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2010年5月10日 (月)

県立宮古病院の(ちょっと笑える)不幸な出来事

その時はなんとなく見過ごしていたような話でも、あとになってみると実は大きな出来事の伏線であったということはままあるものです。
先日地方紙に出ていた何ということはないこちらの記事も、このときはさほどのニュースバリューもないものだろうと見過ごしていた話の一つではありました。

環器科に常勤医2人着任へ 県立宮古病院(2010年5月1日岩手日報)

 2007年から常勤医が不在となっていた県立宮古病院(宮古市崎鍬ケ崎、菅野千治院長)の循環器科に常勤医2人が確保され、今月10日から救急患者と紹介患者の診療を開始することが、30日分かった。宮古・下閉伊地域では常勤医不在の間、心筋梗塞(こうそく)など重症患者は主に盛岡市内の病院へ救急車などで搬送されていた。常勤医2人が診療を約3年ぶりに再開することで、患者らの負担軽減が期待される。

 新しい常勤医は大阪市内の病院勤務の男女2人の医師。県立宮古病院によると、2人は循環器科の常勤医が不在という窮状を知り、「手助けしたい」と同病院で勤務することとなったという。

 同病院の循環器科は07年7月以降、派遣元の東北大の医師引き揚げなどで常勤医が不在となり、外来を休診。県立中央病院(盛岡市)や東京女子医大(東京)などから診療応援を受けて救急や入院患者に対応してきた。

これだけでしたら今のご時世に良かったねで終わっていた話なので、世間的にはさして注目もひかずに埋れていた小さな町の小さな話題に過ぎなかったと思います。
これがわずか数日後には地元紙の一面トップを飾り、全国ニュースでも一斉に取り上げられるような大事件に発展しようとは誰も思わなかったわけですが、大阪出身だけにきれいにオチが付いたということなんでしょうか?

着任予定の“医師” 実は無免許(2010年5月9日NHKニュース)

医師不足が深刻な岩手県の県立病院に着任する予定だった44歳の女が、医師免許を持っていないことがわかり、医師法違反の疑いで警察に逮捕されました。

逮捕されたのは、自称、大阪市在住の無職、一宮輝美容疑者(44)です。医師不足が深刻な岩手県では、宮古市の県立宮古病院で、おととしから循環器科の常勤の医師が不在になっています。
病院などによりますと、おととしの秋ごろ、一宮容疑者から「テレビ番組で岩手県の医師不足の現状を知り、ぜひ手助けしたい」と連絡があり、院長などが3回にわたって面接して採用を決めたということです。
ところが、一宮容疑者がファックスで送ってきた医師免許の写しに、厚生労働大臣の印鑑がないことなどを不審に思った担当者が、以前、勤めていたという大阪の病院に問い合わせたところ、勤務の実績がないことがわかったということです。

相談を受けた警察が、10日の着任を前に岩手県を訪れた一宮容疑者から事情を聴いたところ、医師免許を持っていないことを認めたことなどから、医師法違反の疑いで逮捕しました。
警察は、事件の背景などについて、一宮容疑者を調べるとともに、循環器科の医師としていっしょに着任する予定だった38歳の男も医師免許を持っていない疑いがあるとみて事情を聞いています。
岩手県立宮古病院の菅野千治院長は「詳しい医療知識があったので、着任で合意した。常勤の医師が確保できたと思っていただけに残念だ」と話しています。

念願の常勤医、採用したらニセ医者 容疑の女性逮捕(2010年5月9日朝日新聞)

 無免許にもかかわらず医師をかたったとして、岩手県警は9日、自称大阪市天王寺区上本町5丁目の無職、一宮輝美(いちみや・てるみ)容疑者(44)を医師法違反の疑いで現行犯逮捕したと発表した。2007年7月から循環器科の常勤医がいない岩手県立宮古病院(同県宮古市)に「婚約者と2人で医師として常勤する」と申し入れ、病院側は10日付での採用を決めていた

 菅野千治院長や県によると、一宮容疑者は「テレビの報道番組で病院の窮状を知った。手助けしたい」と申し入れてきたという。菅野院長は「医学用語を交えて話す姿に医師だと信じてしまった。住民の期待を損ねる形となり申し訳ない」と話した。

 県警の発表によると、一宮容疑者の逮捕容疑は、8日午後6時半ごろ、宮古市内で菅野院長らの面接を受けた際、免許をもっていないのに「私は医師だ」と申告したというもの

 一宮容疑者は09年末から先月にかけ、菅野院長らと3回面談した。しかし、4月30日に一宮容疑者がファクスで送ってきた医師免許証に公印が押されていないなど不審な点があり、病院側が県警に相談していた。県警の調べでは、一宮容疑者に病院での勤務歴はないという。 医師法は、医師でない者が医師と名乗ったり、紛らわしい名称を使ったりした場合に50万円以下の罰金を科すと定めている。県警は、一宮容疑者の「婚約者」の男性も同法違反の疑いがあるとみて調べている。

「常勤医いない…」テレビで窮状知り、免許ないのに手助け志願(2010年5月9日産経新聞)

 医師不足に悩む岩手県宮古市の県立宮古病院で、10日着任する予定だった男女2人が、医師免許を持っていなかったことが判明。県警宮古署は8日夜、医師法違反の疑いで、自称・大阪市在住の無職、一宮輝美容疑者(44)を逮捕し、男(38)からも事情を聴いている。一宮容疑者は容疑を認めているという。

 宮古署によると、一宮容疑者の逮捕容疑は、8日夕、宮古市内で宮古病院の職員に対し、医師免許がないのに医師と偽った疑い。

 同署や病院関係者によると、一宮容疑者は平成20年11月、テレビ番組で循環器医がいない病院の実情を知り、勤務を名乗り出た。「大阪大医学部出身で大阪市内の赤十字病院の救急専門医だ。手助けしたい」とうそをついていたという。

 宮古病院や県医療局によると、面接などを経て2人の採用を決めたが、2人は免許提示を求めても、「職場に置いてある」などと出し渋っていたという。また「もめるから大学に照会するな」「患者とトラブルがあり勤務先は自分の氏名を公表しない」とうそを繰り返し、発覚を逃れていた

 病院に免許のコピーが届いたのは今月6日。ところが、登録当時の厚生相の公印がなく、医政局長の氏名も別人だった。通報を受けた宮古署は、2人が“着任”のため市内のホテルに投宿した8日、事情聴取を行った。

 菅野千治院長は「詰めが甘かった。住民の高い期待を裏切る結果となり申し訳ない」と話している。

 宮古病院は約3年前から循環器の常勤医がおらず、心臓疾患の救急患者は、約2時間かけて盛岡市に搬送されている。


医師法違反:ニセ女医をうっかり採用 常勤医不足に悩む岩手・宮古市の病院(2010年5月9日毎日新聞)

 医師不足に悩む岩手県宮古市の県立宮古病院(菅野千治院長、387床)に医師と偽り勤務しようとしたとして、県警宮古署は8日夜、自称大阪市天王寺区上本町5、無職、一宮輝美容疑者(44)を医師法違反容疑で現行犯逮捕した。共に勤務予定だった知人男性(自称38歳)も偽医者だったとみて事情を聴いている。

 逮捕容疑は8日、宮古市和見町の同病院官舎前で、職員に対し、医師免許がないのに循環器科の医師と虚偽の申告をした疑い。2人は10日から勤務予定だったという。

 同病院によると、一宮容疑者は08年11月ごろ大阪市内の病院の医師と名乗って宮古病院に電話し「ニュースで岩手の医師不足を知り、手助けがしたい」などと話した。このため同病院は一宮容疑者と知人男性を09年末から2、3回面接し、4月中旬に採用を決めた。だが2人は医師免許や履歴書の提示に応じず、今月6日にようやくファクスで医師免許を送ってきたが、厚生労働大臣印が無いことなどから、県医療局を通じ宮古署に相談していた。

 県医師支援推進室によると県内の人口10万に対する医師数は191・9人(08年)で全国37位。同病院は循環器科の常勤医が不在のため、他病院から派遣を受けていた。常勤医は年収約2000万円。

 菅野院長は「常勤医が欲しいとの思いから、疑問点も見過ごしてしまった。市民の期待や安心を踏みにじる結果になってしまい申し訳ない」と話した。【宮崎隆】

宮古病院、十分な確認怠る(2010年5月10日読売新聞)

「婚約者」も着任寸前

 宮古市崎鍬ヶ崎の県立宮古病院(387床)に、循環器科の医師をかたって勤務しようとしたとして、医師法違反(名称の使用制限)容疑で自称大阪市の無職一宮輝美容疑者(44)が逮捕された事件で、一宮容疑者は、婚約者と名乗る男性(38)と、10日の着任を控え、同市に到着したところだった。医師不足に焦る病院や県医療局は、十分な確認を怠ったまま信じてしまい、着任寸前まで話を進めた。一宮容疑者は宮古署の調べに「自分が計画を考えた」と供述。同署は動機を調べるとともに、男性からも事情を聴いている。

 同病院などによると、今月6日、免許のコピーがファクスで届いたが、公印がなく、当時の厚生省の担当局長名が違うなど不審な点が目立った。前任地とされる病院の勤務実績も確認できなかったため、翌7日に、県医療局を通じて県警に相談した。

 病院によると、一宮容疑者から最初に連絡があったのは2008年11月頃。「医師不足を報じたテレビ番組を見た。手助けしたい」と電話してきた。院長が「1人ではなく2、3人雇いたい」と伝えると、間もなく「婚約者がいるので2人で行く」との返事が来たという。

 その後、一宮容疑者が「父親が亡くなった」などとして院長との面談希望を拒んだため一時連絡が途絶えたが、09年秋には、一宮容疑者は「別の婚約者ができたが、同じく循環器科医なので、一緒に宮古病院に行く」と伝えてきた

 病院側は面談の席などで再三医師免許の提示を求めたが、一宮容疑者は拒絶。前任地を大阪市内の病院と偽った上、院長の前で、この病院から電話がきたふりをしたという。

 事件を知った宮古市西町の自営業男性(61)は「資格のない人が診察していたらと思うとぞっとする」と憤った。元宮古病院内科科長で、前宮古市長の熊坂義裕氏(58)は「病院側が、どんな技量を持っているのかわからない人たちと、独自に交渉していたのがそもそもの原因。県が早い段階で資格をチェックしていたら、こんな恥ずかしいことにはならなかった」と指摘した。

何やら産経の見出しなどまるで人助けのようにも見えるのが面白いですが、この院長も確かにいいキャラしているという印象は受けるものの、読売の記事に唐突に登場する前市長の総括もどうなのかとも思うところですけれどもね。
ちなみにこの院長のコメントというものが出ていますので、今後の参考までに拝聴してみたいと思いますが、いずれにしてもやはり心情的な切迫感というものが事態をここまで進めてしまったという背景はありそうですよね。

専門用語信じてしまった…宮古病院院長一問一答(2010年5月10日読売新聞)

 医師と偽り、岩手県立宮古病院に勤務しようとしたとして、自称大阪市天王寺区、無職一宮輝美容疑者(44)が医師法違反(名称の使用制限)の疑いで逮捕された事件で、県立宮古病院・菅野千治院長が語った主な内容は以下の通り。

 ――一宮容疑者の医師免許を確認しようとしたのか

 「今年2月に病院見学に来て以降、免許のコピーを送るよう繰り返し求めてきた。4月に大阪で面会した際も、履歴書などと合わせて持参する約束だったが、持ってこなかったため、その後も催促した」

 ――既に正式採用していたのか

 「免許を確認してから採用する予定だった。まだだ」

 ――なぜうそを見破れなかったのか

 「循環器科医が普段行う治療行為の専門用語を口にしたり、勤務元の病院から電話がかかってきたそぶりを見せたりしたため、信じてしまった

 ――10日に着任していたらどうするつもりだったか

 「10日以降も応援医師は継続して頼んでいた。着任を焦った訳ではない

 ――今後の反省点は

 「疑う余地はあったが、確認を怠ったのは事実。医師不足とはいえ、身元確認はもっと慎重に行わないといけない

しょせん医師免許などは紙切れ一枚を偽造すれば済むだけに、今回はたまたま相手の偽造のレベルが低かったために疑われたというだけで、全国どこででも同種の事件が起こる可能性がある(あるいは、すでに起こっている?)とは言えると思いますね。
二人が本気で勤務するつもりだったのか、契約金なりの名目でお金だけ取って消えるつもりだったのかは判りませんが、実際にはまだ医療行為をしていなかったようですから、医師という名称の独占を規定した医師法第18条の「医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。」違反だけになるのかと思うのですが、いわば名称詐称だけですからごく微罪に終わりそうです(今後詐欺や民事も出るかも、ですが)。
しかしこういうものを採用までしてしまうというのは事務方の確認もまともでなかったということもあるんでしょうが、いくら医師不足のご時世だとは言え直接三回も面談していながら信用しきってしまった院長もどうかと思う話ですが、実のところ今のご時世であればこそこういうことはあり得るんじゃないかと思いますね。

最近医師不足でどこの病院でも質を問わず免許所持者を高給で集めているせいか、中には臨床医としての適性はどうよと疑問符の余地無しとしない方々も大勢現場復帰されていらっしゃるようで、そうでなくても卒後すぐに結婚して現場を離れたとか、何十年も研究畑一筋で臨床は全く素人であるとか、本物の医師免許所持者であっても臨床力は学生レベル以下という人も時折見かけるところですよね。
「そんな医者で大丈夫か?!」と思うかも知れませんが、法律上の問題で医師免許所持は必要とされるものの、実際に臨床能力を問われることのない職場というものは幾らでもありますから、逆にそういう環境にまともな臨床医を飼い殺しにしておくよりは、社会全体にとっては有益な資源再配分になっているという見方も出来るかも知れません。
余談ながら医者の世界は面白いところで、こういう仕事もなく楽な職場ほど給料も良かったりする一方、なぜかそんな天国のような職場にはあまり誰も行きたがらないという世間の常識と真逆なことがまかり通っていましたけれども、近頃では時代も変わってこういう職場こそおいしいんじゃないかと、第一線の臨床医が次々と薄給激務の奴隷病院からドロッポして鞍替えするという世間並みのことも起こるようになってきてはいます。

そうした余談はともかくとして、こういう偽医者問題というものは時折報道されるくらいですから実際あちこちでバレずにやっている偽医者も多いということなんでしょうが、よくあるのは薬剤師などある程度医療の事情に通じている業界関係者のようで、院長すら騙し通したと言うほどの専門用語をあやつったという今回の方々のバックグラウンドはどうだったのかと興味はわくところですよね。
最近では医師免許確認は全般に厳しくなったとは言えあれもしょせん紙切れ一枚ですから、その方面のプロが本気になれば幾らでもそれらしいものは偽造できておかしくないでしょうし、実際話をしてみて現職ベテラン医師ですら見抜けない知識がある、あるいは仮に知識がなくとも病院の都合上雇わざるを得ないという状況となった場合に、こうした犯罪を完全に防ぐというのはなかなか難しいのかも知れませんね。
厚労省の医籍登録検索もひと頃は「とっくに鬼籍に入った人まで出る!」と話題になった反動か、ちゃんと二年ごとの登録をしていないと削除することにしたとも聞きますが、あれも普通勤務医であれば病院が勝手に登録をするものですから、現在どこにも勤務していない医師であれば本物でも登録が漏れている可能性はあるかも知れず、無論名前まで詐称されてはどうしようもないわけです。

某大先生などであれば、さしずめこんな事件にかこつけて「これも医師不足が根本的な原因だ!迅速に医師の増員を実施しなければ!」なんてますます猛り狂ってしまいそうですけれども(苦笑)、外部から見るとレベルを問わず医者と名のつくものなら何でもいいと必死なこの業界の状況というものは、ずいぶんと引っ掛けやすい鴨のようには見えているのかも知れませんね。
そう考えると東北の片田舎で起こった一見笑い話のようなオチが付いた今回の事件ですが、こうして全国に流れるニュースとなって見るとなかなか興味深い教訓にはなったのかなとも思えてくるところで、宮古病院には良い勉強の機会を与えていただいたと感謝すべきなのでしょう。

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