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2010年5月27日 (木)

患者対策には何より患者側の協力と努力が必要です

医療業界に限らず昨今ではどこでもモンスターだ、クレーマーだと言われるような方々には事欠かないご時世ですが、ことが一刻を争うような現場でしかも慢性的にリソース不足であるということになれば、これはしばしば人の命にも関る話になってきます。
少し前の記事ですけれども、今どきこんな話はどこでも珍しくないと言う現場の状況が判るこちらモンスター対策の話から引用してみましょう。

シンポジウム:“モンスターペイシェント”など、救急医療現場の取り組み報告 /岡山

 救急医療現場の課題を話し合うシンポジウムが20日、北区奉還町2の岡山国際交流センターで開かれた。日本医療マネジメント学会県支部主催で、医師や看護師ら4人が“モンスターペイシェント”対策など現場の取り組みを報告した。

 同支部では06年から毎年、学術集会を開いており、今回のテーマは「人間中心の医療」。シンポジウムでは、川崎医科大付属病院事務部の森定理参与が、病院に不当な要求をする“モンスターペイシェント”が夜間の救急外来に1週間当たり数回程度訪れ、診療の妨害となるケースもある現状を紹介。「救急車が勝手に搬送したから医療費を支払わないと主張したり、宿泊場所や費用がないためホテル代わりに利用したがる患者もいる。警察や福祉事務所などの公的機関や顧問弁護士を活用し、(暴力を振るうなど)危ないと感じたら110番通報するなど組織的に対応している」と話した。
(略)

何を以てモンスターと呼ぶのかは非常に難しい問題ですけれども、これに関しては一律の判断基準でどうこう出来るものではなく、あくまで時と場合によるということなんだと思いますし、受診時の態度などが直接問題になるようなものではなくとも状況によっては大迷惑ということがあり得るわけです。
例えば駅の喫茶店に飛び込んで「コーヒー!急いで!」なんて言うのはどこにでもある光景ですし、別にそれが直ちにモンスター扱いされるものでもありませんけれども、例えばこれが沈みかけたタイタニック号で皆が生き残ろうと必死になっているような状況で同じようなことを要求している、なんて場面を想像してみれば「おい兄ちゃん、ちょっとは空気読めや」とも言いたくなりそうですよね。
需要に対して一般に供給というものはそうそう急には増減出来ないものですが、需要に対して供給が明らかに過小である時にはおとなしく列に並んで待ちましょう、緊急性のある人を優先するため譲りあいましょうというのが医療に限らず社会の基本的マナーであって、この意味では安易なコンビニ受診などもそれ自体はささいなことのように見えても、リソース不足の現場においては大迷惑顧客になりかねないわけです。

ただ医療業界においては話が少しややこしくなるのは、例えば長年医師の団体と社会的に認識されてきた医師会という組織が早期受診の重要性を主張してきた、これは主にアメリカとの比較において医療費の患者負担を安くすることが患者が我慢せず早期に受診することにつながり、病気が早い段階で見つかることで結局は総医療費が安上がりになると言う論拠に結びつけられていた経緯があることですよね。
小児科なども未だに「夜中でも何でもおかしいと思ったらすぐ病院に行きなさい!子供は大人とは違うんです!」なんてことを熱心に「患者教育」していらっしゃる先生がいて、それが結局小児科医の24時間365日の激務を招き絶滅危惧種などと言われる現状をもたらしているわけですから、自分で自分の首を絞めているようなものだという言い方も出来ますよね。
この辺りは医療に限らずコストやマンパワーを無視して質的最善、最良だけを追求している人間の口にする正論なるものが、リソースの限られた現実社会では必ずしも通用しないという好例だと思いますけれども、そのおかげかどうか未だに釣りか?と思うような声が定期的に出てくる状況が続いているわけです。

【発言小町】4日前からの熱で夜に病院に行ったら(2010年5月15日読売新聞)

4歳の子供が3日前から熱がありました。昼間は36度台なのですが、夜になると37.6度から38度くらいに熱が上がります。朝に熱がないので、治ったかな?と思っていると、夜に熱が上がります。全然熱がない日もありました。そのようなことが続いて心配になり、4日目の夜22時ころに小児科の救急病院を受診しました。
すると、そこの小児科の医者に「夜に来るな、もっと早く昼間に来い」と言われました。
治るかな?と思い様子を見ていたのに。だけど長く続いて、また夜になって熱がでたので心配になって受診したのに。
なぜそんなことを言われるのか、納得できません。とても腹立たしい思いをしました。
以前からの病気で、救急病院を受診してはいけないのでしょうか?
また、薬が1日分しか出ない、というのも困ります。なぜそんなに短い日数しか出ないのでしょうか?
病院はもっと利用者のことを考えてください

発言小町にもたびたびこういうものが掲載されて、そのたびに同じようなレスが並んでフルボッコ状態というのは、あるいは読売さんも教育的効果期待しているのか?と好意的に解釈はしてみたいところですが、このあたりは医療側においても方針がばらついていることが患者の混乱を招いてきたという経緯を理解しておかなければならないでしょうね。
昨今では現場でいわゆる奴隷労働に勤しむ医師らを中心に「いい加減リソース相応の医療を追求していかなければ日本の医療はもたないのでは?」という認識が広がってきていて、どのあたりが最適解なのかと試行錯誤が続いている真っ最中ですけれども、社会的にも医療崩壊などと騒ぎになっている延長で受診はもう少し抑制的にしていこう、特に不要不急の時間外・救急受診は控えようという動きが出てきています。
ちょうど先日はこういうニュースが各社で報道されまして、もちろんどのあたりの負担額が一番良いのかといった検討は今後の課題だとしても、試みの一つとして面白いと思いますね。

救急車有料化で初会合 県市長会作業部会 富士宮(2010年5月26日静岡新聞)

 県市長会が設置した救急車有料化検討作業部会の初会合が25日、富士宮市役所で開かれた。緊急度が低い場合の有料化などを軸に協議を重ね、9月をめどに報告書をまとめ、県市長会に答申する。
 静岡、富士宮、沼津、藤枝、湖西市の救急医療担当課職員と消防職員10人で構成。発起人の小室直義富士宮市長は「地方の医療現場が抱える問題を共有し、解決策を一緒に考えていきたい」と提起した。

 有料化を検討する背景には、救急車の出動件数の急増と「タクシー代わり」と呼ばれる不適切な利用がある。県内でも過去10年で出動件数が36・6%増加し、自家用車を持っていない▽タクシー代を払えない―などの理由で出動を要請する事例が後を絶たない。「もう少しで家事が終わる」「病院に行く前にトイレによる」などと救急隊員を待たせる人もいるという。
 救急搬送された患者の51・7%は軽症(07年、全国平均)で、利用増に伴う到着時間の遅れや重症患者の後回しが指摘されている。検討部会では今後、県内の現況を調査しながら有料化の効果と問題点を整理し、「コンビニ受診」と言われる救急医療機関の安易な利用についても意見交換する。

救急車:安易に要請、抑制へ有料化検討 県市長会、9月末めどに答申 /静岡(2010年5月26日毎日新聞)

◇富士宮で県市長会作業部会が初会合

 急を要する事態ではないのに、救急車を安易に呼ぶ問題が深刻化しているとして、県市長会は25日、救急車を有料化できないか、作業部会を設けて検討を始めた。9月末をめどに結論をまとめ、市長会に答申する。総務省消防庁によると、救急車を有料化した自治体は過去、例がないという。

 この部会は「救急車有料化検討作業部会」で25日、富士宮市役所で初会合を開いた。

 メンバーは湖西、静岡、藤枝、沼津と富士宮5市の行政、消防の担当者計10人。今後、答申の取りまとめに向け、救急車の利用状況や1件あたりの出動費用などを調べる。

 部会設置を唱えた富士宮市の小室直義市長は初会合に出席し「救急医療の現場、救急車のあり方について一定の考えを示してほしい」と述べた。その後、記者団に、緊急ではないのに救急車に出動要請する問題を指摘し「抑制する手段として有料化を考えたい」との認識を示した。

 作業部会では「出動要請があった時、救急車が出払っていた」「指の逆むけで救急車が呼ばれた」などの事例が報告された。

 富士宮市によると、年間の救急車の出動件数のうち約4割は軽症あるいは軽傷で、出動の必要はなかったという。また、県危機管理部のまとめでは08年、県内での救急車出動は13万7374件あったが、このうち急病による出動は8万2176件(59・8%)だった。

 こうした事態を踏まえ総務省消防庁は昨年度、救急車の適正な運用のため、愛知県、奈良県と大阪市をモデル地区に設定し、電話応対で出動の必要性を見極める救急安心センターを運用した経緯がある。【安味伸一】

救急車有料化問題も各方面で久しく議論が続いていて、例えば「有料化すればお金が心配で重症患者の受診が遅れるかも知れない」なんて声がありますけれども、そういう方々は救急車が無料でも診療費が心配で受診が遅れる可能性もあるわけですから、重症患者の診療費よりもよほど安いと思われる救急搬送料金だけを取り上げて云々するのもどうなのか?と思います。
また「有料化したところでどれくらい実効性があるのか」だとか「軽症患者だけ有料にすると判断する段階でトラブる」だとか、「下手に有料化するとかえって居丈高に出るのが増える」だとかいった声もありますけれども、このあたりは実施してみての状況や先行する救急時間外料金加算などを参考にしながら金額などを修正して行くのがいいと思いますね(ただし私見ながら、料金は万人に同額でと言うのが良いかと思いますが)。
救急時間外料金加算の方では少なくとも受診抑制には大いに効果があって受信者数が半減したといった報告も珍しくないようですし(救急搬送の軽症者比率とほぼ同じです)、この制度によって受診を躊躇った結果大変なことになったといった事例も(恐らく探せばないことはないのでしょうが)特に問題となってはいませんから、この救急搬送有料化も料金設定にもよりますがやってみれば案外うまくいったということになるのかも、ですかね。

そもそも本家コンビニならずともいつでもどこでも同じサービスをというのは時代の要請であって、医療業界だけが相変わらず夜になったら店じまいというのはケシカランという考え方も当然にあっていいことだと思います。
このあたりは診療報酬などの設定からしても夜に営業したところで赤字がかさむだけという事情もありますし、昼も夜も休日も同じように開けるようなマンパワーがないという背景もありますが、何より医療従事者自身も積極的に夜営業をやる、あるいは出来るように制度改革を希望してこなかったのは、恐らく本当に夜でも来なければならないような人間は世の中そういないという経験論もあるんじゃないでしょうかね。
そもそも何を目的に夜営業をやるべきなのかと言うことが患者側でも医療側でもそれぞれ複数の意見が錯綜していて、例えば昼間は仕事で来られないから夜に外来をやってくれという人間にいやそれは無理だ、理由はこれこれと説明していると、横から24時間いつでも急患は診てくれないと困るじゃないかとクレームが付くといった塩梅で、一度きちんと状況を整理しておいた方が良さそうだとは感じています。
そして一方で救急崩壊と言えば多忙を極める現場からやむなくスタッフが逃げ出していくという現象もあり、他方では不要不急の患者受診が現場のモチベーションをボディブローのように削いでいるという現実もあるわけですから、コンビニ受診の軽症者ならさして手間も掛からないはずだなんて言ったところで、現場が「もうやってられない」と言っている以上は対策を取らなければ士気が維持出来ないわけです。

結局のところ救急医療の崩壊を防ぐという観点から見れば実効性もさることながら、現場に対するメッセージ性というものも重視していかなければモチベーションを保てないわけですが、何しろ医者らスタッフも木石ならぬ人間ですから「患者側もこれだけ努力しているんだから」と言えるだけの患者対策を取ることは、単なる数的な受診抑制効果以上の意味があるとも言えますよね。
一方で患者たる国民にすればまた別の考え方も当然にあるわけですから、こちらは現場がどうすれば今以上によく働くようになるかと言った方向から医療政策の行方を判断していかなければならないということでしょうが、その際にもモラル(士気)の低下はモラル(道徳性)の低下を招きやすいということも考慮して、目先の利便性追求のみならず結局何が一番自分たちにとって得なのかという観点を持つ必要があるでしょう。
現状の医療現場はある種殺伐とした空気の中で患者側と医療側が対立的関係にあるような側面も見られますが、これがもう少し余裕を持ってお互いに良い契約関係を結べるようになればスタッフの士気や顧客の満足度も上がるでしょうし、クレーマーやモンスターと呼ばれる人々も自然に減っていくようになるのかも知れませんね。

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