« 村上先生もいつもの饒舌ぶりに似あわず妙に口がかたいのですが | トップページ | 世界に広がるテロとの戦い »

2010年6月 8日 (火)

村上先生、(予定より早く)吠える!

昨日も取り上げました夕張市は村上先生の診療所での自殺者搬送問題ですが、ちょうど昨日JBpress宛てに送られた村上先生の反論の手記が公開されたということで、わざわざご紹介いただきましたGoonerさん、ありがとうございます。
しかし相当な長文であるこの反論の手記なるもの、やはりこうして読んでみても確かにごもっともという内容ではあるものの、ほとんどが一般論としての診療所の状況を語るばかりで、今回の事例におけるメディア報道への反論としてはやや未整理な印象がありますよね(それだけ溜まっているということなのでしょうか?)。
とりわけ朝日新聞の記者と名指しで「自作自演」とまで言い切った事情がよく分からないのは隔靴掻痒の感がありますが、まずは今回の事件に関わる事実関係の部分についてだけ抜き書きしてみましょう(元記事の原文の方も併せてご一読されることをおすすめします)。

なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか 北海道・夕張の村上医師が救急対応の報道に反論(2010年6月7日JBpress)より抜粋

(略)
 2007年、夕張市の財政破綻に伴い、夕張市総合病院が経営破綻しました。
 夕張市総合病院の応援医として働いていた私は医療法人財団「夕張希望の杜」を立ち上げて、病院の経営再建と地域医療の継続を図ることにしました。
 破綻した夕張市立総合病院の建物を借りて、2007年4月に公設民営方式の指定管理者として夕張医療センターの運営を開始したのです。

指定管理の条件は、夕張市からの資金援助を一切受けないこと、そして19床の有床診療所と40床の老人保健施設を運営することでした。
 夕張医療センターの本来の仕事は、在宅支援診療所として、120軒の在宅患者さんや40床の老人保健施設、かかりつけの患者さん、委託されている 110床の特別養護老人ホームとグループホームを、24時間体制で電話対応も含めてケアすることです。

救急医療や在宅医療等は、センターの本来の仕事には全く入っていないのです。

この3年間、ボランティアで救急を受け入れてきた

 「地域医療」というと、いかに救急患者の受け入れ体制を確保するかがよく問題になります。(略)そして、患者を受け入れる病院は「救急指定病院」である必要があります。
 ところが、夕張市の救急の予算は年間120万円しかありません。その予算でさえ医師会の事務職員の人件費として消えていますので、実質「ゼロ」です(略)
 また、夕張医療センターは「救急指定病院」ではありません。おまけに救急医療は不採算部門です。
 そのため、私たちはこの3年間、ボランティアで救急を受け入れてきました
(略)

 特に今年の4月から、夕張医療センターの常勤医は私1人しかいません。(略)
 1人体制になってしまったことから、3月の段階で市長や副市長や担当者に、「救急を今後従来通り受け入れることは難しい」ことを説明しました。同時に、「夕張医療センターを救急指定病院にしたい場合はキチンと予算を取り、労働基準法に反しない条件を契約書にも明記すべきです」という提案もしてあります。

 4月には市内で救急に関する会議があり、その席でも救急隊や医師会、行政担当者に対して、その旨を伝えてありました
 しかし、私たちが言うことはほとんど受け入れられることなく、指定管理者の条件にはない救急医療を強要され、ボランティアでやってきた部分は評価されず、それをやらないなら出ていけ、という話になっています。

心肺停止状態の患者を小さな診療所で受け入れられるか

 今回、救急搬送の受け入れ要請があった患者さんは心肺停止状態(CPA)でした。
 患者さんがCPAとなった場合、一刻も早く病院に搬送するというのは正解ですが、設備もスタッフも少ない診療所で対応するのは無理な話です。
 救急のマニュアルでも、CPAの原因となる心筋梗塞や脳卒中の場合は専門の施設にできるだけ早く運ぶことが大切だとされています。地元の診療所に寄ることは、場合によっては時間のロスになるのです。

 昨年の9月に、やはり夕張で中学生の首つり自殺があり、心肺停止の状態で夕張医療センターに救急搬送の受け入れ要請がありました。
 この時には朝日新聞(北海道の支局)の記者の「とにかく謝るべきだ」という強い要望に従って、受け入れなかったことを謝罪しましたが、本当は若い方ならばなおさらヘリを呼んでもいいから、道内に9カ所ある救命救急センターに搬送すべきというのが私の意見でした。
 結局、朝日新聞の記者は「自作自演」のような記事を書き、医療機関を非難してセンセーショナルに記事を書くことを自慢して歩いています。

マスコミと行政が医療崩壊を助長している

 常勤医が1人だけになった4月から今までの2カ月間、私は週末も含めて夕張から出ることもなく、ほぼ毎日当直をしています。労働基準法に違反しながらも、可能であれば救急車も受け入れていました
 しかし、そのようなことは今回の報道ではまったく問題にされず、逆に「何度か受け入れていたんだから、今回も受け入れられる」という論法になっています。
 特に、今回の北海道新聞の報道で一番問題なのは、私本人には一切の取材はなく、一方的に行政の話を基に報道していることです。他の新聞社も同様です。十分な取材をすることなく、検証なしで報道しています。
(略)

 行政の対応にも大いに問題があります。
 今回のような自殺は病気ではありません。うつ病対策等の行政の取り組みが大切なのであって、救急医療を充実させても自殺は減りません
 私は昨年秋から自殺予防に関する取り組みをするよう市に要望していましたが、一切行われていません(今回の報道では、言い訳するかのように夕張市が自殺対策を始めたと書いてありました)。

 要するに今回の報道は、北海道新聞の記者が「抜く」ことだけを考えて報道し、また、夕張市が自分たちの怠慢の責任を医療に押し付けただけの話です。
(略)

破綻前と何も変わらない夕張市の上層部

 夕張市には夕張医療センターを含めて医療機関が5カ所あります。隣町の栗山赤十字病院まで車で30 分、岩見沢市立総合病院まで40~50分、札幌市まで1時間と、決して陸の孤島ではありません。
 私は数年前から「市内の医療機関や近隣の後方病院などと連携を取れるように、市の方で調整してほしい」といったことを市に提案してきました。
 しかし、市の対応は全く進んでいません。「現状維持」「先送り」といった破綻前の習慣を続けているのです。市役所の上層部は、相変わらず破綻前と同じです。
(略)

あらら、マスコミはともかく、ここまで正面きって市当局に喧嘩を売っているわけですから、村上先生もよほど自分の夕張市内での立場に自信があるということなんでしょうけれどもね。

昨年の中学生首吊り事例の際に朝日新聞の記事によれば、村上医師は情報伝達の不備があり残念とコメントしたことになっていますけれども、要するにこの際のコメントは朝日新聞の記者に「言わされた」のだと言うことなのでしょうか。
一方で村上医師はかねてCPAに関しては直近の医療機関で早急に対応すべしと講演などで説いていたということになっていますが、今回の反論文を見るとむしろ逆にヘリを飛ばしてでも早急に高次医療機関に直行すべきであると言うのが持論のようで、そうしますとCPAに関する一次処置は全て搬送する救急隊が担当するべきであると言うことになりますよね。
もちろん診療所レベルで対応可能な範囲を考えてもそれが本来望ましいことではあるのでしょうが、自ら救急予算実質ゼロと言う夕張市の救急態勢にそれをやれと公言してしまうのは、夕張市に雇われているわけでもない村上先生の立場上は別段非難されるようなことでもないのかも知れませんが、少しばかり突き放した印象は受けるところですよね。

そして今回の反論文の中で最も注目されるべきなのは今春から診療所が一人態勢になった、これを受けて今後救急を受けることは難しいと市当局、救急隊、医師会など関係各所を前に公言していましたと言うくだりで、村上先生とすればここまで言っているのに搬送してこようとする方が悪いと言いたくなる事情ではあったのでしょう。
しかしよくよく見てみますとその後段では「私たちが言うことはほとんど受け入れられることなく、指定管理者の条件にはない救急医療を強要され」ていたということになっていたと言いますから、要するに村上先生の主張は市や救急隊の受け入れるところとはならなかったと言うことが判るわけです。
つまり村上先生としては法令違反のボランティアを継続するか、「それをやらないなら出て」いくかという二択を迫られている状況であったと推測されますが、今に至るも出て行く意志などない以上、周囲からはボランテクア継続を(その是非はともかくとして)決めたんだなと受け止められても仕方がない部分はあったでしょうし、その意味では今回もやはり情報伝達の不備があったということなのでしょうか。

さて、今回の一件は相当に大きな反響があったということのようで、村上先生も急遽「反響が大きかったので金曜日配信予定だったメルマガを臨時号で配信しました」と言っているようです。
内容の方は記事ともかなり被る部分がありますけれども、こちらの方がマスコミ各社や市当局の対応に関わる情報などが詳しく書かれていて論旨も分かりやすく、またなかなか興味深い内容も含まれているようですよね。

【夕張希望の杜の毎日】臨時号 救急搬送拒否報道に対する反論(2010年6月7日メールマガジン)より抜粋

◇ 2.救急搬送拒否報道に対する反論  村上智彦

6月2日の北海道新聞で夕張医療センターが救急搬送を断って、後日それに対して市長が遺憾の意を表明した件ついて、私なりに説明させていただきます。

まず、今回の報道では私自身は一切取材を受けていません

北海道新聞の記者に確認したところ
取材を申し込んだが事務で断られたので、市に取材してそれを書いただけ
との答えでした。

つまり内容を検証したり、事実確認をしないで報道して、他のマスコミも同様に報道しています。

夕張医療センターの常勤医は私一人ですので、確かに取材を受ける時間は限られていますが、私は来た取材を拒否した事はなく、時間があれば受けるようにしています。

市長さんの会見も、会見前には私に一切の話はなく、会見後に事情を聴きに来ています。その席でも

1人で受けられない事は分かるが、重症者は受けてほしい
以前には受けると言った
他には受けた事もあるのだから受けれたはずだ」等 
総務課長を筆頭にどう考えても意図的なものを感じてしまいます。

1人で365日24時間重症者を受ける事は不可能ですし、診療所ですから時間外に検査等も出来ないし、人も少ない状況です。

夕張市には医療機関は5か所あり、全て診療所ですので重症の方は周辺の医療機関に搬送します。

救急車で隣町の栗山赤十字病院まで20分位、岩見沢市立総合病院まで30-40分、札幌まで1時間と、夕張市が陸の孤島という訳ではありませんし、周囲の医療機関もとても協力的で受け入れて下さっています。

後は市がどう連携するかの問題だと思います。

夕張医療センターは公設民営方式で私達が指定管理者として運営していますが、そもそも契約上は有床診療所と老人保健施設の維持・運営を委託されていますが、救急医療や在宅医療は契約には入っていないのが事実ですし、それを決めたのも夕張市です。

その事についても以前から「市の責任として救急体制を考えて、指定管理の契約も見直して充分な予算を取ってやってほしい」と要望していました。

4月から夕張医療センターは医師1人体制になっています。
診療所ですから珍しい事ではありませんし、運営上必要な事でした。

しかし、19床の入院病床を持ち、120軒の在宅医療、110床の特別養護老人ホームや複数のグループホームの嘱託医、かかりつけ患者や観光客の時間外対応等をやっていますので、重症の救急患者の受け入れは物理的に無理な状態です。(完全に労働基準法違反になります。)

実際4月からの2ヶ月間、講演等で外に出る週末以外は毎日1人で当直していますので、買い物にも不自由する状態で、夕張から出られない状況が当面は続きます。

その事は1人体制となる4月以前に市長や市の担当者の方に話をしてありますし、4月に医師会、救急隊、行政が参加して実施された救急医療の会議でも説明し、皆さんが認識していました。
(略)

そんな中でボランティアでも可能な限り救急を受けていましたし、時間外にも対応していたのですが、ここの施設では受けられないと判断して後方病院への搬送を指示すると「拒否した」と言われてしまいます。

以前は救急指定病院で総合病院だったかもしれませんが、今は医師1人体制の診療所ですから、主たる機能は時間内の外来や在宅医療、老人保健施設の運営や地域包括ケアです。

そして、その総合病院を破綻させたのは私ではありません

心肺停止状態(CPA)になる様な病気は心筋梗塞や脳卒中が代表ですが、夕張市の様に周囲に専門病院がある場合そこへ出来るだけ早く搬送するのが大切だと私は思っています

また、今回の様に自殺である場合、これは病気ではなく、殆どの場合死亡診断ではなく検案になりますので、医療より警察の問題になる事が多いと思います。
(略)

昨年の中学生の自殺の時に「自分の判断ミスを認めて謝罪した」と言われていますが、これは夕張の朝日新聞の記者が「そう言わないとお前は出ていく事になるぞ!」等と何度も電話をかけてきて無理やり記事にした事です。

私自身は「若い方なのでヘリを呼んででも高度な医療が出来る施設に搬送すべきだ」と判断して、後方病院への搬送を指示したのが実際のところです。

要するに市や夕張市のマスコミも総合病院時代の時代の対応をしないと批判し、予算は出さないけど口は出し、責任は取りたくないというのが本音だと思いますが、このやり方は破綻した時のやり方ではないでしょうか。

私は同じ過ちを繰り返したくないので、今後も以前の悲惨な状況に戻す努力はしたくはありません。

この事で夕張市の医療がまた破綻しても誰も責任を取らないので、とても無責任だと思いますし、そうやって医療崩壊が助長されてきたと思っています。

私達は民間の法人ですから今回の件で風評被害が出た場合には、夕張市の雇用を守るためにも法的手段に出るつもりです。
報道する側にも責任がある事だと思います。
(略)
問題なのは破綻させた事に責任がある立場の人達が、また以前のやり方に拘っていて、マスコミと一緒になって誰かのせいにしている事です。

いつもより長くなりましたが、これが現時点での私の意見です。

夕張へ来てから全く同じ考えでやっていますし、今後も変える事はありません。今後も破綻を受け入れて自ら立ち上がって夕張で頑張る人達を支えていくつもりです。

 医療法人財団 夕張希望の杜
  理事長 村上智彦

これを読んで個人的に思うことには、一方では民間施設なんだから公立病院の頃の感覚でいてもらっても困ると主張し、他方ではいかにも公立病院長のような顔で市の医療行政に意見するというのは、いささかダブスタと受け取られるではないのかと感じられるところですかね。
公設民営とは言っても市の方では市の関連施設の責任者という扱いで村上先生を見ている側面がありありなわけですから、それが嫌だと言うのであれば「センターの本来の仕事」と無関係なところに口を出すことも止めるべきだったように思います。
村上先生とすれば僻地医療のプロフェッショナルとして色々と言いたいことはあるでしょうから、こういう周囲の「誤解」に基づくポジションが何かと都合がいいという側面もあったのでしょうが、一面でそれは「おいしいところ取り」と批判される余地を残したということではないでしょうか。

しかし「19床の入院病床を持ち、120軒の在宅医療、110床の特別養護老人ホームや複数のグループホームの嘱託医、かかりつけ患者や観光客の時間外対応等をやって」いるだけでも十分労基法の限界を超えていると思われますから、それ以上の仕事は全てrejectで良いのではないかと思うのですが、徹底されていなかったのが問題の根本だったようですよね。
実際に村上先生個人はかかりつけ患者以外の救急を取る意志がないとHPにも明記しているくらいなのに、下手に仏心を出してボランティアで受け入れてみたりするものですから、救急隊の方でも「もしかしたら今回も受け入れられるかも」と判断の余地が生じるわけで、結果として搬送の遅れにもつながってくるわけです。
「うちは市立病院でもないんだからかかりつけはみるが、それ以外は一切みないから連絡してきても無駄です」という原則をもう一度徹底しきちんと実行することが必要でしょうし、民間施設である以上はそれに対してどうこう言う権利は市当局らにはないのと同様、村上先生にしても市の態勢がどうとか余計なコメントを差し挟んで話をややこしくするような立場でもないだろうと言うことでしょう。

しかしこうして当事者の弁明を読んでいてつくづく思うのですが、「そう言わないとお前は出ていく事になるぞ!」等と何度も電話をかけてきた記者の言いなりな記事を書かれ、「やらないなら出ていけ」と言われた結果やりたくもない救急ボランティアを続けと、失礼ながら村上先生も何か周囲の言いなりのように見えますよね(苦笑)。
村上先生としては今後も夕張から出て行くつもりはないと繰り返し明言されているわけですが、本来的にはこの場合の選択権(出ていかせるかどうかというよりも、居残るかどうかという選択権ですが)は村上先生の側に一方的に存在しているというのが全国共通の認識だと思っていましたが、何故か夕張市内に限っては現状認識の逆転現象が生じているように見えるのが非常におもしろいなと思います。
こういうところが心が僻地だとかなんとか言われる所以なのかも知れませんけれども、失礼ながら自他共に認めるところの僻地医療のプロフェッショナルである村上先生にしてからがそのカラーに染め上げられた挙句、いつしか相手のペースに乗せられてしまっているようにも見えるのは自分だけでしょうか。

|

« 村上先生もいつもの饒舌ぶりに似あわず妙に口がかたいのですが | トップページ | 世界に広がるテロとの戦い »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/519753/48574340

この記事へのトラックバック一覧です: 村上先生、(予定より早く)吠える!:

» 村上先生の反論… [うろうろドクター]
救急受け入れ、また拒否 夕張市立診療所 http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/31537959.html の続報です。 ーーーーーーーーーーーーー 明日の医療 なぜ私は救急患者の受け入れを拒否したのか 北海道・夕張の村上医師が救急対応の報道に反論 2010.06.07(Mon)  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3660 6月2..... [続きを読む]

受信: 2010年6月 8日 (火) 19時02分

« 村上先生もいつもの饒舌ぶりに似あわず妙に口がかたいのですが | トップページ | 世界に広がるテロとの戦い »