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2010年5月18日 (火)

医療の人手不足 その抜本的な対策とは

医療業界の人手不足ネタはいまさらという話ではありますけれども、先日相次いでこういう記事が出ていました。

医師・看護師とも「充足」の病院は87.5%―厚労省調べ(2010年5月14日CBニュース)

 厚生労働省は5月14日、医療法25条に基づく病院への立ち入り検査の結果を公表した。公表したのは、2008年度に立ち入り検査を行った病院8292 施設の検査結果。それによると、医療法に規定された医師と看護師の標準数を共に充足している病院は全体の87.5%で、前年度の85.4%より2.1ポイント増えた。

 立ち入り検査は、病院が医療法や関係法令で規定された人員や構造設備を備え、適正な管理を行っているか調べるもので、各都道府県が行った検査結果を厚労省が取りまとめて、年度ごとに集計する。

 今回の検査結果によると、医療法に規定された医師の標準数を満たしている病院は88.3%で、前年度(86.9%)より1.4ポイント増えた。地域別に見ると、「近畿」95.7%、「東海」93.1%、「関東」92.9%、「九州」89.9%、「中国」87.4%、「北陸・甲信越」84.9%、「四国」 84.8%、「北海道・東北」73.1%で、すべての地域で前年度から増加した。ただ、「北海道・東北」は全国平均を15.2ポイントも下回っている
 病床規模別では、200床以上で90%を超えており、500床以上では98.1%となっている。

看護師(准看護師を含む)の標準数を満たしている病院は98.9%で、前年度の98.8%から微増。地域別に見ると、「四国」で100%に達したほか、「九州」99.8%、「中国」99.7%、「東海」「近畿」98.8%、「北陸・甲信越」98.7%、「北海道・東北」98.5%、「関東」97.9% で、「近畿」を除いて軒並み前年度より増えた。
 病床規模別では、「20-49床」が98.4%で最も低かった一方、「200-299床」「400-499床」「500床以上」で100%となった。

 また、医師と看護師の充足率が共に100%以上の病院は87.5%で、共に100%未満の病院は0.3%だった。
 病院規模別に見ると、共に100%以上の病院は、「99床以下」82.6%、「100-199床」87.8%、「200-299床」91.4%、「300-399床」91.9%、「400-499床」93.5%、「500床以上」97.9%で、規模が大きくなるほど割合が高くなっている

看護職員4人に3人辞めたい/青森(2010年5月16日NHK)

 県内の病院や介護施設に勤務する看護職員を対象にした調査で4人に3人は人手不足による負担増加などに苦しみ、仕事を辞めたいと思った経験があることがわかりました。

 県内の医療機関に勤務する労働者が作る団体、「県医療労働組合連合会」は、病院や介護施設に勤務する看護職員を対象に去年11月から今年1月にかけて調査を行い、428人から回答を得ました。

 それによりますと、「仕事を辞めたいか」という問いに対して「いつも思っている」と答えたのは、15.9パーセント、「ときどき思う」と答えたのは60パーセントに上り、4人に3人は仕事を辞めたいと思った経験があることがわかりました。

 理由については、多い方から「賃金が安い」、「人手不足で仕事がきつい」、「思うような看護ができず仕事の達成感がない」、「夜勤がつらい」などとなっています。
また、「この3年間に仕事でミスやミスをしそうになったことがある」と答えたのは82.2パーセントに上り、理由については、ほとんどが「人手不足による忙しさ」をあげています

 調査を行った団体は、安全で安心できる医療や介護の実現のため、国などに対して看護職員を大幅に増やすことを強く求めています。

ちなみに医療法の言うところの医師法定定数というのは大昔の病院=じっと寝て安静にしている場所という時代に決まったような最低限度の基準で、今どきのまともな急性期医療をするには全く不足する基準ですけれども、それにしてもとりわけ地方の中小病院では非常勤医まで総動員して何とか定数維持を目指しているという状況のところが多いようですね。
医師に比べればまだしもお上の目の敵にされることの少なかった看護師にしても、例の7:1看護基準の導入などで看護師囲い込みが進んだ余波でしょうか、やはりこちらも中小病院を中心に深刻な不足感が発生しているようです。
当然こういう基準を満たせない施設では診療報酬上も低い評価になってきますから、病院収入が少ないことがスタッフ待遇改善を困難にしてますますの人材不足を招く、結果としてついには病院そのものの経営も傾き廃業に追い込まれていくという、まさに国策推進という視点からは狙い通りの効果を発揮していると言えるわけです。

しかしこうした地域の中小病院に対する需要というものは根強くある、そして当然病院側としても需要に応えるために人材は欲しいというわけですから、基本的にこの業界では人手は多くて困るということはまずないと言うことで、医療を提供する側はもとより医療を受ける側からも人材をもっと増やせという圧力は強まる一方です。
一方で医師にしろ看護師にしろ国家資格の専門職である以上その増減は国が管理しているわけですが、民主党政権となり医療主導による成長戦略なんてことを言い出した手前もあって、いまさら「いやあまり増やし過ぎるとお金もかかりますから」なんてことを言える状況にもなさそうですよね。
もちろん医学部定員増などと言った中長期的な話も地道に進んでいる一方で、当座の人手不足を何とかしろという圧力が高まるのは当然で、例えば先日の看護師試験では鳴り物入りで導入された外国人看護師の合格がわずか3人だったこともあってか、昨今ではマスコミなども「医療にももっと外国人を導入しろ!余計な障壁は撤廃しろ!」なんて論調がトレンドになってきているようですね。

医療の人手不足 外国人の就労制限撤廃は当然(2010年4月26日読売新聞)

 医療や介護の人手不足は深刻だ。資格を持つ外国人の就労制限をなくすのは当然と言えよう。

 法務省が先月末に策定した第4次出入国管理基本計画に、医療分野の在留資格で看護師や歯科医師として働く外国人に課している就労年数制限の見直しが明記された。
 外国人の場合、日本の国家試験に合格して免許を取得しても、看護師は7年、歯科医師は6年を超えて日本で働き続けることができない。保健師や助産師にも4年までの制限がある。

 日本で働き続けたいと希望する外国人は多い。日本語能力のハンデを乗り越えて試験に合格したのだから、正当な要望だろう。
 就労年数制限は、日本人の雇用に影響を及ぼすことを懸念して設けられた側面が強い。以前から過剰な規制との批判があり、医師については4年前に撤廃された。
 法務省は省令を改正し、看護師など残る職種すべての制限を撤廃するという。必要な是正である。改正作業を急いでほしい。

 基本計画は、日本国内の大学卒業と国家試験の合格を条件に、介護分野でも外国人の受け入れを検討することを盛り込んだ。
 介護を受ける高齢者は加速度的に増加する。約124万人の介護職員は、2025年にはほぼ2倍必要になると推計されている。
 一方、介護福祉士の資格を持ちながら働いていない日本人が数多くいる。心身ともに大変な仕事であるのに報酬が低いためだ。

 人手不足解消のためには、まず日本人の労働環境の改善に努めるべきだが、日本人職員を急激に増やすのは限界がある。介護分野でも外国人の受け入れに道を開くのは、妥当な判断といえる。
 インドネシア、フィリピンとの経済連携協定(EPA)に基づいて受け入れている看護師・介護福祉士希望者への対応も必要だ。
 試験問題に難解な漢字が頻出することもあり、先月の看護師試験でも、受験した254人のうち合格者は3人にとどまった。

 彼らは母国で資格を取り、看護や介護に必要な知識を身につけている人たちだ。日本人の合格者が9割近いことを考えると、合格率が極端に低いのは漢字が障壁となっているのは間違いあるまい
 厚生労働省も試験の見直しに着手し、「褥瘡(じょくそう)」は「床ずれ」という具合に、平易な表現に言い換えることを検討している。歓迎できる動きだ。漢字にルビを振ることや、辞書の持ち込みを認めるなどさらに工夫を図ってほしい。

社説:外国人看護師 締め出し試験の愚かさ(2010年4月15日毎日新聞)

 経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアとフィリピンから来日している受験生が初めて看護師国家試験に合格した。ただし、わずか3人。両国の受験者は254人で、合格率は1・2%だ。一方、日本人の合格者は約9割に上る。外国人受験生にとっての壁は、難解な漢字や専門用語だ。本当に看護師の仕事に必要なのか。わざと締め出そうとしているようにしか思えない。

 関税を撤廃し貿易の活性化を目指す枠組みが自由貿易協定(FTA)で、これに投資や知的財産保護を加えた幅広い自由化のルール作りをするのがEPAだ。インドネシア人候補者は08年8月から、フィリピン人は09年5月から受け入れ始め、これまでに看護師候補約360人、介護福祉士候補約480人が来日した。

 看護師候補者は半年間の日本語研修を経て、病院で働きながら国家試験の勉強をする。期限は3年間で3回の受験機会に合格すれば日本で働き続けることができる。試験は今年で2回目で、昨年は82人全員が不合格だった。第1陣は来年の試験に不合格だと帰国しなければならない。自国では看護師資格のある人々なのにである。

 試験問題の文中には「誤嚥(ごえん)」「臍動脈(さいどうみゃく)」「塞栓(そくせん)」「喉頭蓋(こうとうがい)」「喘鳴(ぜんめい)」「落屑(らくせつ)」などの難しい漢字がたくさん登場する。どうしても必要ならば仕方がないが、たとえば「眼瞼(がんけん)」は「まぶた」、「褥瘡(じょくそう)」は「床ずれ」に言い換えた方が患者もわかるし医療現場でも便利ではないだろうか。「創傷治癒遅延」は「傷の治りが遅い」ではだめか。「腹臥位(ふくがい)」「半坐位(はんざい)」「仰臥位(ぎょうがい)」「砕石位(さいせきい)」は診察や治療の際に患者に取ってもらう姿勢だが、イラストを付けるとわかりやすくなる。医学用語である「企図振戦」はintention tremorという英訳を付けてはどうか。

 日本人の受験生もこうした業界用語を習得する勉強に時間を費やしているのだろうか。患者とのコミュニケーションや医療事故を起こさないスキルの獲得に励んだ方が有益ではないか。患者や第三者の監視の目を立ち入らせないようにする閉鎖性がこういうところに表れるのではないかとすら思えてくる。

 形式的な公平だけでなく、実質的な公平を実現しなければならないことを「合理的配慮義務」という。国連障害者権利条約などにある概念で、障害や宗教、人種などによる目に見えない障壁を取り除くために用いられる。看護師を目指す外国人に対する日本の国家試験はまったく合理的配慮に欠けている。高齢化が急速に進んでいく一方で、就労人口は減っていく。外国人看護師にたくさん来てもらわなければ困るのに、いったい何を考えているのか。

個人的な見解として外国人もどんどん入れたらいいと思いますし、英語を公用語とするフィリピン人看護師の半数が日本を勤務志望先に選ばないなんて話を耳にすれば、誰しも「日本語の小難しい用語を何とかすればいいんじゃないの?」なんて考えたくもなるものですが、一方で試しにフィリピン人受験者に英訳した試験問題をやらせてみたところ合格基準に達したのは四割にも満たなかったという話もあります。
要するに医療というものは一方ではエヴィデンスだ、国際標準だと共通化が進んでいる一方で、とりわけ現場レベルにおいては未だそれぞれの国情に応じた慣行が当たり前に行われているわけですから、「母国で看護師をやっていたのだから日本で働いても問題ないはずだ」とは必ずしも言えないということは認識しておかなければ、門戸を広げたは良いが後で思いがけない結果を招く可能性もあるということですよね。
むしろそうした方面から考えていくとこれは拙速に進めるべき当座の対策というよりは、中長期的な対策に属するべき課題であるという気がしますし、人手不足だから外国人をさっさと入れろ!では後日人手が足りてきた時にはせっかくの専門職スタッフを使い捨て同然にお引き取り願うのかという話にもなり、新たな国際紛争の火種にもなりかねないわけです。

これらに対してこの人手不足の機会に大いに推進すべきだと思っているのが「専門職はその専門分野の仕事に専念させるのが一番効率がいい」という当たり前の話で、悪名高い国立大学病院における医師使い潰しなどを見れば誰しも「こんな無駄をやらせて医師不足って何それ?」と感じるでしょうし、一般病院においても専門職であるはずの看護師が大挙してシーツ交換などしているのは無駄としか言いようがないわけです。
無論専門職にしか出来ないことは専門職がやるしかありませんが、そうでないものはなるべく非専門職に下請けに出す方がトータルのコストも抑えられ、何より不足しがちな資格職スタッフを誰にでも出来る雑用で過労に追い込むリスクも減らせる道理で、その意味から最近特に注目されているのが高齢者層の増加で需要が増える一方の介護職です。
医師や看護師に比べれば専門性が低く参入への敷居も越えやすい、一方で医療のバックアップとも言うべき介護分野がしっかりと仕事をしてくれれば急性期、慢性期を問わず病院の専門職も直接間接両面で非常に助かるのは当然ですから、今や関係各方面からこちらでの規制緩和の道が探られつつあるわけです。

仙谷担当相:「介護福祉士試験を柔軟に」認識示す(2010年4月19日毎日新聞)

 仙谷由人国家戦略担当相と枝野幸男行政刷新担当相は19日、神奈川県海老名市の養護老人ホームを訪れ、経済連携協定(EPA)に基づき来日中の、インドネシア人介護職員と面会した。仙谷氏は介護福祉士の国家資格試験について「コミュニケーションと技術さえしっかりしていれば問題ない」と述べ、ひらがなでの受験を認めるなど柔軟に対応すべきだとの認識を示した。日本はEPAにより、インドネシアとフィリピンから看護師、介護福祉士の候補者を受け入れているが、日本で働き続けるためには、3年以内に国家資格を取得する必要がある

特養介護職に医療行為=「たん吸引」など来年度から-厚労省(2010年3月25日時事ドットコム)

 厚生労働省は25日、「たんの吸引」など医師や看護師にしか認められていない医療行為の一部について、特別養護老人ホーム(特養)の介護職員に一定の条件下で認めることを決めた。容認する医療行為のガイドラインや研修の内容などを詰めた上で、特例的に認める通知を出し、来年度初めにも解禁する。特養で介護職員に医療行為が認められるのは今回が初めて
 この日開かれた厚労省の検討会で了承された。認められるのは口元でのたんの吸引と、胃に通じたチューブで栄養補給する「経管栄養」の二つ。たんの吸引はのどの手前までに限定し、経管栄養のチューブ接続は看護師が行うのが条件。

日医などは先のナースプラクティショナー制度導入への反対論などを見ても全く逆の立場で、極論すれば「万一にもなにかあったら困るから全部医者がやるべき」といういかにもお暇な方々らしい考え方のようですけれども(苦笑)、では特養でずっと寝たきりのお爺ちゃんお婆ちゃん相手に多少痰の吸い方が下手だったところで現実問題誰が困るのかという話ですよね。
近年の流れで医療は万一に備えた過剰防衛気味な方向にやや話が流れていて、「緊急手術が必要です!今すぐやらないと死にます!」なんて外科医が説得して手術にこぎつけたところが麻酔科医が全麻のリスクを説明して同意を取るのに一時間かかった、なんて笑い話のようなことも聞こえてきますけれども、その方向に進んでいく限りは万のうち9999の無駄が増えていくばかりで、決して効率向上にはつながっていきません。
より多くの人々に安定的に医療を提供するメリットのために敢えて質を妥協するとは、つまるところ総体として利益が上回るなら一定のリスクは甘受すべきと言う話でもあって、そうであるからこそ公の権威が率先して「もっと専門職をうまく使いこなしましょう!」と受益者教育をしていくべきだと思うのですが、お金で考える国はともかく学会などは未だにコストもマンパワーも度外視で最善を追求するのが当然という考えが多いようですからね(苦笑)。

医療を一部の出来る人材の献身的努力に頼るのではなく、それぞれ足りないところのある個人個人が集まって集団として過不足のない質を確保していく、増え続ける医療需要に対して優秀な人材を医療業界だけが独占するわけにも行かないのは当然ですから、こうした医療の構造改革は医療を産業化していく上でもいずれ必ず必要となるし、またそうでなければ医療提供の永続性、安定性は担保できないでしょう。
世間が医療=人手不足産業と認識しつつある今日はまさに改革の好機なのですが、もちろんそこには万一の場合にはきちんと個人ではなく、組織として対応し責任を取っていくという大前提が必要であることは言うまでもないことだし、なにかあった時のためにも無過失保証制度のようなシステムも拡充も必要でしょうし、何より医療を受ける側の意識改革というものも要求されることは言うまでもないところでしょう。
その意味では真夜中にふらりと病院にやってきて「当直の研修医?!わしはいつも院長にかかっとるんじゃ!院長を出せ院長を!」なんて無理難題を吹っかけてくるような方々の問題と、少なからず根っこの部分では共通するものがありそうにも思いますね。

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