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2010年6月10日 (木)

宮古病院医師詐称事件の意外な?決着、しかしその背後に残る問題は

以前にもお伝えしました岩手の医師詐称事件ですが、意外なと言っていいのでしょうか、結局起訴にもならずに終わってしまったようですね。

ニセ医師事件女性釈放 地検、理由示す必要 : 岩手(2010年6月9日読売新聞)

県立宮古病院に循環器科医師と偽って勤務しようとして逮捕された女性(44)について、盛岡地検が8日下した判断は処分保留による釈放だった。釈放後に起訴となる例はほとんどなく、事実上の不起訴処分とみる関係者は多い。

 驚いたのは地検が処分保留の理由を一切説明せず、コメントだけを発表するという異例の対応だった。発表時間には、地検の担当幹部がすでに全員退庁しており、取材には応じたくない姿勢にも見えた。

 女性は5月8日、宮古署に医師法違反(名称の使用制限)の疑いで逮捕され、いったん処分保留となった同19日、医師法よりも刑罰が重い公印偽造容疑で再逮捕されていた。複数の捜査関係者によると、再逮捕を主導したのは地検側で、「必ず起訴に持ち込む」と県警に伝えていたとされる。

 再逮捕で女性の拘置期間は約1か月に及んだ。さらに、医師不足に悩む県内で起きた事件への県民の関心は強い。地検には判断理由を県民に示す必要があるのではないか。(中島幸平)

公印偽造容疑の女性を釈放 岩手・宮古の偽医者事件(2010年6月8日47ニュース)

 盛岡地検は8日、以前の厚生相の公印などを偽造したとして公印偽造の疑いで逮捕、送検された大阪市の無職女性(44)について、処分保留で釈放した。

 女性は岩手県宮古市の県立宮古病院の採用で、医師免許がないのに医師に成り済ましたとする医師法違反容疑についても処分保留となっており、地検は「捜査を継続した上で、処分を判断する」としている。

 宮古市では医師不足が深刻化し、宮古病院では2007年7月以降、常勤の循環器科医師を常時募集していた。

 岩手県警によると、女性は病院に「テレビの報道番組で宮古市が医師不足と知った。地域医療に興味がある」などと応募。面談などを経て今年5月10日に着任予定だったが、医師免許証の写しに大臣の印がないなど不審な点があることに病院側が気付いて県警に相談し、医師でなかったことが発覚したとされる。

大臣の印を偽造したと言う疑いで逮捕したのに、肝心の大臣の印が押していなかったから起訴出来なかった、なんて単純な話でもないのでしょうが、先日既に同行していた男性の方も不起訴になっているということですから、結局これだけの大騒動を引き起こして何らのお咎めも無しで終わりそうだというのは何やら釈然としないですよね。
以前にも無免許で30年間医師になりすまして働いていたという御仁が懲役懲役2年4カ月の実刑判決を受けたことがありましたが、「「医師全体に対する国民の信頼も揺るがしかねない」などと大上段に構えたことを言う割りには最大限この程度の罪なのかとも言える話で、どうも世間に与える影響力と処罰との間に乖離があるように感じる人も多いのではないでしょうか。
不謹慎ながらもしこれが実際に循環器医として勤務していて、不適切な治療で患者が何人か大変なことになっていた、なんてことであればもっと大問題になっていたかも知れませんが、臨床の現場では使えない人間には大事な仕事は回ってこないようになっていますから、往々にして白衣を着て座っているだけで何とかなってしまう場合も多いわけですよね。

このあたりは医療に限らずほとんどの業界において仕事の大部分は単なる前例踏襲で、何も考えずに同じことを続けていれば何とか回ってしまうという事情もあるのでしょうが、人によっては「そんな使えない医者が存在している事がそもそもの間違いである!医療界の自浄作用がなっていない!」と文句を言いたくもなるかも知れません。
座っているだけどころか、半ば寝たきりで患者さんより悪そうに見える御老人の方々であっても、ただ医師免許所持者というだけで重宝されるほどに医師不足が厳しい地域も多々あるという現実もその根底にはあったわけですが、一方できちんとした真面目で熱心な先生達が揃っていてもうまく行かない場合も少なからずあるというのが、今の疲弊する医療現場の悲しむべき実情でもあるわけです。
ちょうど産経新聞が今回の事件の背後事情について記事にしていますが、医者がいてもうまく仕事が回らない中小病院の状況について、同院非常勤医の先生にインタビューから引用してみましょう。

ニセ女医のあきれた虚飾人生 よもやの甘言にすがった背景に「常勤医不在」の重い現実(2010年5月29日産経新聞)より抜粋

 今月8日、無資格で岩手県立宮古病院に赴任する直前に医師を偽った疑いで大阪市の無職、一宮輝美容疑者(44)が医師法違反容疑で逮捕された。事件は医師不足に悩む地域住民や関係者を落胆させたが、病院側はなぜ、うそをギリギリまで見抜けなかったのか。キーワードは「救急専門の循環器医」「婚約者と2人で常勤」…、病院にとってのどから手が出るような甘いささやきだった。不自然な点も多かった応募者に、いちるの望みをかけて優遇せざるを得なかった厳しい現実と事件の教訓は? 横浜から片道5時間半かけて長距離通勤を続ける担当医師への一問一答を加え、真相を探った。(中川真)
(略)
一問一答

 事件について緊急臨時的医師派遣システムで宮古病院に勤務する塚原玲子医師を直撃した。塚原医師は昭和33年6月、埼玉県生まれ。東邦大医学部卒。循環器の専門医として、米国留学や川崎社会保険病院などの勤務を経て、現在は済生会横浜市東部病院で、心臓血管センター長として15人の医師をまとめる。医学博士。

 --3年前、専門医不在の地方病院を数カ月間応援する「緊急臨時的医師派遣システム」で宮古病院と縁ができた

 「勤務先の済生会横浜市東部病院に、国から要請があった。『海外の僻(へき)地で医療活動をしたい』という高校時代の夢を思いだし、『自分が行こう』と決意した。若手医師も賛同してくれて、交代で勤務した」

 --いまは毎週、横浜から宮古に通っている

 「『週1日でいいから』と院長に頼まれ、平成20年1月から勤務している。日曜の午後に出発し、夜に病院近くの官舎に入る。夕食は弁当やすしかな。月曜は午後まで診療。遅くなるときもあるが、最終の新幹線に間に合う6時ごろがリミットだ」

 --きつくないか

 「平気だ。でも盛岡から宮古まで車で2時間は長い(笑)。岩手の広さと東西間を結ぶ高速がない不便さを痛感している」

 --患者を盛岡に救急搬送することも多いと聞く

 「常勤の循環器医がいないから、とっさの事態を考えると入院は無理だ。私もよく、心筋梗(こう)塞(そく)の患者を緊急治療し、救急車に同乗して盛岡市の県立中央病院などに運ぶ。先週(17日)もそうだった。県のヘリにも何度か乗った」

 --救急以外でも常勤医不在は問題が多いか

 「そうだ。例えば(細い管で血管や心臓を調べる)カテーテル検査も、検査後に1泊する必要がある。私は3月までやっていたが、当直医の負担が大きいため、やめざるを得なかった。検査だけで『盛岡まで行って』と患者に言うのは心苦しい。2月までは冠動脈治療なども年に十数件やっていたのだが…」

 --当直医の協力で検査などは持続できないものか

 「常勤医減少で消耗しきっている。深夜の患者搬送で盛岡まで往復することもある。医者の方が早死にするのでは、と思うほどだ。専門外の入院患者の対応まで頼めないのが現実だ」

 --そうした中で “ニセ循環器医”の事件が起きた

 「彼女は私が出た番組を見たようだ。着任直前にわかってよかった。確認は不十分だったかもしれないが、常勤医が欲しくて各地を駆け回っていた院長を責めることはできない。私も会っていたらよかったかなと思う」

 --一宮容疑者の“着任”をどう感じたか

 「『あてにしちゃダメ。まともな人はこないよ』と冷静な人もいたが、『婚約者と』という話に信頼性を感じた。私は院長から『今後も来てほしい』といわれていた。半信半疑な面もあったんだと思う」

 --専門医の偏在を改めるにはどうしたらいいか

 「国が動き、大病院勤務を望む医師に、1年とか半年は地方で働くことを義務づけるしかない。地方の病院でも、心臓血管治療の症例が年間200~300件(東部病院は専門医15人で1200件)はあり、手術や治療の経験は積める。だが、若い医師に勧めても『1人勤務じゃ…』と腰を引かれる

 「経験が浅くても、常勤医さえ来てくれれば、私も電話で相談に乗る。ファクスで心電図を見てアドバイスもできる。地方と都会の病院が連携し、コミュニケーションを深めて乗り切る方法が、現状では私の理想だ」
(略)

ここでもさりげなく医師強制配置論なんて飛び出してきてますが(苦笑)、そのあたりは華麗にスルーしておくとしても、実際に診療の足元を固めるべき常勤医こそが不足しているのだという地方の中小病院の状況がよく判る話だと思いますけれどもね。
病院側としては非常勤医であっても頭数を確保すればとりあえず専門外来は開けるわけで、週一日だけの勤務でもありがたいありがたいと大歓迎してくれるわけですが、現場の第一線で働いている他の常勤医にとっては入院も取らない外来だけの医者などもういらない、と思わず言いたくなる状況でもあるということですよね。
非常勤の先生が熱心にやればやるほど常勤医に後のツケを回されることになる、もともと常勤医の方は自分の仕事だけで一杯一杯なわけですから当然非常勤の拾った専門外の患者まで面倒を押し付けられるのは面白くない、非常勤の方でもそういう空気を読んで入院を取らなくなると「何でも他所に送るんだったら自分たちだけでやっても変わりないんじゃないか?」なんて話にもなるわけです。

結局のところは非常勤で頭数だけは確保してもマンパワーに対して日々の仕事が多すぎて、疲れ果てた常勤医たちはこれ以上余計な面倒は抱えたくないと士気が低下しきっているというのも一つの大きな要因ですけれども、同時に専門医というのは一人ではなかなかうまく仕事ができない一方、二人、三人とまとめるほど加速度的にうまく現場が回るようになるという事情も見えてきます。
実際各地の中小病院などで顕著ですが、退職などで特定診療科の医師数が一定数以下になった途端に残る医師たちが全部辞めてしまったなんて話が繰り返し出てくるのは、現代の医療は一人のスーパードクターの孤軍奮闘でどうこうなるようなものではないということを示しているわけですね。
以前から厚労省が推進しようと画策している医師集約化論などはそうした医療の効率性追求の面では一つの解決策ではありますが、面白いのはマスコミや地方自治体などが昨今熱心に主張している地方への国家権力による医師強制配置論などというものは、一見するとこれと似ているようでいて実際には全く逆の話になりかねないとも言えるわけです。

現実問題としてさすがに全国津々浦々まで各診療科とも複数の専門医を揃えた大病院だけに医療を任せるわけにも行きませんから、一方で開業医や中小の私立病院などはプライマリに特化して地域医療を担う、そして専門的医療は集約化された(公的)大病院が担当するという未来絵図を厚労省としては考えているのでしょう。
こういう態勢になりますと両者の間で行われる医療が全く異なったものとなってきますから、それぞれ志向するところの違う医師たちをうまく振り分けられるかということも問題になるでしょうが、手っ取り早くは臨床研修制度の改訂や専門医などの資格認定を通じて行っていくべきだという議論も遠からず表に出てくるのかも知れません。
しかしそれ以上に厚労省の前にハードルとなって立ちふさがると思われるのが、「なぜ近くの病院で治療出来ないのか」「いちいち検査のために遠くまでいかないと行けないのは困る」なんて地元住民にどう納得願うかだと思うのですが、過去の事例から考えても厚労省が国民へのインフォームドコンセントに力を入れるなんてことだけはあり得なさそうですから(苦笑)、また現場で誰かが泣きをみるということになりかねない話ですよね。

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