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2010年7月13日 (火)

医者余りの時代のコスト意識

今さらの話でもないのですが、最近相次いでこういう記事が出ていたのを御覧になった方も多いのではないかと思いますね。
一足先に崩壊してしまったこういう他業界での話を見ると、某大先生らの言うことを黙って聞いているといったい医療の世界はどうなるのかと不安に駆られる人も多いんじゃないかと思いますが、一応今日のテーマはそちらの話ではないんですね。

私立大11歯学部が定員割れ 17学部中、5割以下も(2010年7月8日47ニュース)

 私立大歯学部の17学部のうち11学部で、今春の入学者が定員を下回ったことが8日、日本私立歯科大学協会のまとめで分かった。17学部全体の定員充足率も昨春より10・7ポイント減の78・7%で、2学部は充足率が50%を割った

 協会は定員割れが進んだ原因について「不況で高額な学費負担ができないことや、歯科医師の過剰などのイメージが広がったため」と分析している。

 協会によると、2010年度入試の募集定員は1891人(09年度より13人減)で、入学者は1489人(同213人減)だった。

 09年度も11学部が定員割れだったが、5学部は90%以上の充足率を保っていた。しかし、10年度は11学部全部が90%を割り、定員割れが進んだ。

 歯学部の定員充足率を大学別でみると、奥羽大の33・3%が最も低く、松本歯科大の43・8%、北海道医療大50・0%、鶴見大59・4%と続き、4校が6割を切った。

 定員を満たしたのは昭和大や愛知学院大など大都市圏の大学が中心だった。

 文部科学省は「大学に適正な入学定員を求めていきたい」としている。

法科大学院、定員減が必要 法務、文科検証チーム(2010年7月6日4日47ニュース)

 法曹養成制度の在り方を検証する法務省と文部科学省のワーキングチームが6日、法科大学院の入学定員の見直しや統廃合が必要との方向性をあらためて示す検証結果を公表した。

 チームの座長を務める両省の副大臣が同日に会見。加藤公一法務副大臣は検証結果をたたき台に、公開の場で解決策を議論していく方針を明らかにした。鈴木寛文科副大臣は、2010年度は全国74校の総入学定員を前年比15%減の4909人に削減したと指摘。「来年度も引き続き見直しをしていく」と話した。

 検証結果では法科大学院に対し「入学定員のさらなる見直しや統廃合が必要」と指摘。補助金の削減や、教員派遣の中止も検討すべきだとの意見が報告された。

 法科大学院をめぐっては、中央教育審議会の特別委員会が昨年4月、入学定員の削減などを求めた最終報告書を了承。これを受け、各校が削減したが、今春も定員割れが相次いだ

歯科医にしろ弁護士にしろ、近年もっと増やせ!どんどん増やせ!と養成数を大幅に増加させた結果がこういう現状になっていることは今や周知の事実ですが、興味深いのは卒業後の就職難、ワープア化といった事態もさることながら、あっという間に入学定員割れなどという事態にまで至っているということですよね。
それだけ今の学生はきちんと情報を集め、将来に対してそれなりに展望を持って進路を選択していると言うことも出来るかと思いますが、一方で定員割れを来している学校というと歴史もなく、入学偏差値も国家試験の合格率も低い、いわゆる底辺と呼ばれる新設校に目立つという事実も注目すべきかなと思います。
国試にさえ通れば胸を張って仕事が出来る資格職であるわけですから、入試が楽な方がいいじゃないかという考え方もあるかも知れませんが、実際に国試合格率の極めて低いところで高い学費を払ってまで進学するのは勇気がいるということも理解できる話で、そうなりますと昨今新設議論の盛んな医学部においても早晩同様の事態が発生するのか…とも懸念されますよね。

ところで「儲からない、儲からないと言ってるけど、それは今までの水準と比較しての話で、世間と比べればまだまだ高所得だろ?」という意見もありますが、実際に彼らのワープア化とはどの程度のものなのかと下世話な興味もわくところです。
ちょうど先日若手弁護士を直撃した記事が出ていまして、その当たりの実情を知る上でもなかなか興味深いなと思ったので、長い記事の中から冒頭部分だけでも紹介させていただきましょう。

実録 「弁護士は儲からない」(2010年7月9日現代ビジネス)より抜粋

 年収1000万円を優に超える、リッチな生活。高い学費を払い、苦学の末に手に入れた金のバッジは、勝ち組人生へのチケットだったはずだ。しかし、取材に協力してくれた現場の弁護士は、口を揃えて「儲からない」と言う。謙遜かと思いきや、事態はこんなに深刻だった。

「正義のために働きたいという気持ちの裏に、『おカネが儲かって、勝ち組になれる』という打算があったのも事実です。

でも、現実はまるで違いました。現在の私は、年収500万円で200万円の借金を抱える多重債務者です。ロースクール時代の借金を未だに返済できず、"ボス弁"から振られた雑用をクタクタになってこなしながら、爪に火を点すような生活を送る—そんな毎日を繰り返しています。

今は我慢の時だと自分に言い聞かせていますが、気持ちが折れそうになることもたびたびです」

 都内の弁護士事務所で"イソ弁"をしているAさん(28歳)は、そう呟いて下を向いた。

 サラリーマンを辞めて弁護士を志し、今年資格を得たばかりのBさん(32歳)の名刺には、090で始まる携帯電話の番号が印刷されていた。固定電話の番号ではない。事務所を持たず、携帯電話1本で仕事をしているからだ。

「就活で50軒ほど法律事務所を回りましたが、想像を絶する就職難で、まったく決まりませんでした。でも奨学金の返済はあるし、食い扶持も稼がなくてはならない。そこで、やむなく携帯1本で独立することにしたんです。

 仕事? ほとんど入りません。今は債務整理を3本ほど抱えているだけ。この業界はコネが命です。みんなが就職したがるのも、"ボス弁"から仕事を振られたり、クライアントを紹介してもらえるから。月収はいい時で30万円程度。カツカツですよ」

 高い収入とステータス。数ある士業(さむらいぎょう)の中でも、"高嶺の花"だった弁護士業に、大異変が起きている---。といっても、きっとあなたはピンとこないだろう。

 AさんやBさんのような弁護士はごく一部で、大部分の弁護士はリッチな暮らしをしているはずだ、と。しかし、そんなイメージは、もはや古き良き時代の幻想に過ぎないのだ。

生きるだけで精一杯

 小泉政権下の'01年、司法制度改革推進法で法律家の大幅増員が決められて以降、弁護士の数は年々増加の一途をたどってきた。国民へ十分な司法サービスを提供するためだ。'95年に1万5000人程度だった弁護士は、'09年には約2万7000人と倍近くに膨れあがった。政府は今後も司法試験の合格者数を毎年3000人程度まで増やしていく予定だ('09年の合格者は約2000人)。

 一方、当初の計画に反して、訴訟件数は減少傾向にある。

 弁護士が新たに受任した訴訟件数は、'04年は574万件だったが、'08年には443万件と、2割以上も減少。結果、増えすぎた弁護士が仕事にあぶれる状況が生まれているのだ。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、'05年の弁護士の平均収入は2097万円だったが、'08年には 801.2万円に減っている
(略)

どの程度が生きるに精一杯の年収かと言うことは諸説あると思いますが、とりあえず厚労省の調査でわずか三年間で年収平均値が2000万円超から800万円にまで激減しているというのは、ちょっとにわかには信じがたいような話ですよね。
一般的に考えて旧制度下で司法試験に合格してすでに活動していたベテラン弁護士達はある程度顧客も確保していてそうまで大きな年収変動もないでしょうから、それでは新司法試験合格世代はいったいどんな生活をしているのかと考えさせられる話です。
ちなみに訴訟件数が減っているというのは司法の業界的には良いことなのか悪いことなのか微妙ですが、少なくとも今のところは食っていくためにどんな仕事でもなりふり構わずといった事態には至っていないようで、他業界の人間としては弁護士のモラルに未だ期待しておいてよいのかと感じる話ですが、今日考えたいのは弁護士のような高度な専門職がお金の問題であまり追い詰められるとどうなるのかということです。

今年の司法修習生はまだ半分近くが就職先すら決まっていないだとか、ネットカフェに寝泊まりして携帯一本でやっている弁護士がいるだとか、記事にもなかなかすごい話が出て来ますけれども、各事務所が新規採用を実質停止しているということですから、いきなり独立して自前で仕事を取ってくるしかない新人達がどんどん増えていくわけですよね。
事務所採用なら年収300万どころか200万円でも募集がある、それどころが月額10万ボーナスなしで事務員並の雑用仕事という求人でも人が来ると言いますから、多くの新人弁護士がほぼ定収入がない状態で何とか口を糊しているという状況ではないかと想像できます。
司法修習生の半数が平均300万円超の借金を抱えていると言いますが、今度から修習生に出ていた給食費(国からの生活補助)が貸し付け制になってさらに借金が雪だるま式に膨らんでいく、そして弁護士の場合は日弁連に強制加入ですから毎月数万円の会費を支払わなければならないと言うことですから、これはどうしたって仕事を選んでいられるような状況にはなくなってくるはずでしょう。

こうした急な定員増が果たしていいことなのかどうかはまた議論のあるところでしょうが、とりあえず人間食っていくためには何かしら仕事をしなければならないし、高度な専門職になるほど往々にして潰しが効きにくくなる以上、こういう状況になると業界内でのニッチなマーケットを開拓していかなければ生き残れない人が今後増えていくんだろうなという予測は出来るんじゃないでしょうか。
近年の医療訴訟の増加で言われることに、「新司法試験で市場に余った弁護士がどっと医療訴訟に流入してくるのでは?」なんて話もありましたが、診察室から暗い顔で出てきた患者に弁護士が駆け寄っていく、なんて話も以前は笑い話で済んでいましたが、今の時代決してネタとも言い切れません。
もちろんこうしたことは医療に限らない話であって、要するに今までだったら勝ち負けであるとか社会正義の観点からそれはいささかどうよ?と弁護士レベルで思いとどまらせていただろう無理筋の訴訟であっても、目先の弁護士報酬欲しさに手を出してくるということが増えてくるんじゃないかと言うことですよね。

こういう状況を決して人ごとではないと思うのは、たとえばすでに競争厳しい歯科の世界でも時折まともな説明もなしに高い治療をされた!なんて騒ぎになっていることがありますけれども、医療業界においても混合診療導入がすでに既定路線と言われ、残るはいつから、どの程度といった部分をつめる作業だけだともささやかれているわけで、ただでさえ経営的に青息吐息の医療側がこれをどう捉えるかということです。
今のところ混合診療というと先端的な医療を中心に導入していく方向のようですが、たとえば「標準的な医療では奏効率50%、しかし海外で行われているこの方法では70%というデータがあります。保険が効かないので多少お高くなりますが…」なんてことを言われて、果たして命がかかった局面で「いやボクはエコノミーコースで結構」と言える人間がどれくらいいるかという懸念は以前から言われています。
幸いにも?皆保険制度下でお金の問題を考えずに医療を行うことに慣らされた日本の多くの医者達は、今のところ医療をすすめるにあたって病院の収益がどうとか言うことはあまり考えずにやっていますけれども、昨今何かと収益改善とうるさい事務方などから「先生、困りますなぁ。今月の売り上げが落ちてるじゃありませんか」なんて責められ続ければ、いつ何時経営努力に目覚めないとも限りませんよね(苦笑)。

医療の場合原価率も高いですし(それに比べて技術料の安いこと安いこと…)、別に高い料金を取るからぼったくりだとか言うわけでもなくて、むしろ移植など高額な医療ほど病院は大赤字なんてことの方が多いわけですが、逆に同じような治療効果の見込める中でも儲かるやり方、あまり儲からないやり方というのはあるわけで、医者がそうしたことを重視するようになった時に日本の医療がどうなっていくのか。
世間ではことあるごとに「医療現場ももっとコスト意識を持たなければ!」なんてことを言いますが、「シリンジ一本○円!針一本△円!無駄遣い厳禁!」なんて張り出して倹約を促すのがコスト意識というわけではなく、本当は「どっちの方法を選んでも間違えではない」といった局面での医者の裁量の部分にこそコスト意識を働かせる余地があるはずなのですし、今後医者がそこに目覚めると何がどう変わるのかです。
実際に昨今では未保険者の増加や医療費未払い問題が結構大きなことになっていますけれども、地域的にそうした顧客層が多い施設の先生なんかに話を聞くと「いかに損をしないか」というテクニックを豊富に持っていたりして、なるほどそういうやり方があったかと蒙を啓かれるということもままあるものですが、逆に見ればいざとなればそれくらいの適応が出来るくらいの柔軟性は現場にあるということですよね。

別に病院が損をしないように工夫するということと顧客たる患者が損をするということはイコールでも何でもないわけで、うまくするとお互いwin-winの関係に持って行ける可能性は十分あるだろうし、もちろんあくどく儲けるやり方も古今東西幾らでも実例があるわけですから、結局どこまでを健全な経営努力と考えるべきか、どこから先をインモラルな行為と見なすかの基準を、今後業界内外でどれくらい摺り合わせていけるかですかね。
治療成績が同じなら安上がりな方がいいじゃないか!なんて簡単に言えるほど医療の世界はシンプルでもないだけに、最終的に個人個人のものの考え方になってしまうのかも知れませんが、いずれにしてもそろそろ医者の側からもモラルなどの面も含めて、もう少しシステマチックにコストというものを捉えた医療のやり方を考えていくべき時代ではあるのかなとは感じています。
もちろん医学部定員大幅増で今後医者人口もどんどん増えていくことが予想される、弁護士や歯科医など他業界の先例を見ても国はとことんまで増やしきってしまうだろうとは予想されますから、医者個人にとってもコスト意識が自分の生活に直結していく時代が来るだろうし、特に開業の先生には早晩死活問題ともなりかねないですよね。

しかし現実問題として大学や卒後研修で医療のコスト計算がどうだ、利益率を考えた医療とはこうだなんてことを叩き込むような時代がすぐに来るとも思いませんが、日本の医者が本気でコスト意識に目覚めた時にいったいどんな医療が行われるようになっていくのか、何やらちょっと怖いような見てみたいような気がするのは自分だけでしょうか(苦笑)。

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コメント

まさに「菊花病院・地中海病院」ですね。

ただ、弁護士さんたちですが、こういう状況下でも意外と裁判官・検察官に向かう人が少ないようで、その辺が微妙に不思議ですね。

投稿: | 2010年7月13日 (火) 11時41分

検察や裁判官って公務員だから定員があるのではないですか?

投稿: | 2010年7月13日 (火) 12時47分

デスクワークのような楽して飯を食おうという発想が通用しなくなる時代に入りつつあるのかも知れませんね。自分で土地を耕し作物を作る。汗をかきながら働き、自然や食べ物の有難さを感じる。そういう人達が増えていく時代になるのでしょう。

投稿: ぽんぽん | 2010年7月13日 (火) 13時04分

単に食っていくためと言うだけの仕事で皆がやりだしたらゾロだらけの場末のクリみたいな感じになるかな(笑)

投稿: | 2010年7月14日 (水) 09時33分

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