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2010年5月28日 (金)

一見お涙頂戴の陳情劇に見えて、その背後を覗いてみると?

先ごろようやくこういう調査が行われることが決まりまして、何にしろ対策を立てるにしても元になるデータがなければ話にならないわけですから、まずは調査が行われたということ自体は評価しておくべきでしょうね。

初の医師不足実態調査の内容が判明―厚労省( 2010年05月27日CBニュース)

 全国的な医師不足の実態を把握するため、厚生労働省が初めて行う調査の具体的な内容が明らかになった。

 調査は病床数に関係なく行われ、全国の医療機関10358施設(病床を有しない分娩取り扱い施設も含む)が対象。調査項目は大きく3つに分かれており、「必要医師数」「勤務形態」「分娩取り扱い医師」となっている。
 このうち「必要医師数」の項目では、地域医療において各施設が担うべき診療機能を維持するために確保しなければならない医師数を前提とした上で、調査時点で求人しているにもかかわらず充足していない「必要求人医師数」と、求人していない「必要非求人医師数」を調べる。
 「勤務形態」では、各医療機関が雇用している医師について、正規雇用、短時間正規雇用、非常勤の別にそれぞれの人数を、「分娩取り扱い医師」では、医師の総数のほか、正規雇用の医師総数と、それぞれの中に占める女性医師数などを問う内容になっている。

 厚労省では医療再生計画の一環として、地域医療再生交付金2350億円を予算に計上。5年計画で医療再生に向けた医師の養成や人材確保を進めるため、すべての都道府県に50億円を交付することになっている。しかし、これまで医師不足をめぐってどのような現状にあるのかを体系立てて調査した事例は、都道府県単位で独自に調査した数例があるのみで、各自治体が抱えている課題などが具体的に明らかになっていないのが実情だという。
 同省では、すべての病院を対象に統一したフォーマットで調査することで、隣接する自治体同士での比較など、同一項目について横断的に分析することができるのがこの調査の特長としている。また自由記載欄を設け、医師を求人しなければならなくなった理由や医師が充足しない背景などを記述してもらうことで、医師不足に至る理由や地域が抱える課題を具体的に把握・分析したい考えだ。

 同省では、来週にも都道府県の関係部署を通じて全国の医療機関に調査票を配布することになっており、9月をめどに結果の概要を公表する方針。最終的な結果の取りまとめは年末ごろを見込んでいる。

今どきの医療といえば医師や看護師といった専門職スタッフが多いほど診療報酬も多くなることから、経営を考えるならまず人手を集めるところから始める必要があるという事情もあって、こういう調査になりますとどうしても過大な数字が出てくる可能性もありますけれども、現場の不足感がどの程度となっているのかをこうして大規模に調べてみるのは意味があることだとは思います。
ただ調査項目の実際を見てみますと非常に恣意的と言いますか、例えば医師不足を感じていないという施設の実態が非常勤名目のスタッフに週100時間も奴隷労働をさせているだけだった、なんてことがあっても表に出てこない可能性もあるわけですが、そのあたりは労働を所轄する省庁でもある厚労省としてはあまり突っ込まれたくないということかと深読みしてみたくもなるところです。
一方で、このあたりの医師不足の実態なるものを読みとく上で一つのポイントとなるのが、相前後して出されたこちらの全自病からの要望書なのですけれども、まずは記事から引用してみましょう。

医師確保対策などで要望書-全自病など( 2010年05月25日CBニュース)

社団法人全国自治体病院協議会(全自病)と全国自治体病院開設者協議会はこのほど、医師確保対策など12項目から成る要望書を長妻昭厚生労働相らにあてて提出した。

 要望書では、「医療の貧困」とも形容すべき状況を打開し、医療の質を確保しつつ持続可能な医療提供を行うため、要望書に掲げた諸施策を速やかに実行に移すとともに、医療分野に必要かつ十分な資源配分が行われるよう、総力を挙げて取り組むよう強く求めている

 具体的には、医師確保対策のほか、▽新型インフルエンザなど新興・再興感染症対策▽社会保険診療報酬の改定▽医師の臨床研修の円滑な推進▽公立病院改革プラン等▽看護師確保対策▽定員合理化計画▽精神科医療▽財政措置等▽医療機関連携の推進▽地方公営企業会計制度の見直し▽高度な放射線治療の推進-の11 項目を要望。
 医師確保対策については、医師不足の一因として「我が国に医師の適正配置の仕組みがないこと」を指摘。各都道府県に設置されている「地域医療対策協議会」を活用し、きめ細かな制度的な措置を講じるなどの仕組みを早急に構築することなどを要望している。
 また診療報酬改定では、今年度の改定が10年ぶりにネットでプラスとなったことについて「一定の評価ができる」としながらも、「200床未満の中小規模病院への評価が十分とは言い難い状況」と指摘。「地域特性の考慮」などの課題について、自治体病院が担っている診療機能を十分評価した上で、医療技術の適正な評価と医療機関の機能的コストなどを適切に反映した診療報酬体系にすることなどを求めている。

見てみれば例によって医師計画配置政策の催促かと言う話なんですが、ここではこうした話が出てくるのが決まって公立病院の側からであるということには留意いただきたいところですよね。
さて、色々な意味で医師不足と表裏一体の関係にあるとも言われるのが医師の過剰労働問題ですけれども、この件に関しては医療スタッフの過剰労働は何より医療の安全性を低下させ、患者に危害を及ぼす可能性のある最大の危険因子であるという認識をきちんと持っておかなければならず、医師のみならず国民全てに関わる重大な問題です。
先年発足したばかりの日本初の医師の労組である全国医師ユニオン(以下ユニオン)などはこの問題に当初から警鐘を鳴らしてきた団体ですが、こちらからこんな話が出ているということを併せて御覧下さい。

勤務医の過剰労働是正を―2団体が要望書(2010年05月18日CBニュース)

 勤務医の勤務超過の是正や適正な賃金支払いなどを求め、全国医師連盟(全医連、黒川衛代表)と全国医師ユニオン(植山直人代表)は5月17日、共同で厚生労働省に要望書を提出した。勤務医が医療機関の間で横断的に意見を取りまとめ、国に要望するのは初めて

 要望書は厚労省医政局と労働基準局の担当者に提出。具体的な要望として、▽公立医療機関での三六協定の締結状況と内容の公表▽医師の「当直」と「宿直」との業務の厳正な判別▽拘束性のあるオンコールへの適切な賃金支払い▽三六協定の不適切な自動延長を認めない▽勤務医の労働環境の改善および労働基準法順守に関する検討会を厚労省内に設置―など、14項目が盛り込まれている。
 これに対して厚労省側は、三六協定の締結状況の公表は困難としつつも、労働基準法に基づく是正や指導を行い、検討会の設置については「ぜひ参考にしていきたい」と回答した。
 全医連の黒川代表はその後の記者会見で、要望書の意義を強調した上で、「今後も継続的に厚労省への陳情を行っていきたい。また、国会議員や地域住民に対してもさまざまなチャンネルを通して訴え、勤務医の労働環境の改善を進めたい」と述べた。

■時間外労働が月100時間超の73病院を公表

 今回の要望書提出と併せて全国医師ユニオンは、全国の公的病院に三六協定の開示請求に基づく調査を行った結果、1か月当たりの時間外労働が100時間を超えていた73の病院名を公表した。
 調査は2008年末から09年1月にかけて行われ、全国の主要な1549病院を対象に、労働基準監督署に直近の1年半についての協定の開示請求を行い、その結果をまとめた。
 それによると、公表された73病院のうち、時間外労働時間が最も長かったのは国立病院機構災害医療センター(東京都立川市)で「3か月600時間」。以下は、国立病院機構長野病院(長野県上田市)の「3か月420時間」、国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)と国立病院機構舞鶴医療センター(京都府舞鶴市)の「3か月360時間」などとなっている。調査結果は、週内にも全国医師ユニオンのホームページに掲載する。
 病院名を公表した理由について植山代表は、「各医療機関を責めるのが目的ではなく、根本の原因は国の医療政策にあると考える。公表した医療機関については、労使間での話し合いによってできるだけ早期の改善を目指してほしい」と説明した。

ここで注目されるのが要望書と併せて提出された全国病院での調査結果なるものですけれども、冒頭の記事で厚労省の行う調査では含まれていなかった労働時間に関する調査も含まれていることに注目ください。
記事からも特に名前が上げられて施設のトンデモな状況には気がつくと思いますが、実際にユニオンのHPから同調査結果のまとめを引用してみるとこんなことが書いてあるのですね。

医療機関における36協定全国調査結果(全国医師ユニオンHP)より抜粋

私たち全国医師連盟と全国医師ユニオンは、勤務医の労働条件改善活動の一環として、医療機関における36協定(時間外労働や休日労働に関する協定)の合同調査を行った。

日本には約8000の病院があるが、この調査では全国の主要病院1549箇所を対象とした。大学附属病院、国・公立、労災、赤十字、済生会、JA厚生連、国保、民間病院を含む、公的かつ地域における拠点となっている病院である。

調査は2008年末から2009年初頭に、全国の労働基準監督署に直近の1年半の間に行われた協定の開示請求を行い、開示された1091病院に関して集計・分析を行った。開示がなかった458病院はこの1年半の間に、協定の締結が行われなかったものと解される。

1、集計結果

①ほとんどが救急を担当している拠点病院にもかかわらず、36協定の締結・開示は7割にとどまり、岩手・三重・奈良・愛媛・沖縄では約半数が開示されず、この間協定が締結されていなかったと考えられる。

②全国集計の結果(別紙)から、職種欄が黒塗りされ医師を判別することができなかったものが約30%みられた。医師又は医師を含むと明記され確認できたものは57%であった。

1日の最大延長時間は20時間、1ヶ月の最大延長時間は200時間、1年の最大延長時間は1470時間であった。

④また、36協定で定められている1ヶ月の時間外の延長が45時間以下のものは54%であった。

いわゆる「過労死ライン」と呼ばれる月80時間以上の時間外労働を定めた協定が41都道府県168病院(15%)あり、特に東京の都立病院では全て120時間となっていた。
(略)
3、今回の調査から明らかになったこと

公的な医療機関における全国的な労基法違反が明らかになった。また、労基法の趣旨から逸脱した協定が全国の公的な病院に多数みられた。これらの違法は法治国家として許されることではない。また、病院管理者はもとより監督官庁の法律遵守に対する意識の欠落を指摘することができる。さらに医師の過重労働は、医療安全を脅かし、国民への利益に反することは明らかである。
(略)

救急指定を取っている大きな病院主体の調査ですけれども、ここで注目したいのは医師に関して36協定などというものが全く有名無実化しているということ、そしてとりわけ全国公立病院であまりにひどい環境での奴隷労働を強いられているという実態があることです。
しかも長年それを放置してきた労基署はじめ監督省庁の責任も免れないところで、そう考えてみますと冒頭の調査で厚労省が実労働時間は幾らかと言ったことを決して言い出さなかった理由が見えてくるわけですよね。
こうした事実を総合してみますと全国公立病院では医師たちに法律無視の違法労働状態を長年強いてきた、その結果当然ながら真っ先に医師たちはこうしたトンデモ病院から逃げ出して言っているわけですが、それに対して公立病院側では我々が使いつぶせる奴隷がいなくなって困るじゃないか、国はさっさと強制的に医者をラーゲリにぶち込めるようにしろと迫っているという構図が見えてくるわけです。

何度も繰り返しますが、現在の診療報酬体系では(その是非はまた別として)専門職スタッフを多く抱えるほど報酬が増えて行くシステムになっていて、例えば医者が一人増えると病院にとって一億円ずつ売上が増えるとされていますから、まともな病院ほど増収のためにスタッフの待遇を改善し一人でも多くの優秀なスタッフを集めようと努力しているわけですよね。
ところが公立病院にとって医者というのは毎年春になれば黙っていても大学医局から送られてくるもので大事にしようなどと言う意識はさらさらない、むしろ如何に安く使い潰すかがが経営の腕の見せ所というくらいなものですから、医師の勤務環境は限りなく悪く、その給与は限りなく低く、その分を永年勤続の公務員事務様達が全部吸い上げていくという構図になっているというわけです。
長年こうした公立病院をつけあがらせてきた主因でもある大学医局の権威なるものが、昨今世論のおかげですっかり廃れてくれたのは全国の奴隷医師達にとっては福音とも言うべきものですが、今再びそうした奴隷派遣業務の国家権力による復活を画策しているのが彼ら公立病院であるということで、これが普通の業界であれば今頃週刊誌などでさんざんバッシングされていてもおかしくない話だと思いますがどうでしょう?

最近ではようやく勤務医も「誰も自分たちの労働環境のことなど考えてなどくれない」と考え始めたということなのか、先のユニオン発足などもその一つですけれども、何より自分たちで主張し環境改善を図っていこうという機運が出てきたのは良い傾向だと思います。
例えば地方の国立大学でもこういう話が出ているのですけれども、まず最初に出てくる設立の目的なるものが極めて身近で切実な「勤務医の労働環境改善」であるというのが時代なのかなと思いますね。

岡山大学勤務医が医師会設立…労働環境の改善目指す(2010年5月25日読売新聞)

 岡山大学(岡山市北区)と岡山大病院(同)に勤務する医師による「岡山大学医師会」の設立総会が24日、同大学医学部記念会館(同区鹿田町)で開かれた。勤務医の労働環境を改善するための提言や情報収集、勤務医同士の連携を強化するのが目的で、県内で大学の勤務医が独自に医師会を設立するのは初めて。

 総会では、岡山大大学院医歯薬学総合研究科の小出典男教授を会長に選出した。この日、約130人でスタートし、約50人が加わる予定で、さらに会員を募る。

 同医師会は、郡や市などの単位で構成する地区医師会と同格で、県医師会に加盟する。日本医師会(東京都)によると、2009年8月1日現在、医学部がある全国80大学のうち61大学で独自に医師会を設立している。

 小出会長は「県や県内の他の医師会と連携し、地域医療の発展に努めたい」としている。

医療という現場は非常に高い顧客からの質的要求にさらされていることは今さら言うまでもありませんが、その質を保つために最も簡単かつ有効な手段がスタッフの過労を避けるということで、とりわけ日本の公立基幹病院のような労働環境ではこの方法の有効性は疑う余地がありません。
とすれば患者側である国民にとっても医師の労働環境改善は決して他人事ではないわけで、何より当事者として「俺は疲れて居眠りしそうな医者に診てもらいたくはないんだ!」と声を上げていかなければならないし、医療側としてもそうした国民の支援というものを大いに期待し世論を盛り上げて行く必要があるでしょうね。
本来そうした役目を果たすべきなのは世間的に医師達の利益団体と言うことになっている(らしい)医師会の役目のはずなんでしょうが、総本山の日医がどうやら新会長になっても相変わらずそういう方面には全く興味がなさそうに見えるだけに、ここは現場の医師たち自らが末端からのボトムアップ的手法による問題解決を図っていくべきだということなんでしょうか。

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