしても未だ現場では医師余りなんて状況にはないし、仮にそうなるとしても少なくとも数年先以降となりそうですが、すでに医学教育を行う大学の側ではそろそろ学部定員増加はキャパシティー的にも質の維持的にも限界だという声が上がり始めているようです。
そうなると医師不足の現場にどれくらい行ってくれるか判らない盲目的な学生の数的拡大はもうこれくらいにして、これからは少しでも臨床現場で役立つような使える人材をどう育てていくかということが重要じゃないかという声もあって良いと思いますが、医学教育を担当する側からこんな意見が出ているという話を紹介しておきましょう。

マジに(2010年8月14日ブログ記事)

東京居残り組の友人の教授2名と、いとものPetit飲み会ならぬGuchi飲み会。

その際、「看護師の医大へ入れる補助制度」の話しを切り出し、
自分の考えを長々と説明
(中略)
最初はそれは無理だと言っていた二人も、最後はやってみようかと説得
名前も仮称ながら「ドクトル・ナース・プロジェクト」

その理由は、

1.大学病院(含む系列)で働く看護師の目標となる。
2.院内推薦とすることにより、看護レベルの向上が期待出来る。
3.試験内容は簡単な筆記テストと教授会の3回ほどの面接(これまでの勤務評価と面接が主)。
4.定員は3名として、2名は大学病院&系列病院、1名は公募。
5・待遇は入学金、学費免除。別途MBIの奨学金給付を依頼予定。

4番の公募としたのは文部科学省の関係で学長推薦が関係先だけだと難しいため。
5番のMBIの奨学金は元々専門医教育で海外留学する際の給付。今回、その転用を
お願いしてみる事に

出来るか、出来ないか?
判りませんが、やらねば始まらないとのことで
休み明けから、全員(でもたったの3名)でプロジェクト始動。

真夏の夢で終わらないように
頑張らなくては

「大学病院で働く看護師の目標となる」よう院内推薦とするというくらいですから、基本的に大学病院にいるような看護師をターゲットにしているんでしょうが、その時点でどうだかねえ…と首をひねりたくなる人も大勢いるのやも知れず、ですかねえ?
ブログ主のBlackJack先生がどれほど本気で言っていることかは判りませんけれども、下手に入試の偏差値だけで使えるかどうか判らない学生を取るくらいなら、ある程度現場で使えることが判っているコメディカルスタッフからでも引き抜いた方がマシじゃないかという意見が世に一定の支持を得ているらしいことは、例えば特定看護師制度が導入に向けて着々と話が進んでいることを見ても判りますよね。
特に最近では高い技能や知識を持っていても「いやもう俺は老健管理者でいいや」なんて先生も増えていますから、それだったら多少個々のスペックは低めでも確実な実働が期待できるメンツで固めた方が、現場の医療の質を保つという意味ではより有効だも言えるでしょうから、そもそも質が高い、低いと言う場合の質とは単に個人の質か、それとも組織としての質かという議論もまた必要なのでしょうね。

個人的に考えるところではひたすら個々の医者に求める質的要求水準を高めるばかりですと、いずれ普通の人間にはおいそれと手の出せない特殊な人々の業界になってしまいかねない危惧もあって、今後当分の間医療への社会的需要は増える一方だろうと予想される中で、ごく例外的で特殊な人間にしか関われない閉鎖的な業界になってしまうというのは非常にリスキーな話だと思います。
例えば医療事故などの原因を調べていくと、最終的にもっと高いレベルの注意を払うべきだったなんて結論に陥りがちですが、本来であれば人命がかかってバタバタしている余裕のない現場でも取り間違えることのないような平易なシステム構築をこそ目指すべきであって、その意味で現場にちょっと危なっかしい人々が大挙して押しかけてくるというのは業界内部の構造改革を図る好機でもあるはずなんですよね。
個々の能力が粒ぞろいで大抵のことには対処できてしまうが故に、日常的にちょっと働きにくいんだけどまあ何とかなるからと放置されてきたところがあちこち見直されるようになって、慎重に意識を集中してやっていた作業が鼻歌交じりでこなせるようになれば、それだけでも平均的な医療の質というものはずいぶんと上がりそうに思います。
何より優秀なスタッフにしてもそんな職場の方がストレスなく気分良く働けるだろうということは想像できるところで、こういう外圧もうまく現場の状況改善に結びつけられるというのであれば、決して悪いことばかりではないということですかね。

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