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2010年6月 4日 (金)

真実と事実の間にある壁を打破するために

先日出ていてちょっとその解釈もどうよ?と思ったのがこちらのニュースです。

医療訴訟で原告側勝訴が減少 過去10年で最低(2010年6月1日中日新聞)

 全国の地裁で2009年に言い渡された医療訴訟の判決で、一部でも原告側の訴えを認めた割合を示す「認容率」は25・3%(速報値)と過去10年間で最低だったことが最高裁のまとめで分かった。示談など裁判外の紛争解決の増加が一因とみられる一方、「『医療崩壊』が指摘される中、裁判所が医療側に厳しい判断を出しにくいのではないか」との見方もある。

 最高裁の統計によると、地裁の民事訴訟全体の認容率は過去10年間、82・4~85・3%と横ばい。このうち医療訴訟では、07年37・8%だった認容率が08年26・7%へと10ポイント以上下がり、09年もさらに低下した。

 奈良県内の町立病院で出産時に意識不明となり、相次いで転院を断られて亡くなった女性の遺族が町などに損害賠償を求めた訴訟の判決で大阪地裁は今年3月、請求を棄却する一方、担当医の過酷労働に言及。「こうした医療体制をそのままにするのは、勤務医の立場からはもちろん、患者の立場からも許されない」と批判した。

 医療訴訟に詳しい弁護士は「医療崩壊が社会問題化して以来、過失と被害の因果関係が認められにくくなったと感じる。医療体制の課題は訴訟と切り離して考えるべきで、認容率に影響しているなら問題」と訴える。

 医療訴訟の提訴件数は04年をピークに減少傾向にある。だが、医療過誤を扱う弁護士でつくる医療事故情報センター(名古屋市東区)の増田聖子副理事長は「医療過誤が減ったという実感はない」とした上で、「訴訟外での解決が増えたなら被害側にとって歓迎できるが、本当にそうなのか把握、検証する仕組みが必要」と指摘する。

 医療事故をめぐっては04年、国立病院や大学病院など全国273の医療機関に報告が義務付けられたが、どう解決されたかを集約する取り決めはない。

一つの数字だけで詳細なデータがないのでこの数字だけから背後事情を読み取るのにも限界がありますが、医療訴訟を扱う弁護士の方々にはこう見えているのだなという点では興味深い記事ではないかと思います。
ひと頃からネット上で医療訴訟批判というものが盛んだとマスコミなどでも(かなり否定的な意味で)話題になりましたが、全国の医師たちもこうした弁護士先生達と全く同様に、世情に迎合して厳しい判決を出したり手心を加えたりする恣意的な司法判断を求めているわけではなく、単に理性的・科学的な判断を求めているだけだと思いますし、その意味では互いに目指すものは同じとも言えるかも知れません。
いずれにしても増田聖子氏も言うとおり、双方にとって不毛であることがすでに十二分に明らかになっている法廷という場での解決以外に別ルートを探るような動きが広がってきたということであれば、これはいずれの関係者にとっても良いことではないかと思いますが、そのための有力な手段の一つとして先ごろこんな話題が出ていました。

民主、医療議連が発足 無過失補償制度目指す(2010年5月28日下野新聞)

 民主党の「医療の無過失補償制度を考える議員連盟」の設立総会が 27日、衆院第1議員会館で開かれた。

 無過失補償制度は、医療事故で患者が障害を負った場合、医師の過失の有無にかかわらず、補償金が支払われる制度。産科領域では既にスタートしており、同議連は同制度の整備、充実を目指している。

 会長には呼びかけ人代表の一人の森ゆうこ参院議員が就任。副会長に簗瀬進参院議員、事務局長に石森久嗣衆院議員、幹事に玉木朝子衆院議員らが名を連ねた。森会長は「党としてどのような形で政府側に提言できるか分からないが、みなさんと一緒に勉強し、何らかの形でまとめることができれば」とあいさつした。

 同議連は診療行為に関連した紛争処理や、補償のあり方などについて幅広く検討していく。

不肖管理人も無過失保障制度導入論者を自認していますけれども、このような無過失保障は産科領域のみならず広げて行くべきだと思いますし、党としてどうとか言うより超党派で立ち上げてもいいんじゃないかとも感じるところです。
ただ一方で患者団体の側からは時に「無過失保障制度が広まると、事故の真相究明がおろそかになるのでは?」といった懸念があることも確かで、その意味ではこうした制度拡充と同時に死因究明、事故調といった議論も別枠で進めて行くべきではないかとも思います。
ただしそれは処罰的なもの、あるいは民事訴訟を睨んでの責任追及的なものではなく、あくまで当初から言われている通り「原因究明によって再発防止を図る」という、その結果が患者や遺族といった特定個人にではなく、社会に還元されるべき性質のものであるべきだと言うことです。
その意味ではちょうど先日は患者側からの視点で医療事故調を求める集会があったということですけれども、実のところこうした問題の議論と言えば真っ先に当事者である遺族が全面に出てくるということが、話を余計にややこしくしているという側面もあることを認めないではいられません。

公正な医療事故調を 遺族ら国会内で集会 小池氏あいさつ (2010年5月13日赤旗)

 「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」は12日、中立・公正な医療事故調査機関の設立を求めて国会内で集会を開きました。医療事故で家族を亡くした遺族ら80人が参加しました。

 同協議会の永井裕之代表は、「医療事故の原因究明と再発防止のためには第三者機関が必要。国会で議論し、一日も早く設立してほしい」とのべました。

 各団体の代表や遺族が発言。「医療情報の公開・開示を求める市民の会」の勝村久司世話人は「家族は、事故を起こした病院をうらむのでなく、いい病院になってほしいと考えます。そのスタートが原因究明。病院がすぐ事故を届け出られるシステムを」とのべました。

 「陣痛促進剤による被害を考える会」の赤羽幸生さんは、「組織や地位のために医師がミスを報告しにくい現状があります。調査機関は、医療従事者にとっても支えになるものだと確信します」と発言。父親を医療事故で亡くした女性は「医療従事者一人ひとりの良心を生かすためのシステムが調査機関。議論を重ねて早く設立してほしい」と訴えました。

 共産、民主、社民、自民などの各党国会議員が出席。日本共産党の小池晃参院議員・政策委員長は、共産党が第三者機関の設立を主張してきたことにふれ、「病院の内部調査だけでなく公正・中立な第三者機関が必要。国会での議論が止まっていることは重大です。前政権時にまとめられた法案大綱などを土台に超党派で合意をつくりたい」とのべました。

まさに「原因究明と再発防止のため」には「ミスを報告しにくい」という状況であってはならない、そのためには航空事故調などと同様に個人免責を導入してでも証言の真実性を担保する必要もあるだろうし、調査結果も個人責任を追及するために用いられることがあってはならないということです。
その意味ではこの事故調議論が皆が総論賛成と言いながら一向に前に進まないのは、「復讐の色が強すぎて、これでは誰も情報を出さなくなっちゃう(嘉山孝正氏)」と言う、原因究明と再発防止のためにはマイナスとしかならない遺族感情が最大の障害となっている一面もあるわけですね。
人は誰でも自分に不利益になるような供述を強いられないというのは当たり前の話であって、逆に言えばたとえ自分という個人にとっては不利益になりかねない話でも、社会のためにより大きな利益となるなら真実を語るべきであるというモチベーションを証言者に持たせなければならない、そのために必要なものは何かと言う視点をいかに共有して行くかが、こうした活動における今後最大の課題になっていきそうです。

一方で実際に真相究明と言いますと客観的な事実というものは欠かせませんが、少し前から関係各方面より熱心に推進されているのが「死亡時画像診断(Ai)」の件です。

診療死究明でAi活用も、厚労省 モデル事業、補助的手段で(2010年6月3日47ニュース)

 診療に関連して死亡した患者の死因や医療ミスの有無を調査する厚生労働省のモデル事業を実施する「日本医療安全調査機構」の運営委員会が3日、東京都内で開かれ、死因究明の補助的手段として死亡時画像診断(Ai)の活用を検討することを決めた

 これを受け、厚労省は6月中にも省内に検討会を設置。診療関連死以外の不審死を含めて死因の究明にAiを導入できないか、法務省や警察庁などと協議を進める

 運営委ではほかに、医師法21条に基づいて警察に届け出られた事例のうち、警察が扱わないと判断したケースはモデル事業に委ねてもらうよう、警察への働きかけを厚労省に要請することで合意。調査結果の報告書の作成方法を工夫し、平均10カ月かかる調査期間を半年程度に短縮することでも一致した。

 今後は、各医療機関の院内事故調査委員会で作成した報告書を、同機構の委員らが第三者として評価する形で原因究明を進めることが可能かなど、引き続き検討する。

実はこの件、病理医は近年慢性的な不足状態にある(これが司法解剖医になりますと、もはや不足なんてレベルじゃありません)、一方で放射線科医の方では「海外への読影委託で今後は仕事が先細りなのでは」と言った不安も業界内で根強いようで、いい具合に需要と供給がマッチしているという実情もあります。
ただ問題はこれも非常に即物的な話で恐縮ですがお金の方をどうするかということで、現在でも時折聞くのが警察から死因がCTで分からないかと頼まれて撮影した、その結果死因は分かったがさて、その撮影費用を誰に払ってもらえばいいのかということですよね。
警察絡みでの話であれば当然に警察の方からお金が出るのでは?と考えたくなりますが、これが実際には過半数の施設で持ち出しで検査を実施していたり、お金がもらえたとしても適正金額に程遠い額であったりと、なかなか実情は厳しいものがあるようです。

また院内での死因究明目的にしても保険診療で規定されているのは生きている人間への支払いであって、死んだ後の分まで保険請求したとなればこれは例によってマスコミから「また不正請求が!」と叩かれますし、もちろんこの作業事態が剖検などと同じで当の患者自身の治療には直接の利益にはなりませんから、遺族がより詳しい死因が判るかもしてないという可能性のためにお金を出してくれるかどうかも難しいところです。
一応今回は厚労省が声をかけて警察疔や法務省も巻き込んで話を進めて良くようですから、その辺りの費用負担に関しても当然に考えているのだと思いたいところですけれども、何しろ昨今どこもお金には吝いというご時世だけに、どういう形でこのあたりがクリアされるかということも注目していかなければならないでしょうね。

いずれにしても医療(民事)訴訟は真実を究明する場もなければ心のケアをする場所でもない、単に賠償の金額を決める場所であり、事故調もまた遺族の感情を満足させる場ではなく真実究明と再発防止を図る場であるということであれば、最終的にもやもやとした患者・遺族側の気持ちはどこへ向かったらいいのかと考えれば、いずれも完璧に稼働したとしても患者側には不満足なものにしかならないことは目に見えているわけです。
そのあたりの感情的に納得できない、受け入れられないという部分の補完をどこに求めるかですが、一つには金銭的に償われるのであればある程度納得出来るという方々が社会的に多いというのは保証制度の充実した諸外国の事例でも、あるいは金銭的補償システムが定着した自動車事故の例でも判ることですから、無過失保証制度はやはり早急に実現を目指すべきだろうとは言えるのでしょう。
また最近流行りのADRなどでは関係双方が徹底的に対話をすることで理解や納得が得られた、紛争に至らずに済んだといった効果が言われているだけに、まずは事故調などに比べて抵抗の少ないこうした手の届くところから相互理解の試みを始めていけば、案外他の方面でも事態が沈静化してきたり、すんなりと話がまとまるといった効果も出てくるかも知れませんね。

医療という業界は閉鎖的で中身が見えないという先入観が患者の側にはあって、それが疑心暗鬼や過剰反応につながっている側面も多々あるわけですから、実社会で相互理解を深めるべくシステムを整備して良くのもよし、ネットなどを通じてとことん語り合ってみるのもよしでしょうし、その意味ではお互い狭い身内だけでまとまっていてはますます話がややこしくなるだけだと言う自覚は、双方が持っておかなければならないのでしょうね。

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コメント

認容率の低下はむしろ司法がちゃんと死亡との因果関係をちゃんと客観的に評価するようになってきたこと、ぶぶづけ判決(あきらかな過失はないが、死んだんだから、お金を払っときなさい的判決)をしなくなったことの表れだと思うんですがね。

司法側に言わせると「医療崩壊で大変だから、情状酌量の余地がある」になるわけですね。

個人的には、無過失補償制度は、死体換金ビジネスにつながりかねないので反対です。
医師の一定の免責及び、原因究明したうえで死亡が避けられない場合は補償なしということを明確にしなければ、こんなもの、保険として成立しないと思います。

投稿: | 2010年6月 4日 (金) 11時45分

「母が、やられてる」3年前クモ膜下出血で、クリピング手術、6日目の脳ヘルニアに、なり頭蓋骨を外す手術をしました。5日目に自分の名前が、言えなくなり、前日まで、自分で、食べてのに、たべれなく、なったので、主治医に訴えましたが、対応してもらえませんでした。右麻痺、言語障害があり、障害者1級。痙攣もあります。主治医に説明を求めるたあとシャント圧を家族に説明してもらえなくなりました。水頭症、随膜炎で、CODMANHAKIM加圧変式バルブシャントに、入れ替えられました。脳外科を県外にかえましたが、一緒でした。1年前、シャント圧 福岡の○病院脳外科を、1年6ヶ月入院後、退院してくる時は、シャント圧30で、帰ってきました。近所の脳神経内科の先生から、□病院の一覧のCTを見て、シャントがつまっていると言われ、県内の△病院脳外科に、受診しましたが、母の様子がおかしかったし、頭部レントゲン写真が、ぼけていたので、何処も一緒と思い、近くの医療過誤を受けた□病院脳外科に、診てもいました。頭部レントゲンをとり時計の3時の所が、欠けている写真を見せて、 60と説明されました。しかし、□病院から頭部レントゲンのCDROMもらいましたが、説明された時の、フイルムは、ありませんでした。ぼけていて、3時の欠けている所の、確認ができませんでした。 福岡の弁護士に調査依頼をしましたが、□病院と協力して、クモ膜下の、手術の次の日の、異常の無かったCTを脳浮腫のある物、6日目のコピーに、すり替え、関連のある、カルテを抜かれてました。カルテはコピーがあったので、確認出来たした。2日目CT異常無し、との主治医の録音もあります。□病院のCTが、一覧になった写真も、近所の神経内科(主治医の親と医学部の同級生)で、紛失されました。2日目の異常のなかった写真は、無くなってしまいました。どこの脳外科も、シャント圧 教えてもらえません。でも、それは、しては、いけない事です。病院も弁護士も正義の人がいるはずです。捜してますが、なかなか難しいです。熊本の弁護士に頼んでますが、返事が、ありません。改ざんは、許せますが、患者に手を出すのは、ゆるせません。なにか、良い方法が、あったら教えてください。

投稿: J | 2011年3月 9日 (水) 20時10分

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